闘将 流経大中野雄二監督の提言 最終回「JFLとJ3と大学サッカーと新しい枠組み」

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闘将 流経大中野雄二監督の提言 最終回「JFLとJ3と大学サッカーと新しい枠組み」

流通経済大サッカー部 中野雄二監督(2019年7月 RKUフットボールフィールドにて)

JFLが全国リーグである必要性

ー社会人や大学生が互いに切磋琢磨するリーグとして、地域リーグやJFLが存在していますが、中野監督は現在のJFLを率直にどう思っておられますか、具体的にはJFLは全国リーグであるわけですが、掛かる経費なども含め、JFLは全国リーグである必要があるのでしょうか。

『全国リーグでやる意味はないですよね。

J3を認めているわけじゃないけれど、J3を作った時点でJ1~J2~J3のピラミッドが1つあるんですよ。で、JFLのピラミッドって言うのはアマチュア47FA(47都道府県サッカー協会)から始まるもう1つのピラミッドで、これが大きな1つのピラミッドとしては評価されていないんです。

2つのピラミッドなんですから、なにもJFLを全国リーグじゃなくて、東日本、西日本なのか、東、中、西なのか、それはいろいろ考える必要がありますけど、経費のことを考えたり移動時間を考えたら、まああまり既存のやり方に捉われずに枠組みを決めて、そこに大学チームが自由に参戦出来てもいいんじゃないかと、スケジュール調整は必要ですよ、だけどそこに例えば流経大サッカー部の本体が、大学リーグの日程と被らないようにして参戦してもいいんじゃないかとは思いますよね。

現実的にこの間松江まで行って、飛行機使って時間も掛かるじゃないですか、それはそれで1試合をしてくることが良いって考え方もあるけれど、松江まで行ってあの試合の内容で(流経大ドラゴンズはこの松江遠征で松江シティを相手に、2-0から2-4の大逆転負けを喫した)負けて意味あるのかなと、凄く経費を無駄遣いしているなという実感もありますよ。

既存の全国リーグ方式でなくても、このカテゴリーのリーグ戦を活性化させるために、どういう青写真を示せるかが重要でしょうね。』

ー経営資産も乏しくチーム強化も出来ていないクラブが参加するリーグとして別の枠組みがあってもよいと。

『ユース世代でも今のプレミアリーグが、入れ替え戦はあると言っても同じチームがただ入れ替わっているだけになっていて、※林先生とも大学1年生をプレミアリーグに何チームか入れて、っていうのをやってみたいよねと、スケジュール調整は必要だけどと、そういうのも同じような考えなんですよ。

ただその方向が大学だ社会人だと考えるのではなく、いかに活性化させるかが重要で、物事を変えていくことで現状課題になっている集客についても改善されていくかも知れません。でもやっぱり既存のやり方を保守的に考える人たちがどの連盟にもいて、これをどうやって説得していくかが重要なんです。』

プロだかアマだか分からないような環境

ーJリーグが作った規定に準ずるようなJFLの在り方、リーグ開催可能なスタジアム規定などについても、価値観をグルっと変えていく必要があるのかも知れませんね。

『僕はやっぱり同じ年代とばかり試合をするのは選手の成長も妨げていると思うんですよ。

日本はアジアで苦戦するじゃないですか、どう見たって日本の方が1人1人のスキルが高いのに、簡単に勝てるアジアの国ってないですよね。でもやっぱり文化の違いとか、身体の作り方とか、使い方の違いっていうのはサッカーには凄く影響があって、ウチがJFLやってても、何でこの伸び盛りの若手がこのオッサンたちに負けちゃうんだろうっていうゲームはいっぱいあるんですよ。でもそれって経験値の違いとかそこが重要なんです。特に大学生なんかは年代的に上の社会人と数多く試合をやった方が、天皇杯予選を見ても大学チームが社会人チームを圧倒して勝つことってあまりないんですよ。結構どの試合も接戦なんですよ。それくらい違うカテゴリーの人と試合をやるっていうのは難しいんです。

10年以上前の頃は、大学リーグにも社会人リーグにも1人の選手が両方に出場出来る規定で、JFLや地域リーグにも出た選手が、その経験値を以てそのまま大学リーグに挑めたから、流経大も強かったんです。今は別チームでってなっちゃっているから、そこも課題なんですね。

まあ一つは、ガイナーレ鳥取がJリーグに昇格出来そうだったシーズンに、JFL最終戦で龍ヶ崎にテレビ局が何社も来て、ウチに勝てば昇格だったんですけど、その1週前に大学リーグは終わっていて流経大のバリバリのメンバーがその試合に出場して勝っちゃったから、ガイナーレがその年に昇格出来なくなっちゃったんですよ。それでガイナーレ側が「大学は1軍出したり3軍出したりするのは不公平だ」と。

