2019年のHondaFCを振り返る 鈴木雄也選手インタビュー

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HondaFCから受け取った「気づき」

2019年を振り返った時、HondaFCから受け取った「気づき」は私の中で結構大事なものになりました。

その「気づき」を受け取った瞬間と明確に言えるのは、彼らが浦和レッズに完勝した、あの天皇杯4回戦。

構図としては「アマチュア最強チームがJ屈指の人気チームと真剣勝負」と言ったモノであったと思いますし、実際に私自身もそれに近い思いをもって埼玉スタジアムに行きました。

しかし、あの試合が終わった時、私の頭の中には(2-0)というスコアだけでは消化出来ようもない「見てはいけないモノ」を目にしてしまった感覚があった。

試合が終わって直ぐ書いたブログ記事では『天皇杯ラウンド16 HondaFC勝利に見た実業団スポーツの威光』というタイトルで書きました。

もちろん、あの記事に書いたことは、私があの晩感じていた思いの一端であるのは間違いのないことです。

ただ、その大元には、まさに「見てはいけないモノ」を目にしてしまった、つまり、私の中にあったJリーグに対する既成概念みたいなモノが、音を立てて崩れていくような、そんな衝撃があったのです。

ボールゲームとしての楽しさ

非常に感覚的な話なので、今回は誤解を承知でその「衝撃」の中身について書かせて頂きます。

私があの晩、天皇杯4回戦が行われた埼玉スタジアムで受けた「衝撃」を端的に表現すると

「J1にボールゲームとしてのサッカーの楽しさは求められないのかも」

です。

逆の言い方をすると

「HondaFCを見ていればボールゲームとしてのサッカーを楽しむことが出来る」

となります。

少なくともあの試合において、見ているだけで「心地よい」と感じさせるサッカーが出来ていたのは、HondaFCの方だった。

浦和レッズが11枚の名画を11人それぞれで描こうとしているように見えるのに対し、HondaFCは11人で1つの名画を完成させようとしているように見えました。

そして私はこう感じていたのです。

「11人で1つの名画を完成させるなんて芸当、出来るようになるまでに一体何年掛かかるんだ」

11人で1枚の名画を完成させる

J1では数カ月で監督が解任されてしまうことも珍しくありません。

数カ月で監督が代わってしまうことが無くても、1人の指揮官が5年も10年も同じチームを指導するケースはかなり稀です。

つまり、J1というリーグにおいては、11人で1つの名画を完成させようにも、それが未完の段階で、また新しい名画の制作に取り掛からなくてはならない状況に陥りやすい。

今シーズンの浦和レッズもまさにそうで、シーズン途中でオリベイラ監督から大槻監督へと指揮官交代があった。

こうなっている原因について思うことは今回書きませんが、現実としてJ1では長期に渡る継続的なチーム作りがしづらい実態が存在しているわけです。

その一方で、HondaFCの井幡監督は今シーズンが就任6年目。

その6年の間に、実業団HondaFCであっても、選手は徐々に入れ替わっていますが、同じ指導者の下で継続したチーム作りが出来ているのでは?

だからこそ「11人で1枚の名画を完成させる」なんていう芸当をやってのけてしまう。のかも知れない。。。

あの試合が終わった瞬間に私を襲った「衝撃」がすぐに「気づき」となり、こんな芸当を表現出来てしまっている指揮官、井幡博康監督への興味へと変換されていくのには、ほとんど時間を要しませんでした。

そして私は、それから2カ月余りの間に合計4回、井幡監督の下へと足を運びました。

「11人で1枚の名画を完成させる」HondaFCがどんなチームであるのか。

「2019シーズンの振り返り」として、11月下旬、そして12月上旬に、HondaFC主将、鈴木雄也選手と井幡博康監督に独占でインタビューをして参りましたので、今回と次回の2度に分け、そのインタビュー内容をお送りします。

初回となる今回は、HondaFC主将で2019シーズンJFL最優秀選手にも選ばれた鈴木雄也選手のインタビューです。

2019シーズンを振り返り HondaFC 鈴木雄也選手

難しいシーズン

ーJFL4連覇おめでとうございます。

鈴木選手がHondaFCに入ってから何度目の優勝になるんですか?

『ありがとうございます。

1年目と3年目のシーズンは優勝を逃しています。あとは優勝していますね(鈴木選手は加入7年目なので、5度目のJFL優勝)』

ーリーグ戦では4連覇、そして天皇杯もありましたが、2019シーズンを通してどんなシーズンでしたか?

『最近は毎年優勝をさせて貰っているんですけれど、凄く難しいシーズンだったと思います。その反面、JFLと並行して天皇杯で勝ち進めたので、本当にチーム全員で戦ったと言うのが相応しいシーズンだったと思います』

ーリーグ戦では序盤やや苦しんだ時期もありましたが、リーグ中盤には首位に立って、そこから天皇杯も徐々に始まってくる中、9月に浦和レッズと対戦、10月には昨年大敗した鹿島アントラーズと準々決勝を戦うと、この頃がある意味でシーズンのピークと言うか、注目もされたでしょうし。鈴木選手自身は、昨年大敗した鹿島と天皇杯で再び戦う、ここに向けての自信はどの程度ありましたか?

