なでしこジャパンのW杯敗退
サッカー女子 W杯敗退でプロ化に向けた議論加速へ
サッカー女子の日本代表「なでしこジャパン」のワールドカップでの敗退を受けて、日本サッカー協会が国内女子リーグのプロ化に向けた議論を加速させていく見通しとなりました。
フランスで開かれている女子ワールドカップでは、2大会ぶりの優勝を目指した日本が、決勝トーナメント1回戦で敗退となった一方、ベスト8には近年、国内リーグのプロ化を進めてきたヨーロッパ勢が7チーム進みました。
こうした中、日本サッカー協会が選手強化の環境を整えるために国内女子の「なでしこリーグの」プロ化に向けた議論を加速させていく見通しとなりました。
関係者によりますと、来月の理事会で、早ければ再来年のプロリーグ発足を目指すことや、現行の10チームからチーム数を絞り込むこと、さらに開催時期をヨーロッパのリーグに合わせるため、開幕を夏から秋にかけて設定することなど具体案を提示して議論していくということです。
なでしこリーグのプロ化はワールドカップ前からも議論されてきましたが、観客動員や資金などで大きな課題を抱えています。
引用:NHK NEWS WEB(
なでしこジャパンのW杯敗退を待っていたかのように、日本サッカー協会が「なでしこリーグのプロ化」に向けた方向性を示したようです。
2011年にドイツで開催された女子W杯で優勝し、翌年のロンドン五輪銀メダル、2015年W杯準優勝と、世界トップクラスの成績を示し続けてきた日本女子サッカー。
それがここ数年については、リオ五輪出場を逃し、今回のW杯でもベスト16止まりと、その勢いに陰りが見えるのも確かです。
その間に、それまで第3勢力と目されていたイングランド、フランス、スペインといった国々が女子サッカーの強化を進め、世界の勢力地図が大きく塗り替えられていく中で、世界の舞台で輝くなでしこジャパンの姿を見るのは、現実的に難しくなってもきているのでしょう。
そして、この「なでしこリーグプロ化」を後押しする要素として、このフランス大会を戦ったなでしこジャパンを総括するような論説が一般紙のスポーツ面にも掲載されています。
フィジカル強化課題
2011年大会で初優勝、15年大会で準優勝した日本は今大会、2年前の女子欧州選手権を制したオランダとの決勝トーナメント1回戦で敗退し、ベスト16に終わった。イングランドに敗れた1次リーグ第3戦から、欧州勢に連敗。体格を生かしたプレーに組織力が加わり、世界のレベルが上がる女子サッカー。日本は粘り強さとパスワークで挑んだが、及ばなかった。 (上條憲也)
決勝に進んだ過去2大会で日本を率いた佐々木則夫氏は昨年、進化をこう表現したことがある。「僕の時は、相手(の陣形)がコンパクトじゃないから(日本の)ボールが動いた。(相手の)スキルも非常にアバウトだった。でも今はボールが取れない」
当時の日本は、サイドより数的有利をつくりやすい中央にボールを追い込み、MF澤穂希という大黒柱を中心に奪って攻撃に転じた。今大会は、オランダがコンパクトな陣形で日本のビルドアップのボールを狙った。イングランドはパスをつなぎながら、機を見て最終ラインからのロングパスで日本の守備陣の裏へボールを入れた。
今大会は欧州7チームが8強入りし、レベルアップが目立つ。欧州予選無敗でW杯に挑んだスペインは決勝トーナメント1回戦で米国に敗れたが、優勝候補に今大会初失点を与えるなど善戦した。日本は2年前の国際大会でスペインに力負け。籾木(日テレ)は「世代別代表の時は欧州勢に技術で日本が圧倒していたが、ボールが取れなかった。置いていかれているなと思った」と当時を振り返る。
バルセロナ(スペイン)やバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)など多くの欧州クラブが女子チームを持ち、各国リーグや女子チャンピオンズリーグを含めて日常的に高いレベルで争う。対する日本も、1989年創設の国内リーグが30年にわたって続き、数々の選手がプレーしてきた。
ただ、国内リーグでは欧米勢のような迫力あるクロスやロングボールはあまり見られない。イングランドは日本戦でミドルシュートを積極的に放った。日本の高倉監督は「日本の良さは技術の高さと献身性だが、(欧米勢との対戦では)一発にやられてしまう。速いクロスなどに慣れていない。強化はするが、すぐに解決というわけにいかない」と課題を口にしている。 ー
東京新聞(2019年6月28日 朝刊)より抜粋
私はこれを読んだとき、こう感じました。
「また繰り返すのか」
と。
大義はただひとつ。サッカーをする女性を増やすため
