【名は体を表す】FC町田はゼルビアなのかトウキョウなのか

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分岐点

【名は体を表す】

一連の「FC町田トウキョウ騒動」の流れを見てきて、この言葉が私の頭の中に浮かんできました。

【名は体を表す】

その意味はもちろん「名前がそのものの実体を示している」といったところになろうかと思いますが、つまりあの、東京都町田市を本拠地としているJクラブが「ゼルビア」であるのか「トウキョウ」であるのか、それを決めなくてはならないような分岐点に差し掛かっている。

いや、差し掛かるどころか、既にそのどちらかの道を歩み始めてしまっていて、そのどちらかの道が今のところ「トウキョウ」である。

そんな風に私は感じています。

切実感と甘え

最初に断っておきますが、私は藤田晋オーナーの側、クラブの経営権を持つサイバーエージェント側に寄る考え方をしているわけではありませんし、「ゼルビア」というクラブ名に固執する町田サポーターの側に寄るつもりもありません。

ただ、今まさに1つのJクラブを舞台に繰り広げられている「思い」と「思い」のすれ違いが、今後他のJクラブでも十分起き得る事象として、それをどの様に受け止め、どの様に前へ進むべきなのか、そんな問答を自分の中で繰り返しているだけなのです。

私は今回、「紛糾」したと言われるサポーターミーティングの内容について、そこで発せられた言葉の一つ一つを文字起こしすることで、それぞれの発言意図を可能な限り汲み取ろうとしました。

そうした中で最も強く感じたのは、クラブ側の「切実さ」とサポーター側の「甘え」でした。

J1で戦うためには足りない

今回の事象を客観的に見た時に、クラブ側とサポーター側との意見のどちらがより理にかなっているかと言えば、言うまでもなくクラブ側の主張であると私は思います。

もともとは少年サッカーの選抜チームだったFC町田にトップチームとしての社会人チームが発足し、1997年にクラブ名を現在のFC町田ゼルビアとした時、チームが戦っていたカテゴリーは東京都1部リーグ。

そこから2005年に関東リーグ2部へ昇格するまでの間にクラブの運営組織はNPO法人化し、JFL昇格を果たした2008年に運営会社「株式会社ゼルビア」が設立。以後10年余りの間にJFLからJ2(当時はJ3が存在しなかった)昇格、そしてJリーグで唯一、JFL降格も経験し、2014年からはJ3、2016年からはJ2を戦いの場としながら、その3シーズン目にあたる2018年にはクラブ史上最高位となるリーグ4位という好成績を収め、J1昇格が現実的な目標として語られるまでになってきました。

しかしながら、そうしたクラブの可能性の広がりは、同時に運営予算の大幅な拡大をも意味し、旧クラブ運営サイドにとっては、既に自らの体力では到底その期待に添えられないことを自覚もしていたわけです。

つまり、J2リーグでも最も小さな予算で集めた選手であっても、チームを瞬間的に強くすることは出来たけれど、J1で戦う権利を得る為にはそれだけでは全く足りない。

FC町田の場合、そのハードルとして先ず立ちふさがったのが、J1クラブライセンスの定める「施設基準」であり、15,000人収容のホームスタジアムと、優先使用出来る天然芝練習場と併設するクラブハウスが何にもまして必要であったのです。

行政からの支援

2017年に『町田市5ヵ年計画17-21』という市の財政計画が策定され、5か年で約75億円を超える赤字が見込まれる中、FC町田ゼルビアのホームスタジアム、町田市立陸上競技場のある野津田公園の整備、スタジアム改修工事予算として約75億円が計上され(うちスタジアム改修工事予算は48億円とされている)その工期は2020年いっぱいで、2021シーズンからはJ1のスタジアム基準に沿った15,000人収容のホームスタジアムを使用出来る予定となっています。

町田市としては他にも『スポーツ推進計画 トップスポーツ支援戦略』として、FC町田ゼルビアを含む、町田市をホームタウンとするトップスポーツチーム(Fリーグのペスカドーラ町田、ラグビーのキャノンイーグルスなど)やアスリートの支援策として、ホームゲーム開催の周知や地域社会への普及啓発などにも取り組むとされていますが、その予算投入の内実を見れば、こうした計画が事実上、FC町田ゼルビアの為に作られた計画であり、町田市行政が「いち法人」の為に出来得る、限界点であるようにも思えます。

サイバーエージェントの登場

ホームスタジアムの整備までは何とか行政の力で実現化の目処が立ったものの、優先使用出来る天然芝練習場と併設するクラブハウスについては、自助努力で何とかしなくてはならない(まあ当たり前と言えば当たり前のことですが)

それが昨年10月にサイバーエージェント(以下CA)がクラブの経営権を買い、クラブの運営会社である株式会社ゼルビアをグループ傘下にしたことで一気に話が前へと進み、CAが約11億円の増資をしたことで、天然芝練習場を手に入れ、クラブハウスの建設も始まった。

