「低価格で高機能なJリーガー」 今後0円Jリーガーは増えてくる。でも安いだけじゃ意味がない。その0円Jリーガーはどんな機能を備えているのか。自分の価値の作り方は普段から浪費や消費と考えず”投資”と考えること。生き様を投影できる場所こそがサッカーなんだ。投資とは価値を時差で作ること。
「0円Jリーガー」安彦考真選手(YSCC横浜)がツイッター上で呟いたこの言葉が持つ意味。
それを少しでも理解しようと、安彦選手ご本人と会って参りました。
安彦選手がそこでお話下さったこと、それを安彦選手の言葉とともに綴っていくシリーズ【0円Jリーガー安彦考真選手の行動原理】
2回目となる今回は『0円Jリーガーのセカンドキャリア』というテーマでお送りいたします。

「引退」にも格差が
ー 「セカンドキャリア」っていう言葉が僕にはどうしてもネガティブな言葉として聴こえてきてしまうんです。選手として限界になった人が「都落ち」するというか。
指導者になったりタレントになる人も僅かにいますけど、ここばっかり見られますよね。ただ実際には中澤佑二の引退とJ3の名もなき選手の引退があるわけですよ。でも、J3の彼のことは誰も知らないし、もしかしたら今はどこかの工場で働いているかも知れない。要するに同じJリーガーの引退であってもそれが意味するものは全然違うんです。
そしてそうであるからこそ、Jリーガーが社会とどう繋がっていくのか、ここが本当に重要だと僕は考えていて、例えば今日も9:00から11:00まで僕もトレーニングしてきましたけど、じゃあその後の時間をどう過ごすの?ってなった時、僕はこの後、身体のケアをしにも行きますけど、それでもやっぱり時間は余るんですよ。
ある程度クラブから貰っている選手はいいですよ、税理士をつけたりマネージメントしてもらったり出来るような選手であれば。でもそうじゃない選手たちの行く末って本当に悲惨なものになってしまっている。だったら(その余った時間を使って)目先の10万、15万を得るためのアルバイトに時間を切り売りするだけじゃなく、そもそも「年俸0円」でも大丈夫と言えるような状態を作っておく。そうしておけばセカンドキャリアも含めた自分のライフスタイルを形成出来るんじゃないかと思うんです。
クラブはクラブで経営努力をしなくちゃいけません。スポンサーを獲得し、年間シートを販売して「財」をしっかりと作っていく必要がある。だったら選手は「ファン」を作ることをすればいい。
選手が「スポンサー待ち」をして、クラブに「早くおカネくださいよ」って言うのも、J1の選手であればいいですよ。でもJ3でそれをやったらおカネを貰えるまでに何年掛かるかも分からない。その間に彼らは年を取って、結婚をして子どもが生まれてとなっていくうちに、じゃあ工場で働くしかないと、決して工場で働くことがダメってことではありませんが、果たしてそういう人生が彼にとってハッピーなのかと思えてしまって、だったら選手を辞めるときに「俺、やりたいことが出来たから」って笑顔で次の場所に行けるように持っていきたいんですよね。
安彦考真選手は厳密に言うと「年俸0」ではありません。
YSCC横浜からは、月10円×12か月=年俸120円が支払われているのです。つまり「0円Jリーガー」という言葉は概念的なものであるわけです。
そんな安彦選手が今年1月、株式会社アセンダーズと「プロ契約」を結んだというニュースをご存知の方もおられるでしょう。
この「プロ契約」について、その実情を私はほとんど把握していませんが、水戸ホーリーホックでJリーガーとして1シーズンを過ごし、Jリーガーとして2年目のシーズンをYSCC横浜で迎えるにあたって、安彦選手がそれまでに見せてきた「行動」をクラブ外の企業が評価したからこそ、この「プロ契約」が成立したのは明らかですし、つまりこれこそが安彦選手の話す「Jリーガーが社会とどう繋がっていくか」についての1つのケースでもあると私は思うことが出来ました。
従来のマーケティングとは別でマネタイズする
ー こないだも22人の団体が水戸から横浜まで僕を応援しにきてくれて、皆さんチケットを買ってくれて、もちろん僕には一銭も入ってないですよ。でもこれってクラブにとってはプラスだよねって、クラブには言わないですよ(笑)
ただ、こうやって選手がクラブに貢献する姿勢を見せること、それでクラブからおカネを貰えなくても、アセンダーズはそれに凄く喜んでくれて、アセンダーズは僕に報酬を払うことで僕のことを様々な面で使って行く、こういう価値向上が今後必要なんじゃないかと思っています。
それから、スポーツを観るっていうことについても、そこでプレーする選手がどういうストーリー、物語を持っているか、その選手がどういう人生を歩んでいるのか、それをもっと見せていく必要があるし、そこに感動してもらう、そしてそれを従来のマーケティングとは別でマネタイズ(収益化)する。
こうして選手がクラブと対等に渡り合っていく気持ちを持っていかないと、J3の選手たちを取り巻く環境はただただ疲弊していくだけです。例えばウチの選手たちなんかも、今日も午前中にトレーニングしてその後はみんなアルバイトに行ってます。そして9時間くらい働いてまた明日も朝からトレーニングをする。若いから短期間であればこんな生活でも大丈夫ですよ、でもこれを何年もやるとなれば疲弊していきますよ。
