COVID-19 備忘録 リーグ中止決定 「ポリシー」を見誤ったBリーグ

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Bリーグ中止決定

3月27日、Bリーグ大河正明チェアマンが、休止状態にあった今季Bリーグの中止決定を発表した。

その会見をじっくりと視聴していく中で、私は言い知れぬ違和感を覚えていた。

一連の新型コロナウイルス禍に対するJリーグの対応では感じることのなかった違和感。

その正体が何であるのか、会見内容の全てを文字に起こすことで、考えていきたい。

大河チェアマン会見全文

本日11時より臨時の理事会を開催致しまして、今後のBリーグのリーグ戦、ポストシーズンをどうするのかを議論致しました。本日はその結果のご報告とそう考えるに至った理由、その他私の方からご報告させて頂きます。

先ず、Bリーグは残りのリーグ戦及びポストシーズン、チャンピオンシップ、残留プレーオフ、B2プレーオフ、これを全て中止とさせて頂きます。

2月26日の会見でリーグ戦の延期を決め、何とか皆さんの前で試合をさせて頂きたい、そんなことを考え発表させて頂きました。ただ、情勢は日に日に悪くなっています。

3月11日には無観客での試合ということを決めたんですけれど、やってみると色々な問題が生じました。このチャレンジ自体に後悔はありませんけれども、無観客試合を止めて3月17日にはリーグ戦の中断を決めました。

そして今日、全てのリーグ戦とポストシーズンの中止を決めさせて頂いたというわけでございます。

中止の理由は色々あるんですけれども、やはり何といっても一番大きかったのは、選手やコーチやクラブの関係者、そういった方々の心身の健康、これを最優先させて頂いたということになります。

本当に私たちの想像を超えるくらいの、新型コロナウイルスの感染力、こういったものに選手や関係者を危険に晒すわけにはいかない、そういったことを重視したということです。

選手会とも2回ほど議論させて頂きました。

選手はちょうど自分の子どもくらいの年齢に当たるわけですけれども、もし選手が自分自身の子どもだったらと考えた時に、果たしてこの環境で試合に臨ませることが出来るのか、遠隔地に遠征させることが出来るのか、それを自問自答しました。

そして、本当にBリーグの再開を待ち望まれていた、多くのファン・ブースターの皆さんの熱い思い、これを真摯に受け止めつつも、先ほど申し上げたようなことを重点にして中止を決定させて頂きました。本当にお待ち頂いていたファンの皆様には申し訳ない気持ちでいっぱいです。

そして、中止ではありますが、B1、B2ともにリーグ戦はしっかりと成立しているということが、併せて承認されております。従いまして、リーグ戦各地区の順位も確定したということになります。

併せて大切な議論も致しました。これはB1、B2に関わる昇降格の問題であります。

残留プレーオフやB2プレーオフが中止となった今、昇降格はどうなるんだ、といったことが大きな課題となります。

私としては大きく2つのコンセプトを重要視しております。

1つは、選手・クラブ・リーグが一枚岩となってこの難局に取り組み、これを乗り越えること。そしてもう1つは、今シーズン、そして来シーズンも含めてBリーグの36クラブ、広く言えばB3も含めてになるのかも知れませんが、1チームも存続できないなんていうことが起きないこと。資金繰りをしっかりと安定させていくこと、これを命題に掲げています。

そういった観点からした場合、残留プレーオフなしに降格チームを作ることは出来ません。

一方でB2は60試合のリーグ戦のうち47試合が既に消化されています。そしてB2の中での順位は確定しています。B1に昇格することを目指して選手に投資をし、47試合戦ったB2のクラブを全く昇格させないというわけにもいきません。

4月後半にクラブライセンス判定がありますが、このクラブライセンスでB1ライセンスを保有できるチーム、ということを前提に今のB2勝率上位2チームをB1に昇格させる、それを併せて決定致しました。

従いまして、2020/21シーズンはB1が20チーム、B2が16チームという形になります。

以上、皆さんのご理解を賜りたいと思います。

そして、この中止が決まったことによって、財務的インパクトも非常に大きくなります。リーグは勿論のこと、クラブとしてはB1で約30%、B2で約20%、そしてポストシーズンも含めたところのチケット収入が入らない、そういう事態になります。

