地域CL2019 高知とJ-ヴィレッジが与えてくれた大会の可能性

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私にとって2年連続2度目の地域CL

私にとって今シーズンの地域CL取材は2年連続2回目の経験で、松江で行われた1次ラウンドとともに間近で触れることの出来た昨シーズンのことを思い返すと、選手や監督が口々に話す「この大会には独特なムードがある」という言葉を実感出来るだけの余裕もなく、ただひたすらに毎日、或いは5日間のうちに3戦行われる大会自体のスピード感についていくのがやっとでしたが、そうした経験を1度だけでも経ていたことで、高知から福島・J-ヴィレッジへと続いた大会の道中で、昨年の私には感じ取ることが出来なかった気づきも数多くありました。

この大会が、一部のサッカーファンの間では、1年のうちで最も心躍らされる大事な大会でありながら、世間的関心度合いなどと言う言葉を使うのが憚れるくらいに、ほとんどその存在すら認知されていないような大会であるといった状況は、昨年に比較して一向に変わりなく、こうしていまTwitterなどのSNSが活用され、インターネットによって個人がメディアとなり、ニッチな情報であっても、一晩にしてメジャーコンテンツとなり得る時代にあってもそうであるのだから、この10年、20年を遡っても、きっとこの大会は今とほとんど変わらない姿で存在していたんだろうな‥と想像を巡らせたりするのですが、そんな思いの中から、この大会の現行レギュレーションについて、この先もこのままで良いのだろうかと考えさせられることも多かったのです。

第一印象は「アブノーマルな大会」

私が初めて地域CLという大会の存在を認識したのは2017年の秋で、Jリーグ以外の国内サッカーの世界を探っていった時に、毎年10月に開催されている全国社会人サッカー選手権(全社)と、この全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)を知ることになったのです。

全社であれば5日間で5連戦。地域CLであれば1次ラウンドと決勝ラウンドでそれぞれ3日間の3連戦(2018年から決勝ラウンドだけは5日間で3戦に変更)という、そんな過酷な大会日程がサッカー界では許されているのかと、異常だろ、アブノーマル過ぎるだろと、率直にそんな印象が最も強かったように記憶しています。

しかしそんな思いも、2018年の10月に全社を取材する頃にはかなり鎮静化していて、11月に市原で地域CL決勝ランドの取材をしている頃には、言葉では選手や監督に「キツいですよね」なんて声を掛けながら、その実をしっかりと見ることは出来ていなかったように記憶しています。

つまりこの大会を初めて知った時に抱いた「アブノーマル過ぎるだろ」という印象も、完全にアスリート然とした地域リーグのサッカー選手であれば、多少どこかが痛くなったり、疲れが完全には取れなかったとしても、結構頑張って走れてしまうんだなと、まあ大会自体はアブノーマルだけど、選手たちはそれをも乗り越えて戦うんだから本当に凄いよなと、そっちの思いの方が強くなってしまって、最初に抱いた「許されているのか」といった問題意識はすっかりどこかへ飛んで行ってしまっていたのです。

そして中には「5日間で3戦では集中を保つのが難しい、どうせなら3日3連戦の方が良かった」と、2018シーズンから変更のあった決勝ラウンド日程に対する選手の声なども耳にするうちに、アブノーマルだと感じていたこの大会独特のレギュレーションを私はほとんど受け入れてしまっていました。

この間、約2年。あまりにあっという間の出来事でした。

ホームゲームの幸福感

しかし、この「アブノーマルな感覚」がやはりちょっと違うんじゃないかと、それを改めて気づかせてくれたのは、1次ラウンドが行われた高知取材で、私はこの高知1次ランドにおいて、初めて「ホームスタジアムで行われている地域CL」を体感することが出来たのです。

厳密に言えば昨年も松江で松江シティが出場している1次ラウンドを取材しているので、今回の高知はそれに続いて2度目ということになるのですが、松江ではそれほど感じられなかった「ホーム感」が、高知ユナイテッドの戦った高知・春野にはありました。

そしてこれは、J-ヴィレッジで行われた決勝ランドについても、いわきFCの「ホーム感」があったことで、「ホームゲームの幸福感」が「アブノーマルな大会」であっても実現するんだ、といった気づきを私に与えてくれたのです。

結果として、今回の地域CLを勝ち抜き、目標であるJFL昇格を勝ち取ったのは、この大会で「ホーム感」のあったいわきFCと高知ユナイテッドでした。

もちろん、この2つのクラブが勝ち抜けた理由がそこだけにあるとは言いませんが、大会中に多くの選手や監督が「地元の皆さんからの大きな声援が」といった言葉を口々に話していましたし、チームとしての通常のリズムを大きく変えることなく試合に挑めたことで、選手たちに掛かるストレスも相当軽減されていたはずです。

そして何よりも、地元で開催されているからこそ、スタジアムまでやってきて高知ユナイテッドやいわきFCの真剣勝負をより多くの人が見ることが出来た。

これは、遠い地域からこの大会に挑んだクラブには巻き起こすことの出来なかった現象であるのは間違いないでしょう。

今こそを楽しむべき

こうした光景を見ていくうちに、改めてこの大会が何故、一所(ひとところ)で一気に行われてしまうのか、取材をしている我々でも頭が混乱してくるほどのスピード感で大会が進んでしまうのか、そこに対する課題意識が湧いてきてしまうのです。

少なくとも地域CLに出場する12のクラブが、もっと時間を掛けてホーム&アウェイの総当たりリーグ戦を行ってもいいじゃないかと、そんな新たな地域CLの形は、大会を取材している中で何度も頭の中をよぎりました。

確かに、近年の地域CLは「JFL昇格権」を争う大会としての位置づけが、その全てと言ってもいいくらいに大きなものとなってしまっています。

だから、12チームのうちたった2チームしか得ることの出来ないその権利を巡る戦いは、悲壮感を帯び、刹那的ですらある。

しかし、ピッチ上で行われている「極上の地域リーグクラブ」を決定するこの大会が持つ本来の性質を考えた時に、あたかもJFL昇格クラブを事務的に決定するかの如く、つまり大会自体が「昇格機関」として機能していればいいとした概念が漫然と存在してしまうことで、その「極上の地域リーグクラブ」を堪能すべく、12のチームがそれぞれに織りなすピッチ上の「芸術」を楽しもうとする、楽しませようとする可能性の芽をことごとく摘み取ってしまってはいないか。

つまり、地域CLをより多くの人が楽しめる大会として昇華させられる可能性は、私が高知やJ-ヴィレッジで見た光景が十分に証明してくれているように思うのです。

もちろん、現状の地域リーグを見れば、遠方にある他地域クラブとホーム&アウェイのリーグ戦を行うことが、資金面だけでも現実的ではないという意見もあるでしょう。

しかしそれは、現在の地域リーグがほとんど「昇格機関」としてしか認知されておらず、リーグ戦や地域CLなどの大会をより多くの人々の楽しむものとして発展させようという発想が、長きに渡ってあまりに欠如していたからこそ、そうした状況に自ら追い込んでしまった側面も多分にあるように思うのです。

昇格し、カテゴリーを上げていくことで増える楽しみもあるでしょう。

でも、今をもっと楽しんでもいい。いや、今こそを楽しむべきだし、それなしに未来を語る方が、現実離れしている。

私はそう思います。

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