「勝負」の存在感
全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下地域CL)
この大会が、地域リーグにおける真の王者を決める大会であること以上に、JFL昇格チームを決定する大会であるという性格を持っていることで、実は見えにくくなってしまっていることが多いように私は思います。
そしてその非常に大きな部分が「ボールゲーム」としてのサッカーを単純に堪能しようとする思い。これが、勝敗という圧倒的な存在感を前に、ややもすると端へ追いやられてしまっている感があるように思います。
もちろんスポーツですので、選手も監督も、目の前の戦いに真正面で向き合い、常に勝利することを目指しそこに身を置いているのは間違いのないことですが、じゃあそこで勝利を得ることが出来なかったからと言って、彼らの戦いに意味はなくなってしまうのか、もっと言えば、勝利したチームが「善」で敗者は「悪」になってしまうのか。
勝敗が非常に重要な要素であるのは間違いないことですが、サッカーと言うスポーツの実態を考えれば、90分間ピッチ上で幾多の「勝負」が展開されていて、その幾多の勝負の結果がそのまま試合の最終スコアに結びつかないケースはままあるし、そういう意味でも勝敗と言う試合結果だけに捉われ過ぎてしまうと、大事なサッカーの魅力を見逃してしまうことがあるのではないだろうかと、そんな風に私は思うのです。
言ってみれば、この地域CLにしても、世間的認知度はほとんどゼロに等しく、日頃Jリーグを熱心に見ている様なサッカーファンの間でも、しっかりと認識されている大会とは言えません(地域リーグからJリーグに進んで行ったクラブを古くから応援しているファンは別ですが)
要するに、地域CLでどこが勝ったとか、どのチームがJFL昇格を決めたとか、そういう試合結果や大会結果にだけ心を動かしたところで、その感動はほとんど世間的共感を得られるものではない。
だからこそ、地域CLのピッチ上から何を感じ取ったのか、これはなにも優等生的に戦術論を語れるかどうかと言ったつまらない話では無く、100人いれば100通りの気づきや感動を言葉にして交わすことをしていっても良いんじゃないだろうかと私は思うのです。
と、また前置きが長くなってしまいましたが、前回に続き今回は、地域CL決勝ラウンド2日目の試合についてレポートを書いてみようと思います。
地域CL2019決勝ラウンド 2日目 第1試合 いわきFC VS おこしやす京都(1-0)
この試合で双方が見せた戦いからは、相手チームに対する徹底したスカウティング、それを非常に分かりやすい光景として見せてくれたような印象を私は強く抱きました。
また、その傾向をより強く感じさせたのは、間違いなくいわきFCの方で、彼らはおこしやす京都の強みを消す作業を90分間継続させながら、逆に弱みの部分を突き続けているように見えました。
つまりその1つが、圧倒的なスピードと超人的な身体能力でおこしやす京都の攻撃におけるカギとなっているガーナ出身のイブラヒム選手であり、もう1つが最終ラインからチームをコントロールし、ハイボールへの対応がずば抜けている内田錬平主将の不在(初日にイエローカードをもらい出場停止)でした。
とにかくこの試合では、ボールが空中にあるシーンが本当に多かった。
そしてそのきっかけを作っていたのはおこしやす京都で、イブラヒムの頭に合わせマイボールをどんどん前線に蹴り込み、そのこぼれ球をいわきFCディフェンスの背後で狙うことも含め、セカンドボールを拾いながら攻撃の活路を見いだそうとしていました。
しかし、いわきFCはおこしやす京都のそんな狙いを圧倒的なフィジカルの強さでほとんど全て跳ね返すことに成功してしまった。
イブラヒム選手がサイドで起点を作ろうとした時は、いわきFCの中でも特に立派な体格を持つ按田頼(あんだらい)選手が、イブラヒム選手狙いのロングボールがややずれた場合は、按田選手以上に立派な大会を持つウェズレイ選手が、ことごとくそれを許さず、おこしやす京都の中盤を支える守屋鷹人選手は『想像以上に大きく跳ね返されセカンドボールを拾えなかった』と試合後に語ってくれましたが、おこしやす京都が「必ずしもイブラヒムがそこで競り勝ちしなくても、こぼれ球を拾えればそこから展開出来る」と思って戦いに挑んでいた、その想定を完全に覆す状況が生み出されていたのでしょう。
そしていわきFCは攻撃に関しても、相手ディフェンスラインに「高さ」を司るキャプテンの不在を徹底して攻め続け、それでもゴールキーパーを中心に内田不在を何とかカバーしようと耐え続けていたおこしやす京都の牙城を、あのゴールシーンでは左右から何度も揺さぶりを掛けることで、ついに崩落させたように私には見えていました。
よく「どんな形であれ勝利出来れば」といった言葉を聞くことがありますが、この日の試合では「こういう形で勝利すること」がいわきFCにとっては必要だったのだと思います。