さらには、冠スポンサーを当て込んでいた試合も出来ません、そういった意味では多くの財政的マイナス要因があるわけですが、リーグ・クラブが一体となってこの難局を乗り越えよう、そして選手も試合が中止になったとは言え契約自体は残っていますから、Bリーグが2倍3倍と大きくなって復活する日を夢見て、契約が残っている限りにおいて、色々なチャレンジをして、ファンの皆様、ブースターの皆様、そしてスポンサーや行政の皆様、あらゆるステークホルダーの皆様に少しでも、リーグ戦をやっていなくてもご満足頂けるような発信を、選手ともども続けていきたいと考えております。

最後になりますが、実は今日3月27日は、私たちリーグのトップパートナーでいらっしゃるソフトバンクさんが5Gをスタートさせる日にもあたります。そこでソフトバンクさんのAR技術を活用した、バスケと5Gの革新的スキル動画をファン参加型コンテンツとして提供したいという風に考えております。

リーグ戦・ポストシーズンは残念ながら中止となりましたが、皆さんに少しでもBリーグの話題、これをお届けする、そして技術的にも革新的技術でお届けしていく、そういったことをお約束したいと思います。

私の方からは以上でございます。

2020年3月27日 Bリーグ大河正明チェアマン 会見発言内容

「無観客試合」そして外国人選手による批判

会見の冒頭部分にあたる大河チェアマンによる発言をまとめると以下のようになる。

  • 新型コロナウイルス感染拡大を受け、リーグ戦・ポストシーズンの中止を理事会で決定
  • 中止決定をした最大の理由は、選手・コーチ・チーム関係者の心身健康
  • 中止にはなるがリーグ自体の成立は承認され、それによりリーグ順位も決定
  • 選手・クラブ・リーグが一枚岩となり、それぞれ資金繰りを安定させ存続を目指す
  • プレーオフも中止されるため今季は降格なしとする(クラブライセンス取得状況によって昇格はあり)
  • 各クラブにはチケット収入減、リーグには冠スポンサー収入減などの財政的マイナスが発生する

Jリーグと同じく、2月末からリーグ戦を休止していたBリーグは、3月14日に「無観客試合」とすることでリーグ再開を目指した。

しかしながら、当初3月14日~4月1日までの期間で、B1、B2を合わせ131試合が行われる予定だった「無観客リーグ」は、3月14日に1試合、翌15日に1試合と、選手やレフリーの発熱が確認されたことで、開始直前に試合が中止される事態が相次いで生じ(14日 川崎ブレイブサンダーズ対レバンガ北海道 15日 千葉ジェッツ対宇都宮ブレックス)僅か2日で取り止め。改めてリーグ戦が休止になっていた。

誰もいないスタンドには「コロナニショウリ」の文字が

そんな中、感染を恐れチームを離れ帰国する外国人選手も現れ出し、その1人であるB1滋賀レイクスターズのジェフ・エアーズは

『リーグはスポンサー収入とチームの破産を心配していて、選手の安全よりもそちらを気にかけていた』

と帰国後に米国メディアに対しコメントしている。

こうした背景があったことを考えると、大河チェアマンの発言内容についても、その印象が当然ながら大きく変わってきてしまう。

記者会見質疑応答パート

ここからは、会見の後半に設けられた質疑応答パートの概要を記していこうと思う。

ちなみに今回の記者会見はリモートによるオンラインで行われた。

質疑応答パート概要(リモートによるオンライン記者会見)

質疑①

質問者 来季B1、B2の地区分けイメージは?

大河 詳細は4月の実行員会、理事会を経て発表するが、20チーム、16チームということになると、3地区制は来季に限っては困難な状況。どういう決め事でポストシーズンに進むのか、これらについてしっかりと審議を経て発表する。

 

質疑②

質問者 各クラブの反応は?

大河 3月23日に臨時実行員会を開催したが、その際8割くらいのクラブがリーグ戦継続は困難という意見だった。一方、チャンピオンシップだけはしっかりと、最後にBリーグの存在感を示して締めくくりたいとする意見もあった。しかしながら25日の東京都小池知事による会見、特に大都会を中心とした昨今の感染者増加、感染ルート不明の感染者も増加している中で、恐らくこの中止決定をやむなしと、納得してもらえていると考えている。

 

質疑③

質問者 2月の会見で「残り全てを中止した場合、収入ロスが60億円」という話だったが、この中止決定に伴うおおよその損失額は?

