闘将 流経大中野雄二監督の提言 第6回「練習試合は練習試合でしかない」

流通経済大サッカー部 中野雄二監督(2019年7月 RKUフットボールフィールドにて)
練習試合は練習試合でしかない
ー大学チームが社会人リーグに参戦することのメリットが、単に「チーム数の減少」という社会人連盟側の課題を補完するレベルにとどまってしまっているように思えるのですが
『社会人リーグ側の力は落ちてきていると僕は感じています。
プリマハムで関東社会人リーグもやらせてもらったり、当時はJFL昇格に向けて地決(現 地域サッカーチャンピオンズリーグ)にも出場しました。それ以降も地域リーグのサッカーは見てきましたし、現在も流経大FCが関東1部でやっていて、この間も栃木シティさんがここへ来てリーグ戦があったので見ますよね。
当然名前だけ見たら元Jリーガーがこれだけいるとか、名前だけで見たら凄いんじゃないかなって思っていても、いざやってみると昔よりレベルが上がっているかと言えばそうでもないかなと、そんな気がします。
ただ、僕の頭の中では社会人とか大学生とかっていう枠はあまりなくて、例えばどこかに試合しに行って2軍を出されたら、絶対に1軍を引きずり出してやろうと思うんですよ。例えばマリノスに試合しに行きましたと、当然1.5軍が出てきたと、前半3-0でウチが勝ってたら相手が「レギュラー出すしかないだろ」っていう状況を作りたいんです。
やっぱりなんて言うんでしょうか、「強い人」とやりたいんですよ。
喧嘩でも将棋でも何でもいいんですけど、弱い人と100回やって100回勝っても誰も評価してくれないだろうと、自分より優れた人をやっつけるから「中野は凄いな」と思われるわけじゃないですか。
だから、これは漫画チックな考え方なんですが、カテゴリーの下のチーム、例えば高校生のチームが5万円払って流経大に試合が申し込めると、道場破りじゃありませんけど。(笑)流経大はこの試合に2軍を出そうと1軍を出そうと自由、その代わり上位のチームが負けたら倍の10万円を払わなくちゃいけないっていう風にしておけば、もし前半負けてたら、絶対負けちゃ困るメンバーを出すしかないじゃないですか。流経大が浦和レッズに試合を申し込んだと、当然浦和レッズが勝ったら5万円は浦和レッズが貰えるんです、でも何軍を出したとしても流経大が勝てばその時は10万円払わなくちゃいけないと、そういう仕組みにして、より自分たちよりも強い相手に下の人間が申し込めるようにした方が、本気度が変わってくると思うんです(笑)
こういうことは教育的じゃないと言われてしまうかも知れませんが、本気になっていない限り、練習試合なんて何試合やっても練習試合でしかないんです。
よく大学選抜がヨーロッパ遠征したりして、お金を払ってバルサの3軍と試合組んだりしますけど、バルサの3軍とやったってなんの意味もないですよ。結局、練習試合は練習試合でしかないから無理しないし。
だから、オリンピックやW杯で選手が伸びるっていうのは、コンディションが悪かろうが、上手くいかなかろうが、勝ちたいと思う人間同士のぶつかり合いだから、そこで生まれる本気度があるから、成長するんですよ。一方が本気じゃないと、どんなに片一方が本気でも「どうせ練習試合なんだから負けたっていいよ」っていうプレーをされたら成長は出来ないですよ。』
「本気度」を試合の中に作る重要性
ーリーグの公式戦で大学チームが社会人チームと対戦するからこそ、そこに「本気度」が生まれリーグ自体も活性化するということでしょうか。
『ただそこで社会人とか大学っていう風に考えてきたけど、サッカー界全体のレベルを上げていく為に、一緒にやって上がっていくものであれば一緒にやれる大会を作ればいいんじゃないかと思いますよ。
既存のリーグはそれぞれの連盟で週末にリーグ戦をするのであれば、例えば水曜日にナイターでやるとか、もちろん水曜日のナイターであってもアウェイだと午後の授業には出られないとか、社会人の人であれば年休を取らなくちゃならないとか、いろいろなことはあるんですよ、でもそれでもサッカーが好きで、そうしてでもやって行こうよって思うのなら、やる意義は十分にあるんじゃないかと思います。
