明るいニュース
5月29日、オンラインで行われたJリーグの臨時実行委員会において、いよいよJリーグの再開(J3については開幕)日程が決定された。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2月下旬以来休止状態にあるJリーグの再開日程が、これまでに何度か示されたことはあったが、今回の再開日程については、現状の国内「コロナ状況」を鑑みても、かなり実現性の高い「予定」であると思うことが出来るのは、4月上旬から開始された緊急事態宣言が5月末に解除され、あらゆる経済活動が再び動き出しているからだろう。
このまま感染者が少ない人数規模に抑えられてさえいれば、現時点で自粛要請を受けている業種・業態も、6月中旬頃には堂々と営業を再開出来る。
そして、長く暗澹たる気持ちを抱えていた社会全体に、ほんの少し光明が見えてきたこのタイミングであるからこそ、村井チェアマンの口から発せられた「Jリーグの再開」に歓喜したJリーグファン・サポーターは多かったのかも知れない。
しかしながら、そんな「Jリーグの明るいニュース」を耳にしても、私自身はどうもすんなりと喜ぶことが出来ていない。
すんなりと喜べない
村井チェアマンは臨時実行委員会開催後の行われたオンライン取材の場で、リーグ再開日程を「J1→7月4日」「J2・J3→6月27日」に決定したと話し、このリーグ再開に関する、以下の要素について触れた。
・J1は大都市圏にあるチームが多く、トレーニングが十分でない。コンディション面を考慮しJ2・J3を先にスタートさせる
・出来れば最初の複数節は地域間の大幅な移動がない対戦カードを組みたい。
・7月10日以降は制限付きで観客動員をする可能性を考えている。
・7月再開ならば全日程を消化出来るという見通しを立てている。
・リーグとしてサーモメータ―450台、消毒液12トン、マスク7万枚を確保。
・ルヴァン杯日程・大会方式については未確定。
・全56クラブの選手・スタッフ、審判を対象に、2週間に1度、リーグの負担でPCR検査を実施。再開節に向けては6月20日ぐらいにだいたいの検査が出来るようにする。
2週に1度約2400の検体を採取してデータの蓄積をしていくことが、様々な競技の健康管理の一助になり、医学界にとっても非常に重要。活動を通じて結果的に恩返ししていければ。
緊急事態宣言が解除されたとは言え「3密」「ソーシャルディスタンス」を避ける行動様式が、半年~数年という時間軸で必要になるともされている中、当たり前に存在していたJリーグの光景も当然ながら忌避される。
大勢のサポーターが密集するゴール裏はもちろん、チームの遠征移動距離を抑えるために、各カテゴリーをそれぞれ「東西」に分割し開催する案も検討されている。
村井チェアマンが話した「7月10日以降は制限付きで観客動員の可能性」についても、その「制限付き」の意味することは、スタジアム収容率にキャップをかけるということであり、「スタジアム観戦客」決定方法などは、今後大きく議論を呼ぶところになるだろう。(かく言う私自身、柏レイソルの年間シートを持っているが、今季は1~2回日立台に行ければ御の字かなと思ったりしている)
ただ、こうした「Jリーグに課せられる非日常」がファン・サポーターの間で話題の中心となる一方で、Jリーグが実施すると明言した選手・スタッフなど総勢2400人を対象とした2週に1度のPCR検査については、既存メディアの扱いも無味乾燥。何故全く議論を生むことなくスルーされているのか、私には到底理解が及ばない。
Jリーグより一足早くスタートすることになりそうなプロ野球は、PCR検査で選手・関係者に陽性が発生した場合の対処法については明言しているものの、PCR検査の全選手・関係者集団実施については一切触れていない。
そして、ここへの違和感があることで「Jリーグ再開」を心から歓迎することの出来ていない自分がいるのだ。
JリーグのPCR検査実施がスルー
遡って5月11日の段階で村井チェアマンは、先んじてリーグ再開を果たした独・ブンデスリーガなどが全選手にPCR検査を実施していることについての見解を問われこう答えている。
『国民が十分に検査できない状況にあり、選手側から不安の声もある。PCR検査を全選手に実施するのは現実的ではない』
東京都では新たな感染者の数が一時と比較してかなり減少しそれが継続傾向にあるが、PCR検査の実施数だけを見れば、決して大幅には減少しておらず、1日に1000件からの検査数で推移しており、都の相談窓口が受ける相談件数もピーク時の半数程度までにしか減少していない。
そんな状況の中、受診時に「検査を要しない」と診断されながら、結果的にコロナウイルス感染が死因となった患者が5月中にも首都圏で発生している。
この災難により、我々は日常にこれだけ大きなダメージを受け、そのダメージを癒す見通しを立てられない人も社会に多く存在する。
だからこそ、社会を構成する1人1人が「感染拡大」を抑えるため自らの行動を制限し、「医療崩壊」を招くからといって「むやみなPCR検査実施は避けるべき」とした論調が声高に唱えられてきた。
そして現在も、あらゆる人々が「手洗い・うがいを励行しましょう」と世に対し日々訴え続けている。
なのに『2週間に1度(同じ)2400人にPCR検査実施』がスルーされるのは何故なのか。
ちなみにこの「2400」という検査実施数は、東京都が1日に実施したPCR検査数の最高値を大きく上回る数(東京都の実施最高件数は5月11日の1864件)であり、2400件すべてを同日に行わないにしても、とても軽視出来ない大きな数。
そして、こうも思うのだ。
やはりまだ日本サッカーは、社会的関心度の低い世界でしかないのだなと。
つまり、いまこの社会に生きるほとんどの人に「Jリーグが2週に1度2400人に対しPCR検査をする」というこの「驚くべき」ニュースは届いていない。
日本のサッカーはまだ、しょせん「ムラ社会」
こういうことを書くと「また毛利がJリーグをディスっている」と言われてしまうかも知れないが、
サッカーのない日常、ことさらピッチ上で繰り広げられる戦いを日常的に感じることの出来ない今、心が枯渇してどうにかなりそうだし、Jリーグの再開を願う気持ちを人一倍持っている自負が私にはある。
しかしながら、こうしてJリーグの世界がコロナ以前にも増して「ムラ社会化」している様に思える光景を目にすればするほど、それを素直に願うことの出来ない気持ちも増してきてしまう。
もちろん、今後の状況によっては私のこうした思いが杞憂になる可能性もあり得る。でもそれが僅か1か月後に来るかと言えば、現時点で私には全くそう思えない。
何しろいまだ「PCR検査は医師が必要と判断した時に受けられる」という実情は存在している。
だからこそ、少なくともJリーガーが2週間に1度PCR検査を受けられる「理由」くらいには思いを巡らせる「バランス感覚」があって然るべきであり、それを出来なければJリーグもサッカーも、いずれ社会から見向きもされなくなるように思えてならない。
Jリーグが掲げる「百年構想」を思えば、たかだか10年契約の放映権料を差し置いてでも、社会から必要とされる将来像の「再構築」にこそ重点を置いて欲しい。
サッカーにはその力が十分にあるはずだ。