大河 4月末のクラブライセンス判定においても、各クラブの資金繰り状況、今季の収支状況を集計するが、リーグ中止により相応な収入減がある一方で、リーグ戦運営に関わる支出減もあり、これを相殺した額になるので、現時点では損失額がいくらと一概には言えない。

質疑④

質問者 中止を受け、選手・チームスタッフの報酬はどうなるのか?

大河 Bリーグには、NBAのように特別なことが発生した場合に、報酬を引き下げると言うような条項がない。従って資金繰りをしっかりもたせ、今季契約した選手の報酬はしっかりと払っていく。ただし、勝利給・出場給といったインセンティブについては支払えない状況もある。新型コロナウイルスの影響による景気悪化、各クラブの財政的ダメージを考えると、来季の契約交渉にその余波が生じるのはやむを得ないと考えている。

 

質疑⑤

質問者 各クラブに対するリーグとしての支援案は?

大河 リーグそのものも財政的ダメージを受ける可能性はあるが、各クラブに対しては、各自治体が構築する無利子・無担保融資の活用を進めていくことになる。それでも不足する場合はリーグによる特別融資なども、引き続き検討の対象としていきたいと考えている。

 

質疑⑥

質問者 具体的に経営が厳しいクラブがあれば数値情報も公開してほしい

大河 3月の段階では各クラブ資金繰りの目処は立っている。私見では4月にかけても多くのクラブが借入・増資などの資本政策を想定より早く進められているので、大きな心配をするクラブはないと考える。ただ予断を許さない状況であり引き続き見守っていく。

質疑⑦

質問者 選手会との会談で出た話の内容は?

大河 直近では3月25日に選手会と話をした。リーグからはこうした緊急事態に対するしっかりとした行動指針を作ろうと話をした。選手側からも様々な意見が出たが、選手会の代表として出席している選手は各チームの主力も多く、自身の処遇や来季契約などに不安を持っている選手は少ない。その中で広島の朝山選手から「自分たちは試合に出場しているし、このままリーグが中止になっても何とかやっていけるが、当落上にある選手はむしろ外国籍選手が帰国した時こそ、自分たちをアピールするチャンスだから、是非リーグを続けて欲しい」という意見もあった。私も気づいていなかった意見を選手側からもらい、選手会側と対立構造を生み出すことなく、どうやってこの難局を乗り切っていくかについて、しっかりとした話し合いが行われ、最後はチェアマンの決定方針に自分たちは沿って動きたいと選手会側も言ってくれた。そして今日、残念ながら中止の判断をした。

 

質疑⑧

質問者 チャンピオンシップが行われないので、今季は優勝チームなしという理解で正しいか?

大河 優勝チームはない。

 

質疑⑨

質問者 欧州サッカー界では、最も重要な大会の1つであるEURO2020(欧州選手権)が延期となったことで、休止中の国内リーグ終盤戦を何とか実施しようとする方向性を示しているが、そのような選択をBリーグがしなかった理由は?

大河 欧州の事情を詳しく知る所ではないが、Bリーグとしては外国籍選手の契約期間や試合会場確保などを考慮すると、5月中旬にシーズンを終えなくてはならない。既に3月末であり、首都封鎖が起こるかも知れないとされている状況で、Bリーグだけが試合をするという判断は良くない。NBAの様に8月まで開催を延期したり、選手の契約期間延長なども考えとしてあるのかも知れないが、何よりもクラブの財政状況から現実的ではないと判断し、今日の結論に達した。

質疑⑩

質問者 再来季はB1、B2ともそれぞれ18チームに戻す考えか?

大河 2021/22シーズンの考え方はいくつかある。1シーズンだけB1を20、B2を16で行い、翌シーズン18・18に戻すオーソドックスな考え方が一つある。一方で、各クラブが昇降格を懸け、特に降格を避けようと選手に投資をしてく経済状況にあるかと言えば、決してそうではない。したがって降格制度を2020/21シーズンに残したまま開催した方が良いのか、それらを実行委員、理事の皆さんから意見を聞き、なるべく早く取りまとめていきたい。つまり、2021/22シーズンのフォーマットについてはまだこれからといった所でご理解願いたい。

 

質疑⑪

質問者 B2からの昇格について地区ごとの戦力差を考慮する検討はされたか?

