2019年のHondaFCとチーム哲学 井幡博康監督インタビュー

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「11人で1つの名画を完成させるなんて芸当、出来るようになるまでに一体何年掛かかるんだ」

HondaFCの天皇杯における戦いを見ていきながら、私がピッチ上から感じた「衝撃」は「気づき」となり、このチームを長く指揮してきた井幡博康監督に対する興味へと変換されていきました。

そして、9月末の天皇杯4回戦。

HondaFCが浦和レッズを退けたあの試合が終わってから約2カ月余りの間に、私は何度か井幡監督の下へと足を運び、様々なお話を伺う機会を持ちました。

12月5日、2019シーズンのJFL表彰式が行われた東京・御茶ノ水のホテルで、今シーズンの振り返りをテーマに、井幡監督にもインタビューさせて頂くことが出来ましたので、前回の鈴木雄也選手インタビューに続き、今回は井幡監督インタビューを文字起こししてお送りいたします。

2019シーズン振り返りとチーム哲学 HondaFC井幡博康監督

レッズには3-0で勝つよ

ーJFLは4連覇、そして今季は天皇杯でも注目をされました。そんな2019シーズンを振り返ってみて今どのように感じておられますか?

『出足のところは(リーグ戦で)5節まで出遅れはありましたけど、レギュレーションが変わって、2ステージ制から1シーズン制になったことで、天皇杯にも目標を置けると感じていましたので、天皇杯にも力を入れる為に、出遅れはしましたけど選手たちにも「6月には首位に立つよ」と、その中で頭一つ出た状態で天皇杯を迎えられれば、しっかりと(リーグと天皇杯の)両方を、二兎を追いたいなという気持ちで入りまして、選手たちもしっかり6月には首位に立ってくれて、そして天皇杯も順調に行って、まあ、ちょっと… ザワつかせることは出来たかなと(笑)』

ーJFL4連覇ということで、改めてサッカーファンの間でもHondaFCの強さというものを知らしめたと思いますが、今季は特に天皇杯での躍進が世間の注目を集めました。埼玉スタジアムでは浦和レッズを相手に完勝、そしてベスト4を懸けカシマスタジアムで昨年大敗した鹿島アントラーズと対戦と、HondaFCにとってもあの2つの試合が今季天皇杯におけるクライマックスだったと思いますが、監督はあの2試合をそれぞれどんな思いを以て戦っておられたのか、また試合結果を受けどう捉えておられるのかお聞かせ頂けますか?

『天皇杯については、先ず県予選の段階からJ3を2チーム(アスルクラロ沼津、藤枝MYFC)倒さないと本大会に行けないので、県予選を含めると全部で7試合やりましたが、札幌(本大会2回戦)ともありましたし徳島(本大会3回戦)ともあった中で、思った以上のパフォーマンスを選手が出してくれました。

レッズとの対戦については、もうちょっと握れるゲームは出来たかなと、ただあの雰囲気の中で彼らが十分なパフォーマンスを出せるようなマネージメントを出来なかったところは、前半はちょっと、もどかしさみたいなものもありましたけど、後半に入る時に、まあ選手たちには最初「レッズには3-0で勝つよ」と言っていたので、0-0で折り返してきた時に、ちょっとハッパをかけて、それで後半の戦いが出来た、その中であの雰囲気で勝てたというのが彼らにとっても非常に大きかった。

そしてリベンジということで鹿島と戦ったわけですけど、見ている人たちを魅了できるサッカーと結果という2つを求めてやりましたが、最後結果を出すことは出来なかった、そこに関しては選手たちも満足はしていないし、「本気で今年は天皇杯を狙うよ」という言葉がけをしていたので、勝たせることが出来なかった責任は大きいかなと言う風に思います』

誇らしいゲーム

ー天皇杯を獲るという目標を達成出来るチームのレベルを10とした時に、あの鹿島と対戦する前のHondaFCはそこに達していたと考えておられるのか、それともまだそこには至っていないけれど、十分勝利出来るレベルにはあると考えておられたのか、いかがでしたか?

