「神奈川県にはJチームが少し多すぎる」のか?

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中村俊輔 横浜へ帰る

中村俊輔選手の横浜FC移籍。

これまでに数々の伝説を演出してきた英雄も既に41歳。

ここ数シーズンは怪我などから十分な出場機会も得られず、そのキャリアが終焉へと近づいていく中、自分を育てた町でプレーする道を選んだのは単に‟巡り合わせ”だけでは無かったでしょう。

そんな中村俊輔選手の移籍を『J1からJ2という異例の移籍』と評し、そこからJリーグの『地域密着』について課題提議のされているある短いネット記事が、ちょっとした物議を呼んでいるようです。

当該記事全文はコチラから

神奈川県にJチームは多すぎる?

Yahoo!のニューストピックスにも掲載されたこの記事は『”レジェンド”中村俊輔が横浜FCに移籍。神奈川県にはJチームが多すぎる!?』というタイトルがつけられ、横浜DeNAベイスターズを僅か5年で完全に黒字化させ、現在はJリーグ特任理事でもある池田純氏の中村俊輔選手移籍に対する所感を言葉で綴りながら構成されています。

その言葉は

「地元に戻ってきたのはいいことだと思います。横浜FCのファンは大喜びでしょうが、マリノスのファンは納得できるんでしょうか?」

から始まり

「中村選手にとっては、地元に帰ってきたという思いはあるんでしょうね。でも神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします。J1にマリノス、川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、J2に横浜FC、さらにJ3にもSC相模原とY.S.C.C.横浜があります。もちろん人口も多く、面積も広い県ですが、少し多いかなと感じています。私がベイスターズの社長になったとき、まず神奈川県の人、特に子どもたちにファンになってもらおうといろいろな企画を行いました。プロ野球は1球団しかないのに、それはそれで大変だったんです。チームが増えて、ファンの数が増えるならいいのですが、ファンの取り合いになってしまうようなら逆効果になってしまうかもしれません。」

「これからJリーグがさらに盛り上がっていくために中村選手のような存在は必要不可欠。彼のような選手が幸せに選手生活をまっとうできるようなリーグこそ、地域密着といえるのではないでしょうか。」

と続いていくわけですが、もともとマリノスで生え抜き選手(厳密に言えばユース期は桐光学園に行かざるを得ませんでしたが)として活躍した中村俊輔選手が、「横浜へ戻る」とは言ってもその移籍先がマリノスではなく横浜FCであったことに対し「自チームの英雄の最後の花道をマリノスは用意できなかったのだろうか」と記事筆者は述べています。

「神奈川県にJチームは多くはない」と言えない辛さ

率直に言えば、この移籍を「J1からJ2という異例の移籍」と認識しているところには私も若干の違和感を覚えなくもありませんでしたが(例としてブラジルの選手が欧州で活躍した後に母国の出身クラブへ戻ることを挙げていますが、これも言ってみればカテゴリーを下げていると言えるでしょうし、そもそもそうした移籍は‟異例”でもなんでもない)より大きな物議を醸すことになった池田氏の言葉「神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします」という部分については「Jリーグの特任理事にもなっている人からこういう意見が出てくるようになったか」と、どちらかと言えばこれを歓迎する気持ちにすら私自身はなっていたのです。

「神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします」

確かにこの言葉だけを切り取れば、特に後参の「Jチーム」を応援しているファン・サポーターの中には不快に思われる方が出てくるかも知れません。

SC相模原やY.S.C.C.横浜のように、地域リーグからJFLと、激戦をくぐり抜けやっとJクラブにまでなることが出来たチームのファン・サポーターにとっては、その道中で感じてきた悲喜こもごもが全て「少し多すぎる」の一言であっけなく一蹴されてしまうような気分にもなるでしょう。

ただ、ここで池田氏の話す『神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします』は、あくまでも自身が深くかかわり、しかも長い歴史の中でも特筆すべき成功を勝ち取ったプロ野球の世界と比較しているのは明らかで、しかも実際に神奈川県に存在している6つのJクラブがいずれもベイスターズと肩を並べる経済規模、世間に対する影響度合いを持てていないどころか、同じプロスポーツ興行として単純に比較するのが難しいほどの実情でもあるわけです。

つまり、「神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします」この言葉に対して脊髄反射的に反論をしたところで、「神奈川県にはJチームが決して多くはない」と返すだけの反証が著しく欠如してしまっているのですから、少なくともその実態については断片的にでも認識しておく必要があるのではないでしょうか。

ということで、Jリーグが公にしている数値データの中で、比較的信頼度の高い「観客動員数」をもとにして、「神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします」であるのか「神奈川県にはJチームが決して多くはない」であるのか、これを少しだけ深掘りしてみようと思います。

