YSCC横浜の「0円Jリーガー」安彦考真選手。
4月末、安彦選手の名前をそのままタイトルに入れた記事『0円Jリーガー安彦考真選手とは何者なのか?』をこのブログに掲載したところ、私の本意がややそれとは違った印象として多くの方々に伝わってしまい、様々なご批判、場合によっては私自身を強く批難するご意見も頂いた中で、あの記事を書いた時点では必要と感じていなかった安彦考真選手の主張された言葉の意味、つまり具体的には安彦選手がツイッター上で呟いた
「低価格で高機能なJリーガー」 今後0円Jリーガーは増えてくる。でも安いだけじゃ意味がない。その0円Jリーガーはどんな機能を備えているのか。自分の価値の作り方は普段から浪費や消費と考えず”投資”と考えること。生き様を投影できる場所こそがサッカーなんだ。投資とは価値を時差で作ること。
これがどういう意味を持つ言葉であったのか、字数制限のあるツイートに書かれた字面だけでそれを十分に理解したつもりになったり、その賛否を判断したりしていた自分自身を顧み
「受けて頂くか否かのご判断は全てお委ねしますし、少なからず不愉快な思いもさせてしまいましたので、仮に受けて頂けなかったとしてもそれを甘んじて受け入れます」
という前提条件をつけ、安彦選手の考えを直接伺いたいとした申し入れをご本人にさせて頂いたところ、快くそれを受けて頂いた上、シーズン最中の大切な時間をそれに割いて下さいました。
5月中旬、横浜・山手エリアで行われているYSCC横浜の通常トレーニングを終えた安彦選手と近隣のファミレスで落ちあい、約2時間に渡って安彦選手とお話させて頂き、先に紹介した安彦選手の呟きがどういう意味を持つものであったのか、もちろん、ここに対する理解は私の中で大きく深まりました。
しかしその一方で、あの時、つまり『0円Jリーガー安彦考真選手とは何者なのか?』を書いた時に私を批判された方々の中に、安彦選手の「行動原理」を十分理解をされていた方が果たしてどの程度おられたのだろうかという思いも湧いて来たのです。
安彦選手の「常識外れ」な発想力を感じれば感じるほど、それを理解するのが決して簡単なことではないのは明らかで、少なくとも私はご本人を目の前に2時間をそれに要したわけですが、少なからず共鳴出来る部分のあった安彦選手の「行動原理」について、それを私なりの解釈で改めてブログに記事として掲載する必要性を感じ、今回から数回に渡り
【0円Jリーガー安彦考真選手の行動原理】
というタイトルでお届けしたいと考えております。
今回はその1回目は「0円リーガーの理由」というテーマで、安彦選手が何故0円Jリーガーになろうと思ったのか、これについてご本人の話された言葉を中心に綴って参ります。

「0円Jリーガー」にしてくれ
ー 「0円Jリーガー」ってなにも僕だけじゃなくて、Jリーガーの中にワンサカいるじないですか。 でも彼らもプライドがあるからそれを言わないし、中には職場で自分がJリーガーであることを隠して働いているような選手もいます。
要するにそういう現実がJリーグには存在しているということです。そんな状況の中「0円Jリーガー」にしてくれ「年俸0」にしてくれって僕の方からクラブにお願いしたんです。
Jリーガーがクラブとプロ契約を結ぶ時、現状その形態として「A契約」「B契約」「C契約」と3つの種別が存在しています。JリーグやJFLでの試合出場時間について一定条件を満たした選手が結ぶ「A契約」には年俸の下限額が定められていますが、それ以外の契約種別についてはそれがありません。
安彦選手の場合、現在所属するYSCC横浜とは月10円×12か月の年俸120円で契約をしています。つまり厳密に言えば安彦選手は「年俸0円」ではなく「0円Jリーガー」というキーワードも概念的なものであるのです。
ー 39歳でそれまでにしていた仕事を全てやめてJリーガーになろうと思った時、それが単なる無謀な挑戦にならないよう、僕なりに算段を以て挑まなければそれは「冒険」にならないなと考えたんです。
その中で「プロサッカー選手」になるための戦略として「年俸0」が出てきました。
つまりどのクラブもJリーガーを抱えるバジェット(予算)があって、そのバジェットの中で僕をJリーガーとして入れるというのは年齢だけを考えても無いだろうと、ただそこに「年俸0」という条件が加われば、話のテーブルに載るんじゃないかと思ったわけです。
そしてもう1つクラブに対して「年俸0円にする代わりに100席でも50席でもいいから年間でシートを欲しい」と提案しました。
そこに自分のファンを呼び込んでここでマネタイズ(収益化)する。要するに観客からフィー(報酬)をもらうのにクラブを通さないでダイレクトでやる。ある種それも年俸と一緒だよねと考えたんです。
