
Jリーグが計る「希望的観測」
4月15日、Jリーグ臨時理事会が開催され、今季のリーグ戦大会方式の変更が正式決定された。
未だリーグ再開の目処が立たない状況にあっては、「正式決定」の持つ意味自体が極めて不確かなものである印象は拭えないが
- J1、J2で降格なし
- J1、J2とも2クラブが自動昇格
- 各カテゴリーの75%以上かつ各クラブが50%以上の試合消化でリーグ成立
- リーグ不成立の場合は昇格、順位決定、賞金、表彰を実施しない
- クラブライセンス審査による取り消し、制裁を科さない
- 導入予定だった若手育成を目的とするエリートリーグの中止
などが決定事項となった。
既に大都市圏を対象とした緊急事態宣言が発せられてから約1週間が経過し、J1全18チームが活動休止状況に陥っている。4月16日に緊急事態宣言の対象が日本全国とされたことで、現在辛うじてチームとしての活動が出来ているケースも、そのほとんどが休止状態を強いられることになるだろう。
こうして日本社会全体から、あらゆる日常の光景が消えていく中、リーグ再開について「6月・7月・8月」の3パターンで日程調整をしているとJリーグ側は説明しているが、そのいずれもが限りなく「希望的観測」に拠ったものと言わざるを得ない。
生死の淵
こうした状況を鑑みた時に、臨時理事会後会見に立った村井チェアマンが表明した「大幅な予算削減」については、Jリーグという「組織」が今まさに生死の淵へジリジリと追い詰められている様子に見えてならない。
村井チェアマンは2022年までのJリーグ中期計画を凍結し、2020年、2021年の「コロナ対策」に集中して備えるとして、今季リーグ運営費の30%~50%削減についても言及した。リーグ運営費はその名が示すように、リーグ戦開催に伴って発生する経費であり、その言葉通りに「30%~50%削減」が成されたとすれば、リーグ戦成立の最低ライン75%消化を果たすのにも、相当の運営努力が不可避。現実的には全試合を無観客開催にするなど、運営形態・規模の大掛かりな変更が必要となるだろう。
DAZN 華やかなJリーグの根拠
2017シーズンに「10年間で2100億円」という破格の放映権料契約をDAZNと結んだことで、Jリーグの経営規模は一気に拡大した。
いわゆる「DAZNマネー」と称される放映権料を原資に、ことJ1上位クラブについては、それまで不可能だった投資も積極的に出来るようになり、その権利を得んが為の競争も発生した。
しかしながら、ここ数シーズンに見られた「華やかなJリーグ」を維持・拡大する上で、その「根拠」でもあった「DAZNマネー」が、コロナ禍に窮するJリーグの「息の根を止めかねない存在」となってしまっている。
https://twitter.com/flower_highway/status/1245273787043471360?s=20
その一方で、既にアメリカのスポーツメディアは「DAZNが延期・中止された試合の放映権を支払わない方針を固めた」と伝え、事実DAZNは、世界規模でスポーツイベントが休止状態になっている状況を鑑み、従業員の一時解雇を開始するとしている。
要するにDAZNとてこのコロナ禍に窮していることは明らかなのだ。
2022年の黒字転換を目指し、世界規模で新規契約者とリーグ放映権獲得を進めてきたDAZNだが、ことJリーグに限って言えば、「10年2100億円」をペイ出来る売上規模までには市場開拓も進められていない。そこへ来てのこの世界規模の大混乱。
DAZN has started telling sports leagues that it will not pay rights fees for games that have been suspended or cancelled because of the coronavirus pandemic, sources say. DAZN is believed to be the first media company to make such a decision. Story coming in SBD.
— John Ourand (@Ourand_SBJ) March 31, 2020
こうした実態からも、例え今季のJリーグが何とか「75%以上」の体裁を整え、DAZNから幾ばくかの放映権料を受取れたとしても、今現在、世界全体がコロナウイルスによって受けているダメージを思えば、来季2021シーズンに、それが突然途絶えることも十分に想定出来る。
そうなればもう、あの「華やかなJリーグ」を直ぐに取り戻すのはほぼ不可能だろう。
ピンチはチャンス
日々、国内の新型コロナウイルス感染拡大状況をグラフ化し公開し続けている「東洋経済」は、「新型コロナでもうかっている地味な企業」とタイトルされた記事内で、クリーンルームや関連機器を作っているメーカーに特需が生まれていることを挙げている。
また、この数カ月の間に一気にその知名度を上げたビデオ会議サービス「Zoom」の株価は2月以降、1月初旬のほぼ2倍に値上がりし、中国ネット通販「アリババ」は、消費者が産地からのライブ映像を見ながら食品購入が出来る新しいシステムを構築した。
既に顕在化してきている、こうした市場変化・市場変革の兆しは、まさに「危機に見舞われたとき、それは同時にチャンスの訪れでもある」を地で行くものであろう。
そしてこれに倣うのであれば、仮にこのコロナ禍によって、JリーグがDAZNという巨大過ぎる後ろ盾を失ったとしても、それはあくまでも、この数シーズンの間に見られた「華やかなJリーグ」の再現が難しくなるだけであって、日本サッカー、そしてそのトップリーグとしてのJリーグがしっかりと価値創造を出来さえすれば、ポストコロナの時代を生き抜くことは十分可能だと捉えるべきか。
視点を変えれば、豪華な外国人助っ人や、1億円を超える年俸を取ってプレーするスター選手がピッチに集い、それを数万人が熱狂を以てスタジアムで堪能し、その光景そのものをメインコンテンツとするオンライン映像配信サービスをサブスクリプションビジネスとして成立させる。こうした従来のJリーグビジネスモデルにこれからも固執するのか否か。
そこに、Jリーグそのものの命運が変わってくるとも言えよう。
3年、5年、10年後を見据えて
既存収益の枠内で、それを何とかやり繰りしながら、被るダメージを最低限に抑えようとする、Jリーグが現在取ろうとしている様々な方策が、一時的に不可欠とされるのも十分に理解は出来る。
しかしながら、その先の3年、5年、10年を見据えたときに、これまでに盲進してきたJリーグのビジネスモデル・成長戦略が、この謎の風邪ウイルスを前にした時に、あまりに脆弱な姿を露呈してしまったのは紛れもない事実であり、これを払拭するのであれば、従来モデルからの脱却と、新たなグラウンドデザインの設計が不可欠となっていくはずだ。
家に籠りながらも…
ニューヨークや欧州各国で起きているとされる、悲惨な社会状況をこの日本社会に生み出さないために、それぞれが家に籠りじっとしている必要性が、社会全体に「今」求められている。
ただし、このコロナ禍が、どうやら「一時の嵐」ではないことが、少しずつ分かってきた中で、家に籠りながらも近未来を想像(創造)することにも、しっかり価値が置かれていくべきだ。
とかく、日本サッカー界は社会にあって、些細な存在感しか示せていない。
であれば、少なくとも、そこにこの先もずっと寄り添って行きたいと思う人間が、その将来、近未来の姿について、真剣に考えていくことをしなければ、気づいた時には「他の何かに置き換えられていた」となってしまっても全く不思議はない。
何も難しいことはない。
それぞれが「サッカーの価値」そして「Jリーグの存在意義」を今一度再確認し、それがこの先の社会にも受け入れられるものであるのか、考えればいいだけのことなのだ。