COVID-19 備忘録 「無観客試合」を選ばないJリーグのポリシー

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東京オリンピックが延期に

3月24日、日本政府とIOCが東京オリンピックを1年程度延期させることで合意した。

「安全・安心なオリンピック」を遂行する上で、世界中に新型コロナウイルスの猛威が拡大しているという事実が重くのしかかり、それがこの数カ月のうちに収束するストーリーを誰も描くことを出来ていないことが、この「合意」に大きな影響を及ぼしたのは間違いない。

そして、同時に欠かすことの出来ない「トウキョウは安全な都市である」という要素については、それを殊更に強調する必要性が取り除かれたと捉えることも出来るわけで、この極東地域にある大都市において「不自然」とも言えるような感染者の少なさが、この先にどんな変遷を辿っていくのか、そこに対する戦慄を私は禁じ得ない。(これを書き終えた数時間後、東京都は1日に増えた感染者数で過去最多を確認、都知事が記者会見の中で週末に向け不要不急の外出自粛を要請。一気に深刻なムードが首都圏に広がっている)

ともあれ、この夏に予定されていた世紀の大イベントが延期になるという大トピックスとともに、兼ねてから共同で新型コロナウイルス禍に立ち向かっていたプロ野球とJリーグが、その再開日程を更に先延ばしすることになった。

Jリーグは5月上旬再開を目指す

これまで、4月第1週(4月3日のJ1リーグ)からのリーグ再開を目指していたJリーグが、更なる延期時期として、4月中旬再開を視野に入れているとの報道があったが、3月25日に行われた臨時実行員会において、5月上旬リーグ再開(J1リーグ5月9日、J2リーグ5月2日、J3リーグ4月25日)で各クラブとも基本合意に達した。

村井チェアマンは、2度目のリーグ延期が決定した3月12日時点で

『(4月)3日に再開できれば予定通りの日程が消化できる。(さらなる延期についても)4月中旬までいける可能性を残している』

とコメントしており、今回リーグの再開時期を5月上旬以降に決定したことで、今季のJリーグが当初予定されていたリーグ戦日程の全てを消化出来ないことが、ほぼ確実になったと言えるだろう。

また、いわゆる「DAZNマネー」と呼ばれるJリーグの理念強化配分金についても、これまでのようにJ1上位4クラブに対する配分という形での運用はせず、新型コロナウイルス対策などに資金活用する案が現在検討されている。

このブログで前回「Jリーグによる判断が、真綿で首を締めるが如く、時間の経過とともに徐々に圧し掛かってくることも考えられる」と言った旨を書いたばかりだが、早くもそれから3日のうちに、今季のJリーグが「降格なしのリーグ」というだけでなく「全試合消化した上での優勝」「全試合消化した上での昇格」も無いリーグとなる可能性すら見えてきたわけで、DAZNマネーの運用停止も当然の流れと言えるだろう。(現在Jリーグは日程の75%達成でリーグ成立とする方向で検討しており、リーグ再開後のアウェイサポーター観戦自粛要請・スタジアム収容率50%案などもこのタイミングで浮上している)

「無観客試合」を選ばないJリーグ

ただここで1つ認識しておきたいのは、Jリーグがこうしてリーグ再開時期を先延ばしにしている、その根本にあるポリシーについてである。

「無観客試合」をどう考えるかと言ってもいいのかも知れない。

失敗に終わったがBリーグは無観客試合でのリーグ再開に挑戦し、大相撲は2週間に渡る本場所を完全無観客で遂行した。サッカー界に目を移しても、各地で行われている天皇杯都道府県予選が無観客試合となっているケースもある。

新型コロナウイルス感染拡大をさせない為に、不特定多数の集団を一所に集めないで興行を打つ「無観客」という手法は、かなり大きな効果を見込めるだろうし、何より当初の興行日程(リーグ日程)を消化することも出来るので、運営上のメリットも少なからずあるだろう。

Jリーグについても、今はDAZNによって様々なデバイスからライブで試合観戦も出来、ファンの中にも「無観客試合で構わない」という意見を持つ人がいて当然である。

ただそれでもJリーグは「無観客試合」をせずにリーグ再開時期の先延ばしをし続けている。

サッカーが社会に寄り添う

村井チェアマンはYouTube「JリーグTV」(3月17日配信回)の中で、こうした主旨の話をした。

いわゆる平穏な日常がなければスポーツは楽しめない。今はある意味でコロナウイルスと日本中が戦っている時に、それと無縁ではいられない。

ただ同時にスポーツを続ける重要性を僕らは持っている。

試合が無かった第2節の週末に松本へ行って、喫茶山雅へ行っても閑散としている。いつもだったら凄く賑やかなお店も人っ子一人いない状況で、これを続けていたら…

スポーツは裾野が広いから、スポーツがあることで飲食の方々も、公共交通の人々も、それから警備の方々も、色んな人が我々と共にこのスポーツ文化の中で生活している。

国民を守ると同時にスポーツそのものを守らないといけないといったときに、簡単に無観客はできない。

Jリーグがこの社会の中で、何のために存在しているのか。

Jリーグの存在意義とは何なのか。

チームが勝利すること、カテゴリーを上げていくこと、欧州名門クラブに所属選手を輩出すること、日本代表をW杯で優勝させること。

村井チェアマンの言葉の中からは、こうした要素を「存在意義」として見つけ出すことは出来ない。

サッカーの存在意義は、より多くの人々の生活を支えていくことであり、ゼロだった地域に1を創り出す作業を「継続」することにある。

そして、これこそがJリーグ理念の中にある

「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」

の実践なのだと、私はこの新型コロナウイルス禍と対峙することで、それを改めて強く感じている。

優勝も昇格も多額の移籍金も、「継続」の助けにはなったとしても、それ自体が「目的」では決してない。

だからJリーグは「スポーツ文化の中で生きる人々」を置き去りにするような道(無観客試合)を簡単に選ぶことが出来ない。

とは言え、この国難がどう展開していくのかによって、Jリーグが「無観客試合」という判断をせざるを得ない段階はやってくるかも知れない。

ただそれでも、少なくとも開幕直後から5月上旬までの2か月間については、それに必死になって抵抗し足掻いたJリーグの姿勢があったのは紛れもない事実であり、今現在Jリーグに関わっている人々(ファンも含めて)だけに限らず、広く社会全体に対しても、これまでのJリーグの判断は、それ自体が「社会と寄り添う覚悟」を示していたと私は捉えたい。

この新型コロナウイルス禍の中、Jリーグが休止状態にあるだけでなく、子どもたちのサッカークラブも活動を停止しているケースが少なくない。

そんな状況にあって、サッカーが社会と、サッカーが人々と寄り添える可能性も限りなく少なくなってしまっているのかも知れない。

本当の意味で日本社会にスポーツ、そしてサッカーが必要とされているのか。

Jリーグの今後を注視するとともに、この「やるせない日常」の中で、それをしっかりと見極める機会にしていこうと思う。

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