なでしこジャパンが世界を舞台に大活躍する姿を見せようと邁進するのは、一体何のためなのか。
もちろん、「そこで戦う選手たち自身のため」という大前提は踏まえた上で、どう考えても
「サッカーをする女性を増やすため」
ここに行きつくのではないでしょうか。
よく「日本とアメリカの女子サッカー競技人口には約30倍の差がある」というデータが話題に上がりますが、その「アメリカの30分の1規模」である日本の女子サッカー競技人口をよりリアリティの感じられる統計数値で見ていきましょう。
平成29年度に公益財団法人全国高校体育連盟が発表した、高校女子スポーツの競技別人口ランキングが以下になります。
- 1位 バレーボール 60,333人
- 2位 バスケットボール 58,778人
- 3位 バドミントン 56,821人
- 4位 陸上競技 39,605人
- 5位 テニス 36,955人
- 6位 ソフトテニス 35,539人
- 7位 弓道 31,754人
- 8位 卓球 21,648人
- 9位 ソフトボール 21,395人
- 10位 ハンドボール 16,512人
13位 サッカー 10,951人
※男子サッカー 1位 165,977人
次は、平成29年度に公益財団法人日本中学校体育連盟が発表した同様のランキングです。
- 1位 ソフトテニス 176,984人
- 2位 バレーボール 154,844人
- 3位 バスケットボール 135,357人
- 4位 卓球 97,645人
- 5位 陸上競技 95,972人
- 6位 バドミントン 87,038人
- 7位 ソフトボール 39,623人
- 8位 剣道 33,210人
- 9位 水泳競技 17,104人
- 10位 ハンドボール 11,060人
14位 サッカー 5,816人
※男子サッカー 1位 212,239人
この2つのランキングを見ると、中学、高校年代における女子サッカー競技人口の絶対数の小ささに目が行きがちですが、女子サッカーだけに見ることの出来る特徴にも気づくことが出来ます。
中学と高校で比較した時に、基本的にはどの競技もその競技人口が大きく減少傾向を見せるのですが(これは男子・女子に関わらず見られる傾向です)女子サッカーについては、中学よりも高校の方が絶対数が大きいのです。
女だてらにサッカーをする
この傾向をどう見るか。
単純に考えて、女子がサッカーをしようとした時に、中学年代ではその受け皿が少なく、高校年代になると増えるという推論を立てることが出来ますが、これは概ね間違っていないでしょう。
実際に、なでしこジャパンの多くの選手たちが、少年年代の頃は男子と一緒のチームで活躍していたという逸話を持っていますし、中学年代の頃だけサッカー以外のスポーツに取り組んでいたと言うのもよく聞く話です。
つまり、日本サッカー界においては、未だに「女だてらにサッカーをする」という考え方が、事実上存在していて、それは年代が低くなればなるほど顕著であると言うことも出来るのではないでしょうか。
「男子チームに混じって大活躍していた」
確かにこれもカッコいいですよ。
でも、「男子チームに混じって大活躍出来ない子」や「男子チームに混じりたくない子」はいったい何処へ行ってしまったのでしょう。
バスケやバレーでは「男子チームに混じって大活躍していた」なんていう話をほとんど聞かないのに、女子のサッカーでだけ私が小学生だった40年くらい前と変わらずに、そんな逸話が依然としてもてはやされ、それが同時に女子がサッカーをする環境、その創出を阻んでいるようにすら感じられる。
「なでしこリーグをプロ化する」のも結構、「なでしこジャパンにフィジカルトレーニングを課す」のも結構ですが、日本の女子サッカーにおける最大の課題
「小学生~中学生年代の女子サッカー環境整備」に注力していかないことには、プロ化もフィジカル向上も所詮はその場しのぎの域を脱しないでしょう。
このままプロ化したら女子サッカー界崩壊すら招きかねない
それでもまだ「その場しのぎ」だけで済めばいいかも知れません。
特に「なでしこリーグプロ化」については、最悪の場合、日本女子サッカー界の崩壊すら招きかねない。
また数値データを挙げます。
2019シーズン なでしこリーグ1部(第1節~第9節)ホーム平均観客動員数ランキング
- INAC神戸 2,969
- 浦和レッズ 2,321
- 長野パルセイロ 1,984
- ジェフ市原・千葉 1,431
- ノジマステラ神奈川相模原 1,325
- 日テレベレーザ 1,151
- 伊賀FCくノ一 1,038
- アルビレックス新潟 971
