浦和レッズ「勝たなくちゃいけないチームだろ?!」は100年早い。

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興梠慎三かく語りき

浦和レッズは勝たないといけないチームと言われますけど、何をもってそう言っているのか、僕にはよく分からない。タイトルも、鹿島みたいにたくさん取っているチームが言うなら分かるけど、そんなに取っていないチーが当たり前のように言うのはおかしい

これは、9月13日に行われたJ1リーグ第26節、対セレッソ大阪戦に1-2で敗れた後、この試合で先制ゴールを決めた浦和のエース、興梠慎三選手が話したとされるコメントです。

このコメントは、FOOTBALL ZONE WEB 内の記事に掲載され、Yahooニュースのトピックス 記事にもなったので、ご覧になられた方も多いはずですが、これまでに様々なサッカーメディア媒体で浦和レッズに関する記事を執筆されてきた轡田哲朗(くつわだてつろう)さんの書いた記事であるだけに、このコメントがかなり信憑性の高いものであることを想像出来ます。

当該記事内では、『このメンバーを見れば勝たなきゃいけないと思う。この順位にいるようなチームではないので』という興梠選手のコメントも書かれていますが、いずれにせよ、鹿島アントラーズから浦和レッズに移籍したキャリアを持つ興梠選手の言葉だけに、その重みがさらに増してくるように思えます。

『実績とプライドの乖離(かいり)』

轡田哲朗さんは、興梠選手のコメントをこう文字で表現されていますが、今回はその「乖離」が具体的にどの程度生じているのか、それを浦和レッズの過去戦績を中心に遡ってみながら、検証してみたいと思います。

そして、興梠選手曰く「そんなに取っていないチームが当たり前のように言うのはおかしい」の先にある『どのくらいであればおかしくないか』まで深掘りしてみます。

Jクラブ4大タイトル獲得実績

では先ず、Jリーグがスタートして以降の、いわゆる4大タイトル(J1リーグ、天皇杯、リーグカップ、ACL)獲得チーム実績一覧をご覧ください。

この一覧は、獲得タイトル数が多い順に並んでいますが、これを見ると浦和レッズの4大タイトル獲得数は、全Jクラブ中で単独第3位となっています。

ただ、一番左の項目「J1(年間)」については、上位6チームの中で唯一、1回のタイトル獲得実績しか持っていません。

ここからも、いかに浦和レッズが「カップ戦」に強いチームであるのかが見て取れますが、中にはこんな風に思われる方もいるかも知れません。

「毎年優勝チームが必ず生まれる国内タイトルに対し、そうではない国際タイトルACLを浦和は2度も獲得している、このカウントの仕方はやや公平性に欠けるのでは」

確かにそうです。

J1リーグや天皇杯、そしてリーグカップである、ルヴァンカップなどは、どんなに全体のレベルが低かろうと、必ず優勝チームは出てくるわけで、アジアの強豪相手に斬って切られてを繰り広げるACLタイトルの重みが、この一覧には反映されていません。

では、過去26シーズンの間にJクラブ勢が5度、その栄冠を勝ち取っている(前身のアジアクラブ選手権も含む)このタイトルの重みを約5年に1度の機会と想定し、ポイントを5倍にしてみましょう。

すると、浦和レッズの4大タイトル獲得ポイントは「8」から+10で「18」にまでジャンプアップ。

これでランキング1位の鹿島アントラーズの「20」に匹敵するポイントになりますが、、、いやいや、鹿島もACLで昨シーズン初優勝を遂げていましたので、鹿島も「20」から「25」にジャンプアップですか。

「18」と「25」で7ポイント差ですので、今シーズン仮に浦和がACLで3度目の優勝を果たしても追いつかないか。。。

なかなか厳しいですね。

Jクラブ通算勝敗実績

または、こういう風な見方をされる方もいるかも知れません。

「J1が2ステージ制で開催されたシーズンの要素が、タイトル獲得数には全く反映されていないじゃないか」

確かに。

2015シーズンでは、浦和は年間勝点で圧倒的1位となりながらも、短期決戦のチャンピオンシップで勝てなかったことで、鹿島に年間タイトルを奪われてしまったこともありました。

では、タイトルの数についてはひとまず置いておいて、「勝たないといけないチーム」である所以、つまり浦和レッズのJ1リーグでの「勝率」がどのくらいであるのか、これを1993年のJリーグスタート時から、今シーズンの最新試合(9月14日J1リーグ第26節終了時点)まで、全試合の試合結果データをまとめ、勝利数の多いチームを対象に一覧表を作ってみましたので、ご覧ください。

この表については、いくつか補足説明が必要です。

先ず、この一覧表における「J1」とは、Jリーグのトップカテゴリーを指しています。つまり、J2リーグが出来る以前のJリーグについても「J1」としてカウントする形になっています。

そして、この一覧表は「J1で勝利数の多い19チーム」のみを対象としているので、下から2番目に載っているオリジナル10の横浜フリューゲルスのように、引き分け数がゼロになってしまっているチームが混在しています。(横浜フリューゲルスが存在していた時期は、引き分けでも延長、PKで勝敗を決していたため)

また、そうした背景もあって「引き分けが存在しなかった時代(1993~2002)」にJ1リーグに所属していたチームの実績については、「勝利」と「敗北」にやや偏った数値となっていることもご理解下さい。

浦和の勝率は5割を切る?