本気で向かい合ってこそなんです。
僕この仕事やってて、練習試合は本当に意味がないなって思ってるんです。やっぱり人間って失うものがあるから本気になるじゃないですか。例えば麻雀やっても、いやこれは良いことじゃないですけどね(笑)お金懸けないで麻雀やってたら、リーチしたってなんだって真剣味ないですよね、やっぱり負けたらお金払うっていうのがあるから一生懸命やりますよね(笑)
本気度をどうやって作り出すか、これは環境づくりと一緒で、だって欧州チャンピオンズリーグも、あれは勝ち上がれば何億貰えるとか、グループリーグでも3位と4位とでは貰える金額が違うとか、その本気度の中でやるから、消化ゲームなんて1試合も無いんですよ。
今僕が例に出した話は教育的にどうなんだって言われてしまうかも知れませんが、この本気度を作るっていうことは重要なんですよ。』
ー本気で向かい合える試合の機会を増やすことが、社会人、学生を問わずサッカー界に必要なことなのかも知れませんね。
『社会がどんどん利益だけを優先して、家族構成や地域コミュニティの形が変わって行ってしまっている中で、サッカー界も同じようなことが起きてきているように感じています。例えばこの龍ヶ崎にも少年サッカーチームがいくつかあるんですが、「中野さんのサッカースクールをRKUフットボールフィールドでやればそれなりの収益が出せるよ」と言われても僕は絶対にやらないんです。それをやっちゃうとこのエリアにある少年サッカーチームはいずれ潰れちゃうんですよ、僕はそこに配慮しているんです。
つまりサッカー界の将来を考えた時に、共存共栄でどうやって発展してくか、それを考えないと結局はどちらも苦しむことになりますよね、リーグ戦文化にしたのはいいけど、土日はグラウンドの取り合いになっちゃってて審判も足らない、だったらプロが試合をする日とアマチュアが試合をする日をずらすとか、大学リーグなんてプロと同じ日に興行を打ったって、マスコミの人だってみんなプロの方に行くし、よっぽど大学サッカーを好きな人しか見に来ないですよ。』
ー社会人や大学生が互いに切磋琢磨するリーグとして、地域リーグやJFLが存在していますが、中野監督は現在のJFLを率直にどう思っておられますか、具体的にはJFLは全国リーグであるわけですが、掛かる経費なども含め、JFLは全国リーグである必要があるのでしょうか。
『全国リーグでやる意味はないですよね。~
【中野雄二(なかのゆうじ)】
1962年東京都出身。
高校1年時、3年時に古河一高で全国高校サッカー選手権大会優勝。(3年時は主将)
法政大では2年時に総理大臣杯優勝。(4年時は主将)
大学卒業後、1985年より水戸短大附属高(現水戸啓明高)に教諭として赴任。サッカー部監督も務め、弱小チームだった同校サッカー部を5年後には県準優勝にまで導く。
1991年、プリマハムに社員として勤める傍ら、プリマハム土浦FCの前身プリマハムアセノFCのコーチとなり、チームがプリマハムの単独出資となった1992年以降は監督となる。
同年茨城県社会人サッカーリーグで優勝、1994年に関東サッカーリーグ昇格、1996年に全国地域サッカーリーグ決勝大会(地決)で準優勝し、チームはJFL昇格を果たす。
1996年シーズンが終わると、プリマハムがプリマハム土浦FCの運営から撤退。当時茨城県リーグに所属していた水戸FCと統合する形で1997年に誕生した水戸ホーリーホックで監督と常務取締役を担うも、チームがJFLで最下位となり1シーズンで辞任。
1998年にかねてより要請のあった流通経済大サッカー部監督に就任。以来大学サッカー界を牽引する指導者として、数多くのサッカーマンを世に送り出している。
流通経済大社会学部教授、全日本大学サッカー連盟副理事長、関東大学サッカー連盟副理事長