最近私はこう思っている。
『この状況でJリーグが再開されれば、【ピッチ上のサッカー】そのものにより関心が集まり、新しいサッカー文化がそこに芽生えるかも知れない』
Jリーグ再開
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、長く休止状態を強いられてきたJリーグがいよいよ再開しそうだ。
とは言え、これまでに何度かの「再開予定→再延期」を繰り返してきているだけに、実際にスタートするまでは全く安心できないと感じているファンも少なくないだろう。
各チームは、最低4週間の事前トレーニング期間を必要とし、6月27日から再開する(J3は開幕)J2、J3クラブにおいては、肉体的にも最後の追い込みを掛けている頃だろうか。
いつもとは違うスタジアム
このリーグ再開にあたり、Jリーグは無観客試合(リモートゲーム)を決断し、観客を入れた状態でのリーグ運営については段階的導入を発表している。
具体的には7月10日から「有観客」で行う方針(観客数5000人か、収容人数の50%の少ないほう)で、これは政府のイベント開催制限の段階的緩和の目安がステップ3となると目されている週末にあたる。
その後8月1日以降については「収容人数50%」へと制限が緩和される見通しだ。(これについてはまだJリーグが明言はしていない)
いずれにせよ、リーグが予定通りに再開したとしても、しばらくの期間「満員のスタジアム」を見られる可能性はなく、むしろチケット販売・席割などで「いつもとは違う」スタジアム体験が多くのJリーグファンに課せられることになるだろう。
収容人数50%
2017シーズンのデータをもとに、スタジアム収容率をグラフ化した記事をこのブログでも書いたが、それによると「収容人数50%」という制限によって少なくない影響を受けるクラブは以下となる。
※クラブ名(2017シーズン ホームスタジアム観客動員率)
- 川崎フロンターレ(80%)
- 柏レイソル(77%)
- べガルタ仙台(74%)
- 清水エスパルス(74%)
- 大宮アルディージャ(74%)
- ヴァンフォーレ甲府(63%)
- ガンバ大阪(61%)
- 松本山雅(60%)
- サガン鳥栖(58%)
- 湘南ベルマーレ(53%)
- ヴィッセル神戸(53%)
- FC東京(53%)
- 浦和レッズ(53%)
- アルビレックス新潟(52%)
- ジェフ千葉(50%)
- 鹿島アントラーズ(50%)
※複数の試合会場をホームとして使用しているチームは除外(札幌・横浜FM・磐田・C大阪)
上記を見ると、収容率50%台のチームについては、今後課せられるスタジアム収容率が大きな枷(かせ)にはなりにくいかも知れないが、60%を超えるチームについては、少なからず混乱が起きる可能性があると言えるだろう。
特にJリーグの場合、メイン・バックスタンドよりもゴール裏の密集率が高いケースも多く、これまではいつもゴール裏で観戦(応援)していたファン・サポーターも、「新しい生活様式」に則ったスタジアムの作法を守らざるを得ない。そうなると、彼らがポツンとおとなしく座って観戦するシーンをあちこちで見られるようになるかも知れない。
それだけでなく、当面はクラブマスコットのブリーフィング、スタジアムグルメなども大きく制限を受けることになっているので、リーグ戦は再開したものの、2019シーズンまでと全く同じ楽しみ方、スタジアムでの過ごし方は、ほとんど出来ないと考えた方がいいだろう。
ここでやっと冒頭の
『この状況でJリーグが再開されれば、【ピッチ上のサッカー】そのものにより関心が集まり、新しいサッカー文化がそこに芽生えるかも知れない』
へとつながる。
これまでとは違う角度から
無観客、或いは収容率制限を受けながら開催される今シーズンのJリーグを、これまでと違う角度から見つめることになるファン・サポーターの数は間違いなく多くなる。
週末はスタジアムへ通い、仲間とキックオフまでの時間を悠々と楽しみ、試合が始まれば立ち上がって大声を出し、得点が決まれば隣人とハイタッチしたり抱き合ったりしながら喜び、ゴールを奪われれば一瞬呆然としつつも、改めて勝利への狼煙を上げる。
これらがほとんど全て許されない環境にあれば、当然ながらこれまでとは異なるピッチ上の光景が見えてくるはずだ。
そして、その「スタジアムに行く」ことすら叶わないファン・サポーターは、いつも自分の目で直に見ていたチームの戦いを、画面を通して見ることにもなる。
さらに言えば、こうした社会状況の中、いくらJリーグが再開されるからと言って、大勢の人が集まる場所に自分の身を置くことに、大きな抵抗を覚えるファン・サポーターも一定数存在するはずで、そうした人々も自室で画面を通しチームの姿を眺めるかも知れない。
いずれにせよ、Jリーグが表現するあらゆる要素の中で「ピッチ上」だけがより際立つ時間がやってくるのだ。
するとこれまでは見えていなかった「サッカーの光景」に多くの人が気づくチャンスが生まれるのではないだろうか。
唯一無二の発見
断っておくが、私が言わんとする「ピッチ上のサッカーそのもの」とは決して「戦術マニア」が意気揚々として語るアレではない。
1人1人のファン・サポーターが、ピッチ上から感じたものを、新たな「サッカーの魅力」として昇華させられたら、これは相当に革新的なファン・サポーター意識の成長であるように思うのだ。
「あの選手はあの選手にパスする時だけ、アイコンタクトを取っていない」
「積極的にいく分、彼は帰陣するのがキツそうだ」
「今のは全く足に当たっていない、完全に演技で痛がってる」
「ベンチにいるあの選手、物凄く出たそうな顔をしているな」
「監督が怒ってる、今のドリブルはダメっていう決め事があったのかな」
「レフリーは今の良く見ていたね、ナイスジャッジ」
個人が感じるモノなので、正解も不正解もないし、そこで自らが見つけたものは唯一無二の発見でもある。
とかく、専門家の意見や関係者の話などに「正解」を求め、それを「サッカーの結論」として頭に入れてしまう作業をしてしまいがちな中、自分だけのサッカー、自分だけが気づけたサッカーがどんどん蓄積されることの、なんと幸せなことか。
新型コロナウイルスによって、日本サッカーもすぐには癒されない大きな傷を負った。
しかし、そんな状況であっても、ピッチ上で戦う選手たちが我々に十分すぎる楽しみを与えてくれる。
無観客だったから、収容率50%だったから得られる楽しみを、サッカーファンは今こそ堪能する時ではないか。