『去年と比べて戦える、1年積み重ねてきたものがあったので、対戦が楽しみではありました。ただ、正直今シーズンは圧倒的な力で勝ってきていたわけではありませんでしたし、ここ最近では一番難しいシーズンでした。

でも、天皇杯でプロを相手にした時には、いいパフォーマンスが出せていたので、昨年に比べてやれる自信はもちろんありましたし、勝つ気でいましたし、やれるって言うかやるっていう気持ちだったので、楽しみではありました』

鹿島は他のJとは違う

ー浦和戦のお話を聞かせてください。相手のホームスタジアムでの試合で、平日だったので観客数はそれほど多くは無かったものの、Hondaを応援する人が大勢集まりました。ただ浦和レッズのゴール裏からは大声援が聴こえてきて、そんなJFLではほとんど体験できないような状況の中で、HondaFCは浦和レッズにスコアだけでなく「チームとしての質」でも勝っているように見えていました。その辺り、選手も手応えを感じながらプレーしていたのでしょうか?

『やはり「個」では、J2、J1と上のカテゴリーになれば相手の方が上だと言うことは認めます。でも「チームとしての質」については、やはり作り上げてきているものですし、「個」に頼らないサッカーというところがHondaの良さでもあります。

そんな中で、浦和は、映像を見てもやや「個」に頼ったサッカーだったし、天皇杯を勝ち進む中で自信も掴んでいましたので、やってみて自分たちのサッカーが出来たという部分で、凄く手応えはありました』

ーそして浦和に勝利して鹿島と再び戦うわけですが、あの試合を見ていて「鹿島はマジメなチームだな」という印象が私にはあって、むしろ浦和より無名な選手たちが多く先発メンバーに名を連ねていましたが、チーム哲学と言うか、チームとしての戦い方に対して真面目だなと、私はHondaFCも真面目なサッカーをすると感じていますが、そのHondaのサッカーに鹿島はきっちりついてくる。そしてそれほどチャンスを作られたわけでもないのに、1回の決定機を決められてしまった。やはり鹿島は難しい相手でしたか?

『個人的なところで言えば、僕の力不足だったと思います。その一本を決めるのが鹿島ですし、土居くん(決勝点を決めた土居聖真選手)のプレーは90分消えていても、あの一本を決める力って言うのは大きな差だと感じました。

その中で鹿島の素晴らしいと思うところは、昨年天皇杯で対戦した時にそれを強く感じました。「個」があるチームがあれだけマジメに組織としてプレーしてくる、それに昨年は全く歯が立たなくて、そこで「他のJとは違う」というのを凄く感じていました。そして、今年天皇杯で札幌とか徳島とか浦和とやらせてもらっても、やはり「鹿島は違う」って言うのを僕はずっと感じ続けていましたし、鹿島と当たるってなった時に、自分たちがどれだけ出来るか。

メンバー表が提出されてきたのを見て、相手は怪我人も多かったですし、自分たちよりも若い選手も多く先発メンバーに入っている、それでもあの一本で負けたわけですけど、より悔しさって言うか、もちろんあの一本については、僕と土居くんって言うのもあるんですけど、鹿島とHondaの差でもあったと思うんです。でも、勝てるチャンスはありました。

去年は本当に完敗だったので、昨年より結果だけを見れば近づいているように見えますけど、正直、相手はJでの経験があまり無い選手も多かったですし、昨年の鹿島と比べて力は落ちていたと思うんですけど、それでも勝ちきる、あれだけのパフォーマンスを出来る、やっぱり素晴らしいチームだなと感じましたし、同時に悔しさが、個人的には凄く悔しさが残る試合になりました、僕の所でやられたので。

「鹿島まで勝ち上がった天皇杯」はどうでもいいくらい、悔しさが今は残っていますね』

あれが鹿島だ

ー鈴木選手の中では、天皇杯で頂点に立ちたいという思いとともに「鹿島に勝ちたい」という思いがあるということですか?

『もちろん、天皇杯の頂点は獲りたいし、Jクラブと対戦できる天皇杯の魅力はあるんですけど、やはり何度も負けている鹿島は印象的です。まあ鹿島と当たらないで優勝でも全然いいんですけれど、鹿島に勝ちたい気持ちはあるし、それが天皇杯優勝と単純に比較は出来ませんけど、鹿島に勝って優勝出来ればベストですけど』

ー今年はそれが出来る可能性があったから悔しさもひとしおですね

『でも、あの一本が、見ている人は「惜しかった」とか「あの一本だけだったね」とか言ってくれるんですけど、それが鹿島なんです。

僕たちがいくら繋いでいても、相手は全く「こんなもんでしょ」と。Jリーグでそういう試合は何試合もこなしていますし、あれが鹿島だと、本当に点差以上の差を見せつけられたので。

ただその悔しさがあるからこそ、もっと上手くなりたいとか、強くなりたいという気持ちになれているのも凄く感じられたので、良かったとは全く思わないですけど、やっぱりサッカーっていいなって感じましたし、ああいう舞台でHondaの人達も大勢応援しに来てくれて、JFLではなかなか感じられないような。

でもああいう試合になればなるほど、うちの選手はパフォーマンス出せるんだなって言うのも、やっぱりサッカー選手たるもの、素晴らしい舞台、素晴らしい相手とやれるのは、みんなワクワクするし、プレッシャーもありますけど、またああいう痺れる試合が出来るところまで行きたいなと思いますね』

(2019年11月28日 浜松・都田サッカー場にて 聞き手 毛利龍)

 

次回は井幡博康監督インタビューをお送りします。

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