「Jリーグ百年構想」とは一体何なのだろう? 後編「造られたスキーム」

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Jリーグ百年構想 趣旨

  • あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること。
  • サッカーに限らず、あなたがやりたい競技を楽しめるスポーツクラブをつくること。
  • 「観る」「する」「参加する」。スポーツを通して世代を超えた触れ合いの場を広げること。

「Jリーグ百年構想」と「Jリーグ百年構想クラブ」

そのスタートこそ、社会現象となるほどの勢いを持っていたJリーグに、陰りが見え始めた1990年代後半。

日本に新しいスポーツ文化を育もうと、Jリーグ初代チェアマン川渕三郎氏が、声高に叫んできたJリーグの理念を、より多くの人々の知るところにしようと1996年に生み出された言葉が「Jリーグ百年構想」だったことは、このシリーズの前編において述べた。

そしてこの「Jリーグ百年構想」という言葉は、現在に至るまでの間に、Jリーグを象徴する言葉へと「成長」してきているようにも見える。

大企業主導型から官制主導型へ

1993年に10クラブ(オリジナル10)でスタートしたJリーグは、その次シーズンに2クラブ(ジュビロ磐田・ベルマーレ平塚)さらにその次シーズンに2クラブ(柏レイソル・セレッソ大阪)といった具合に、合計18クラブとなった1998シーズンまでエクスパンションを続け、1999シーズンからは2ndディヴィジョンにあたるJ2リーグが発足したことで、その拡大傾向がより顕著になっていった。

※J1リーグ18クラブ、J2リーグ22クラブの現行クラブ数に到達したのは2012シーズン。そして2014シーズンにJ3リーグが発足し現在に至る

スタート時には、日本有数の大企業によるバックアップを受けている(と言うよりそもそもが実業団チームだったわけだが)クラブが多勢を占めていたJリーグも、J2リーグが発足した頃には、FC東京(東京ガス)、川崎フロンターレ(富士通)と言った「大企業実業団」を前身に持つクラブの参入に並んで、ヴァンフォーレ甲府(前身は甲府サッカークラブ)に代表されるような、大資本の後ろ盾を持っていない、いわゆる「クラブチーム型」クラブも参入してくるようなり、その流れは現在に至るまでに大きくなる一方だ。

そんな中、2005シーズンの徳島ヴォルティス(大塚製薬)を最後に、Jリーグ創設前にあった日本サッカーリーグの強豪実業団のJリーグ参入は、ほぼ打ち止めとなる。

※一時はオリジナル10に入ってもおかしくない状況にもあった本田技研サッカー部は、1997年に「浜松F.C」として改めてJリーグ参入を目指す姿勢を見せていたが、当時の経済情勢を鑑み直ぐにそれを撤回している。以後、「JFLの門番」としてアマチュアサッカーの雄「Honda FC」として君臨しているのは周知のとおり

すると次にJリーグ参入をしはじめたのが、愛媛FC(2006シーズン参入)、ロアッソ熊本(2008シーズン参入)などに代表される「官制主導型」クラブだった。

地方行政の力による全県を挙げての支援。

Jリーグを維持・発展させていく為に必要な資金集めに、Jリーグがあからさまに「官」を巻き込んでいく様子が伺えるようになったのは、この時期であったのかも知れない。(明るくない日本の経済状況にとどめを刺す、あのリーマンショックが起きたのが2008年である)

「Jリーグ百年構想クラブ」

私は以前、「Jリーグ百年構想クラブ」に申請した、あるクラブの経営者にこう聞いてみたことがある。

『どうして百年構想クラブ認定が必要なんですか?』

すると、その答えはこうだった。

『行政です 行政支援を受けようと思ったら百年構想クラブでなくちゃ難しい』

Jリーグ参入を目指すJFL以下のリーグに加盟するクラブが、それを果たす為に避けては通れないのが、この「Jリーグ百年構想クラブ認定」だ。

創設以来、拡大路線を続けてきたJリーグは、2013年末までその「予備軍」を「Jリーグ準加盟クラブ」と名づけ位置付けてきた。この「Jリーグ準加盟クラブ」が、2014シーズンのJ3リーグ発足のタイミングで「Jリーグ百年構想クラブ」へと名称を変えることになる。