大河 地区ごとの戦力差については、それを判定するのが非常に難しいし、考慮しかどうかと言えば考慮はしていない。ただ今季の成績だけでなくライセンスを取得できるかも大きな要因となるので、成績+財務・施設、こういった要件をトータルに判断して上位2チームの昇格を決めたい。ただ1点、これは私見なのであまり引きずられないで欲しいが、今季の信州、広島は成績面において他を圧倒しているなという感想は持っている。

 

質疑⑫

質問者 今回の判断は理事会を中心に多数決で決定したのか、それともチェアマンによる最終決断があったのか?

大河 今回の理事会について言えば、基本的に満場一致で中止を決めた。

以上、この記者会見では12の質疑応答が行われた。

多くは中止となったリーグ戦のレギュレーション、或いは来季以降のリーグ運営に対する方針を確認するものであったが、当然ながらこの中止決定に伴うクラブやリーグの財政面に関する質問もあった。

その中でも私が特に印象深かったのは、質疑⑤とした「各クラブに対するリーグとしての支援案は?」に対する大河チェアマンの回答である。

財政的ダメージに対して

改めてその回答概要を記す。

大河 リーグそのものも財政的ダメージを受ける可能性はあるが、各クラブに対しては、各自治体が構築する無利子・無担保融資の活用を進めていくことになる。それでも不足する場合はリーグによる特別融資なども、引き続き検討の対象としていきたいと考えている。

地方財政の力を借りずにクラブ経営が成立しないのは、Jリーグも全く同じで、私もこのブログの中で「Jリーグ百年構想クラブ」の事例などを挙げながら、その構造自体に対する問題提議を再三してきている。

しかしながら、少なくとも新型コロナウイルス禍に際しては、Jリーグのあらゆる意見発信の中に「財政的ダメージを地方財政に肩代わりさせる」とした主旨の言葉は全く出てきていない。

勿論、そうした動きが水面下で存在している可能性は十分にあり得るが、今この社会状況にあっては、それを表明するタイミングでないことは明らかだ。

また、会見の冒頭にあった大河チェアマンの発言の最後が、大スポンサーによるサービス提供の「宣伝」であった辺りも、この会見を広く社会に向けたものとして、Bリーグ側が捉えていないことを端的に表していたと言えよう。

Jリーグクラブ同様に、ホームタウン制が導入され、その地域社会とともに歩んでいく、寄り添っていくべきBリーグクラブが、積み上げた積み木の崩壊を修復するのに公金を積極的に活用するというストーリーを語った時、或いは、それまで深刻な表情で苦渋の決断に至った経緯を説明していたのに、その最後が告知POPを掲げての宣伝めいたものであった時、果たしてそれが、どれくらい社会に受け入れられるだろうか。

社会的視点を備えたポリシー

冒頭で書いた私の抱いた違和感の正体はここであったように思う。

つまり、Bリーグはしっかりと人や社会に寄り添えていない。

経営規模を拡大していくことだけが「ポリシー」となってしまい、その足元が非常に脆弱なのだ。

「ポリシー」は多くの人々に共感されることで、その力を発揮することが出来るのにである。

ただ、私はこれまでに、こうした姿勢をJリーグからも感じてきていた。

今回の新型コロナウイルス対策については、プロ野球と連携し「対策連絡会議」を立ち上げ、専門家チームによる提言を受けながら、その進む道を判断出来ていることで、村井チェアマンをはじめとするJリーグ側の発言の中には、多くの社会的視点を見いだすことが出来るが、実のところ、そうした発見を連続的に出来ていることに、少々驚いているくらいなのだ。(ちなみに、Bリーグ大河チェアマンがもともとJリーグの世界に長くいた経歴の持ち主であることは周知の事実)

とは言え、この難局に対し日本のあらゆるスポーツ界が、どのくらい大きなダメージを被ることになるのか、それすら推測で語らざるを得ない段階にあって、今まさにここからどうやってスポーツが社会に対し、その重要性を訴求していけるかを考えた時、その実現性を左右する最も大きな要素が

「社会的視点」を備えた「ポリシー」を掲げられるかにあるのではないか。

恐らくBリーグはこの1カ月の間でそれを見誤った。

私は今回のBリーグによるリーグ中止決定を否定するものではない。

しかし、Bリーグがリーグ中止という決断をせざるを得ない状況に、自らを追い詰めてしまったようにも見えるのだ。

でも、またそこから歩みなおせばいい。

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