Jリーグ百年構想クラブのホームスタジアム事情

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11クラブ

これを書いている2020年2月中旬の段階で、将来的なJリーグ参入を目指す「Jリーグ百年構想クラブ」には、4クラブが認定されている。(JFL・奈良クラブは一連の観客水増し問題により、2020年1月30日に「解除条件付き失格」とされ、その処分中)

過去を振り返ると、2014年のJ3リーグ発足に際して、従来の「Jリーグ準加盟クラブ」から「Jリーグ百年構想クラブ」に資格名称の変更がされ、その後Jリーグ参入を果たしたクラブが5つあり、その一方で「Jリーグ百年構想クラブ」から脱退したクラブが1つ。

つまり「Jリーグ百年構想クラブ」が誕生してから、これまでに11クラブがその承認を受け、この数は少なくとも現行のJ3リーグが「定員」となるまでは、増加していくはずだ。

※2月25日に開催されたJリーグ理事会で、FC大阪、ヴィアティン三重、いわきFC(以上JFL)VONDS市原FC(関東リーグ)南葛SC(東京都リーグ)のJリーグ百年構想クラブ申請が承認された。

造られたスキーム

このブログに先日書いた「Jリーグ百年構想とは一体何なのだろう?」と題したシリーズでは、Jリーグがその創設のポリシーとして訴えていたJリーグ理念を、より広く周知させることを目的として作られたキャッチコピーが「Jリーグ百年構想」という言葉であること。そして、「Jリーグクラブ予備軍」にとって、必ず通らなくてはならない登竜門としての「Jリーグ百年構想クラブ」が、地方にあるサッカークラブを利用したJリーグによる地方利権獲得のスキームなのではないかと提議した。

「Jリーグ百年構想」とは一体何なのだろう? 前編「時代背景」

「Jリーグ百年構想」とは一体何なのだろう? 後編「造られたスキーム」

そこで今回は、「Jリーグ百年構想クラブとホームスタジアム」というテーマで、現実的に各クラブが「Jリーグ百年構想クラブ規程」の定めるホームスタジアム条件と、どう向き合っているのか、それについて簡単にまとめてみようと思う。

「Jリーグ百年構想クラブ」のホームスタジアム事情

先ずは「Jリーグ百年構想クラブ規程 第2条」に定められる、ホームスタジアムに関する条件を記すので、それを確認された上で読み進めて頂きたい。

① ホームスタジアムを決定しており、当該スタジアムについて協会および第1項第4号にいうホームタウンがホームスタジアムであることを承認していること

② ホームスタジアムは、理事会が別途定めるJ3クラブライセンス交付規則もしくはJリーグクラブライセンス交付規則に定める基準を満たすものであるかまたは将来当該基準に適合すべく改修可能であり、改修に向けた計画を策定していることをホームスタジアムの所有者が文書で示していること

③ 協会および第1項第4号にいうホームタウンが、申請クラブがJリーグに入会するためには、理事会が別途定めるJ3クラブライセンス交付規則またはJリーグクラブライセンス交付規則に定める基準を満たすホームスタジアムの整備が必要であることを認識し、整備に向けて取り組む意向があることを文書で示していること

④ 加盟するリーグ戦のホーム試合を、第1項第5号にいうホームタウン内の特定スタジアムで相当数開催できること

⑤ ホームスタジアムをJリーグ規約第 30 条に定める理想のスタジアムの要件を満たすスタジアムとするために、第三者を交えた具体的検討を開始していること

レノファ山口FC

(2013年8月20日承認 2015年Jリーグ参入 2020シーズンJ2リーグ)

  • ホームスタジアム:維新百年記念公園陸上競技場(維新みらいふスタジアム)
  • 所有:山口県
  • 運用者:一般財団法人山口県施設管理財団
  • 収容:15,115人(芝生席含めず)

1963年に開催された第18回国民体育大会のメイン会場として建設され、2011年の第66回国民体育大会のメイン会場として使用することを想定し、2007年から4年計画で改築された。

2013年に当時中国リーグ所属だったレノファ山口がホームスタジアム登録し、その後は2015年、2016年とJリーグクラブライセンス基準に適合した改修工事を県が実施。2016年シーズンオフに行った芝生席の改修(一部を立見席に)で、収容可能人員がJ1基準を満たす15,115人となり、2017シーズン以降J1クラブライセンスが交付されている。

(2016年の改修は維新百年記念公園の都市公園事業として実施され、陸上競技場の改修事業目的の主は耐震性確保。総事業費は約22億円)

ヴァンラーレ八戸

(2013年9月17日承認 2019年Jリーグ参入 2020シーズンJ3リーグ)