※当初、新設するJ3リーグに参入するクラブには「Jリーグ準会員(J3会員)」という独自資格を付与することが想定されていた為、「Jリーグ準加盟クラブ」でありながら、初年度のJ3リーグ参入が果たせなかったクラブ(レノファ山口、ヴァンラーレ八戸、アスルクラロ沼津)との区別を目的として「Jリーグ百年構想クラブ」への改称があったが、最終的にJ3リーグ参入クラブに「Jリーグ正会員」の地位が付与されたことで、単純に「Jリーグ準加盟クラブ→Jリーグ百年構想クラブ」と名称変更がされただけの形となった

こうしてJリーグがその創設以前から唱えてきた理念を象徴する言葉「Jリーグ百年構想」は、将来のJリーグ参入を目論む、JFL、地域リーグ、都道府県リーグに加盟するクラブの「在り方」を方向づける旗印としても「利用」されるようになったのだ。

Jリーグ百年構想クラブ規程から読み取れるもの

Jリーグ百年構想クラブ規程 第2条〔Jリーグ百年構想クラブの条件〕にはこうある。

※全文はココから 「Jリーグ百年構想クラブ規程 平成31年改訂」

先ずは(1)法人としての条件について

① Jリーグ規約第1条〔Jリーグの目的〕に賛同していること

③ 日本法に基づき設立された、総株主の議決権の過半数を日本国籍を有する者および内国
法人が保有する株式会社であることまたは社員たる地位の過半数を日本国籍を有する
者および内国法人が保有する公益社団法人もしくは特定非営利活動法人であり、1年以上の運営実績があること

④ 将来のJリーグ入会を目指し、Jリーグクラブライセンスの取得を念頭に置いた各種基準の体制整備に対して、Jリーグの指導を受けながら、準備を行うこと

⑪ 適法かつ適正に決算が行われ、財務諸表および税務申告書類が作成されるとともに、短期的に資金難に陥る可能性が極めて低いとJリーグが評価できる状態であること

(1)は全14号で構成されているので、ここに挙げたものはその一部だが、「Jリーグ百年構想クラブ」とは、Jリーグに賛同し、その指導を受けながら将来のJリーグ参入の準備をするクラブであって、経営体としての規模については実質的に不問とされていることが分かる。

続いて(2)の協力条件については、全2号をあげる。

① Jリーグ入会を目指すことを、申請クラブの所属する都道府県サッカー協会が承認し、支援していることが、当該サッカー協会により文書で具体的に示されていること

② 前項第5号において予定または決定したホームタウンが、申請クラブのJリーグ入会を応援するとともに、Jリーグ入会に向けた取り組みを支援する姿勢を、文書で具体的に示していること

この部分はまさしく『行政支援を受けようと思ったら百年構想クラブでなくちゃ難しい』と話した、あるクラブ経営者の言葉に関わってくる箇所だろう。経営体としてどんなに業績が良くても、その地元行政が「支援する」と明確に示していないクラブは、Jリーグはおろか、その予備軍である「Jリーグ百年構想クラブ」にもなれないのだ。

最後に(3)ホームスタジアムについての条件の全てが以下だ。

① ホームスタジアムを決定しており、当該スタジアムについて協会および第1項第4号にいうホームタウンがホームスタジアムであることを承認していること

② ホームスタジアムは、理事会が別途定めるJ3クラブライセンス交付規則もしくはJリーグクラブライセンス交付規則に定める基準を満たすものであるかまたは将来当該基準に適合すべく改修可能であり、改修に向けた計画を策定していることをホームスタジアムの所有者が文書で示していること

