YSCC横浜でプレーする「0円Jリーガー」安彦考真選手。
今回こうして安彦選手ご本人とお会いし、そこでお話下さったことをその言葉とともに【0円Jリーガー安彦考真選手の行動原理】というシリーズで4回に渡り綴って参りましたが、こうした機会が生まれた大きなきっかけは、安彦選手がツイッター上で呟いたこの言葉に対して、私自身がそれをどうしても納得出来ない、さらに言えば「納得できないどころか、そうであってはならない」とすら思え、その批判めいた思いを『0円Jリーガー安彦考真選手とは何者なのか?』としたタイトルのブログ記事へ込めたことに端を発しております。
「低価格で高機能なJリーガー」 今後0円Jリーガーは増えてくる。でも安いだけじゃ意味がない。その0円Jリーガーはどんな機能を備えているのか。自分の価値の作り方は普段から浪費や消費と考えず”投資”と考えること。生き様を投影できる場所こそがサッカーなんだ。投資とは価値を時差で作ること。
安彦考真
いやいやいや。 「0円Jリーガー」が増えていくのを受け入れてちゃダメです。 ちゃんとサッカー選手として生活出来る世界がJリーグに存在してくれていないと、その下位カテゴリーのサッカーは成立すら危うくなってしまう。 安彦さんは安彦さんで頑張ればいい でもその手法を総論的に語らないで欲しい。
毛利龍
これまでこのシリーズ【0円Jリーガー安彦考真選手の行動原理】でお送りしてきた4回の中でも、私の抱いていた安彦選手に対する批判めいた思いが、徐々に和らいでいくのを読みながらお感じ頂けたかも知れませんが、その大元となっている大きな疑問、つまり「今後0円Jリーガーが増えてくる」という私の考えの中では「Jリーグ側の思う壺」と思えるような現象が増えていくことを安彦選手は何故「是」とされているのか、ここについては触れてまいりませんでした。
しかし、もちろんこの疑問についても私は安彦選手にそれをそのまま投げかけてきましたし、安彦選手も真摯に答えて下さいましたので、最終回となる今回は『0円Jリーガーが増えていく?』というテーマで、それについて綴って参ります。

筆者 安彦選手がこれまでにお話して下さったことが、実情としてJ3リーグでプレーしている選手たちを「維持」させていく為に必要だと言うのは私も理解出来てきたのですが、その一方でこの「クラブに負担を掛けない」というJリーガーの在り方が、クラブやリーグ側から受け入れやすい、つまり疲弊するリーグそのものを改善させていく努力、これをクラブやリーグ側せずとも済んでしまうのではないか。「俺たちが必死にならなくても選手たちがやってくれるんだよ」と、そうしたことに繋がっていかないか、という私が一番最初に「0円Jリーガーが増えてくる」と安彦選手が呟いた際に抱いた危惧はまだ拭い去ることが出来ていないのですが、そこについてはどうお考えですか。
ー ざっくりとしたイメージだと、そうなっていくように思われてしまうかも知れませんが、クラブはクラブで抱えている社員がいて、選手だけではなくこれも何とかしなくてはいけないわけです。となると決してあぐらをかける状況ではない。
安月給で人は離れていきますし、ここは努力しなくてはいけないし、選手たちが頑張ってるんだから俺たちは頑張らなくてもいいとは、甘いかも知れませんが僕はそうならないと思っています。
J3であっても、そのクラブの経営者はしっかりと理念や構想を掲げていて、僕はそこに意欲は凄く感じてもいます。ただ「やり方」を間違ってしまっていると思うこともあります。
胸スポンサーがいくらだとか、スタジアムのスポンサーボードがいくらだとか、テレビに出ていくらだとか、考え方自体も古い。正直僕はそこも変えていきたいと思ってはいるんですが、現在はピッチ内のこともありますし、あまりにアチコチに手を出し過ぎになって、僕自身のマンパワーがきっともたない。だけど選手としての立場からジャブは打っていますよ(笑)グッズの売り方ひとつ取っても「人の感情をどう突き動かすか」が商品開発する上で必要だよとか。
私が今回安彦選手ご本人に直接会ってお話を伺うに至ったきっかけとなったブログ記事『0円Jリーガー 安彦考真選手とは何者なのか?』の中で、安彦選手の実践する「0円Jリーガー」という存在そのものが、クラブやリーグ側から実は非常に都合のいい存在であって、考えようによっては安彦考真選手本人が意図せずとも、結果的にクラブやリーグ側にとって都合のいい「0円Jリーガープロモーション」のアイコンになってしまっているのではないかと言う危惧を書きました。