- マイナビべガルタ仙台 866
- 日体大FIELDS横浜 728
2,000人~3,000人規模で観客を動員出来ているINAC神戸、浦和レッズ、長野パルセイロについては、リーグ戦の試合を「興行」として発展させられる可能性が無いとは言いませんが、なでしこジャパンに一番大勢の選手を送り出していた女子サッカーの名門、日テレベレーザですら1,000人規模でしか観客を集めることが出来ていない実情を見れば、「プロ化」の大義に「なでしこ強化」が前面に押し出されているだけじゃ弱すぎるでしょう。
それでも何とか体裁を整えプロリーグがスタートしてしまえば、その大義がどこにあろうと、リーグを維持させていかなくてはならなくなります。
Bリーグが局所的とは言え、一応の成果を見せている大きな要因に、男女バスケットボールの国内競技人口の多さ、つまり潜在的バスケファンの多さが挙げられることも多いですが、女子サッカーの場合その「競技人口」にすがることも出来ません。
昨今、日本スポーツ界におけるマイナー競技のプロリーグ化が後を絶ちませんが、その多くは旧来の「実業団スポーツ」が終焉を迎えたことに伴う「急場しのぎ」であるように私は感じています。
そんな中、日本サッカーの中からもJリーグが出来、そこで得られた瞬間的成功に乗じて、J2リーグ、J3リーグと拡大していったことで、経営に大きな問題を抱えるクラブが日本中に生まれてしまった。
それでも元締めとなる日本サッカー協会と、そこから甘い蜜を吸い続けている‟大広告代理店”にとっては「上米を跳ねる」対象が増えれば増えるほど嬉しいわけですが、勢いでフットサルもプロ化し、既に基本的なガバナンスも機能させられない様なチームすら出てきてしまっているのです。
日本の女子サッカーは大切な財産
日本の女子サッカーが世界を舞台に大活躍し、2011年に世界一となったのは紛れもない事実であり、日本サッカー界にとってかけがえのない大きな財産だと私は思っています。
そんな大切なものをより大きく昇華させようとする時に、その手段として「なでしこリーグプロ化」は避けられない道であるのか。
何しろ日本の女子サッカーは世界王者になったことが既にあるのです。次に世界一を獲ったとして、小学生や中学生の女子が心置きなくボールを蹴ることの出来る日本サッカーの光景が得られるのでしょうか?
私にはどうしてもこの道が‟まやかし”の道に見えてならない。
以前このブログにも掲載した公益財団法人日本サッカー協会公式サイトにあった「女子サッカーあれこれ」という文章を改めてここに載せます。
女の子なら、中学校(男子)サッカー部と女子チームの両方で公式試合に出られます!
女子チームに登録して、通っている中学校のサッカー部でも男子といっしょに活動している女子中学生はたくさんいます。両方のチームでがんばってるし、男子でも女子でもチームの仲間といっしょに試合がしたい!と思いますよね。
女子チーム所属のままで(チーム移籍をしなくても)、中学校サッカー部[男子:第3種登録チーム]の部員として、大会に出られるんです。。
2006年3月に行われた日本サッカー協会の理事会で女子選手の大会参加資格が見直されました。
参加できる大会は次の通りです。(地域・都道府県大会(予選大会)も含まれます。)・全国中学校体育大会/全国中学校サッカー大会
・JFAプレミアカップジャパン
・高円宮杯全日本ユース(U-15)サッカー選手権大会今までは、「女子チーム」と「中学校サッカー部」の2つのチームでトレーニングをしていても、それぞれのチームで試合に出るためには、大会の度に移籍(チームを移る)手続をしなければなりませんでした。よって、どちらかの大会出場を諦めなければならないことが多くありました。
「近くじゃないけど、週末なら練習に参加できる女子チームがあるんだけど・・・。」、「男子といっしょの激しいサッカーにチャレンジしてみたいなあ・・・。」などなど、「女子チーム」と「中学校サッカー部」のそれぞれのメリットを生かしながらサッカーを続けたいと思っている人は、「女子チーム」に登録をすることで、両方のチームで大会に参加することができます。これから中学生になるみなさんはこれからのチーム選びの参考にしてください。
日本サッカー協会は、この改正により、女の子がもっとたくさんの試合に出られるようになり、女子サッカーがもっと活発になればと考えています。
JFA.jp「女子サッカーあれこれ」より引用
女子がサッカーを出来る環境づくり。
この「女子サッカーあれこれ」に書かれていることから、一歩前進することこそが、日本の女子サッカーに最も必要なことなのではないでしょうか。