今季は東京2部で戦うFC KOREA

『フットボールとは社会そのものである。そして、世界には人間の数と同じだけのフットボールが存在し、そのどれもが愛おしいものなのだ。』
この言葉に共感して下さる方がおられるとすれば、私が在日朝鮮蹴球団(チュックダン)をルーツに持つ、FC KOREAというサッカーチームに言い知れぬ魅力を感じてしまっていることをほんの少しご理解頂けるかも知れません。
今シーズン、東京都2部をその戦いの舞台とすることになったこのチームは、つい数年前まで全国有数の社会人サッカーチームでもありました。
2012年には地元東京で行われた全国社会人サッカー選手権大会(全社)で優勝し、時世のタイミングさえ合えばJFLに昇格してもおかしくないくらいのレベルで戦っていたチームが、2016シーズンは関東2部へ、2017シーズンには東京都1部へ、そして昨年2018シーズンには東京都2部へと3シーズン連続で降格の憂き目に遭ったことで、社会人サッカーの世界における存在感も小さくなっていき、いつしか
「強かったFC KOREA」
の話は、遠い昔話のごとき扱いをされることも多くなってきたようにも思います。
2018シーズン。「1年で関東リーグへ返り咲こう」としていたチームは、東京都1部ですら勝てない現実を突きつけられ、戦績だけを言えばリーグに何の爪跡も残すことなく、そのまま1年での降格を決めてしまったわけですが、そのあまりに悲壮な状況に
「このチームは果たして来シーズンも戦ってくれるのだろうか」
と半ば本気でチームの消滅を心配していましたが、そんなFC KOREAがチームの体制も大きく変え、新しいシーズンに立ち向かう姿を東京都2部リーグ開幕戦で見せてくれました。
在日コリアンだけで戦う

長くこのチームの核として邁進されてきた、李清敬(リ・チョンギョン)代表兼2018シーズン監督はチームの顧問となり、FC KOREAのOBでもありJFL(横河電機)でも長いプレー経験のある尹星二(ユン・ソンイ)監督を迎えいれ、チームの運営に関わるスタッフも選手たちと年齢の近い若い人材へとバトンタッチ。
そして何よりも、2016シーズン以来、在日コリアン以外の選手にも門戸を開いてきた方針にストップをかけ、再び在日コリアンの選手のみで戦うことをチームが選んだのです。
「在日コリアンだけで戦う」
この決断については、必ずしも全ての方が肯定的に受け取れるものではないかも知れません。
しかしながら、サッカーというチームスポーツにおいて、その特性を強く発揮していく為には、似た境遇で育った者、似た境遇で生きている者であるからこそ生み出せるものが私はあると思いますし、私が在日コリアンのサッカーから感じている印象が、そのルーツに起因するものであったのだとすれば、「在日コリアンだけで戦う」今シーズンのチームからは彼らが放つエッセンスが、より濃縮された形で表現されるのではないかとも私には思えるのです。
激しさと勇気

3月31日。
埼玉県三郷で彼らの新しいシーズンは始まりました。
対戦相手は今シーズンから東京都2部に昇格したチーム(I.M.P)。
この時期になっても全く青くなっていない冬の枯芝が覆うグラウンドは、前日までの雨の影響で水を含み、芝が生えているせいで遠目には良く分からないものの、グラウンド全体がデコボコし、サッカーをするのにはなかなか厳しいコンディション。
予想通り、キックオフしてから暫くの間は、両軍ともボールが全く足につかず、ひたすら蹴り合いの展開が続きました。
しかし時計が進むにつれ、この3部からの昇格チームと、FC KOREAとの間に存在する決定的な差が、ゲームを一方的な流れへ変えていきます。
両者の間にある決定的な差。
これこそが、私が在日コリアンのサッカーから最も強く感じている印象の一端であって、日本サッカーが時に忘れてしまいがちなポイントであると感じていることでもあるのです。
「激しさと勇気」
例えばこの数年の間、FC KOREAの最終ラインを司ってきた、細身のCB慎鏞紀(シン・ヨンギ)選手は、腰から下のボールであっても頭の方が先にボールへアプローチ出来ると判断すれば、躊躇なく相手の足先とヘディングで競り合います。
今シーズンから再び背番号10を背負い、チームに数少ない「全社優勝メンバー」の1人でもある崔光然(チェ・カンヨン)選手は、90分間途切れることなく声で仲間を鼓舞し、自らもルーズボールに身体全体でアタックし続けます。
彼ら、昨シーズンのFC KOREAでもプレーしていた選手たちに加えて、まだ私が良く知らない「復帰選手」やこの春大学を卒業して加入してきた若い選手たちについても、総じて「激しさと勇気」をプレーの端々から感じられる選手ばかり。
特にこの日のグラウンドが、華麗なドルブルやコンビネーションを見せるのには全く不向きなコンディションであったことも助けて、FC KOREAの選手たちは見事に自らの優位性を発揮し、5-0という大勝でこれ以上ないとも言えるようなスタートを切ったです。
彼らだけが醸し出すことの出来る彼らだけのサッカー

そしてこの日の彼らからは、昨シーズンの彼らからはなかなか感じられなかった表情にも触れることが出来ました。
それは「笑顔」であり「このチームでサッカーが出来て幸せ」といったムード。
昨年の指揮官であり、今シーズンからはチームの顧問となったリ・チョンギョンさんは試合前
「こんな弱いチームのこと、まだ追っかけてるの?」と私を茶化しながらも
「これまでチームの為に頑張ってくれた日本人選手たちに対しては本当に感謝してるんですよ」と述べられ
「今年のチームは本当に一生懸命、いい練習をしてくれていますよ」とにこやかな表情で私に話してくれました。
2018シーズン終了後からこの開幕にかけて、チームの在り様を少なからず変化させてきた中で、様々な葛藤もあったはずですが、それをのり越えたからこそ、チームもチョンギョンさんもスッキリとした顔でこちらを見てくれたようにも思えます。
とは言え、東京都2部とて強者揃い。
必ずしもその中でFC KOREAが栄冠を勝ち取ると確信を持てるわけではありませんが、少なくとも今シーズンのFC KOREAが「激しさと勇気」をゲームの中から感じさせてくれる。その予感だけは間違っていないように思います。
彼らだけが醸し出すことの出来る彼らだけのサッカー。
それを体感しようと思って下さる方が、今シーズン1人でも誕生してくれることを願って。
それから最後に。
冒頭の言葉
『フットボールとは社会そのものである。そして、世界には人間の数と同じだけのフットボールが存在し、そのどれもが愛おしいものなのだ。』
これ、私が作った言葉です。
悪しからず。