クラブ収入の世界ランキング
世界4大会計法人であるデロイトが、20年以上に渡り、毎シーズン公開している「マネーフットボールリーグ」というレポート資料があります。
この「マネーフットボールリーグ」は、言わば「クラブ収入のチャンピオン」を決める「リーグ」で、様々なクラブ経営数値をもとに、そのクラブ収入に特化したランキングが策定されています。(同グループの日本コンサルティング部門、デロイト トーマツ コンサルティングも「Jリーグマネージメントカップ」という経営分析資料を毎シーズン公開していますが、こちらも非常に面白い資料です)
ちなみに、2019年版(2017/18シーズン)の「マネーフットボールリーグ」で発表された、世界トップ20クラブは以下です。
- 1位 レアル・マドリー(スペイン)
- 2位 FCバルセロナ(スペイン)
- 3位 マンチェスターU(イングランド)
- 4位 バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)
- 5位 マンチェスターシティ(イングランド)
- 6位 パリサンジェルマン(フランス)
- 7位 リバプール(イングランド)
- 8位 チェルシー(イングランド)
- 9位 アーセナル(イングランド)
- 10位 トットナム・ホットスパー(イングランド)
- 11位 ユベントス(イタリア)
- 12位 ボルシア・ドルトムント(ドイツ)
- 13位 アトレチコ・マドリー(スペイン)
- 14位 インテルミラノ(イタリア)
- 15位 ASローマ(イタリア)
- 16位 シャルケ04(ドイツ)
- 17位 エバートン(イングランド)
- 18位 ACミラン(イタリア)
- 19位 ニューカッスルU(イングランド)
- 20位 ウェストハムU(イングランド)
デロイト「マネーフットボールリーグ2019」より引用
このように、プレミアリーグ勢が、ここぞとばかりにランクインしてくるわけですが、その最大の要因は、非常に高額なプレミアリーグの放映権にあるとされています。
3つに分類されるクラブ収入
この「マネーフット―ボールリーグ」は、『各クラブに関連する企業または団体発表の年次財務諸表から、あるいはクラブから直接入手した』それぞれのクラブの総収入源数値を『入場料収入、放映権収入、商業収入の3種類に可能な限り分類した』とされており、『選手の移籍金、付加価値税、その他売上諸税は、収入として扱っていない』としていることから、比較的簡明な内容となっています。
ではここで、デロイトの定める「入場料収入」「放映権収入」「商業収入」それぞれの範囲について、もう少し詳細にご紹介していきましょう。
先ずは「入場料収入」について、これは『主に座席の販売。(チケット収入、法人年間契約席の販売収入を含む)から得られる収入』とされています。
続いて「放映権収入」については、『国内リーグ、各種カップ戦、欧州選手権への出場に伴う分配金による収入を含む』とされています。
最後に「商業収入」ですが、『スポンサー収入や、グッズ販売等マーチャンダイジング収入、及びその他商業活動により得られた収入を含む』とされています。
以上、非常に完結にまとめられていますが、『各クラブの収入の比較結果をこれ以上詳細に分析するには、非公開情報を入手しなければ不可能である』と記されているように、世界中のサッカークラブの経営数値を一定基準でランク分けすることの限界線が、この「マネーフットボールリーグ」であるのかも知れません。
将来の有望株クラブは?
