マスマーケティングの呪縛 『日本中を熱狂の渦に巻き込むようなコンテンツなど…』

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やべっちFC終了決定

前回は「中森明菜とやべっちFC」というタイトルで、日本のエンターテイメント産業において、今から約30年前、つまり1990年頃を境にしてメディアの在り方が大きく変容したということをテーマにしたが、その中で、栄華を誇った昭和歌謡の晩年期に圧倒的な人気を集めた歌姫中森明菜と、メディアの「マスマーケティング」がとっくに効力を失った2002年に開始され、以後約18年に渡り、それでも日本サッカーを「マス」に向け発信し続けてきたやべっちFCについて触れた。

その後ほどなくして、この9月いっぱいでやべっちFCを終了するとテレビ朝日が正式発表すると、その主要因として、日本代表のW杯アジア予選などをメインコンテンツとする上で肝要だったAFCとの放映権契約の更新をテレビ朝日が断念したことも推測されており、やべっちFCが「マス」に向く中で不可欠だった「日本代表」の威光も、費用対効果で見た時に既に絶対的なモノでなくなったことが暗に示されたように思う。

調理素材と調理法

ちなみに、テレビ朝日は今回、AFCと放映権契約更新を断念したが、そのAFCと8年で2100億円という大型契約を結んだのが、中国(香港)とスイスの合弁企業DDMフォルティスで、この会社は、契約が結ばれた2018年当時にDAZNの運営法人だったパフォーム社、Jリーグの海外放映権を持っていたフランスのラガールデール、そして天下の電通による3社連合を相手にした入札に勝利し、契約を勝ち取っている。

つまり、日本代表を含めたアジア(厳密に言えばDDMフォルティスが契約した範囲に中東は含まれない)のサッカーを「調理素材」として大金を積んででも欲しがるシェフは未だ存在しているが、その「調理法」が日本のスポーツメディアにある旧態依然とした「調理法」とはまるで違うということなのだろう。

日本サッカー界が今後生み出せないモノ

ただ実際のところ、『高級素材のみを扱う三ツ星レストラン』でどんなサービスを提供してもらえるかよりも、近所で美味い定食屋やラーメン屋を見つけることや、妻が作ってくれる肉肉しいスパゲティミートソースの方が、私の生活においては重要かつ大切で、これには多くの方々に共感頂けるんじゃないかとも思っている。

そして、私は敢えてこう言いたい。

『日本中を熱狂の渦に巻き込むようなコンテンツなど、今後日本サッカー界には生み出せない』

さらにこうも思っている。

『生み出せないことは別に悪いことでもない』

浸透させられなかった新たな価値観

件のDDMフォルティスが、アジアのサッカーマーケットに対し、どのような取組みや、市場開拓・創造をしていくのか、私のような凡人にはイマイチ理解出来ないか、それはそれ「高級素材のみを扱う三ツ星レストラン」の話なので、さほど大きな関心も無い。

つまり、自分の周囲・地域・地方。そうしたローカルなマーケットが成立する状態でありさえすれば、万事OKと考えている。

しかしながら、これまでのやべっちFCの方向性に現れていたように「マス」に向けたコンテンツ作りには、Jリーグが創設以来、一貫して唱えてきた日本スポーツ界における新たな価値観「地域密着」=ローカリズムの視点が著しく欠けているように私には見えていたし、そうした文脈でしかサッカーを伝えられないメディアの存在があるばかりで、Jリーグが目指す方向性が、この四半世紀の間にほとんど浸透しなかった、或いは浸透させることが出来なかった実情をも表していると思う。

ネットメディアはお断り

話は変わるが、私が今制作にかかわっているYouTubeサッカー情報番組「シュウアケイレブン」は、Jリーグに取材申請をしても、天皇杯の本大会取材の申請をJFAにしても、原則的に全て却下され続けている。

今年の天皇杯については、準々決勝からJ2・J3勢が、準決勝からJ1勢が参戦という変則レギュレーションで、それまでの1~5回戦を戦うのは、日頃から取材対象とさせて頂いているチームがほとんどなだけに、NHKがどんなに気合を入れようとも、我々の方が彼らの戦いの意味や意義を伝える言葉を多く持っている。という自負だけはあり残念ではあるが、実情としてJリーグもJFAも、その主催大会取材をインターネットメディア、いちYouTubeチャンネルに対しては認めない姿勢を貫いているので仕方がない。

いや、仕方がないと言うか、我々からすれば「まだマスに向けたマーケティングで生きていくつもりなのか」と、少々がっかりもしているわけだが、ご存知の通りYouTubeは「主体的に見たいコンテンツだけを選べる」世界であって、マスに向けひたすら「シャワー」を浴びせかけるマスメディア・マスマーケティングに対するアンチテーゼのようなメディアである。

だからこそ、先で述べた『自分の周囲・地域・地方。そうしたローカルなマーケットが成立する状態』を作りだす可能性を秘めているし、実際にそうして創造されたマーケットやコミュニティがあるからこそ、今こうして影響度をどんどん増してきている。

変化をポジティブに捉える

ただもちろん、YouTubeが絶対とは思っていない。シュウアケイレブンにしても、その情報発信媒体・手法がYouTubeありきなどとは毛頭考えてもいない。

しかしながら、日本代表の威光に陰りが見え、コロナ禍でJリーグがこれまでに築いてきたあらゆる「サポーター文化・ファン文化」が無力化されていく中、JリーグやJFAが相も変わらず「マス」に向けたマーケティングを重宝している場合ではないし、少なくともローカリズムなサッカーマーケットを創造しようとする動きに対し、それを応援しないまでも、実質的に排除している実態くらいは、当事者各位の間でも認識しておいて頂きたい。

と、何となく最後の方は愚痴っぽくなってしまったが、このコロナ禍によりJFLや各地域リーグ、都道府県リーグに所属するチームが独自に試合中継を生配信したり、選手や関係者がネットメディアを活用し、積極的に情報発信する動きも加速してきている。

いわば、今がまさに日本サッカーにおけるメディア変容の過渡期であり、そこには思惑のギャップも生まれて当然だとも思う。

いずれにせよ、もう中森明菜は日本に誕生しない。

これをネガティブではなく、ポジティブに捉えることが重要なのだと思う。

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