こいつら、ホント上手い。。
『お前ら!サッカー上手いな!!!』
武蔵野陸上競技場の松江シティ側応援席からこんな声が掛かる。
確かにこの試合、松江シティFCにとってクラブ創設以来初めての東京遠征となった「対東京武蔵野シティFC戦」の後半については、その時点でJFL最下位の昇格チームが、既に20年近くの長きに渡ってその主戦場をJFLとしてきた上位チームと戦っているようには全く感じさせない、堂々たる戦いぶりであったように思います。
いや、「格下が格上に対し堂々と戦っている」どころの話ではなく、あらゆる面で松江シティが東京武蔵野シティを凌駕する45分間だったと言った方が正確だったのかも知れません。
相手ボールホルダーへ的確にアプローチし、それによって乱れた展開を見逃さずボールを回収し、素早いパス交換で相手を翻弄すると、ダイナミックなサイドチェンジをスイッチに相手ゴールへ斬り込んでいく。
応援席から聞こえてきた『お前ら!サッカー上手いな!!!』という大声は決して大袈裟な言葉ではなく、私もその時まさに同じことを思っていたのです。
「こいつら、ホント上手いわ。。。」
「完全なる地域リーグ王者」の2019シーズン
昨シーズンの地域リーグサッカー界を席巻したこのチームは、中国リーグ優勝を皮切りに、10月の全国社会人サッカー選手権(以下 全社)優勝、11月のJFL昇格チーム決定戦、地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下 地域CL)でも優勝し「完全なる地域リーグ王者」として今季JFLに昇格してきました。
地域リーグの舞台ですら華々しい実績をもたない選手たちが、田中孝司監督の3年に及ぶ指導を経て無敵のチームへ成長を遂げたことは、長くこのカテゴリーのサッカーを見続けてきた方々にとっても衝撃だったようですが、そんな長い‟観測”をしてきていない私にも、この「完全なる王者」が見せるサッカーが、このカテゴリーに全く似つかわしくなく思えていましたし、だからこそ、彼らの新しい舞台、JFLで一体どんな戦いを見せてくれるのか、そこに対する私の期待感はかなり大きかったのです。
しかしながら、松江シティFCの2019シーズンは、その試合結果だけを見るとかなり厳しい状況に直面しているのも事実で、この東京遠征前の段階でリーグ戦9試合を終え、3分6敗と1勝も出来ておらず、ゴール数も僅か4。
3月に浜松で行われたJFL開幕戦、1-1のドローに終わった「JFLの門番」Honda FC戦を現地で取材した時に受けた印象からは、9試合を終え3分6敗という戦績が待っていようとは、ほとんど予想出来ていませんでしたし、恐らくこれは戦っている選手たちにしても同じ思いであったのではないかと私は思うのです。
それくらい、開幕戦の松江シティは素晴らしかったし、試合後に選手たちが見せたホッとしながらも自信を得たような表情は非常に印象的でした。
とんだ見込み違い?
開幕戦以来試合結果でしか確認することの出来なかった彼らに一体何が起きてしまっているのか。
「完全なる地域リーグ王者」がさらに力をつけ、JFL開幕戦で絶対王者を相手に堂々たる戦いをして見せたのに、どうして彼らは勝つことが出来ず、ゴールすら満足に奪えていないのか。
そして、私の中でどうしても認めたくない、ある不安がよぎっていました。
「もしかしたら、とんだ見込み違いだったんじゃないか?」
私はサッカーを戦術的側面から分析し分かりやすく解説出来るようなスキルは持っていませんし、この先も出来るようにならないでしょう。
ただ、こうしてアンダーカテゴリーのサッカーに魅力を見つけ、それを広く知ってもらおうと発信する時、チームがピッチ上で表現すること、それについて戦術的評価を超えた部分で、彼らが放つムード、そして人を惹き付ける力など、つまりそのサッカーが「十分に関心を集めるに値する」存在であるんだという‟証拠”を文字にして示していく必要性は自認していたわけで、もし仮に、あれだけ素晴らしいと感じていた松江シティが「見込み違い」であったのだとすれば、それは私にとっても結構深刻な話でもあるのです。「どこを見ていたんだ」と。
そういう思いが頭の中で蠢く中、このJFL第10節「東京武蔵野シティFC VS 松江シティFC」の取材に入ったのが実情で、ある意味でこの取材は「不安」の方がやや「期待」を上回る心理状態で臨む現場でもあったのです。
松江シティFCクラブ最大の魅力は

しかし冒頭にも書いた通り、私の抱いた不安は杞憂でした。
ストライカー2人をケガで欠き(うち1人の酒井達磨選手はリーグ第4節で左膝前十字靭帯断裂という大怪我を負い今季中の復帰は困難)そうであることから前線の得点力はやや下がってしまっているのかも知れませんが、今シーズン加入してきた新しい選手たちも含め、田中孝司監督が作る4年目の松江シティFCは、間違いなく昨年地域リーグで戦っていた時以上に魅力的なチームとなっていることを私は今回の現地取材で確認することが出来ました。
確かに前半については東京武蔵野シティにやや押し込まれ、苦手としているセットプレーから失点もしてしまった。
しかし『後半になれば相手は落ちてくると思っていた』と宮内寛斗選手(背番号10)も試合後話してくれましたが、後半だけで言えば、開幕戦でHonda FCを追い詰めた時以上に、この日の松江シティFCは東京武蔵野シティを相手に完全に試合の主導権を握り、同点ゴール(PK)までは奪うことが出来たのです。
そして開幕戦の試合後には充実感すら感じさせていた松江シティの選手たちが、この東京遠征についてはドローという試合結果を心から悔やんでもいました。
試合後会見で田中孝司監督は「あれだけシュートが入らないんじゃ勝てんよね」と話しながらも、「JFLでも満足にやったことのない選手ばかり」と評した我がチームの成長に手応えを感じておられる風に私には見えました。
そして少し前まで「とんだ見込み違いだったんじゃ?」と不安に駆られていた私はこう思ったのです。
「やっぱりこのクラブにとって最大の魅力は‟田中孝司監督が作るチーム”なんだ。そしてその‟チーム”は昨シーズンと同じレールの上をちゃんと走っている」