  • ホームスタジアム:八戸市多賀多目的運動場(プライフーズスタジアム)
  • 所有者:八戸市
  • 運用者:八戸市
  • 収容:5,200人

2011年の東日本大震災による甚大な津波被害を受けた八戸市が、最大クラスの津波に対する一時避難施設と日常機能としての多目的運動場とを複合する形で整備。その際に八戸に本拠地を置くヴァンラーレ八戸のJ3参入とJ3スタジアム基準を満たすスタジアムとして整備することが盛り込まれた。2015年本工事開始 2016年10月開場。

(総事業費は約45億円。財源の一部には復興交付金やスポーツ振興くじ交付金を充てた)

アスルクラロ沼津

(2013年9月17日承認 2017年Jリーグ参入 2020シーズンJ3リーグ)

  • ホームスタジアム:愛鷹広域公園多目的競技場
  • 所有者:静岡県
  • 運用者:日産クリエイティブサービス
  • 収容:5,056人(芝生席含めず)

1996年に、静岡県としては2つ目の県営陸上競技場として開場。クラブがJ2ライセンス取得を目指し、スタンドの増改築に関する要望書を沼津市に提出。クラブと周辺自治体、経済団体などが話し合う「静岡県東部地域サッカースタジアム構想連絡会」が2018年より開会され、ナイター照明・大型ビジョン新設工事なども含め15億円~45億円の概算工事費を想定し議論が続いている。

栃木ウーヴァFC ※現 栃木シティFC

(2014年5月20日承認 2020シーズン関東リーグ1部)

栃木ウ―ヴァFCは、JFL所属時から栃木市総合運動公園陸上競技場を中心に、県南の陸上競技場をホームスタジアムとして使用してきているが、将来的なJリーグ参入に必要なサッカースタジアム建設計画が進んでいる。

既にクラブは、栃木市岩舟地区に専用練習場を建設、それと隣接する岩舟総合運動公園内にある敷地を「地域活性化」の観点から市が無償利用を検討。クラブの最大スポンサーである日本理化工業所(大栗崇司社長はクラブの経営トップ)が発注する形で、J3スタジアム基準に準ずる5,129人収容のサッカー専用スタジアムが建設される計画。建設費は10億円~15億円。2020年3月着工、同年9月完成予定。

鹿児島ユナイテッドFC

(2015年2月23日承認 2016年Jリーグ参入 2020シーズンJ3リーグ)

  • ホームスタジアム:鹿児島県立鴨池陸上競技場(白波スタジアム)
  • 所有者:鹿児島県
  • 運用者:セイカスポーツグループ
  • 収容:12,606人(芝生席含めず)

1972年に開催された第27回国民体育大会のメイン会場として1970年に完成。かつて存在したJクラブ・横浜フリューゲルスの準ホームとして、Jリーグ創設期、スポット的に利用され、その時期にナイター照明とバックスタンドを新設。

2020年の第75回国民体育大会に向け、2014年から断続的に改修が行われ、現時点で入場可能数は12,606人だが、2020シーズンのJ1クラブライセンスが2019年9月に交付された。

東京武蔵野シティFC

(2016年2月23日承認 2020シーズンJFL)

  • ホームスタジアム:武蔵野市陸上競技場
  • 所有者:武蔵野市
  • 運用者:公益財団法人武蔵野生涯学習振興事業団
  • 収容:5,000人

戦前より存在した飛行機製作所敷地内の陸上競技場を含めた跡地を、戦後に市がスポーツ施設として開発。1989年に隣接する総合体育館が一体となった施設に改築、現在に至る。

クラブが2019年に申請したJ3クラブライセンスの承認に際しては、J3昇格より3年以内にライセンス基準を満たす改修、或いは5年以内にライセンス基準を満たす新スタジアムを新設が求める特例として適用された。

現状としては、ナイター照明設備も電光掲示板もなく、規定によりメガホンやタンバリンも含め鳴り物を使っての応援が禁じられている。

FC今治

(2016年2月23日承認 2020年Jリーグ参入 2020シーズンJ3リーグ)

  • ホームスタジアム:ありがとうサービス.夢スタジアム
  • 所有者:今治市(土地、無償貸与)株式会社今治.夢スポーツ(施設)
  • 運用者:株式会社今治.夢スポーツ
  • 収容:5,030人

FC今治を運営する株式会社今治.夢スポーツが、今治市より未整備の土地2ヘクタールの無償貸与を受け、2016年5月に起工、2017年8月に完成させた。総工費は3億円。

