
「いちいち一憂」する日々
いよいよ、日本の主要都市を中心に全国7都府県を対象とした「非常事態宣言」を政府が発する段階となった。
世間では「これまでの外出自粛要請とそう変わらない」とだけ認識する向きも少なくないが、国民があらゆる活動を制限されることを「受け入れている」時間が、これから最低でも1カ月続くという事実だけを取っても明らかな異常事態である。
もちろん、表立った現象だけを見れば、変わらず会社に通勤する人もゼロにはならないし、一般日用品や食品がスーパーの棚からすっかり姿を消すこともないだろう。
ただそうした日常からはあまり見えないところで、この国がこの先に取るべき道筋の多くが、然るべき組織体の間で判断され、「感染症拡大を防ぐ」という錦の御旗の下、驚くべきスピードで進んでいく可能性も高い。
自粛の最中にやれば、当然投票率は下がるし、自民党の圧勝だよね。
選挙「不要不急の外出にあたらず」 首相、緊急事態でも延期否定 https://t.co/JcvyH9hna0— 波田 映 (@eihata) April 7, 2020
ともあれ、1日どころか数時間刻みで新たな「新型コロナ情報」が発信され、それに対し「一喜一憂」ならぬ「いちいち一憂」をし続ければ、そうした動きを見落とすことも多くなってしまうだろう。
そして、その先に創造されるであろう「新たな日本社会」にも、自分の居場所をしっかりと守ろうと思った時、ワイドショー出演者の発言や、外出自粛をしていないように見える人々に対し「いちいち一憂」をするだけでなく「自分がこの先にどう生きていくべきなのか」について、とことん向き合う必要があるように思う。
何故なら、社会や国は、そこで生きる1人1人の「極めて個人的な」思いや価値観の集合体によって形成されるはずだからだ。
TVやSNSが作る「世情」に倣うことで、それを自身のポリシーと自動的に判断し、思考停止に陥っている様では、この「極めて個人的な」思いや価値観は一向に醸成されない。
難題に直面するサッカー界
このコロナ禍にあって、既にJリーグも、今季のリーグ再開時期を明確に示すことの出来ない状況に陥っているが、Jリーグを下支えするJFLや各地域リーグ、都道府県リーグの全てが、その余波の渦中にいる。
中でも、そもそも「複雑かつ難解」なレギュレーションが多く存在する地域リーグの世界については、リーグ戦終了後の「プレーオフ的大会(全国社会人サッカー選手権・全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)」が持つ存在感はあまりに大きく、大袈裟に言えば、これらの大会無しにリーグ戦の存在意義を高めることも難しいのが実情で、Jリーグとは異なる構造的難題に直面しているとも言えるだろう。
既に天皇杯各都道府県予選については、予選を全て中止し、ピッチで勝負をつけないまま、都道府県代表を選出するケースも多く出てきているが、「JFL昇格」を見据えた「プレーオフ的大会」への出場チームをどのように決定するかも含め、今季の地域リーグを運営する上でのあらゆる判断が、このカテゴリーの存在意義と真摯に向き合う姿勢を強いてくるのだと私は思う。
※これを書き上げた直後に、JFAが5月末まで主催するすべての競技会について、原則として延期・中止する事を発表。これにより天皇杯1回戦(5月最終週)と、各都道府県代表決定期限(5月10日)の延期が決定。
半分の日程を中止にした地域リーグ
【重要】関東サッカーリーグ前期中止のお知らせ
新型コロナウィルスの影響により、2020年度(第54回)関東サッカーリーグの前期1節~9節までの全試合(90試合)を中止することが決まりました。
今後は後期1節(7/11、12)の開幕に向け準備いたします。https://t.co/UyPikY3ocK#kanto_sl— 関東サッカーリーグ (@kanto_sl) April 5, 2020
そんな中、4月2日に中国サッカーリーグが、同5日に関東サッカーリーグが、リーグ戦全試合の半分にあたる、前期の全日程中止を決めた。
