蹴球withコロナ 「Jリーグ色」の薄い天皇杯とDAZNにしがみつくJリーグ

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第100回天皇杯サッカー

2021年元旦に決勝戦が予定されている天皇杯サッカー第100回大会。

この大会の大幅なレギュレーション変更が、4月22日の夜、JFAから突如発表された。

新型コロナウイルス感染拡大を受け、日本中のサッカーカレンダーが前に進むことを全く許されていない中、この天皇杯も例に漏れず、少なくともこれまでに2度に渡って大きな変更がされてきた。

先ずは3月24日、この日はIOCと日本政府が東京五輪の延期を発表した日だが、このタイミングでJFAは今季の天皇杯本大会において『J1、J2勢4回戦登場』をそのトーナメント表とともに発表。

しかしながら、その2週間後、4月7日には、JFAが5月中主催行事の延期・中止を決定したことにより、本来であれば5月23・24日に予定されていた天皇杯本大会1回戦の延期も決まった。

そこへ来て、これまでの経緯が完全に霞んでしまうほどインパクトのある決定が、4月22日にJFAより発表された。

以下がその変更の要旨である。

50チームによるノックアウト方式
・Jリーグ2チーム(2020明治安田生命J1リーグ成績上位2チーム/決定方法は検討中)
・アマチュアシード1チーム(Honda FC/JFL)
・都道府県代表47チーム(所属する第1種加盟チームで、Jクラブを含まない)

大会期間は9月16日より来年1月1日まで、Jリーグから出場するJ1上位2チームは、大会準決勝(12月27日)からの参戦。

「Jリーグ色」の薄い天皇杯になる

これによって、今季の天皇杯にはJ2、J3チームの出場はなし。J1も上位2チームのみの出場となる為、他の16チームは出場しないことが決まり、極めて「Jリーグ色」の薄い、従来とは全く異質な大会になることとなった。

当然ながら、こうした大会レギュレーションの大幅変更がされた背景には、未だリーグ再開時期の目処が立っていないJリーグの実情が大きく影響しており、Jリーグ側の「何としてでもリーグを成立させなくてはならない」とした悲痛な叫びと、それを全面的に支えようとするJFAの姿勢が存在している。

既にJリーグは、今季リーグ戦の成立基準として『各カテゴリーの75%以上かつ各クラブが50%以上の試合消化』を決め、これを4月15日に発表しているが、ここで言われている「リーグ成立」が意味するところは、巨額放映権料を支払うDAZNからの資金投入の可否ラインであり、

だからこそ、その「リーグ成立」を少しでも阻む可能性がある要素(つまり天皇杯)を排除したのだ。

追い詰められるJリーグ

Jリーグをひとつの経営体として見た時、この判断は至極当然のことである。

少なくともDAZNと10年に渡る大型契約を結んで以降、Jリーグはいわゆる「DAZNマネー」を前提とした経営に変質していたわけで、それが万が一にでも途絶えてしまえば、それが即ち「リーグそのものの存続」をも意味してしまう。

このコロナ禍にあって、その当初については、至って冷静で適切な判断をしてきているように見えていたJリーグだったが、休止状況が既に2カ月を過ぎようとしている今、生き残りを懸け、相当追い詰められてきていることが伺い知れる。

ただ、少なくとも天皇杯のことを気にかける必要がなくなったことで、Jリーグは「リーグ再開時期」を巡る綱引きに集中出来る立場を勝ち得た(厳密にはリーグ杯ルヴァンカップもあるが、先ずはJFA主催の天皇杯を何とかする必要があった)

とは言え、「リーグ再開時期」を巡る綱引きとは、「社会的合意の獲得」「ロビー活動」と言った質のもので、ここからがまさにイバラの道となる可能性は高い。(官邸に「PCR検査会場」としてJクラブの管理する施設の提供を申し入れたのも、その一環であると見るのが正しいだろう)

ブンデスリーガ再開に異を唱える人々

新型コロナウイルスにより、悲惨な社会状況を生み出している欧州にあって、比較的その感染対策が上手くいっていると(されている)ドイツでは、5月上旬から休止していたブンデスリーガ2019/20シーズンが再開することになっている。

しかしながら、このリーグ再開は必ずしも社会から大きくは歓迎されていない。

社会どころか、リーグ再開を心待ちにしていたであろう、既存のサッカーファンの間でも、批判の声が高まってしまっている。

その多くは、ワクチンもなく、感染拡大が完全に収まっていない社会状況が依然として続く中、様々な医療リソースの不足も顕在化しているのに、何故ブンデスリーガだけ開催が許されるのか。と言った主旨のもので、DFL(ドイツサッカー連盟)やビッグクラブ経営サイドによる、当局を相手にしたロビー活動に対しても、批難の矛先が向いている。

このように多くの人々が、ブンデスリーガ再開に眉をひそめる理由の大元には、彼らがリーグ放映権主「スカイ」からの資金投入を途絶えさせないために、半ば強引にリーグ再開を引き寄せたことが、透けて見えてしまっていることがあるのだろう。

Jリーグもこれと同じ道を歩み始めているとは言えないか。

張子の虎

J1サガン鳥栖が、2019年度決算で20億円という大きな赤字を計上していたことが分かった。

J1クラブの平均年間収益規模が約45億円なので、この赤字額はもはや経営体として存続しているのが、不思議なくらい深刻なものだ。

しかし、それはあくまでも「J1クラブ」としてであって、今後サガン鳥栖がJ2やJ3に降格し(残念ながら今季はどんな戦績でも降格は出来ない)2019年度と同じ予算規模を維持できれば、十分戦うことも可能なのだ。

つまり、Jリーグにも同じようなことは言える。

今現在Jリーグが備えているあらゆる要素のうち、DAZNによって支えられているものはあまりにも大きい。だからこそ、Jリーグも何とかそれを手放すものかと必死になるわけだが、それを手放してしまったとしても、この国のトップカテゴリー、トップリーグの存在が消滅してしまうことは、サッカーをする人がいる限りあり得ない。

それによって、今ある日本サッカーの栄華に陰りが見えてしまう可能性は確かに高い。しかし、Jリーグの命運だけに執心し、日本のあらゆるサッカーシーンに存在するリソースを犠牲にする価値観が跋扈(ばっこ)するくらいなら、そんな栄華など所詮は「張子の虎」だと思えてくる。

ドイツのサッカーファンがブンデスリーガ再開に異を唱えているのは、その「張子の虎」があまりに自分たちのプライドを傷つけてくるからであろう。

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