結局この事実があったことで、FC町田ゼルビアにはJ1クラブライセンスが交付されるに至ったわけですが、率直に言って、この時点で「J1クラブライセンス交付」を喜んだ町田サポーターが、CAや藤田オーナー、そしてクラブをこれまで何とか支えてきた下山会長や大友社長を批難するのであれば、それはあまりにも虫のいい話、甘えた話ではないかと、私は思います。

下山会長、大友社長はこのクラブを消滅させない為に必死で、CA、藤田オーナーはこれまでの投資と今後の巨額投資を何とか回収しようと必死、つまりこの両者からは、悲壮感にも近い切実さが感じられるのです。

もう違うクラブになった

【名は体を表す】

つまり、たった1年という短い時間で、クラブが長く手に入れることが出来なかった天然芝の練習場やクラブハウス建設が出来てしまった時に、もうFC町田ゼルビアは違うクラブになってしまったと考えるべきなのかも知れません。

行政がスタジアムの改修工事予算を取ろうとも、市内の小中学校で普及啓発をし、地域にホームゲーム開催の周知をしようとも、町田市立陸上競技場に集まる観客数はほとんど増えない。(今季ここまでの1試合平均観客数は4,569人。昨季が4,915人。J2再昇格をした2016シーズンが5,123人です)

人口43万人は、数あるJクラブの中にあって決して多い人口とは言えませんが、それでもこの人口よりも少ない町をホームタウンとしているクラブの中には、FC町田ゼルビアの倍以上の観客を集めているところもある。(顕著なのは松本山雅。松本市の人口は23万人。周囲に大都市もない中、昨季彼らがJ2で戦っていた際の1試合平均観客数は13,283人です)

藤田オーナーが「急務」と話した「ファンの拡大」が進まないこうした現状からも、FC町田ゼルビアが決して地域にとって欠かせない存在とはなり得ていないと取る方が自然でしょう。

藤田オーナーはサポーターミーティングの中で『ゼルビアという名前は案外覚えにくい』と発言されていましたが、私はこれを聞いていて、藤田オーナーが本心を語っているようには思えませんでした。

IT業界で大成功をされている方ですので、もちろんこうした「語感」に敏感な面もお持ちでしょうが、彼の本心はきっと違うところにあったように思います。

つまりその本意は『ゼルビアでは人を集めることが出来ない』もっと言えば『出来ればゼルビアを払拭したい』

「FC町田トウキョウ」というクラブ名、その中で一際目立つ「トウキョウ」という言葉が持つ意味、これについては藤田オーナーの抱くクラブの未来像が多分に影響しているでしょうし、その具体的戦略についてはサポーターミーティングの中でもさほど触れられていなかったので分かりませんが、私は「トウキョウ」にはクラブの未来が、「ゼルビア」にはクラブの過去が、それぞれ意味づけられていたように感じました。

名は体を表す

ただ、私はFC町田ゼルビアがこの先も「ゼルビア」と名乗っていくことが決して不可能だとは思っておりません。

【名は体を表す】

極論で言えば、J1クラブなど目指さず、クラブが無理をしないで集められる予算に応じたリーグで戦えばいいだけのことです。

もしかしたら、そのリーグはJリーグではないかも知れない。

それでも、地に足のついた経営を出来ていれば、クラブが消滅してしまう心配をしなくても済むし、何しろ「ゼルビア」という名前を堂々と名乗ることも出来る。

そして、そうした価値観が応援、支援する人たちの間で共感さえされていれば、大企業が札束で顔をひっぱたいてきても、それを拒絶することだって出来るはずなのです。

関東サッカーリーグに横浜猛蹴(よこはまたける)という社会人チームがあります。

彼らは今年の全国社会人サッカー選手権大会でベスト4に入るほどの実力あるチームですが、このカテゴリーで戦う多くのチームのユニフォームの胸にスポンサーロゴが入っているのに対し、横浜猛蹴のユニフォームには一切それが入っていません。

チームの大坪智治代表は以前こう話してくれました。

『スポンサードしたいという申し出がこれまでに全く無かったわけではないが、全部断ってきた。スポンサーを受ければスポンサーの為にサッカーをするようになってしまう。我々は自分たちの為にサッカーをしているのに。』

ちなみに彼らは関東サッカーリーグからJFLへの昇格意思を積極的に表明していません。

その理由は、自分たちの活動ポリシーがそれによって維持できなくなってしまうからです。

彼らにとって最も大切なものは、所属するリーグのカテゴリーをただ上げていくことでも、スポンサードされ活動資金を作ることでもなく、自分たちの為にサッカーに向き合い、そして勝つこと。

そしてそうした彼らの姿勢こそが「横浜猛蹴」という名を体で表す姿勢そのものなのです。

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