ユナイテッドの多くの選手がサンチェスのサラリーに不満を持っている

たまたま視聴していたマンチェスターダービーで解説をされていた英国出身の翻訳家ベン・メイブリーさんがこんなお話をされていました。
『デ・ヘアは来季チームがUEFAチャンピオンズリーグへの出場権を逃した場合にクラブを去る可能性を示唆している。巨額のサラリーを受け取りながらほとんど活躍出来ていないアレクシス・サンチェスの加入にも不満を持っている選手も多いようだ』
ベンさんはチームや選手のデータ、過去の対戦成績からこうしたクラブ内に渦巻く人間模様まで、試合の邪魔にならないテンションで非常に効果的な情報を発信してくれるので、毎度感心してしまいます。(これが粕谷秀樹さんとか、スペインサッカーの菅原慎吾さんの場合だと若干鼻につく感じがしてしまうのは、まあ私の完全なる偏見でしょう)
こうして欧州サッカーに関する情報が流れてくる時、そこを彩る要素として選手とクラブの関係性、移籍時に発生した移籍金や年俸額、或いは代理人の固有名詞に至るまで、それらを極自然に享受出来ていて(もちろん、中には正確性を欠く情報もあるのでしょうが)私などもそうした情報を受け取ることで、選手個々への関心度、ひいてはリーグ全体への関心度が間違いなく向上していると実感することも多いのです。
そして、このように普段直接スタジアムへ行かないどころか、日本から遠く離れた国で行われているサッカーに対する関心度を高めている要素、例えばそれが「誰と誰とは犬猿の仲だ」と言うような下世話な話は置いておいたとしても「選手たちがどういう経緯でクラブ間を移籍し、どれくらいのサラリーを受けているのか」と言った情報ですら、ほとんど表に出てくることのないJリーグの世界を鑑みた時に、それが物理的には身近でありながら、実は極めて実像を掴みにくい存在となっていることにも気づかされるのです。
選手年俸を積極的に話題にしないJリーグ

もちろんそうは言っても、自分が応援するチームの選手たちが実際どれくらい貰ってプレーしているのか、例えばエルゴラッソの選手名鑑などを見れば、それが推定ではありながらも記されているので何となく知ることは出来ます。
でもそうしたケースは稀で、Jリーグ側にもこうした情報を戦略的にマーケティングの道具として活用する意思は感じられないのも事実。
プロ野球の世界では選手の契約交渉経緯や年俸額などの情報が、間違いなく主要コンテンツとして扱われているのに、サッカーの世界でどうしてそれをしようとしないのか。
この疑問については、これまでに様々な方にそれをぶつけてみても、なかなかスッキリする回答を得られてもいないのですが、皆さんはどうお考えでしょうか。
とは言え、かつてはJリーグも選手年俸などについて、それらを積極的に情報発信している時代が全くなかったわけではありません。
それこそ、Jリーグの草創期、誰が何億円もらっているとか、誰がどんな車に乗っているとか、そうした話題がJリーグの社会的認知を高めたと言ってもいいくらいです。
当時のJリーグは「バブル期」で、平日のナイターであろうと、対戦カードがどうであろうと、チケットを獲ること自体が困難で、テレビを点ければ地上波でJリーグ中継がされ、スポーツニュースだけでなく、バラエティ番組にもJリーガーが引っ張りだこになっていた。だからこそ、選手たちが貰っているサラリーも「華やか」で、それは言わば憧れの対象でもあったわけですが、いつからかそうした情報がほとんど表に出ることのない時代がやってきて、現在に至ってはそういう情報が表に出てくると、少しドキッとするくらいになっている。
では、その転換期はいつであったのか、それを明確に線引きするのは難しいことでしょうが、私はそれがJ2リーグ誕生の時期、つまり1999年頃であったのではないかと思っています。
クラブの数は5倍に増えたが

1993年に10クラブでスタートしたJリーグ。その所属クラブ数は毎シーズン増加し、1998年には現行の18クラブに、1999年に10クラブの参加でJ2リーグがスタートし、Jクラブは一気に28クラブまで増えました。その後、J2リーグも2012年には現行の22クラブまで増え、2014年にスタートしたJ3リーグも今シーズンは18チーム(U23の3チームを含め)編成となっており、Jクラブはこの四半世紀の間で、スタート時の5倍以上になりました。
これを以て「Jリーグの発展」と捉えることもできますし、1993年にスタートした当初と比べれば、Jリーグはより身近な存在になったと言うことも出来るでしょう。
ただそれはかなり一面的な見方であって、Jリーグは創設当時に10のクラブで分け合っていたパイを現在は50以上のクラブで分け合うことになってしまっているという見方も出来ますし、例えば観客動員数についても、10クラブ体制だった1993年と比較し現在それが50倍とはなっていないわけです。
こうなれば当然ながら「そこで働く人(選手も含む)」の収入が「華やか」になりにくくもあって、J1の選手だけを対象に「おカネの話」を話題にするのは不自然で、J2やJ3の選手たちが貰っているサラリーに触れるのだけを避けることは難しく、恐らくは「カズやラモスの年俸を話題に出して憧れを抱かせる」かつての方針をJリーグ側が転換せざるを得なかったと考えるのが自然なのではないでしょうか。
フットボールでより多くの人々の生活に彩りを生み出せたら

ただ、こうして情報が意図的に封殺されていると、どうしてもそれを支えるファン、さらに言えば社会の側から正確な認識をされにくい状況が生まれてきてしまう。
かく言う私自身、つい3年ほど前までは、まさかJ3の選手がサッカー1本で生活するのが難しいことなど想像もしておりませんで、確か「フットボール批評」で‟J3リーガーの実情”のような記事を読んで「J3の選手って月10万も貰えてないの?!」と相当に驚いたわけです。
で、実のところ私がこのブログやTwitterのプロフィール欄に書かせて頂いている『フットボールでより多くの人々の生活に彩りを生み出せたら』というテーマ。これこそが「そうならないといつまで経ってもJ3の選手はサッカーだけで食べていけない」という危機感から生み出されたテーマでもありまして、少なくとも私のブログについては、こうしたJリーグのしょっぱい話を避けることは止めようと、むしろそこにもっと興味や関心を持っていこうと思うに至ったのです。
つまり、冒頭に書いたベンさんの話。
「デ・ヘアがクラブを去ろうとしている」とか「ユナイテッドの多くの選手がサンチェスのサラリーに不満を持っている」といった話、これらがJリーグの世界でも一般的な話題と出来るようになれば、社会のJリーグに対する視点は変化すると思いますし、確かに「年俸10億か。いいなぁ」みたいな憧れの対象にはなり得ないかも知れませんが、現状を少しでも正確に認識してもらわないことには、課題(本当は選手たちにもっとお金を稼がせたいのに払うことが出来ないJクラブの課題)解決へとなかなか進んでいかないのではと、そう思うわけでありまして、そういう意味で「0円Jリーガー」という概念についても、現状を知らしめることには繋がりはしても、その概念が結果的にクラブやリーグを課題解決から逃避させる材料になりかねないと危惧をしているわけです。