「相対評価と絶対評価」FC今治とHondaFCを分けるもの

コミュサカ

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「Jの門番」という異名

半年ぶりに都田サッカー場へ行ったのは、Honda FCの井幡博康監督の話を聞きたいと思ったからでした。

9月25日に埼玉スタジアムで行われた天皇杯4回戦。

そこで「Jリーグの顔」とも言うべき浦和レッズを破った実業団チームHonda FCが、自らがJクラブになるという道を選ばずに、Jリーグ参入を目標とするクラブの前に立ちはだかる光景は、「Jの門番」という異名で多くのサッカーファンの知るところとなっていますが、彼らが「Jの門番」としての役割を全うすることだけを目的に、日々トレーニングに励み、JFLのリーグ戦に挑んでいるように思えなかったのは、そんなある意味で「卑屈」とも取れるような役割だけがモチベーションであれば、到底あのレベルのチームなど作ることは出来ないと感じていたからです。

それがあの晩、今季のJ1リーグで苦しんでいるとはいえ、平日の夜に数万のファン・サポーターを集めるだけの力を持ったJ屈指の人気クラブに、ほとんど良い所を出させないどころか、自らの狙いについては、ほとんど完璧に遂行してしまったHonda FCの姿を目にしたことで、彼らを「Jの門番」としてだけ評してしまうことが、罪深いことであるようにすら感じてしまった。

そして何よりも、このチームを6年という長きに渡って率いてきた井幡博康監督への興味が、私の中で急激に高まってきてしまったのです。

Honda FCのモチベーション

ピッチを見回してみると、いわゆる「平均点の高い」良くも悪くも癖の少ない選手がほとんどで、際立つ「個」の力を感じさせるのは、浦和相手に挙げた2つのゴールを演出し、右サイドを快走する佐々木俊輝選手くらい。

だからこそ、このチームは「個」に頼ることなく、サッカーが11人制で行われていることに幸せを感じるような、質の高い「チームパフォーマンス」と「チームシナリオ」を見せてくれているのだと思いますが、その絵を描いているであろう井幡監督とはどんな指導者であるのか、それを少しでも理解したいと思ったからこそ、東名高速の工事渋滞にヒヤヒヤさせられながらも、松戸から約5時間を掛け、浜松のHonda都田サッカー場まで、JFLの延期試合「Honda FC VS FC今治」戦の取材をしに行ったのです。

幸いにも御殿場を過ぎた辺りから渋滞も緩和され、そこからは燃費が悪くなるリスクを取りながら、猛スピードで浜松へ向かえたことで、キックオフの30分前に都田へ到着することは出来ましたが、既にキックオフに向け両チームの選手・スタッフの方々が緊張感を高めていく中で、試合後の井幡監督にお話を伺う時間を作って頂くようクラブ側に話を取り付けるので精一杯となってしまいました。

しかしながら、その時点でこれから始まる試合が、FC今治に取っては首位Honda FCとの勝ち点を詰める最大のチャンスであって、今季のJFL優勝チームを占う大一番であったにも関わらず、あまりに「残酷」なピッチ上の事実を目にするとともに、期せずしてHonda FCというチームがどんなモチベーションを以て、JFLに、ひいては日本サッカー界に挑んでいるのか、それを感じることも出来たのです。

「激情」にも翻弄されず

試合は双方に退場者が出るエキサイティングな展開でしたが、今治がその「激情」に翻弄されているように見えた一方で、Honda FCはその「激情」すらも想定内といった様子で、90分を通し、「やりたいことを徹底」出来ていたように思います。

ベンチから大声で叫び続ける井幡監督の口から聞こえてきた言葉も終始一貫していました。

『しかけろ』『1対1を作れ(守備において)』『ビルドアップで優位性』

前半に2枚目のイエローで1人退場者を出してしまった状況でも

『やることは変わらないぞ』

と檄を飛ばし続けておられました。

勿論、リーグ戦での勝ち点差(試合前の時点で8ポイント)や、両チームの戦力差などを鑑みた上で、こうした言葉が出てきているのも間違いはないのですが、今治が「勝利」する為に自らの手段を変えてまでこの試合に挑んでいるのに対して、Honda FCは浦和レッズを倒した時とほとんど変わらないスタイルでこの試合に挑んでいた。

そしてそれは、退場者を出し10人対11人となり、今治がここぞとばかりに右サイドの駒野友一選手を使ってHonda陣内に押し込んできた時間帯についても変わりませんでした。

相対評価と絶対評価

試合終了後のHonda FC指揮官からは、こんな話を聞くことが出来ました。

『我々は「勝利」だけでなく、観にいらした方々を魅了するようなサッカーをしたい。「二兎を追う」ことになるが、一兎を追うだけじゃ絶対に二兎は得られない』

一方、FC今治の小野剛監督は、首位相手に星を落とし、残り7試合で11ポイントまで引き離された状況に厳しい表情を浮かべながらも

『我々の目標がJFL優勝であることは変わらない。優勝を目指すからこそ、その先に見えてくるものがある』

と、今シーズンのFC今治にとって「優勝する」ことがいかに重要であるのか、それを強調されていました。

しかし、今まさに「Jリーグ参入」を手中に収めつつあるFC今治というチームに対して、Honda FCがそこに待ったをかける「Jの門番」として立ちはだかっている構図が、2人の指揮官の言葉から、私はイメージすることは出来なかった。

つまり、FC今治は「Jリーグ参入」には必ずしも絶対条件ではないJFL優勝を目標とし、Honda FCについては、もはや「JFL優勝」とか「天皇杯優勝」といった「見えやすい成果」だけでなく、相手がどんなカテゴリーのチームであろうと、観る人を「魅了する」ことを目標としているのです。

言ってみれば、FC今治が「相対評価」を求めているのに対して、Honda FCは「絶対評価」で自らの価値を図ろうとしている。

「Jの門番」という分かりやすい文脈だけで語られていると、これは見落としてしまいがちなポイントであるのかも知れません。

そして、日本サッカーのトップカテゴリーを舞台とすることを拒否し、自分たちの今いる場所で、チームの「絶対評価」を追求するHonda FCという強者の姿を、もっと多くの人々が認識し、そこに価値を感じられるようになれば、日本中のサッカークラブの価値を、一段も二段も高めていく最大の助けとなるように思うのです。

※この日取材した内容(井幡監督へのインタビューも含め)は、後日、YouTube配信サッカー情報番組「蹴AKE11(シュウアケイレブン)」で取り上げる予定です。

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