一層存在感の際立ってきたクラブ「横浜猛蹴」

いよいよ今週末から関東サッカーリーグの新しいシーズンがスタートします。
昨年圧倒的な戦績で関東リーグ王者となった栃木ウーヴァFC(現 栃木シティFC)、元日本代表でJリーグのスター選手の1人であった山岸智選手がキャプテンとして2年目の挑戦をしようとしているVONDS市原FC、「ドーハの悲劇」陰の主要キャスト、都並敏史監督が率いるブリオベッカ浦安、大学サッカー界の名門流通経済大学サッカー部傘下で、今シーズンは本気で優勝を狙うと宣言している流経大FC..
ここに名前を挙げたクラブのみならず、そのほとんどが「地域リーグ」というカテゴリーが思い描かせるイメージとは大きなギャップを感じさせるクラブも多い中、それと反比例するようにその存在感が一層際立ってきているクラブがあります。
横浜猛蹴(よこはまたける)です。
開幕を数週間後に控えた時期に行われていた横浜猛蹴のトレーニングマッチの会場で、クラブの大坪智治代表と試合を眺めながらひたすらサッカーの話をし、様々な話題について意見交換をしていく中で、私がこのクラブに対して抱いていたひとつの疑問、それを直接大坪代表に投げかけてみたのですが、その疑問に対する答えがあまりに分かり易く、このクラブの本質部分に大きくかかわってくることだと私には理解出来たので、関東リーグ開幕を直前に控えたこのタイミングにその全容を書いてみたいと思います。
題して
「横浜猛蹴は何故スポンサードを断るのか」
横浜猛蹴は何故スポンサードを断るのか

私がこの疑問「横浜猛蹴は何故スポンサードを断るのか」を抱いたのは、特別に大きな意味があったわけでもなく、ユニフォームの胸や背中に企業名を入れ「スポンサード」されている地域リーグクラブが一般的となってきている中、左胸にクラブエンブレムだけが刺繍されたシンプルなデザインのユニフォームで戦い続けている横浜猛蹴にも、少なからずスポンサードしようという企業や団体があるだろうなと思っていたことに起因します。
実際にそれを大坪代表に問いかけると「スポンサーになりたいという申し出はある」という返答を頂き、それでもその申し出を「積極的」に断るその理由についてはこう話して下さいました。
『スポンサーを受ければ、そのスポンサーのためにも勝とうとそうなりますよね』
横浜猛蹴がスポンサードを受け入れていないのには、もちろん物理的な理由もあります。
それに対応出来るだけの人材がいないのです。

クラブの年間運営費の全てを選手たちの「部費」のみでまかない、監督や数少ないスタッフも手弁当で週末のほとんどをクラブのために費やしてくれる。
今のこのスタイルを継続させていくとすれば、スポンサーを受け入れ、それに伴う雑務を担うべき人材はいない。
いや、スポンサーを受け入れることで、これまでに約17年間継続させてきた「クラブの在り方」が大きく変質させられてしまう可能性すら孕んでいる。
そしてこの先も、これまでと同じように選手たちにプレーする場を提供するという横浜猛蹴の存在価値を亡きものとしてはならない。
大坪代表の話されたことを私はこのように理解しました。
何ともスッキリとした理屈。
何とも分かり易い哲学。
勝ちたいと思うことに理由がいる?

「好き・嫌い」「賛成・反対」「正しい・正しくない」は別にして、横浜猛蹴がどうしてクラブ外からの金銭的支援に応じない、或いは必要としないのか、その理由については皆さんにも十分ご理解頂けたのではないでしょうか。
『横浜猛蹴って勝たなくちゃいけない理由ないですよね?って言われることもあるんですけど、勝とうと思うことに理由って必要なんでしょうか、単純に勝ちたい、上手くなりたい、それでいいですよね』
大坪代表自身がこのクラブが創設された頃からプレーしてきた元選手で、その当時を「とにかく楽しかったし、とにかく上手くなりたかった」と振り返り、その時と変わらぬ「サッカーを楽しめる場所」を現在所属している選手はもちろん、この先に入ってくるかも知れない選手たちに対しても提供していきたいと、そう思っておられるからこそ、スポーツが持つ本質的な「勝利への執念」「サッカー選手としての向上心」に対するこだわりが強く保たれているのに、それを追求していく過程で下した「スポンサードを受けない」という判断だけが切り取られ
「キミたちには勝たなくちゃいけない理由はないよね?」
と言われてしまうこの現象が、何とも皮肉であるようにも感じられますが、

私はこの横浜猛蹴というクラブが、選手たちの「部費(20代の社会人が毎週末を過ごすのにつぎ込む費用として考えれば決して高くはない、むしろ安い)」で賄われ、それでありながら元Jリーガーがプレーしていることすら珍しくない「関東リーグ1部」というカテゴリーで今シーズンも戦うことが決まっているという事実だけを見た時に、このクラブと同じようなスタイルが他の地域リーグにももっと存在していいと思いますし、さらに言えば年を追うごとに登録チーム数が減少の一途を辿っている「社会人サッカー」の世界において、同じようなスタイルのクラブがもっとその価値を認められてもいいと感じています。
実際、シーズンオフになると横浜猛蹴には30人~40人の入団希望者が連日のように大坪代表に問い合わせをしてくるそうです。
もちろん、そうした入団希望者の多くがその舞台「関東リーグ1部」に魅力を感じているのも事実でしょう。
ただ、これは同時にそのレベル、つまり関東リーグ1部レベルでは戦えない選手はこの時点で既にふるいにかけられているわけで、この30人~40人の背後にはその何倍もの「サッカーをする場を求める」社会人サッカーマンたちがいると想像することだって出来るわけです。
大坪代表はこうも話されました。
『僕らが出来ているんだから、誰にだって出来るんですよ』
サッカーで「上手くなりたい」「強くなりたい」「勝ちたい」と思う者が集まれば、仮に彼らが社会人であったとしても、いまやプロ選手そして元Jリーガーすら珍しくなくなった地域リーグで戦うことだって出来る。
これをそのまま体現しているのが横浜猛蹴というサッカークラブであるのかも知れません。
このクラブの価値を…

2019シーズンの関東リーグは、間違いなく昨シーズン以上に熾烈なリーグとなるはずです。
その中で横浜猛蹴がどんな戦いを見せるのか、どのくらい勝てるのか、はたまたどれくらい負けてしまうのか。
選手たちは向上心を持って「勝利への執念」を追求していくでしょうし、これは大坪代表にしても変わらないでしょう。
しかしながら私自身は、横浜猛蹴が日本中の「プレ横浜猛蹴」な社会人サッカークラブに勇気を与えられるような戦いをして欲しいですし、その為にリーグ戦最中もこのクラブが持つ本質的な価値をもっと理解し、それを「子どもでもわかるような言葉」で説明しなくてはいけないとも思っています。
そしてこの記事を読んで下さった方が、このクラブがどうしてスポンサードを受け入れないのか
「横浜猛蹴は何故スポンサードを断るのか」
それに対する大坪代表の答えについてだけは、何もご存知ない方に対して説明できるくらいのレベルでご理解頂けたら、こんなに嬉しいことはないなと思ってもいるのです。