2020JFL最終節 宮崎
JFL・いわきFCの田村雄三監督は、J3昇格の可能性を失った最終節、対テゲバジャーロ宮崎戦を終えたあと、絞り出すようにこう語った。
『・・・夏場の3連戦とか、そういうところをもう少し凌いでいたらとか、まあ、やってきたプロセスっていうのは否定はしないし、みんなで歩んできたので….一応は私が指揮をしているうえでは、全選手を今年は戦力だっていう風に言って始まったので、全選手を試合で使うことは出来ましたし、経験させることも出来たし、起用方法だとかいろいろあると思うのですが、全て勝つことがいいのかな、どうなのかな、ということをずっと思いながらやってきたし、やっぱり僕が欲張りだから、選手を成長させてあげたいという思いがずっと強かったので……
今振り返ると、あの3連敗の時にしっかりブロックを組んで守って、とにかく連敗しないように、ゼロで抑えようということが得策だったのかどうかっていうのは….僕じゃなくて第三者がやった方が評価していただいて…..まあ、僕がいわきFCの監督をやっているときは、それが出来なかったからという風に今は思っています。それがいわきFCにとって必要か必要じゃないかという話ではなくて、やっぱり自分が与えられた課題も含めて、カルチャーを作る、いわきの人たちを喜ばせる、双葉郡、浜通りの人たちを喜ばせるのであれば、そういうことは出来ないなと思ったので、そこが難しいですね、理想と現実っていう言葉がありますけど、そういう風にしていたら勝っていたかも知れないし、勝ち点がもう2~3上だったかも知れないし…でもそれが正解かも分からないし、最近はずっと何が正解なんだろうと思いながら過ごしてきましたけど……..
まあでも、僕はでもブレずに、そうじゃないなと思ってやってきたので・・・・』
同時刻にキックオフされたJFL最終節。
他力とは言え、いわきFCは目の前にいるテゲバジャーロを倒せば、J3参入の資格を勝ち取ることも出来ていた。
そんな試合に「完敗」した後、いわきFCの選手たちがその悔しさを口にする中、彼らの指揮官である田村雄三監督は、それとは異なる角度から、いわきFCにとって初の全国リーグ参戦となった今季JFLと、その最終戦について、自身の葛藤をいかにも青年監督らしい飾りのない言葉で語ってくれていたのだ。
扱われない「葛藤」
しかしながら、この時に田村監督が語った「葛藤」の言葉については、日頃からいわきFCに関するニュースを多く扱っており、クラブに出資もしている地元紙「福島民友」でさえ、現在に至るまでほぼ取り上げていない。
- いわきFC、来季のJ3昇格逃す JFL最終戦で宮崎に0―3
- いわきFC、来季のJ3昇格ならず JFL最終戦、宮崎に敗れ7位
- 【JFL初参戦の軌跡(上)】悔しさ来季に 守備固め苦戦「課題」
- いわきFC走り抜いた 後半攻勢及ばず、JFL今季7位
- JFL初参戦の軌跡(中)】攻撃への対応力 守備課題24失点
- 【JFL初参戦の軌跡(下)】観客動員 リーグ1位!平均1300人
これらが、JFL最終節終了後、福島民友で確認出来たいわきFCについての見出しである。
その見出しのほとんどが「J3参入を果たせなかったいわきFC」という切り取りのされ方で、指揮官による「全て勝つことがいいのか」という言葉が、ほとんど無きものとしてスルーされてしまっている。
私自身、この試合後インタビューの場に居合わせていなかったが、映像を見ると周りに複数の記者が田村監督の話を聞いていることを確認出来る。
つまり、田村監督は我々BitterChannelの取材陣に向けてだけ、この「葛藤」を語ったわけでは決してないのだ。
2つの異なる価値観
田村監督にとっての2020シーズン、そこに存在してきた葛藤の本意を理解するのには、試合後のインタビューコメントだけでは勿論不十分だろう。
さらに言えば、その葛藤がいわきFCにとってどんな意味を持つことになるのか、これに対する解などすぐに得られるわけもない。
しかしながら、選手たちが口々に昇格を逃したことに対する無念さを語る一方で、「全て勝つことが良かったのか」とした指揮官による言葉があったのは事実であり、少なくともここに2つの異なる価値観が存在しているのであれば、いわきFCの在り方に対しても、2つの異なる共感性がそこに生み出される可能性があると言えないか。
この「共感性」をいかに多く作り出せるかが、あらゆる文化が深化していく上で最も重要な要素であり、あのJFL最終節を以て「惜しくも昇格を逃す」とした文脈だけを突き通してしまうのは、もはや文化醸成を放棄しているかのように私には思えてしまう。
BitterChannelはこの秋以来、アウトプットのスピードを加速していっている。
それでもまだ、その影響力は微量で、今回の冒頭に記したいわきFC田村雄三監督のインタビューシーンが収録された「JFLダイジェスト #4 DAZNじゃ見れないサッカーリーグがあるって聞いたんだけど…」の視聴回数はまだ1000回程度。
これでは、いわきFCの今季ホームゲーム観客動員規模にも追いつけていない。
文化づくりを放棄しない。
これに共感したり賛同したりしてくれる人々を見つける作業、これこそがBitterChannelの神髄である。