僕らからすれば1軍だろうと3軍だろうと、大学のアマチュアチームを相手に勝てないクラブがJリーグに行ってどうすんだよと、よくホンダがいるからとか言うんですけど、ホンダさんとか流経大に勝てないクラブが上に行っちゃダメでしょって思うんですけど、その年に上がらないとスポンサーが撤退するとか、置かれている状況がみんな厳しくて。

あるJFLクラブの方がわざわざ龍ヶ崎まで「中野、次の試合悪いけど3軍で来てくれ」って言いに来たこともありますよ(笑)』

―そこまで無理してJリーグに上がったとしても、結果的に選手に対して十分な報酬も支払えていないJクラブが現実存在しているわけですね。

『中途半端にプロだかアマだか分からないようなリーグでプレーするのであれば、JFLやJ3も含めた中で既存とは異なる新たな枠組みでリーグ戦を作った方が、選手たちも就職してサッカーをやるんだと充実感を感じながら生涯的にサッカーを考えられるんじゃないかと、そういう風にも思えますよね。』

ー改革というものは、何もスクラップ&ビルドということだけではなく、社会状況に合わせて、現状のサッカー世界が一体誰の幸せに繋がっているんだと、そこにもっと力点を置いていく必要があるのでしょうね。

後記

流通経済大サッカー部中野雄二監督のロングインタビューを7回に渡って書いて参りました。

これでも実際のインタビューの全てを網羅は出来ておらず、龍ヶ崎で中野監督にお話し頂いたあの時間がいかに濃厚なものであったのかを改めて実感させられております。

今回のシリーズの中で、中野監督の言葉については実際のお話を出来るだけそのまま、言葉遣いや表現も含め再現することに注力致しましたが、聞き手側の言葉についてはその主旨をなるべく短い言葉に集約させて頂いたので、今後このインタビューが映像として世に出た時には若干のギャップをお感じになるかも知れません。

ただ、いずれにしても中野監督の話された日本サッカー界に対する数々の提言が、サッカー界にも存在する圧倒的な保守勢力を前になかなか前進させられていないことについては、読んで下さった皆様にもその温度感を共感頂けたのでは無いでしょうか。

「サッカー界に生きる人たちがより幸せであって欲しい」

中野監督の提言の根には常にこの思いがあって、長きに渡って大勢のサッカーマンを世に送り出しているからこそ、戦ってもおられる。

シリーズタイトルの頭に「闘将」という言葉を敢えてつけさせて頂いたのは、そんな中野雄二監督の姿勢を表現したかったからでもあります。

 

※林先生【林義規】

日本サッカー協会競技委員会委員長

現在JFA管轄で行われている高円宮杯プレミアリーグを頂点としたユース年代におけるリーグ戦方式大会の基となった「関東スーパーリーグ」創設(1997年)にあたって、その構想・立案を本田裕一郎(当時習志野高監督)布啓一郎(当時市立船橋監督)とともに行った。

日本サッカー協会理事

東京都サッカー協会副会長

暁星高校サッカー部監督

 

【中野雄二(なかのゆうじ)】

1962年東京都出身。

高校1年時、3年時に古河一高で全国高校サッカー選手権大会優勝。(3年時は主将)

法政大では2年時に総理大臣杯優勝。(4年時は主将)

大学卒業後、1985年より水戸短大附属高(現水戸啓明高)に教諭として赴任。サッカー部監督も務め、弱小チームだった同校サッカー部を5年後には県準優勝にまで導く。

1991年、プリマハムに社員として勤める傍ら、プリマハム土浦FCの前身プリマハムアセノFCのコーチとなり、チームがプリマハムの単独出資となった1992年以降は監督となる。

同年茨城県社会人サッカーリーグで優勝、1994年に関東サッカーリーグ昇格、1996年に全国地域サッカーリーグ決勝大会(地決)で準優勝し、チームはJFL昇格を果たす。

1996年シーズンが終わると、プリマハムがプリマハム土浦FCの運営から撤退。当時茨城県リーグに所属していた水戸FCと統合する形で1997年に誕生した水戸ホーリーホックで監督と常務取締役を担うも、チームがJFLで最下位となり1シーズンで辞任。

1998年にかねてより要請のあった流通経済大サッカー部監督に就任。以来大学サッカー界を牽引する指導者として、数多くのサッカーマンを世に送り出している。

流通経済大社会学部教授、全日本大学サッカー連盟副理事長、関東大学サッカー連盟副理事長

 

闘将 流経大中野雄二監督の提言 第1回「大学サッカーと高校サッカー」

闘将 流経大中野雄二監督の提言 第2回「水戸ホーリーホック時代と反省」

闘将 流経大中野雄二監督の提言 第3回「プロサッカーと社会人サッカー」

闘将 流経大中野雄二監督の提言 第4回「Jリーグ拡大路線と選手へのしわ寄せ」

闘将 流経大中野雄二監督の提言 第5回「大学チームの社会人リーグ参戦」

闘将 流経大中野雄二監督の提言 第6回「練習試合は練習試合でしかない」

 

 

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