もちろん、クラブやリーグが置かれた環境を改善していく努力をしていかなくちゃいけないのはそうです。ただ、じゃあ選手たちは指をくわえてそれを待っていればいいのかと言えば僕は違うと思う。選手の立場として出来ることはしていかなくちゃいけないし、そういう価値ある選手が増えていけば、今まで興味を持っていなかったスポンサーが「あれ?あのチームの人づくりは面白いね」と見てくれるかも知れませんよね。
ここまで読んで下さった方はお気づきだと思いますが、安彦考真選手のこのチャレンジが、安彦選手自身の人生を懸けた「冒険」であると同時に、そこで日々戦い続けている名も無きJリーガーに向けた「プレゼンテーション」としても機能していること、もちろん安彦選手本人はそれを意図的にやっているわけですが、それを眺めている私たちにも、この視点を持つ必要が求められているのではないかと思わせられます。
Jリーガーという言葉が放つ華やかなイメージ。
しかし実際にはそのイメージとは大きくかけ離れた実情が存在している。
しかもその「かけ離れた実情」で生きている選手たちの行く末が、安彦選手の言う「悲惨」な状況にあるのだとすれば、むしろJリーグなど存在していない方が正しいと言い切る人がいても不思議はないし、仮にそういう主張があった時、それに対して真正面から抗う言葉を私たちは持っているのでしょうか。
「サッカームラ」の原理原則
ー サッカー界が思い描く「成功像」が古いんですよ。空港に到着してサングラス姿で出てくるとか、外車に乗って高級マンションに住んでとかね。でももはやカズさんに象徴されるようなあのJリーガーの姿って偶像なんですよ。
もちろん、J1のトップ選手がやろうと思う分にはまだいいですけど、J2とかJ3の選手たちがそこにばっかり憧れてて現実が見えてないんですよ。「いつか俺もなれるんじゃねーか」って多くの選手たちが思っちゃってる。でも、そこでちゃんと地に足をつけて自分のやるべきことを見つけないといけない。今はみんなあっちに憧れちゃってるんで、初任給で外車買っちゃったり。
「サッカームラ」の原理原則があって、どうしても「サッカー選手とはこうあるべきだ」が蔓延してて、自分を出せなかったり、そういう実情もあります。これは本当に難しいところで、その殻を僕は破りたいなと思ってますけど、例えばツイッター上で議論したりすることもYSCC横浜は結構許してくれていますけど、実際は選手が自分の考えを表現出来る場所が限られてはいて、ツイッターじゃなくても、インスタに自分が描いた画をアップしたり、ブログに思いを綴ったりって言うのを、どうも選手たちが周りの目を気にして積極的にやろうとはしない。
実は選手たちが一番気にしているのは仲間である同じ選手たちの目で、これがファンとかサポーターの目じゃないんですよ。
これは学校で同級生の目が気になったり、会社で同僚の目が気になるのと全く一緒だと思うんですけど、自分の生活がそこで成立しているので、そこで嫌われたくないって言う防衛本能が働くんですかね、だから選手間で「あいつなんかやり始めたよ」となった時に「なんかあいつ勘違いしてるんじゃない」とか「調子に乗ってる」となってしまえば、みんなやらなくなっていくんですよね。仮にそんなことを思われてなかったり、言われていなくても、同調圧力に屈しちゃう。
僕の場合は幸いなことに水戸での1年があって、僕の「前提」をウチの選手たちも知っていたので「まあ、アビさんならね、何の問題もないよ」と受け入れてくれましたけど、それで僕を真似して色々発信し始めたりしてくれた選手たちに対しては、実際そうでもないんですよね、ただそれでもめげずにやり続けると周りも認めるようになっていくんです。ただ、こういうのって、世間からはちょっと違うように思われている気もしますが、普通の社会と変わらない風潮がJリーガーの社会の中にもあるっていうことなんですよね。
選手同士、毎日トレーニングで顔を合わせるし、やっぱり毎日会う人の目が気になるんだと思いますけど、これが「発信しない仲間」を作ってしまって、発信したとしてもご飯の画像を載せたり、お洒落なカフェに行ったとか、そういう「綺麗」な発信ばかりになっちゃう。
僕はやっぱりファンの方々に向けた発信をしたいし、例えばそれでファンになってくれた方が実際に応援しにきてくれて、そこで点を決めたらそのファンの方へ眼がに行っちゃいますよ(笑)
安彦選手の口から出た「サッカームラ」という言葉。
この「サッカームラ」が意味する概念を「常識」とすれば、その常識に頼り続けることで、Jリーグの、さらには日本サッカーの将来を明るく照らし続けることが出来るのか、この感覚を持っておく必要があるのかも知れません。
それを選手が打破しようと思った時、その一歩目が「自らの価値を外に発信していくこと」であるのでしょう。
そしてこの「感覚」は、何もJ3リーガーだけに必要とされる要素ではなく、J2、J1でプレーしている選手はもちろん、サッカーに限らず他のスポーツに打ち込んでいる選手たち、さらに言えば、普通にサラリーマンであっても、そのマインドだけは同じように持ち、実践することも出来るだろうと私は思います。
【0円Jリーガー安彦考真選手の行動原理】というタイトルでお送りするシリーズの2回目、今回は「0円Jリーガーのセカンドキャリア」とテーマで綴って参りました。
次回、3回目のテーマは『0円Jリーガーのアイディア』について、今シーズン安彦考真選手が取り組んできた、また今後取り組もうと思われているアイディアについて、具体的に触れていきます。