神奈川県のJクラブ観客動員推移

グラフ1 神奈川県のJクラブ 観客動員数推移(J.League Data Siteの数値をもとにグラフ作成)

『グラフ1 神奈川県のJクラブ 観客動員数推移』は神奈川県のJクラブ(後に東京移転したヴェルディ川崎、消滅した横浜フリューゲルスも含め8クラブ)のホームゲーム観客動員数データを1993年~2018年までの推移で表したグラフです。

これを見るとJリーグがスタートして間もない1995年の1,847,878人(V川崎、横浜F、横浜M、平塚(現湘南)の4クラブ)を頂点に、神奈川県のJクラブにおける観客動員数は一気に下降線を辿り、(この傾向は神奈川だけに見られるものではありませんが)日本代表が初めてW杯本大会に出場した1998年に僅かなV字回復を見せるも、その後再び下降。日韓W杯が開催された2002年以降は微増傾向が見て取れますが、それでもピーク時の観客動員数に迫るレベルには全く達していないことが分かって頂けるでしょう。

つまりJリーグが創設以来エクスパンションを常態化させてきた中で、その効果が観客動員にも見られたのは僅か数年、つまり1995年までであって、その後は単に観客動員力の乏しいJクラブを増殖させて来たに過ぎないと、そういう捉え方をするのが正確であるように思うのです。

まさにこうした実態も池田氏の言葉の中にある『チームが増えて、ファンの数が増えるならいいのですが、ファンの取り合いになってしまうようなら逆効果になってしまう』を部分的に裏付けてしまっているのかも知れません。

と少々厳しい物言いをするのには、少なくとも神奈川県のJクラブ観客動員数推移の中で、2002年以降の微増傾向をもたらせている主要因が川崎フロンターレの観客動員力向上に頼ったものであると、気がついたからです。

川崎フロンターレを除くと・・・

グラフ2 川崎Fを除いた数値との比較(J.League Data Siteの数値をもとにグラフ作成)

「神奈川県のJクラブ観客動員数が2002年以降微増傾向にある主要因が川崎フロンターレの観客動員力向上に頼ったものである」

これはグラフ2に如実に現れています。

川崎フロンターレがJリーグに昇格した1999年当時から2018年までの間で、川崎フロンターレを除くと神奈川県のJクラブ観客動員数の微増傾向は明らかに鈍化していることが分かります。

これが仮に川崎フロンターレ以外のクラブも順調に観客動員数を増やしているのであれば、さらに言えばそもそもJクラブの数が増えているのだから、「Jチームは多すぎない」の裏付けを取ろうとした時に、神奈川県の全Jクラブ観客動員数の合計値(赤)と川崎フロンターレを除く合計値(白)とがこれほど乖離してしまうことも無いはずです。

これらの実態を鑑みると、池田氏の「神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします」という指摘は、間違っているどころかJリーグの最も大きな課題を突いているとしか言いようがありません。

反証材料を創り出す

だからと言って私は「Jクラブは多すぎるから減らせ」とは考えていませんし、そんなことをすればJリーグそのものの存続に危機を及ぼしてしまうとすら思っています。

ただ、かつてのベイスターズのように赤字を垂れ流しているだけのプロスポーツであれば、そんな危機感を持っていようがいまいが、荒廃の波に抗うことなど到底出来ないでしょう。

かつてガラガラだった横浜スタジアムは今やスタンドを大きく増築し、様々なニーズに対応すべくスタジアムに集まってくる人々の属性まで大きく変化したと言われています。

その中には何十年もスタジアムで応援し続けてきた生粋のベイスターズファンもおられるはずですが、それを遥かに凌駕する数の観客がスタジアムに集まってきたからこそ、ベイスターズは未来を得ることが出来た。

「神奈川県にはJチームが少し多すぎるような気もします」という指摘がされた時、それに対する反証を私は残念ながらまだJリーグに見い出せていません。

ただ1つだけ確信しているのは、その反証材料は決して与えられるものでは無く、ファンであれ選手であれスポンサーであれ、Jリーグに何らかの関りを感じている人、つまり自分たちが創り出していくものであるということです。

要するに大事なことは「多すぎる・多すぎない」では決してない。

その時に『地域密着云々』だけでは弱いようにも思います。

Jリーグの必要性をあらゆる面で高めていくことをしていかなくてはならない。

自分にとってJリーグとはどんな存在であるのか、どうして大切に思っているのか、そしてそれらが多くの人にとって共感出来る価値であるのか。

そうした作業に対し本気で向き合う覚悟が必要なはずです。

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