劇団員やプロボクサーが自分で舞台や試合のチケットを手売りしている。これをJリーガーがやってもいいじゃないかと、安彦選手の思い描く「0円Jリーガー」の一端がここに現れているのですが、その詳細については後でまた触れるとして、実の伴っていないプロ選手が「ワンサカ」存在しているJリーグの世界に、新たな収益の生み出し方、それを自らの「冒険」を重ねながら提議していくこと、これが安彦考真選手にとって「0円Jリーガー」になる必要性であり理由であるのかも知れません。
ただの「おとぎ話」ではない
ー チケットの手売りだけではなく、年俸をクラウドファンディングしてみようとか、クラブに利益を生みだし、そしてクラブの負担にならないJリーガー。
クラブから十分な年俸を貰えている選手はいいですよ、でもそうではないJリーガーが、単純にクラブに対して「金出せよ」とだけ言わずに、選手自身が年俸の出どころ、つまり自分でファンを作り、そこから自分にもお金が入ってくるような仕組みを作れればと。
そうすることで、その選手にとっても、もしかしたらセカンドキャリアを含めて、プレー環境が変わってもついてきてくれるファンが出来るんじゃないかと、それを実際にJリーガーになって見せようという思いもあって、チャレンジしていく上でのハードルを「0円Jリーガー」で1つ下げたということです。
ー そんな中で39歳がチャレンジする「Jリーガー」の定義を考えるわけですけど、例えば「残り10分で出場してきた時にスタンドが湧く、或いは流れを変えられる選手」としたとして、18人のベンチ入りメンバーの中で交代枠を全て使っても試合に出場できるのは14人なわけで、だったら「使わないかも知れないけどコイツをベンチに入れておくだけでも違うんじゃないか」と思わせられるような存在になろうと。
そして先ずこのチャレンジの概要をJリーグクラブにプレゼンしたわけですけど、中には面白がってくれるクラブもあって、選手の意識改革が必要だって言うのはどのクラブにも共通して存在する課題でもあって、ただそれをコーチや強化部だけが言っても選手たちにはなかなか響かないし、中から、つまり選手がやり始めると変わっていく、サッカー選手の世界ってやっぱり「先輩文化」みたいなのはあって、憧れて真似するような流れが出来やすい世界でもあるので、そういう実情もあって、水戸は僕の挑戦に意義も感じてくれて強化部も「一緒に改革をしよう」と言ってくれたんです。
私は安彦考真選手の話を聞いていくうちに、思わずこう言ってしまいました。
「本当によくやりましたよね」
安彦選手のチャンレンジが世に出てくるとき、その主題の多くは「39歳にして一大発起しJリーガーになる」とした、あまりにキャッチーな現象についてであって、それをさせるだけの思いや、そこへ至らせた背景について触れられているケースは非常に少ないのが実情です。しかしこの一見「おとぎ話」の如く捉えられてしまうチャレンジが生まれ出たその理由、ここについては非常に現実的なJリーガーの置かれた実態があって、安彦選手の口から出てくる言葉の一つ一つもリアリティに満ちたものであるのです。
ー 水戸の強化部には「ピッチ内で全くダメだったら、その時はナシにしてくれ、Jリーガーとして獲得するか否かのジャッジについては、一切の忖度をしないで欲しい」とお願いした上で、3カ月間練習生としてトレーニングに参加しプロになりました。
このチャレンジにおいてはプロになるだけでなく「0円Jリーガー」として契約を結んでもらうのが必須条件でもありましたが、僕はこれを他の選手たちもやればいいとは思ってません。だけどJ3リーグが誕生して数年が経過し、多くのクラブが選手に給料を払えていない現実がある中、これが直ぐに全て解決するとも思っていない。
だったら選手たちに言いたいのが「クラブに対して全ておんぶに抱っこでいいの?」と、これって普通のサラリーマンの方々であっても変わりませんよね、雇われている企業だけに依存せず、副業をされる方が珍しくなくなってきています。だからこそJリーガーも、もっと自分の人生と向き合う必要があるだろうと思うんです。
【0円Jリーガー安彦考真選手の行動原理】というタイトルでお送りするシリーズの1回目、安彦考真選手が何故「0円Jリーガー」になろうと思ったのかについて、ご本人の言葉を中心に綴って参りました。
先ずはこの大元にある「理由」。これを知っていただくことで2回目以降のテーマについて、よりその理解も深まっていくはずです。
そして、その2回目のテーマは『0円Jリーガーのセカンドキャリア』についてお送りします。