『まあ、どう考えても「個」では勝てない、その中で今季のチームに限ってはそこまで強いチームでも無い。でも、やり方、徹底した規律を守り、それをチームで共有出来れば十分に出来る、ただ、狙える確率、パーセントで言えば5割~6割くらい。その表現をしっかりグラウンドの中で出来たという点では、十分に評価は出来る内容だったのかなと思います。あの状況で0-1でやられたという、そこの鹿島の強さを、テレビじゃなく肌で感じたということについては、非常に大きい意味のある試合でもあったと思います。

昨年は1-6の大敗で、「全く組めないな」というのが僕の印象だったので、そこから1年でどこまで近づけるって言ったらおこがましいですけど、上積みは出来たのかなと、評価できる上積みだったかなと思います』

ー浦和も鹿島もJ1を代表するようなビッグクラブです。そうしたチームを相手にした時、浦和は本当に誰もが知っているような選手が先発していましたが、「個」の力で勝負してくる、今季の浦和は特にそうだと思いますが、そういうチームに対してHondaはしっかりと勝つことが出来た。一方で鹿島はチーム事情などもあり、リーグ戦に主力で使われていない、実績のまだ少ない選手も多く先発していました。それでも彼らは非常に規律のある、鹿島はJ1の中でもそうした面においては屈指の存在だと思いますが、そうした相手に対してHondaは勝ちきるところまで行かなかった、という捉え方を私はしているのですが。

『ワンチャンスをやられたということで、みんなは「あの一本だけだったよね」と言うかも知れないですけれど、あの一本が大きいということです』

ー私は鹿島戦を見ていて、Hondaの選手は判断も含めて10点のプレーを連続して披露するチームだと、ただ鹿島はその10点をするんだけど、たまにそこへ12点が混じってくる。その12点が入る時に決定的なチャンスを生み出したり、勝負所で難しいシュートを決めたり、というのが出てくるのかなと、そしてその12点が出せるのがJ1なのかなと、そんな風に感じていました。

『やはりサッカーで飯を食っているという人と、Hondaの選手たちは社業がメインですからね、そういうモチベーション、責任みたいなもの、秤にはかけられない部分での差っていうのは、「勝負」というところで、やはり1枚も2枚も上って言うのは感じます。

ただ、J1のビッグクラブに対して、ひるまずに、普段やっている「普段着」のサッカーを出来た、パフォーマンスもそうですが、メンタリティについては、彼らの成長が凄く見えた、だからとても誇らしく思えるゲームだったとも感じています』

チーム哲学

ー強い「個」に組織力で対峙していくという構図を、世界の強豪国を相手にした日本代表の姿になぞらえて私はイメージしているのですが、天皇杯で優勝しようと思った時、当然、J1のチームを倒さなくてはそれを果たすのが難しいわけですが、強い「個」を持ったチームに打ち勝っていくことをイメージして、HondaFCのチームカラーを意図的に作っているところも監督の中ではあるのでしょうか?

『そうですね。そうしないと、まともにやっても勝てないですからね。でも、独自のサッカー、良く世間で言われるポゼッションサッカーに取り組んでいるチームも沢山あると思うんですよ。その中でも特殊と言いますか、意図があり、そして選手たちが理解をする、それがチームとして共通していないと、なかなかポゼッションと言うのは上手く回らない。

だから「なんでHondaってボールが回るの?」と聞かれたりもするんですけれど、まあ「選手の発想」と僕も言葉では言いますけれど、それがしっかりと積み重なってきて、その薄っぺらい積み重ねが力になってくるって言うのが、選手たちも今は凄く理解していると思うんですね。

日本人の理解度って言うのを日本サッカーの特徴としていくのであれば、今はそれを実践している指導者も大勢いますから、風間さんとかを僕も見て勉強しますけど、日本人の持った特性を活かしていけば、まだまだ上に行ける国じゃないかなと感じています』

ーそういう意味で、今シーズンのJFLを戦った上で、対戦が楽しかった相手、良いサッカーをしているなと感じるチームはありましたか?

『僕が就任して6年経つんですけど、そういうチームは増えている印象です。今季については半分以上のチームがしっかりとしたサッカーにトライしていました。そういう意味でも今季はリーグ戦が凄く楽しかったなと思います。

そして、そういうチームがJに向かっていくって言うのは、同じJFLで戦った仲間として応援したいなと思いますし、自分たちも負けずに更なるパワーアップをしていきたいと思います』

ーチーム作りをしていく上で、JFLの場合であればその先にJ3を目指しているチームもあるわけですが、JFLでしっかりチームカラーと言いますか、チーム哲学みたいなものを作ることやってJリーグに進んで行ったチームもあれば、そうでもないチームももしかしたらあったかも知れない、監督はそういうチームと対戦しながらJへ送り出している立場でもありますが、このあたりはどの様に感じておられますか?

