闘将 流経大中野雄二監督の提言 第1回「大学サッカーと高校サッカー」

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流通経済大学サッカー部。

これまでに優れたJリーガーを何人も輩出しているこの大学チームをその基礎から作り上げてきた中野雄二監督。

部員の総数は200人以上にものぼり、毎年約50人もの卒業生を送り出しているこのサッカー部は、一見「Jリーガー養成所」として存在しているように見えますが、それはあくまでもその特性の片側であって、実際には「Jリーガーにはならない(なれない)大勢のサッカーマン」を社会に送り出している機関でもあるのです。

そんな、日本サッカーの未来を創っていくであろう、或いは「創っていくと思われた」若者を既に1000人以上送り出してきた中野雄二監督が、流通経済大が浦和レッズと戦った天皇杯2回戦が行われた日の前日、龍ヶ崎のRKUフットボールフィールドにおいて、ロングインタビューに応じて下さいました。

約4時間に渡ったインタビューの中で中野監督が話された「日本サッカー界に対する提言」の数々は、必ず近い将来に映像でも表に出るはずですが、それを待たずして、一人でも多くの方に知っていただくために、このブログ内でも文字起こししていこうと思っています。

中野監督の提言は、「日本サッカー界がもっと幸せな世界であって欲しい」という大テーマが常に前提にあるものばかりでしたが、お話の内容については、大学サッカー界の話にとどまらず、日本サッカー界にある様々な状況、現象に向けられたものであり、とても1回のブログ記事でお伝え出来るような情報量ではありません。

読んで下さる方に伝わりやすいよう、私なりにテーマ分けをさせて頂きますが、中野監督の言葉を極力そのままに表現させていただくつもりです。

では、早速、シリーズ第1回目に参りましょう。

闘将 流経大中野雄二監督の提言 第1回「大学サッカーと高校サッカー」

流通経済大サッカー部 中野雄二監督(2019年7月 RKUフットボールフィールドにて)

大学サッカーには「舞台」がない

『僕が今、流経大の監督として大学サッカーの指導者であるから余計にそう感じるのかも知れませんけど、高校サッカーって、あの高校選手権というものが、若者たちにとって「テレビに出たい」とか「彼女にいいところを見せたい」とか、要するにそういう舞台があるから、監督にどやされようが、苦しい練習をしようが、あの舞台に立ちたいっていう思いがあるから、みんな必死に頑張ってくるんですよ。

あの舞台を経験して、何万人っていう観客の前でプレーすることによって、日頃できなかったようなことも、あの舞台だと出来ちゃうんです。矛盾するような言い方ですが「練習で出来ないことは試合でも出来ないだろ」って僕もよく学生に言うんですけど、あの舞台だと出来ちゃうんですよ。つまりああいう雰囲気、舞台をちゃんと作っているから、選手たちも自分の力以上のものが出せる。これは、W杯であってもオリンピックであっても一緒で、その舞台が選手の能力を引き出すっていうのは、どのカテゴリーであっても言えますよね。

そうやって考えた時に、日本サッカー界は「大学サッカーは大切だ」と、ことあるごとに言う割には、大学サッカーにはそういう舞台がないんですよ。もちろん、インカレとか大学リーグとかはあるんですけど、一般的な認知度がほとんどないから「大学サッカーっていつやってるの?」となってしまっています。

日本サッカー協会(以下 JFA)が、もっと大々的に大学サッカーをもっとドーンと表に出せないのかと。

例えば、お金は掛かりますけど、山手線に乗ったらラッピング広告があるじゃないですか。あそこで「第〇回インカレ決勝〇月〇日決戦!」とか言うのでラッピングしたらとか、よく渋谷の駅前などに広告トラックが何週も回っているのとかあるじゃないですか。そういうのを大学サッカー連盟だけの力では限界があるから、JFAの公式サイトを開いたら「インカレ間近!」としてくれてもいいんじゃないかと。』

 

「やっぱりテレビの力」が考え方の主流

ー高校選手権についても、放映権を持っている巨大メディア側の力が主導で、JFAの力はそれほど注がれていないと思われますか?

『ちょっと勉強不足で、あそこで生み出された収益がどういう形で処理されているのかは分かりませんが、例えば試合会場なんかは、JFA全体で高校選手権の時期に千葉でも埼玉でも全部抑えるわけじゃないですか、でも大学選手権の時にそれをやってくれるかって言えば、そうではありません。

大学サッカー側の人に話を聞くと、ほとんど8割方の人が「テレビ局がついているかついていないか」というところを、ひとつの結論として出してきます。

一応今もテレビ朝日さんがインカレの決勝戦だけ中継してくれたり、BS放送でライブ中継してくれたりはありますけど、どちらかと言うとテレビ朝日さんが、JFAとの放映権年間契約の大枠の中で、おまけみたいな形でやっているのが現状です。