今回実際に安彦選手と直接お話する中で、必ずしも安彦選手が起こしている行動の全てが、常に周囲の協力を全面的には集められていないこと、何か新しいことをしようとしても、時によって見解の相違が生まれてしまいがちであること、こうした実情を知ることも出来、当初私が抱いていた危惧が若干の疑心暗鬼であったのかも知れないと思うことは出来ましたが、仮にそうであってもその構造を客観的に見た時に「クラブに負担を掛けないJリーガー」の存在が、何か新たな世界観を生みだしたり、これまでとは全く異なる分野でマーケットを創り出し、それがきっちりと収益化されたとしても、されなかったとしても、ともにデメリットには繋がらない状況であるのには変わりなく、そうしたクラブが生存し続けることはリーグ側も歓迎する事象でもあって、抱いた危惧の全てが解消されたわけではありませんでしたが、安彦選手が語る今後のビジョンの中に、一縷(いちる)の光も見出すことが出来ました。
ー Jリーガーって毎年リストラが100人以上出る世界なのに、アイツらいつも笑顔なんですよ。全然大丈夫なんですよ「何とかなる」って。だからこのポジティブさを普段から色々なところへ使えれば、もっとサッカー選手が救える人っていると思うんですよ。あのエネルギーでもっと世の中に貢献出来るんじゃないかって、スポーツってエネルギーを外に出すものだから、普段でもそれが「出ちゃってる」んですよね。それが社会とも密接に関わることが出来れば、彼らの価値ってもっと上がって行くんだろうなと。
サッカーマガジンとかそういう業界誌ではなくて、他の業界誌が目をつけることがあるかも知れませんし、そうして仮に全く新しいスポンサーが出てきたとして、そのスポンサーがクラブではなく選手をスポンサードしたいと、そうなるとクラブ側はそこだけで完結されるのを一番嫌がりますから、クラブにもちゃんと利益が出るような形に持っていければ、そういう部分でもクラブはちゃんと企業努力していかなくてはいけませんが、ここは凄く重要な部分でもあります。
そうは言っても、当然ながらクラブはクラブでメスを入れて行かなくてはいけないので、それは僕の中で次のステップ、目標として考えていますが、先ずは選手側の意識改革を「0円Jリーガー」という立場から取り組んで、それをカタチにした時に、大きなモノを持ってクラブ側にドーンと。それがおカネなのか権力なのかアイディアなのか未だ分かりませんが、いずれにせよ次はクラブを変えていかなくちゃいけないなと、そう思っています。
安彦選手が将来的にJクラブの現状を変えていくことにもチャレンジする意思を持っている。
安彦選手がこの日実際に話してくれたことで私はそれを知ることが出来ました。
Jリーガーの新たな価値創造、これは特に現状として「サッカーだけで生活が成り立っていない」J3リーガーについては直ぐに取り組むべきことで、そうして生まれ出た新たな「高機能0円Jリーガー」が、クラブの新たな価値をそこに生み出し、ひいてはJ3というリーグそのものの新たな世界観をも作っていく。
私は安彦選手の話された言葉から、こうしたストーリーを思い浮かべるに至りましたが、そのストーリーを「0円Jリーガー」「41歳のJリーガー」安彦考真選手が狂言回しのごとく進めていく。
そういう意味で、現在はこのストーリーの序章であり、安彦選手本人が話されたように、次はクラブをメインステージとし、もしかしたら最終章ではJリーグ本体がメインステージとなっているのかも知れないと思うことも出来ました。
後記
過日私が書いたブログ記事『0円Jリーガー 安彦考真選手とは何者なのか?』の中で、私は安彦考真選手を1人のJリーガーとして見た時に、その「プレイヤー」としての力、つまりピッチ上で戦う1人のアスリートとしての力、それが周りの選手たちと比較した時に劣っていると、かなり辛辣な言葉を使って書きました。
そして今もあの時に私がピッチ際から感じた安彦選手に対する印象、それ自体は大きく変わっていません。
ただ、こうして安彦選手と直接お会いし、数時間に渡ってお話をさせて頂いたことで、安彦考真という1人のJリーガーが常識を超えながら訴えてくるもの、それを含め1人のアスリートを形成していると取ることが出来たように思います。そして、YSCC横浜の選手として必死の形相でピッチを這いまわる安彦選手を次にスタジアムで目にした時には、きっとあの時とは全く違うJリーガーに見えるでしょうし、それを一瞬たりとも見逃さないように見つめていたいと思ってもいます。
つまり、私自身が安彦考真選手の作ろうとしている「ファン」になってしまったのだと思います。
最後に、シーズン中にも関わらず、しかも少なからず不愉快な思いをさせてしまうブログ記事を書いた張本人とであったのにも関わらず、こうして貴重な時間を割いて丁寧にお話して下さった安彦考真選手に心より感謝申し上げます。
そして、安彦選手が何を考え、何をしようとされているのか、私が書いたこのシリーズ『0円Jリーガー安彦考真選手の行動原理』によって、それを少しでも多くの方々に読んで頂くこと、これが今回私にとって最大のモチベーションでした。