では、一覧を見ていきましょう。

やはり4大タイトルを20回も獲っている鹿島アントラーズの勝率が圧倒的に高いのが確認出来ます。

特にホームゲームでは勝率62.9%と、2位のマリノスに10ポイント以上の差をつけての1位です。

翻って浦和レッズの数値を見てみると、「勝率47.8%(ホーム勝率53.2%)」ですので、ホームゲームでは辛うじて5割を超える勝率ですが、全体では勝率5割を切ってしまっている。

かつて、Jリーグがスタートした当初、浦和レッズはなかなか勝てないチームでした、特にその初年度1993シーズンと翌1994シーズンはともに年間最下位。

そんな暗黒期もこの「通算勝敗実績」には含まれていて、それでこうした低い勝率になってしまっている可能性もありますので、データを取り直してみました。

1993~1994シーズンを除いた浦和レッズのJ1リーグ勝敗実績

393勝140分267敗【勝率49.1%(ホーム勝率53.3%)】

ほんの少しだけ勝率が上昇しましたが、依然5割を切った状況です。

では、一応これも採ってみましょう。

今回の検証の発端となっている興梠慎三選手が、浦和レッズに移籍してきた2013シーズン。

このシーズン以降、現在に至るまでの勝敗実績を見れば、より興梠選手の思っている感覚に近づけるかも知れません。

2013~2019(第26節終了時点)における浦和レッズのJ1リーグ勝敗実績

115勝52分63敗【勝率50%(ホーム勝率54.8%)】

キマした。5割です。

興梠選手が浦和に来て以降の埼玉スタジアムでの勝率は54.8%!

ただ、同じ期間の鹿島のデータとも比較しておかないと、語るに足らずな感がありますので、一応これも取ってみます。

2012~2019鹿島アントラーズのJ1リーグ勝敗実績

126勝38分66敗【勝率54.8%(ホーム勝率58.2%)】

過去27シーズンに渡る全体の勝率からは、やや下がってしまっていますが、それでもホーム勝率58.2%と堂々たる実績を残せていますね。

欧州3大リーグ勝率データ

いや、ちょっと待て「勝利58.2%」とか「勝率5割」ってどれくらい凄いことなのだろうと、皆さん思いませんか?

これをJリーグの中だけで比較していても、なかなか実感としては理解しにくいですよね。

そこで、この「勝率」という部分、これを昨シーズン(2018/19)の欧州3大リーグの実績データで取ってみましたので、ご覧ください。

いやはや、、

欧州3大リーグで優勝するためには、最低でも7割近い勝率が必要なんですね。

マンチェスターシティに至っては84.2%って、もはや「勝敗を楽しむ」ことすらも許されないような状態です。

では、それぞれのリーグにおける「勝率5割」付近にあるクラブの顔ぶれを見ていきますと、

プレミアリーグですとマンチェスターUがまさに5割ですね、スペインではセビージャが5割をやや欠けたところ、両マドリッド勢は鹿島に近い勝率ですかね。

ブンデスリーガではレヴァークーゼン、ボルシアMG、ヴォルフスブルグあたりが、5割近辺です。

なんて言いますか、、

地味ですね。

それぞれのチームを応援されている方がいたら、大変失礼な言い方かも知れませんが、セビージャ、レヴァークーゼンですよ、、バルセロナやバイエルンと比較したら、明らかにリーグの主役ではないし、仮にそうしたリーグの盟主とされるチームに負けたとしても「まあ仕方ないよ、頑張ったよ」となっておかしくないチームですよ。

「勝たなくちゃいけないチームだろ?!」は100年早い

つまりこういうことです。

Jリーグにおいては例えそれが鹿島アントラーズだとしても、「10回やって5~6回だけ勝てるチーム」であって、浦和レッズについては「10回やって半分勝つのがやっとなチーム」でもある。

勿論、欧州3大リーグの単年データをJリーグの複数年データと比較してはいけませんけれど、少なくとも「興梠慎三選手が来てからの8シーズン」についてだけで言えば、浦和レッズの「強さ」は、昨シーズンのマンチェスターUと同等だと、モウリーニョ監督の下、失点を重ね勝てず、スールシャール監督になって若干盛り返すも、最終的にUEFAチャンピオンズリーグへの出場権を逃した、あのマンチェスターUと同じくらい「勝つ可能性」を持っているチームだと評することも出来る。

(念のために先と同じように2012/13~2018/19シーズンでマンチェスターシティの勝率も調べてみましたが通算勝率67.6%。タイトルは8つ獲得していました。)

そこで、前出の轡田さんによる言葉『実績とプライドの乖離』です。

今シーズンに限らず、埼玉スタジアムの北ゴール裏がチームに対してブーイングしている光景ってしょっちゅう見ることが出来ますよね。

それはそうですよ、試合の半分は負けているのに、負けるたび「勝たなくちゃいけないチームだろ?!」と叫ぶ人が出てきちゃうゴール裏なんですから、ブーイングの機会も頻繁になるでしょう。

興梠選手が『浦和レッズは勝たないといけないチームと言われますけど、何をもってそう言っているのか、僕にはよく分からない』と言いたくなるもの当然でしょう、「俺たちはマンチェスターシティじゃないんだけど。。」といった所なんだと私は思いますけど、皆さんはどうですか。

興梠選手は「鹿島なら分かるけど」と言ったそうですが、鹿島であっても、欧州3大リーグと比較すれば浦和と大差ないです。

つまり、Jリーグには「試合やれば大体勝っちゃうんだよ」と言えるような、「勝たなくちゃいけないチームだろ?!」と言わなくても済むような、絶対的な盟主と言えるようなチームはまだ誕生してきていない。

要するに、出来てからたかだか26年程度のリーグで「勝たなくちゃいけないチームだろ?!」は100年早い。

イングランドにプレミアリーグの前身である「イングリッシュ・フットボールリーグ」が創設されたのは1888年、今から130年以上も前の話です。

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