ある実業団選手の言葉「仲間のほとんどはもうサッカーをしていない」

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仲間のほとんどはもうサッカーをしていない

『僕の中でサッカーを続けないという選択肢はありませんでした』

関東サッカーリーグ2部で戦う実業団チーム、東邦チタニウムのキャプテン佐々木一磨選手(背番号20)は、茅ケ崎の柳島スポーツ公園で行われたリーグ戦「対早稲田大ア式FC戦」を完勝で終えたあとにこう話してくれました。

ユース年代まではべガルタ仙台のアカデミーで過ごした佐々木選手。

高校を卒業するタイミングで、東北地方を中心にいくつかの大学サッカー部からの誘いもあったそう。

結果的に高校卒業と同時に東邦チタニウムサッカー部へ入ることを決めたわけですが、その道中においては冒頭にある言葉のように「サッカーを続けない」身の振り方は考えていなかったそうです。

東邦チタニウムで社員として働き、同時にこうしてサッカーに打ち込む生活も既に12年続けてきたことになりますが、現在29歳になった佐々木選手がべガルタ仙台ユースでともにプレーしていた仲間のほとんどが今はもうサッカーをしていません。(現在も現役でプレーしているべガルタユースでの「同級生」は、今シーズンからセレッソ大阪でプレーする奥埜博亮選手と佐々木選手の2人だけ)

タフな社会人サッカーの世界

『最初はビックリしましたけど、もう今は慣れましたね。こうして人工芝や天然芝のピッチで試合をする時は凄くやりやすく感じますし、サッカーを上手くなるためにはボコボコした土のグラウンドで練習していた方がいいかも知れません(笑)』

2017シーズンまでをアスルクラロ沼津で過ごし、これまでにJリーグからJFL、そして地域リーグとあらゆるステージでのプレー経験が豊富な鈴木将也選手(背番号39)は、この日の試合を応援するために沼津から来場したファンの方々と長く談笑した後、自分が現在置かれているサッカー環境、具体的に言えば東邦チタニウムの会社敷地内にある土の練習場を揶揄しながらも、どこか爽やかに感じられる受け応えでこう話してくれました。

出身地は神奈川の三浦。逗葉高校から神奈川大へ進み、大学卒業後は水戸ホーリーホック、SC相模原、前述のアスルクラロ沼津でプレーし、久しぶりにまた神奈川のチームに戻ってくるとともに「全選手が社員選手」という東邦チタニウムにあって、鈴木選手ももちろん東邦チタニウムの社員として働いています。

『僕らは夜しか練習出来ませんからね。今日みたいに暑い日は結構キツいですね、特に身体を動かす業務に当たっている選手は大変ですよ。』

鈴木選手が日頃従事している業務はデスクワークが中心で、そういう意味では体力を必要以上に使う仕事ではないようですが、三十余人いる選手が従事している業務内容は、同じ会社内の仕事とは言え様々だそう。

そして、その選手たちをまとめる指揮官、今シーズン就任した柴田武監督も、大学卒業後東邦チタニウムに入社、以後選手として7年、その後は指導者としてこのチームにずっと関わってきた、佐々木選手や鈴木選手にとって「大先輩」社員でもある。

『リーグ序盤で怪我人が多く出てしまって、それで今日の試合も初めて起用した選手もいたんですが、それを考えると出来過ぎなくらいの結果です。ただ、開幕前からチームを作っていく上で、その戦い方についてはサブの選手たちも含めオーガナイズされてきてはいます』

炎天下で行われたリーグ戦の直後に、今度はサブ組を中心としたトレーニングマッチを行っていた東邦チタニウムでしたが、柴田監督はリーグ戦メンバーとの試合後ミーティングもそこそこに、サブ組のメンバー決めを行っていました。

そのタフさには頭が下がる思いです。

俺はこの先のサッカーをしたいのか?するべきなのか?

この日行われたリーグ戦の相手、早稲田大ア式FCは今期からチーム編成を大転換し、関東大学サッカーリーグを戦う名門、早稲田大ア式蹴球部のセカンドチームという位置づけで、全選手を学生選手に切り替え、新しいシーズンを迎えたチーム。

現在のところ社会人チームを相手にした関東サッカーリーグ2部ではなかなか結果を出すことが出来ておらず、リーグの下位に低迷してしまってはいるものの、その選手たち個々の能力の高さは、如何にも大学サッカー部傘下チームのソレであって、それほど大柄な選手はいないものの、特に膝から下の技術力に優れ、その判断の速さ、そしてオーソドックスながら的確な展開力を眺めていると、思わず溜息が出てしまうようなプレーも珍しくなかったのですが、それでもこの日はそんな個々の能力の高さを東邦チタニウムの狡猾さが完全に抑え込んでしまいました。

確かに膝から下の技術については、明らかに早大ア式FCの方に利がありましたが、そんな「足元の技術」を東邦チタニウムの選手たちは身体全体で封じ、セットプレーから2ゴール(うち1PK)オフサイドライン崩れを突いて1ゴールを奪い、監督も選手たちも異口同音に話した「得点力があるチームではない」という自己評価を覆すような快勝でこのゲームを終えたのです。

現役大学生VS実業団

この対照的なチーム同士の対戦を見ていく中で、冒頭に書いた東邦チタニウムキャプテン、佐々木一磨選手の言葉が余計に響いてくるような気がします。

『僕の中でサッカーを続けないという選択肢はありませんでした』

高校、或いはJユース、そして大学、はたまたJリーグと、様々な経歴を経て東邦チタニウムでプレーする選手たちの多くが、そのライフステージの変化のタイミングで必ずこの問い掛けを自分自身にしていたはずです。

「俺はこの先もサッカーをしたいのか?するべきなのか?」

社会人となった段階から、途端にそのプレー環境が縮小されてしまうのは、高校や大学、或いはJリーグといった大舞台でプレーした経験のある選手とて同じこと。

すると、この有能な若き選手たち、つまり早大ア式FCの選手たちが、5年後、10年後にどれくらいサッカーに打ち込めているのだろうと、思えてくるのです。

ピッチ上であれほどのプレーを魅せる選手たちが、来年や再来年にはサッカーを出来る環境にない、或いはサッカーに引き続き打ち込むという選択をしにくい。

こうした実情があるのだとすれば、それは日本サッカー界にとって大きな損失なのではないか。

もちろん、その全てがJリーガーになれるわけではないでしょう。

しかし、Jリーガーだけが日本のサッカー文化を深めていく存在であるわけでもない。

そんなことを考える猛暑に揺れた週末でした。

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