「.WE LEAGUE」だけでは日本の女子サッカー界を変えられない

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その名も「.WE LEAGUE」

理念:
女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する。

ビジョン:
1.世界一の女子サッカーを。
2.世界一アクティブな女性コミュニティへ。
3.世界一のリーグ価値を。

6月3日、2021年秋に開幕する女子プロサッカーリーグは、その名称「.WE LEAGUE」とともに、このリーグの存在意義を表わす理念・ビジョンについてこう掲げ発表した。

当面の間は今後「2ndディビジョン」となる『なでしこリーグへの降格はなし』としながら、リーグ参加予定チーム数について「6~10」としているあたり、「先ずは狼煙を上げておこう」といった印象も少なからず受けてしまう。

いずれにせよ、こうして女子プロリーグの大枠が公となったことで、来年の秋に向けあらゆる準備・調整が加速していくはずで、それに伴いさらなる支援者・協賛企業も現れ、同時に行政を巻き込もうとする流れも顕著になるだろう。

この女子プロサッカーリーグ創設については、ここ1~2年の間にJFAが明確にその展望を示してきていたが、こうして具体的な理念・ビジョン、そして関係者のコメントなどが出てくる段となってきて、やはりと言うか、当然ながらと言うか、「日本のスポーツ界はまだ繰り返すのか」と私はガッカリしているのだ。

偏ったスタンダード

もともと私は、日本の女子サッカーが抱える最大かつ唯一の課題が、小学~中学年代における女子チーム絶対数の少なさにあると考え、プロリーグの創設がそれを克服する「魔法の杖」であるかのような考え方はまやかしだと思っている。

確かに過去を振り返れば、巨人軍に憧れた少年が名プロ野球選手になり、カズや中田英寿、香川真司や本田圭佑に憧れJリーガーになった選手も少なくないだろう。

しかしそれらの「構図」を成立させられたのは、あくまでも「マス」に向けた大々的プロモーション・訴求力を「巨人軍」や「日本代表」や「海外組」が備えていたことに起因するところが多く、実際にそうした流れを、野球界やサッカー界がどれだけ意図的に作ってこれたかと言えば、結構疑問だと私は感じている。

それが如実に表れているのが「Jリーグ」と「Jリーグではないサッカー」の埋めようもない格差(これは決してクラブ組織力・チーム戦力面を指しているのではない)であり、少子化が進むにつれ一層強くなっていく育成年代からの極端な「競技者志向」の蔓延である。

つまり、日本社会に生まれた子どもは、文科省の庇護の下にある育成年代においては何とか「ボールを蹴る」機会を作ることも出来るが、その庇護から外れた途端、要するに社会に出た瞬間、一気にその場を失ってしまう。

ただそれも、前提条件として「目標はJリーガー」「目標は高校選手権出場」といった「競技者志向」を本人が掲げ、それがそこそこ現実味を帯びている場合に限られ、「ただサッカーが好き」「広いグラウンドでみんなと楽しくボールを蹴りたい」というような、多くの子どもが持って然るべき、極々普通の欲求だけでは、下手をすると小学5年生頃、かなり長かったとしても高校卒業時には、ボールを蹴る日常との別れを余儀なくされるケースが多く、それがスタンダードだとする社会通念すら存在する。(他のスポーツにも同じような実情があると考える)

そうしたサッカー少年の実情、これをさらに厳しくしたものが、女子サッカーの育成現場に存在する「スタンダード」だと言えるだろう。

女子サッカーの社会的地位・社会的認識度の低さを「下支え」するもの

少女たちはとにかく、よほど競技力が優れているか、よほど負けん気が強いか、よほど忍耐力があるか、要するに、少年チームの中に混ざってプレーする環境を選ばざるを得ないため、「男の子のルール」を許容し、そこで全力を発揮出来るタイプの子でないと、いわゆるゴールデンエイジに差し掛かる10才くらいを前にしてドンドン脱落していってしまう。

現状として小学生年代の女子チームは非常に少ないので、その脱落した少女たちの受け皿がサッカーの世界にはほぼ存在しないと言っていい。

こうした実情こそが、女子サッカーの広がりや可能性の芽を阻み、W杯で優勝した実績を持つ国でありながら、女子サッカーの社会的地位・社会的認識度の低さを「下支え」してしまっている。

「.WE LEAGUE」への参加条件の中に、U-12を含めた下部組織運営が盛り込まれており、それによって多少環境の変化はあるかも知れないが、経営的に難しい状況にある「プロ」と名のつくクラブの下部組織が有名無実化してしまうという現象も、多くのJ2クラブやJ3クラブを見れば明らかだ。

そして何より、あくまでも「Jリーグだけ」に存在価値を認めるとした偏った常識の醸成がJリーグ創設後の日本サッカー界で進んでしまったように、この「.WE LEAGUE」がそれに続く恐れを孕んでいると考えるのは行き過ぎだろうか。

やり方が古い

もちろん、今現在現役で活動している女子選手の間ではこの「.WE LEAGUE」創設が、大きく歓迎されているだろう。いち競技者としてサッカーにより集中出来る環境・ポジションを得られる可能性が出てきたのだから当然だ。

しかしながら、プロリーグとして発足させれば、それは同時に興行として成立しえない、つまり「潰れる」リスクがついて回ることも意味する。

そして特に、目下のところJFAが注力している2023年の女子W杯誘致の結果如何では、そのリスクが一層強くなる可能性もあるわけで、そんな一か八かのギャンブルをする為に資金を集めるのであれば、支援者や協賛企業を改めて説得し、小中学生年代の女子サッカーを活発にするための施策、中でも選手登録制度や女子種別の見直し、そしてそれらを円滑に進めるべくあらゆる取り組みなどに対しての協力を募った方が、よほど将来の女子サッカー界のためになると思うが、これもあまりに天邪鬼であろうか。

コロナ禍により、この国があまりにも脆弱なスポーツ文化しか持ち得ていないことも、かなりはっきりした。

もはや「プロリーグ」という言葉だけで人々がなびくとは考えない方がいい。

より本質的なスポーツの価値創造を本気で訴えていかない限り、「新しい生活様式」の波にスポーツは完全に飲まれてしまうだろう。

経営難にあるスポーツ界が打つ最後の一手、起死回生策としての「プロ化」はもう通用しなくなり、下手を打てばそのスポーツ界そのものが、立ち直れないくらいのダメージを受けかねない。

やり方がもう古すぎるのだ。

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