そして、この「マネーフットボールリーグ」では、単に各クラブのランキングを策定するだけに留まらず、その傾向についての分析も詳細にされているのですが、その中には、世界のサッカーマーケットが近未来にどう変化する可能性があるのか、或いは現状、欧州クラブで埋められてしまっているランキング上位に、食い込む可能性のある第3勢力はどこなのか、などについて触れられている部分もあり、日本のフットボールカルチャーの行く末を憂う身としては、それらが非常に興味深い内容となっています。
「マネーフットボールリーグ2018」では、『将来のマネーリーグ入りが期待される2つのクラブ』として、アメリカ、MLSのアトランタ・ユナイテッドFCと、中国スーパーリーグの広州恒大が取り上げられています。
実は、この2つの「有望株クラブ」の現在地と将来に向けた課題が、非常に対称的な内容で、そこから日本サッカー、そしてJリーグクラブのあるべき将来像を考えさせられもしたので、それを少し書いていこうと思います。

デロイト「マネーフットボール2018」の数値より作成
この円グラフはあくまでも、クラブ収入の中に占める「入場料収入」「放映権収入」「商業収入」の割合を表わしたもので、全体の予算が広州恒大のものしか公開されていません。(ちなみに広州恒大の2016年収入は約7600万€。日本円にすると約9000億円です。Jクラブと比較すると、とてつもない金額ですが、世界ランク20位クラスの4割にも満たない金額です。)その為、全体の経営規模で両者を比較するのは不可能ですし、MLSの平均的なクラブ収入額はJ1クラブのそれとほぼ同レベルであるとされている資料も確認出来ましたので、むしろ比較しない方がいいくらいかも知れません。
ただ、その割合傾向の違いは、あまりにも一目瞭然で、アトランタ・ユナイテッドが収入の半分を「入場料収入」で賄っているのに対して、広州恒大の収入は「商業収入」で占められています。
そして、この「広州恒大の商業収入」のほとんどが、国家予算とも見まがうような莫大なスポンサー収入であることも、容易に想像が出来るのです。
Jクラブの収入構成比を示したデータは、この「マネーフットボールリーグ」資料内にはありませんでしたが、2017シーズンのJ1クラブ売上構成比をそれぞれ見てみると、全クラブで「商業収入」にあたる「広告収入」の比率が最も高い傾向が見られ、売上高の低いクラブになるほど「入場料収入」が「Jリーグ配分金≒放映権収入」と拮抗する傾向も見られました。
つまり売上構成比においては、売上高の高いクラブがアトランタ・ユナイテッド型、低いクラブになればなるほど広州恒大型の円グラフが出来るのです。
ただ、最も「広州恒大」的な構成となっていたのは、楽天マネーが投下されたヴィッセル神戸で、売上高はリーグ2位でした。
より将来性を感じるのは
デロイトの「マネーフットボールリーグ」は、世界中のクラブやその関係企業から経営数値に関する資料を集めることで成立している側面があるので、その分析を読んでいてもほとんどネガティブな書き方がされていません。
つまり、この「マネーリーグ」に登場することが、ひとつのステータスとなっていけば、彼らが会計コンサルなどで関係性を構築出来るビジネスパートナーはどんどん拡大していくわけで、この『将来のマネーリーグ入りが期待される2つのクラブ』という企画についても、多分にそうした下心があることは承知の上で見る必要もあります。
ただ、私はこの両者を見た時に、単純にその将来性、持続性を強く感じたのは、MLSのアトランタ・ユナイテッドFCの方でした。
彼らはまだ、欧州のトップリーグ、或いはUEFAチャンピオンズリーグのような、莫大な「放映権」による恩恵を受けていないのに、現実的に「入場料収入」をクラブ収入の50%にまで持っていくことが出来ているのです。
アトランタ・ユナイテッドの2017シーズン平均観客動員数は48,200人。これは広州恒大の2017シーズン平均観客動員数45,587人を凌ぐ規模ですし、どのJクラブも成し遂げたことがない領域の平均観客動員規模です。
「マネーフットボールリーグ」には、「アメリカは各種プロスポーツの人気が高く、(サッカーの)欧州5大リーグに対する関心も高いという課題はあるが、一方で観客数71,874人というMLS記録を2017シーズンに生み出すなど、大きな需要の高まりを感じる」と、アトランタ・ユナイテッドFCの将来性についてコメントがされています。
10年後に変わらず存在しているとは限らない
翻ってJリーグの現状を考えると、一部の「大実業団クラブ」は別にして、それ以外の多くが「商業収入=スポンサー収入」でも「入場料収入」でも苦戦し、頼みの綱とばかりにDAZNの資金投入による「理念強化配分金」に一縷の望みを託すような、そんな他者依存体質が新たに産み落とされている感は否めませんし、そこだけに出口を求めてしまえば、早晩、立ち行かなくなってしまうクラブも出てくるように、私は思えてなりません。
いくら欧州のビッグクラブが、その放映権料で大金持ちになっているからといって、世界中で大人気のコンテンツであるプレミアリーグやラ・リーガの放映権料がどんどん高騰の一途を辿っているのに対し、DAZNが現在Jリーグに投資している放映権料が先行投資の側面を持っているのは明らか。
つまり、DAZNマネーは、全く盤石じゃないのです。
私は今回、デロイトの「マネーフットボールリーグ」を改めて見直してみて、Jリーグの将来を作るのはやはり「観客動員力」が先ず初めにあるべきだという思いを強くしました。
アメリカMLS、中国スーパーリーグ、そしてJリーグ。
これら「フットボール第3世界」のリーグが、10年後に変わらず存在しているとは限らないのです。