Jリーガーのプロ契約種別
流通経済大学サッカー部の中野雄二監督は、我々のインタビューに応じて下さる中で、こうお話されました。
『一回立ち止まって見直すことをしないまま、(Jリーグが)チーム数を増やすことだけに邁進してきてしまった結果が、ちゃんとした給与体系下にない選手を犠牲者のように抱えてしまっている原因じゃないかと私は思っています。』
いきなりですが、Jリーガーのプロ契約種別を簡単に書いてみます。
プロA契約
年俸上限なし
1チーム原則25人まで(J1は最低15人、J2は5人以上が条件)
新人選手がA契約を結ぶ場合は、初年度に限り出場給を含む報酬に700万円の上限あり(世代別日本代表、ユース世代の身分でJリーグ出場などの限定条件が揃っている選手)
プロB契約
年俸の上限は480万円
人数制限なし
プロC契約
年俸の上限は480万円
新卒入団後、以下に示す所定の出場時間をクリアしていない者がこれに該当
J1ー450分(5試合フル出場相当)
J2ー900分(10試合フル出場相当)
J3・JFL-1350分(15試合フル出場相当)
C契約選手がこの条件をクリアした場合A契約締結の権利を得る(A契約移行後、C契約降格は認められない)
4年目以降の選手についてはC契約を結ぶことは出来ない
これだけを書いてもイマイチその実態が掴みきれないと思うので、私の応援している柏レイソルの選手たちを例に出して深掘りしてみようと思います。
柏レイソル所属選手の契約種別
プロA契約選手(外国籍選手・期限付き移籍中選手除く)
- 桐畑和重
- 中村航輔
- 鎌田次郎
- 田上大地
- 古賀太陽
- 高木利弥
- 小池龍太
- 染谷悠太
- 上島拓巳(今季開幕後プロA契約締結)
- 中川創(今季開幕後プロA契約締結)
- 高橋峻希
- 小林祐介
- 大谷秀和
- 小泉慶
- 江坂任
- 手塚康平
- 村田和哉
- 菊池大介
- 山崎亮平
- 瀬川祐輔
プロB契約
- 滝本晴彦(柏レイソルU-18出身 2016トップ昇格)
プロC契約
- 猿田遥己(柏レイソルU-18出身 2018トップ昇格)
- 宮本駿晃(柏レイソルU-18出身 2018トップ昇格)
- 杉井颯(柏レイソルU-18出身 2019トップ昇格)
- 田中陸(柏レイソルU-18出身 2018トップ昇格)
- 山田雄士(柏レイソルU-18出身 2019トップ昇格)
2種登録選手
- 鵜木郁哉(柏レイソルU-18)
- 細谷真大(柏レイソルU-18)
ずらっと選手名を挙げてみましたが、この中に注目して頂きたい点がいくつかあります。
先ずひとつ目が「プロA契約」にカテゴリーされている、上島拓巳選手と中川創選手です。
この2人の選手はともに柏レイソルU-18出身の選手ですが、上島選手の場合はそこから直ぐにトップ昇格は出来ず、中央大学に進学。大学4年生時(2018シーズン)に特別指定選手としてトップチームに帯同していましたが、公式戦出場機会はなく、改めて新加入選手としてレイソルに加わった今シーズン、J2リーグで出場機会を得た、条件を満たした為、プロC契約からプロA契約へと「昇格」しました。
中川創選手はトップチームに昇格した昨シーズン、僅かではありましたがJ1リーグにも出場。今シーズンになって出場機会を増やし条件を満たした為、プロC契約からプロA契約へと「昇格」しました。
2つ目に注目して頂きたいのが「プロC契約」にカテゴリーされている選手たちです。
レイソルの場合、新卒の新加入選手をほとんど育成機関から加入させているので(上島拓巳選手のケースは例外的)中川創選手のようにトップチーム昇格後、1~2年のうちにプロA契約へと昇格する選手も珍しくなく、今シーズン既にJ2リーグで出場機会を得始めている宮本駿晃選手、田中陸選手、杉井颯選手などは、2019シーズン中にプロA契約締結の条件をクリアする可能性もありますが、プロC契約とは前述したように、あくまでも「新卒入団選手」を対象とした契約種別なので、3年と言う時限があります。
つまり、宮本選手と田中選手の場合は2020シーズンまで、杉井颯選手の場合は2021シーズンまでに、一定の出場実績を残さないと、柏レイソルに所属しながらプレーすることが難しくなっていくのです。
そこで3つ目に注目して頂きたのが、その3年と言う時限を越えても柏レイソルに所属している唯一の「プロB契約」選手。滝本晴彦選手です。
滝本選手はGK。
チーム内の序列では、中村航輔選手、桐畑和重選手に続く第3キーパーと言えるでしょう。
GKの場合、フィールドプレーヤーのように頻繁にスタメンの座が入れ替わることがありませんし、試合中に交代出場をする機会もほとんどありません。
そうしたポジション特性から、滝本選手はトップ昇格を果たした2016シーズンから2018シーズンの3シーズンでリーグ戦の出場機会はゼロだったのにも関わらず、「プロB契約」という立場で、柏レイソルに所属することが出来ていると取ることも出来るのです。(ちなみにその後日本代表にも選出された中村航輔選手の場合、トップ昇格後2シーズンでリーグ戦出場がなく、3シーズン目にアビスパ福岡へ期限付き移籍し、そこでリーグ戦出場実績を積んだことで「プロA契約」を勝ち取りました)
柏レイソルに見られるケースだけがJリーガーの実態ではない
柏レイソルの場合、今シーズンはJ2リーグに所属していますが、クラブが選手たちに支払っている年俸の予算規模がJ1クラブと同等(或いは一部のJ1クラブよりも予算規模が大きい)なので、それぞれの選手が締結しているプロ契約種別に違いはあっても、私たちが「Jリーガー」という言葉に対して持つイメージとの間に、それほど大きな乖離(かいり)を感じませんし、例えば現在はまだ「プロC契約」の選手であっても、彼らが侘しく見えたり、その将来に暗雲が立ち込めているように感じることもありません。