スタジアムのある地区は、今治市がかつてスポーツパークの整備を決めていたが、財政上の問題などで断念した経緯を持つが、今治.夢スポーツが全額出資した「今治.夢ビレッジ」が建設主体となって、市から用地の有期貸与を受け、2020年10月着工、2022年1月完成を目指し、J1クラブライセンス基準を満たす新スタジアムを建設する計画案が、2019年11月の今治市議会で示された。

テゲバジャーロ宮崎

(2019年2月19日承認 2020シーズンJFL)

テゲバジャーロ宮崎は、現在JFLの公式戦を開催するホームスタジアムとして、県内の複数施設を使用しているが、それらとは別に児湯郡新富町に建設中の新スタジアムをホームスタジアムとして使用することが決まっている。

「地域活性化拠点」の一部として、町が用地取得し(特別会計補正予算額5億2千万円)スタジアム建設地をクラブに無償貸与、J3クラブライセンス基準のスタジアムをクラブが全額自己資金で建設という官民間の連携協定が2018年9月に締結され、2020年3月の完成を見込んでいたが、資金不足などから着工が遅れ、2020年度のJ3クラブライセンス申請をクラブは取り下げた。

ちなみに児湯郡新富町の年度予算は70億円~90億円規模。

ラインメール青森

(2019年2月19日承認 2020シーズンJFL)

  • ホームスタジアム:新青森総合運動公園陸上競技場(カクヒログループ アスレチックスタジアム)
  • 所有者:青森県
  • 運用者:スポルト青い森グループ(指定管理者)
  • 収容:20,000人

2003年に開催されたアジア冬季競技大会の為に、2002年に完成した都市公園・新青森総合運動公園敷地内未共用区域に、プロスポーツや将来的な国民体育大会開催を期待して新設された。2018年12月完成。

J2リーグ以上を開催可能とするスタジアム基準にある「屋根で覆う客席の割合」が「出来るだけ多く」から「すべて敷設すること」と2014年度に改定されたことで、計画された仕様(メインスタンドのみ屋根)ではJ1、J2のスタジアム基準を満たすことが出来ず、青森県サッカー協会、ラインメール青森が建設計画の見直しを求めたものの、既に建設工事が開始される直前であり、そのまま当初の建設計画に沿ったスタジアムが完成した。(総工費約200億円)

奈良クラブ

(2013年9月17日承認 2020シーズンJFL ※2020年1月30日解除条件付き失格 処分中)

  • ホームスタジアム:奈良市鴻ノ池陸上競技場(ならでんフィールド)
  • 所有者:奈良市
  • 運用者:一般財団法人奈良市総合財団
  • 収容:5,600人

1984年に開催された第39回国民体育大会のメイン会場として建設され、2009年には全国高校総合体育大会に備え、座席改修などが行われた。

関西リーグに昇格した奈良クラブがホームスタジアムとして使用しはじめ、2013年にはJ2クラブライセンス取得を目指し、ここをホームスタジアムとして申請したが、ピッチサイズがJリーグ基準に満たなかったため認可されず、奈良市が2014シーズン終了後に基準を満たすピッチサイズに改修した。2016シーズンに初めてならでんフィールドをホームスタジアムとして新設されたJ3クラブライセンスの交付を受ける。

繰り返される「スキーム」

以上、現在までに「Jリーグ百年構想クラブ」認定を受けた10クラブのホームスタジアム事情についてまとめてみたが、栃木シティFC(承認時名称栃木ウーヴァFC)とFC今治の2クラブが、無料使用或いは無償貸与された公有地に自前でスタジアム建設をしているケースを除き、他の8クラブについては、全て何らかの形で公金が投入されていることが分かる。(クラブがスタジアム建設をするテゲバジャーロ宮崎にしても、町がその敷地を買い上げ無償貸与している)

そしてこの先に「Jリーグ百年構想クラブ」として認定されるであろうクラブにおいても、クラブそのものの経営体としての体力はほとんど度外視しながら、地方の公共施設をJリーグのスタジアム基準に沿って改築したり、官民問わず新たなスタジアムを新設したりする為の「触媒」として「Jリーグ百年構想クラブ」を活用する「スキーム」は繰り返されるのだろう。

栃木シティFCやFC今治のケースをある意味での理想形と取ることに反論を持つ方は少ないはず。

そうであれば尚更「Jリーグ百年構想クラブ」が求める、企業としてのクラブの能力や哲学についても、それをしっかりと評価し、評価された点がさらに波及していくような社会通念の醸成に、Jリーグはもちろん、我々市井の人々も、よりプライオリティを置くべきではないだろうか。

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