③ 協会および第1項第4号にいうホームタウンが、申請クラブがJリーグに入会するためには、理事会が別途定めるJ3クラブライセンス交付規則またはJリーグクラブライセンス交付規則に定める基準を満たすホームスタジアムの整備が必要であることを認識し、整備に向けて取り組む意向があることを文書で示していること

④ 加盟するリーグ戦のホーム試合を、第1項第5号にいうホームタウン内の特定スタジアムで相当数開催できること

⑤ ホームスタジアムをJリーグ規約第 30 条に定める理想のスタジアムの要件を満たすスタジアムとするために、第三者を交えた具体的検討を開始していること

Jリーグクラブライセンス制度の定めるスタジアム基準について触れるのはまた別の機会に譲るとして、「Jリーグ百年構想クラブ」に要求される経済的ハードルの中で、この(3)に書かれているホームスタジアム整備費用が圧倒的であることは明白だ。

なにしろ、企業体・経営体としての体力や経営規模、つまりそのクラブの資産価値については、事実上不問に付されている一方で、改修するだけでも数億円~数十億円、新設するとなればそれ以上のコストが発生するホームスタジアム整備がマストとなっている。

そして、このアンバランスさを埋める役割として、ホームタウンの力が大きく期待されている。

ここまであからさまに「行政依存型経営の推進」が謳われていると、かえって潔く感じてしまうくらいだ。

さらに言えば(3)の②で触れられている「改修に向けた計画を策定していることをホームスタジアムの所有者が文書で示していること」の「所有者」が一個人や民間企業であるわけもなく、そのほとんどが県や市が所有する公共施設であるのは周知の通りなのだ。

造られたスキーム

こう考えていくと、「Jリーグ百年構想」といういかにもクリーンな「インテグリティ」イメージを抱かれやすい言葉を使っていながら、「Jリーグ百年構想クラブ」という制度が、Jリーグ参入を目指す地方のサッカークラブを利用し、Jリーグがその公金・公共事業を引っ張り、Jリーグの市場価値を高め、多額のスポンサードを獲得する為に造り上げた「スキーム」であるが如く見えてきてしまう。

もちろん、日本各地に存在する国体を契機に建設されたスポーツ施設を、Jリーグが有効に活用していくことを否定しないし、そうした公共財産としてのスポーツ施設が、各体育協会を通じた日本のあらゆるスポーツの発展に寄与してきた側面も認識している。

ただ、「Jリーグ百年構想クラブ規程」をじっくり見て頂ければ理解出来るはずだが、何しろ、この「スキーム」を感じさせる箇所にひときわ「熱量」が感じられるのだ。

クラブが独自、つまり「自前」で、スタジアムを核としたハード面の充実を図るのが理想形だとする考えを否定する方は少ないと思うが、それを目指そうと思える制度に、現状の「Jリーグ百年構想クラブ」はなり得ていないように私には思える。

Jリーグ百年構想の体現者

2020シーズンのJ3リーグは、セレッソ大阪、ガンバ大阪、FC東京の各U-23チームを加え、19チームの参戦で行われる。2019シーズンにヴァンラーレ八戸、そしてこの2020シーズンにFC今治が参入し、U-23チームの参戦は今シーズン限り、いよいよ「参入・昇格のみが存在するリーグ」としての歴史も残された数枠が埋まった時点で終焉を迎える。

恐らく、この「限られた椅子」を手に入れるべく、この2月末に行われるJリーグ理事会における承認を経て、また新たな「Jリーグ百年構想クラブ」が誕生するだろう。

その報に触れた時、それを単なる「参入・昇格レース」としての側面だけで見ていていいのだろうか、それらのクラブが本当の意味で「Jリーグ百年構想」の体現者になることが出来るのか、そこにこそ本来は目を向けるべきではないか。

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