恐らくこれは、少なくとも柏レイソルに所属している「プロC契約」選手の全員が、Jリーグの定めるこの契約種別にある年俸上限480万円をクラブから支給されていると想像出来ているからで(実際にそうであるはずです)彼らがチーム練習を終えた後、どこかで食い扶持を得るべく別の仕事に従事するようなこともあり得ないからでしょう。
高卒や大卒の会社員で年収480万円は「最高!」ではありませんが決して悪くない額ですし、一緒に練習をしている先輩選手たちの中には1千万くらい貰っている人がゴロゴロいるわけですから「あと少しで俺も!」と彼らが考えたとしても、そこそこリアリティのある夢でもありますし、応援するファンやサポーターも「頑張って稼げよ!大きくなれよ!」と素直に思うことが出来るのではないでしょうか。
Jクラブにとって都合のいい「プロC契約」選手
もちろん、お金だけが大切だとは私も思っていませんが、少なくとも「Jリーガー」として生きている間くらいは、サッカーをするだけでも、普通の家に住んで、普通にご飯を食べて、国産車でいいから車に乗って、たまにちょっと高い服を買って、、、くらいの生活を担保された状態が「プロC契約選手」の日常であって欲しいし、それを実現出来る経済レベルでJリーグも存在していて欲しい。
こんな風に私が思ってしまうのは、J1やJ2の一部、つまり鹿島アントラーズや浦和レッズ、または柏レイソルでプレーしている選手たちだけを見ていると気がつきにくい部分で、「サッカーをするだけ」では、普通の家に住んで、普通にご飯を食べて、国産車でいいから車に乗って、たまにちょっと高い服を買って、、、を成し得ない状況にある「プロC契約」JリーガーがJリーグには大勢いるからなのです。
仮にもJリーグは「プロサッカーリーグ」と唱っているのです。現状のようなビジネスモデルが、この先更なる発展をしていくとは想像しにくいですよね。
では何故そんな実態が存在してしまっているのか、これについては原因が大きく2つあります。
1つ目はこの「プロC契約」には、年俸の上限が定められているのに、下限が定められていない。つまり年俸100円でも契約締結が出来てしまう仕組みになっているということです。
先日インタビューさせて頂いた、YSCC横浜の安彦考真選手がまさにこのケースに当たります。安彦選手は現在年俸120円でYSCC横浜との間に「プロ契約」を結んでいます。
そして2つ目は、J3クラブについてはJ1クラブやJ2クラブのように「プロA契約」選手を〇人所属させるという定めがないどころか、「プロ契約選手の保有人数を3人以上」と規定していながら、その契約種別については不問。つまり「年俸100円のプロC契約選手が3人」いればその規定を順守することが出来てしまうのです。
言ってみれば、Jクラブにとって「プロC契約」が非常に都合のいい規定でもあるわけです。
若いサッカー選手を事実上搾取しているJリーグ
流経大の中野監督は、こうもお話されました。
『Jリーグは新卒プロ契約選手の年俸上限を480万円と定めているが、この480万円を年俸の下限にするべき』
大勢のJリーガーを誕生させてきた中野監督にしてみれば「年俸100円」とは言わずとも、月10万の給料しか支払ってくれず、とてもサッカーだけで生活することの叶わない「ブラック業界」に教え子を送り出すことに決して気持ちの良さを感じてはおられないのでしょう。
『うちの学生もJ3が無かったら就職するんですよ。J3があるから1000人に1人とか10000人に1人とかの確率を求めてその中に飛び込んで行っちゃうんです。今大分にいる藤本憲明がJFLからJ3、J2、J1と上がってきて活躍していると話題になってますけど、彼みたいなケースはレア中のレア中のレア中のレアなんで(大学サッカー連盟の技術委員会で統計調査をしたところ)多くの場合、J1に行った子は5年後もJ1に変わらずいて、J3に行った子はJ3にいるんですよ。』
実際に、先で触れた柏レイソルのような状況にあるクラブは、50を超えるJクラブ中の多くて半分程度で、J2の下位~J3においては中野監督の言う「ちゃんとした給与体系下にない」選手がゴロゴロいるわけです。中には、いわゆる「トレーニング・フィー」つまり、獲得した選手の育成保証金すら支払えないクラブまで存在していること、そして最近問題化したJクラブ職員の残業代未払の実態なども併せて考えれば、もはや「何故そんなことになってしまっているのか」と問題提議する以前に
「若いサッカー選手を意図的に搾取しながら経営を成立させているJクラブと、それを後押しするJリーグ」
という構造が、依然拡大中のJ3リーグを介して、更なる「犠牲者」を生みだそうとしているようにしか見えなくなってきます。
そして、そんなJリーグの実情を直視しない限り、日本サッカーの体力は徐々に奪われ、ただただ疲弊していくのを待つだけになってしまうように、私は思います。
先ずはその現状を受け入れること。
これが必要なのではないでしょうか。
後記
今回は先日行わせて頂いた、流通経済大サッカー部中野雄二監督ロングインタビューの触り部分を引用させて頂きながら、Jリーガーの給料、年俸についての実情を書いて参りました。
中野監督にインタビューでお話頂いたテーマは多岐に渡ります。
今後も、何回かに分けて、それらを記事にしていく予定ですので、是非お楽しみにして頂ければと思っております。