それは、地域リーグの世界で飛びぬけた身体能力を持つ選手が複数プレーし、その上そうした能力のある選手たちをチーム戦術の中にしっかり落とし込み、フィットさせたスタイルで今シーズン勝利し続けてきたおこしやす京都という難敵を退けた時に、いわきFCの選手たちが見せてくれた自身に満ち溢れた表情からも充分伝わってきました。
その様子はあたかも
「俺たちはただの大味な巨大ハンバーグなんかじゃない。毎日でも食べたくなるような料理長こだわりの巨大ハンバーグだ。まだミシュランの星がもらえるどころか、食べログにも掲載されていないけど、食べる人が食べればその旨さで十分勝負出来るんだ。」
とでも言わんばかりだったように思います。
決勝ラウンド初日で「色気」がついてきたと私はいわきFCに対して書きましたが、この日の試合で彼らが「巨大ハンバーグ」ではあったかなと改めて思いながらも「大味」などでは決してなく、「料理長のこだわり巨大ハンバーグ」であることを私に気づかせてくれ、第2試合の結果を受け大会2日目にして「JFL昇格」をも勝ち取ったのです。
地域CL2019決勝ラウンド 2日目 第2試合 高知ユナイテッド VS 福井ユナイテッド(3-1)
私個人のサッカー趣向に則れば、この大会に挑んだ高知ユナイテッドと福井ユナイテッドの戦い方は、好みのワンツーフィニッシュに値するチームで、両者が初日に黒星でスタートしていたことで、その立ち位置もイーブンな状況でこの試合を迎えたのは、ある意味で望む展開でもありました。
初日を終えた時点で、いわきFCに0-3と粉砕された高知の選手たちは、一様にそのショックを隠し切れていないように見えた一方で、初戦でおこしやす京都を相手に0-2で敗れながらも「自滅」した感があった福井の選手たちは「1敗は許容範囲」と第2戦以降へと気持ちを切り替えられているように私には感じられていたので、この第2戦で両チームが見せた戦いについては、やや驚かされたというのが正直なところです。
つまり、高知の選手たちが初戦で被ったショックをほとんど感じさせなかったのに対して、福井の選手たちは明らかに初戦の流れを引きずってしまっているように見えたのです。
望月一仁監督は初戦を終えて「蹴るのか繋ぐのか」その判断をはっきりさせらなかったと話されましたが、まさにこの日の福井ユナイテッドは、自分たちの長所を完全に忘れてしまったかのような戦いぶりでした。
初戦で私がこのチームから感じたワクワクはほとんど感じられず、時間を追うごとに強くなっていく雨とともに、そのチームとしての勢いが徐々に削がれてしまっている。
素晴らしい技術とスピードを誇る山田雄太選手を中心とした福井攻撃陣も、そんな状況を何とか打開しようと一人一人が戦っているものの、あの素晴らしいフィニッシュゾーンにおける連動した動きは完全に鳴りを潜めてしまっています。
ただ、こうして福井が自らの良さを出せないどころか、どんどんチームとして戦う姿勢を取れなくなっていってしまったのは、なにも彼らだけにその原因があったわけではなく、試合序盤から雨に濡れたピッチで活き活きと躍動していた高知ユナイテッドの「開き直り」にもあったように思います。
とにかくこの日の高知は、高知春野で行われた1次ラウンドで見せたような、あの前への圧倒的な勢いを感じさせるものでした。
中でも、最後尾からゲームをコントロールする横竹翔主将の存在感は抜群で、このカテゴリーではなかなか目にすることも少ない正確なロングフィードを前線に何度も送り込んでいました。
そして、横竹主将の相棒として、恐らく今大会で最も私好みの「考える人」朴利基選手が、ゲームのペースの全てをコントロール出来ていた。
試合後、高知の大谷武文監督は「彼らだけが特にフリーになれていたのではなく、相手プレッシャーを交わしながらフリーを作るのが我々のスタイル」と話されましたが、少なくとも私がこのチームを1次ラウンドから見てきた中で、この2人の選手がこれほど自由にプレー出来ている状況はなく、それが相手に要因があるものだったのか、高知自らが創り出したものだったのかは一先ず置いておいたとして、私の戦前の予想を大きく覆す試合展開となる最大の要素であったように思います。
試合後に両軍から聞いたコメントも非常に対称的でした。
福井ユナイテッドの選手たちが口々に自らの不甲斐なさ、それを半ば怒りの感情を以て語ってくれたのに対し、高知ユナイテッドの選手たちは勝利出来たという事実以上に、その試合内容が自分たちの望むものであったことを心から喜んでいるように私には感じられました。
「内容と結果」
サッカーの世界でよく聞く言葉ですが、この地域CLという過酷なレギュレーションを強いられる大会で、その両方を得ることも不可能ではないのかも知れない。
そんな思いが私の中でほんの少し湧いてきた試合にもなったのです。