『そうですね… チームが目指すサッカー、いくら監督が代わってもチームはこの方向に向かうんだよって言う指導者が来れば、どんどん上積みは出来ます。ただ一時だけ勝つ、J3に上がるだけのチームは衰退するんじゃないかなと僕自身は思います』

ーそれはチーム自体が弱くなっていったり、継続して力を発揮出来なかったりって言うのもあると思いますが、それを見る人たち、自分が応援しているチームはこういうチームだと言うのが無いと、どうしても勝った負けたという部分だけに関心が行きがちで「負けているけど今季は3年計画の2年目だから」とか「あの選手はこの1年でうちのチーム哲学に沿った成長をしている」と言ったチームに対する見方がしにくい、そういう意味でも井幡監督がHondaFCで実践されていること、これを沢山の人に知ってもらうことで、チーム哲学の大切さを伝えたいなと思っているのですが、監督という立場からはそれをどの様に訴求していけるとお考えでしょう?

『まあチームそれぞれの考え方もあると思いますが、僕自身は変わらずに魅了する、エンターテインメントとしてサッカーを楽しんで頂く、HondaFCを応援して下さっているファン・サポーターの方もいらっしゃいますから、そうした方々に勝利を届ける。その中で周りが幸せな空間を作って下さり、皆が喜んでくださる。それが僕の見るチームがやらなくちゃいけないことだと思っているので、僕自身は自分の思ったチームを作っていかなくてはいけないと考えています』

僕は「器」じゃない

ー最後の質問です。今お話し出来る範囲で構わないのですが、2020シーズンに向けて井幡監督はどんな目標を持っておられるのか、或いは今とは全く異なる目標に向かわれるのか、お聞かせください。

『まあ現時点では分からないですけれど、自分を必要としてくれるところ、自分の成長もありますから、どこでも、どのカテゴリーでも指導の現場には関わっていたいなと、それがHondaFCであれば、まだまだ頑張りますし、まだ自分ではちょっと分かんないかなと…(笑)』

ー井幡監督は学生の指導歴も持っておられますから、それこそ二十歳にならないような若い選手の育成についてもやってみたいと以前もお話されていましたが。

『そうですね、カテゴリーは関係なく、小学生でも中学生でも高校生でも、変化を求めたいとか、こういうのにチャレンジしたいからっていうチームがあれば、僕は動くかも知れないし』

ー例えばそれがJ1のチームだったりすると、今現在監督が取り組まれていることは、現実的に難しい部分もあるんでしょうか?

『うーん。まあJ1と言うか、そのレベルには僕は達していないので(笑)そういう人たちが数多く、S級を持っている人たちがいますので、そういう「凄いところ」は「凄い人たち」に任せて、自分は出来たら陽の当たらないところの方が性に合っているので(笑)

そういうチームもあると思うんですよ、なかなか勝ちきれないとかね、そこを押し上げるのに魅力を感じると言うか』

ー出来上がったものに、最後の仕上げをすると言うよりもと、言ったところですかね? そうすると監督は「そのレベルに達していない」とはおっしゃいますが、そこにそれほどの魅力を感じておられないってことでもあるんですね?

『いや、あの… 「器」じゃない。って言う(笑)

たまたま今は選手たちが頑張ってくれて、そこの監督でいるから「凄いね」って言ってくれる人も中にはいるだけで、そんなにサッカーのことばっかり考えている感じでもないですし、はい』

ーまた来季も私は少なくともHondaFCのことは追っかけますし、そこに井幡監督がいてくれると尚いいんですが、どうかよろしくお願いします

『はい、まあどっかにはいるんで、是非来てください(笑)』

(2019年12月5日 東京ガーデンパレスにて 聞き手 毛利龍)

2020シーズンがHondaFCにとってどんなシーズンになるのか。

井幡監督の動向も含め、皆様是非ご注目を!

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