これにより、中国サッカーリーグでは7月5日から、関東サッカーリーグでは7月12日から、いずれも1回戦のみの総当たりで今季のリーグ戦を行う判断がされたが、他の7つの地域リーグについても、早い段階でこれに続くであろうことが容易に推測できる。
もちろん、両リーグがこうした判断をした背景には、Jリーグが打ち出す方針だけでなく、年間スケジュールとその優先順位のつけ方、または様々な社会的要因、或いは参加クラブの置かれた状況など、それらが複雑に絡み合った要素を考慮した上のものであり、一面的には緊急避難的な性格を持ったものであるのかも知れない。
ただ仮にそうであったとしても、「前期日程を全て中止」とすることによって、この二つの地域リーグには、その先を見据え「備える」時間的猶予が、約3か月与えられたことになる。
「3か月」の時間的猶予
2020年度の中国サッカーリーグは、新型コロナウィルス感染症の感染予防のため、すでに延期発表している1~3節を含めた9節までを中止します。
これに伴うレギュレーション変更等は現在協議中で決まりましたら告知します。
今は、感染しない、感染させない、命を守る、これ大事。#攻めのCSL#コミュサカ pic.twitter.com/x2OOhGLbFy— CSL 中国サッカーリーグ 公式 (@csl_jp) April 2, 2020
では、この3か月に何を生み出せるのか。
リーグ運営側としては、日程再考をしていく必要や、それに沿った様々な調整、そして、仮に後期日程までも開催が危ういとなった場合の判断基準や取り決めなど、実務的にも非常にボリュームのある課題と、極めて短時間の間に向き合う必要も出てくるだろう。
また、参加クラブ・選手の間では、チームの活動時期再考は当然として、特に個々の選手、チーム関係者の中には、サッカーと離れる決断を選択するケースも出てくるかも知れない。
しかしながら、そうした非常に重要かつ大きな判断を、いつ再開されるとも分からない、来週はどうなのか、来月は?と、あまりに「前提条件」の多すぎる状況の下で決断せざるを得ない事態だけは、この「3か月」によって、幾分は軽減させること出来る。そして、この「3か月」があることで、より賢明な判断が可能になったとも言える。
そして、この「3か月」の間に、地域リーグとそこに関わる人たちが、様々な決断・判断に直面していく中で、リーグも、参加クラブも、選手もチーム関係者も、その多くが「このカテゴリーが存在する意味」「自分たちがサッカーをする意義」を再確認し、歩みを模索する時を過ごしていくだろう。
「脆弱」な世界を「骨太」にする
このコロナ禍にあって、社会から真っ先に「不要」とされたのが、スポーツ興行や音楽イベントであったこと。
感染症拡大を防ぐという意味合いがそこに大きく影響したとは言え、これまで「当たり前」だと思われていたスポーツの世界、サッカーの世界が、実は非常に脆弱な世界であったこと。
ではこの先、それを脆弱な世界から骨太な世界へと成長させていくのに、何が必要なのか。
或いは、終息まで1~2年はかかるともされているこの新型コロナウイルスと、サッカーの世界がどう付き合いながら、生きて行けるのか。
つまり「withコロナ」をマストとしたJリーグの在り方、そして地域リーグの在り方、地域リーガーの生き様、これらをじっくりと考える機会が、日々の生活に「いちいち一憂」しているうちは、到底生み出せないと私は思うのだ。
そう考えた時、「3か月間の時間的猶予」を作れたという意味で、この2つの地域リーグがした判断は、一定の評価が出来るだろう。(「3か月」で十分なのか、或いは半年、1年が必要なのかは、一先ず置いておいたとして)
そして、こうした心の持ちよう、この先に向けた覚悟、つまり「withコロナ」を考え、実践するという行動様式は、この社会を構成する多くの人にとって間違いなく、心の安寧を少なからず呼び込むことの出来る「コロナ禍の捉え方」であるように思う。
私は「withコロナ」で参ります。