都リーグ1部 序盤最大の注目カード
「リングに上がってきた期待の新人を相手に、王者はそれを抱えて投げ飛ばした」
東京都1部リーグ序盤戦最大の注目カード
葛飾区奥戸総合スポーツセンターで行われた「南葛SC VS ZION FC」の対戦に見られた様々な光景をいっさいがっさい端折って説明するとすれば、こんな表現になるのかも知れません。
今季から戦いのステージを1部リーグに上げてきたZION FCは、今にも飛び掛かってきそうな勢いのある「期待の新人」っぷりを存分に感じさせていましたし、そんな一見ヤバい対戦相手を前に、結果として4-1という大勝でこのゲームを終えてしまった南葛SCには明らかに昨シーズンを超える王者としての力が感じられました。
そして何よりも、花冷えの中、日曜日のナイターで行われたこの試合が、東京都リーグであるということを度々忘れさせてしまうほどのムードに会場全体が包まれていたこと。
これもゲームのテンションをさらに高いものとしていたのは間違いのないことでしょう。
とにかく、
「イイモノ見させてもらったわぁ~」
という感情が、帰宅した後も薄れないような試合に東京都リーグでも遭遇出来てしまう。
この事実は南葛SCのみならず、このリーグが持っているポテンシャルの高さをそのまま物語っているとも言えるのではないでしょうか。
「ヤンチャ」なZION FC
などと少々歯の浮いてきそうな言葉を並べてきてしまいましたが、これらの言葉が決して大袈裟な表現でないことは、あの時ともに奥戸へいらした方々には分かって頂けるはず。
それくらい何もかもが「出来過ぎた」試合でありました。
時折強く冷たい風の吹くスタジアムには、試合前から南葛SCのスタジアムDJ、井上マーさんの声が響き渡り、ナイター照明によってピッチ上だけが明るく見える光景は、ゲームに対する集中力を高めるのを助け、ZION FC、南葛SC両軍サポーターの、人数は少なくとも熱のこもった声援はスタジアムにこだまし、キックオフした直後からゲームのテンションも非常に高かった。
これらの「演出効果」だけを見ても、このカテゴリーの持てる力を全て出しきっているようなシチュエーション。
そんなシチュエーションで、「ヤンチャ」な匂いをプンプンさせるZION FCと、「有名人だらけ」の南葛SCが真剣勝負をするというこの対照的な構図。
ゲームの戦術的解説は他の方に任せるとして、この対照的な両チームが創り出した90分間のドラマの筋書きも完璧であったように思います。
試合は序盤にZION FCの木部未蘭選手が圧倒的なドリブル突破で先制点をお膳立てするという、衝撃的なシーンからスタートします。
このゴールによって、「ヤンチャ」なZION FCが俄然勢いづきます。
彼らは「ヤンチャ」な匂いをプンプンさせるルックスではありますが、そのサッカー自体は驚くほど洗練されたもので、選手同士の距離感、ポジショニング、パススピード、連携、そうした「チームとして訓練が必要」な要素においては、間違いなく南葛SCを上回るクオリティを見せていたように思います。
ただその一方で、「闘う」というサッカーの本質部分については、少々「口」を使いすぎる節が感じられたのも事実で、その部分についてはまさに「ヤンチャ」な姿がそのまま露呈していたのかも知れません。
王者の経験値
これは全くの想像ですが、そんなZION FCの「ヤンチャな口戦」を見て、南葛SCの歴戦の雄たちは、相手の潜在能力を計っていたように思います。
青木剛選手、石井健伍選手、柴村直弥選手、そしてキャプテンの安田晃大選手、、
Jリーグでの経験も豊富で、これまでにあらゆる選手、あらゆるチームと対戦した経験をもつ彼らであれば、「挑発的なモノ言い」を繰り返すチームが、どうしてそういう姿勢を取るのか、さらに言えば、どこが弱点であるのか、そして自分たちが何をすればいいのか、
その答えをしっかりと認識するのに、ZION FCの「ヤンチャな口」は大きなヒントにもなっていたはず。
先に書きましたが、これは全くの想像ですよ。
ただ、前半終了間際に得た2つのセットプレーであっけなく逆転をした南葛SCが、後半は完全にゲームの主導権を握り続け、確実に相手を仕留めていく様は
「リングに上がってきた期待の新人を相手に、王者はそれを抱えて投げ飛ばした」
ように私には見えていましたし、ZION FCにはその流れに抗うだけの力はまだ備わっていなかったようにも見えた。
チームとしての戦術的完成度はZION FCの方に軍配が上がったかも知れませんが、そんな戦術レベルを簡単に凌駕してしまった南葛SCの大きさ。南葛SCでプレーする数人の圧倒的な経験値。
これを実感させられるゲームであったように思います。
今季の都リーグ1部を楽しむ上での新たな視点
試合が終わった後、以前このブログでもロングインタビューをさせて頂いた、柴村直弥選手に試合についての質問をすると、こんな答えが返ってきました。
『(昇格チームだと言うこともあって)ZION FCの情報があんまりなくて、監督の藤田泰成さんはヴォルティス徳島でチームメートでしたのでその人柄は分かっていますけど、どういうサッカーをするのか、もちろんシステムも分からない中で、先ずは相手が3バックなのか4バックなのか、それを確認しながら進めていく必要があるなと、それが最初の段階でした。最初のCKの時に青木と「2シャドーがいる形だな」と確認して、そこにボールが入った時にどうするか明確にしようと話をして~』
もちろん、試合が始る前の段階で対戦相手のフォーメーションが分かっていないことなど、スカウティング専門スタッフが存在するようなリーグであったとしても決して珍しい状況ではないのですが、その「分からない状況」をピッチ上にいる選手が理解し、その対処法をチームメートと即座に共有出来てしまう。
これこそがZION FCを投げ飛ばした南葛SCの大きさ、圧倒的経験値が現れている部分だったように思います。
ZION FCと同じく今季からの昇格チームである明治学院スカーレットを相手に引き分け、白星スタートを切ることは出来なかった南葛SC。
しかし、南葛SCが新たに加入させた眩いばかりの選手たちが、足ばかりではなく頭でも力を発揮してきた時、それに打ち勝つことが出来るチームがあるとすれば、どこなのか、そんな新たな視点での楽しみ方を、この日のゲームが提示してくれたように思います。
いずれにせよ、今年もアンダーカテゴリーの新しいシーズンが始まりました!