もちろん、毎日民放が地上波で放送していたジャイアンツ戦のナイターも、今は収益を出すのが難しいという背景があるわけですが、大学サッカー界の人たちは「高校選手権は日本テレビさんがついているから」と必ず言われるんですよ。それでテレビ局をどうにかしようっていう話になるんですが、民放の方たちは率直に「難しい。NHKに頼んだ方がいい」と、「大学スポーツを放送するのであればNHKが一番だよ」と、そう言われるわけですよ。

大学リーグでもインカレでも、人に沢山来て欲しいから招待券を配りますよね。招待券を配ってしまえば、収益は出ないじゃないですか。

僕個人は「招待券はゼロにしろ」という考えですが、今は何を優先するかと言えば「集客」そして「大学サッカーの認知度」であって、選手たちがそういう環境の中でプレー出来れば、もっと凄い成長があるんじゃないかと、現場を見ているとそう思うので、そういう舞台を作ってあげたい。

西が丘でも駒沢でも国立でも、満員の中でプレーをしたら、今大学サッカーにいる選手たちは、もっと凄いプレーをするだろうし、もっと急激な成長曲線を歩んでいくだろうなと思えるんで、先ずは人を集めるというのが第一で、じゃあどうやれば人を集められるんだとなった時に「やっぱりテレビの力だよね」と、どうしてもそういう考えが主流になってしまうんです。』

 

「サッカーだけが成功すればいい」には限界がある

ー中野監督はそれじゃ足りないと思われているということでしょうか?例えば仮にNHKがインカレの全試合を生中継したとしても、それだけでは受け取る人が増えないと、そうお考えですか?

『漠然とテレビで試合を流しただけでは、多分(それが)なんだか分からないんですよ。

だから、あんまり「高校サッカー」とか「大学サッカー」とか「プロ」とか分けて考えずに、ひとつの繋がりとしてアピールした方が、見ている人にとっては見やすいと思うんです。例えば試合も高校のプレミアリーグと大学リーグをセットでやったっていいじゃないですか。でもそこにはルール上の問題とか、有料試合にした場合、配分をどうすんだとか、そういうこともあると思うんです。

でも、やればいいじゃないですか。Jリーグと大学サッカーをセットにしてもいいじゃないですか。

これはサッカーだけじゃなくても、FC東京がサッカーを見た後、バレーボールを見るんだって言うのがあってもいいし、流経大の場合はラグビーも強いんで、サッカーの試合のあと、同じ会場でラグビーのリーグ戦を見れるって言うのも、ひとつの方法かも知れないですし。ただ、そういうことをやろうとすると、各連盟の内規というか、ルールがあって、それが壁になってしまうケースがあるんですけど、そこをもっと柔軟に考えて、スポーツ全体をアピールしていかないと。

日本は恐らく「サッカーオンリー」の国にはなりにくいんですよ。

日本人は順応性も高いし、世界一にはなれなくても、卓球でもバレーボールでもテニスでも陸上競技でも水泳でもバドミントンでも、と言っていったら世界でベスト8になれる競技が沢山あるんです。だから、ヨーロッパや南米にありがちな「サッカーが全てだ」という国にはなりにくい。

だからもっと大きい枠でスポーツというものを捉えていかないと「サッカーだけが成功すればいい」という考え方では限界があるかなと思います。でも、そのサッカー界の中にも、高校サッカーだ、大学サッカーだ、プロだっていう枠組みがあるわけです。』

第2回に続く

【中野雄二(なかのゆうじ)】

1962年東京都出身。

高校1年時、3年時に古河一高で全国高校サッカー選手権大会優勝。(3年時は主将)

法政大では2年時に総理大臣杯優勝。(4年時は主将)

大学卒業後、1985年より水戸短大附属高(現水戸啓明高)に教諭として赴任。サッカー部監督も務め、弱小チームだった同校サッカー部を5年後には県準優勝にまで導く。

1991年、プリマハムに社員として勤める傍ら、プリマハム土浦FCの前身プリマハムアセノFCのコーチとなり、チームがプリマハムの単独出資となった1992年以降は監督となる。

同年茨城県社会人サッカーリーグで優勝、1994年に関東サッカーリーグ昇格、1996年に全国地域サッカーリーグ決勝大会(地決)で準優勝し、チームはJFL昇格を果たす。

1996年シーズンが終わると、プリマハムがプリマハム土浦FCの運営から撤退。当時茨城県リーグに所属していた水戸FCと統合する形で1997年に誕生した水戸ホーリーホックで監督と常務取締役を担うも、チームがJFLで最下位となり1シーズンで辞任。

1998年にかねてより要請のあった流通経済大サッカー部監督に就任。以来大学サッカー界を牽引する指導者として、数多くのサッカーマンを世に送り出している。

流通経済大社会学部教授、全日本大学サッカー連盟副理事長、関東大学サッカー連盟副理事長

 

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