栃木シティFC アマチュアリーグで戦うプロ選手集団「我々は勝たなくてはならない」

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地域リーグクラブにとっての2月

Jリーグは来週末から新しいシーズンがスタートしますが、地域リーグや都道府県リーグについては、3月の末に開幕するところもあれば、4月上旬に開幕するところ、東海リーグのように5月に開幕するところまで、その地域やカテゴリーによって2~3か月のズレがあります。

それでもほとんどのチームは1月中から既にチーム練習が始まっていて、地域リーグレベルになると週に1~2試合のトレーニングマッチをこなしながら、合間に「天皇杯への道トーナメント」が入ったりしながら、2か月後、3か月後に開幕するリーグ本番に向けて徐々にチーム作りをしているのが、この2月であるようです。

ただ、例えば3月の第1週から「天皇杯への道トーナメント」東京カップ2次戦がスタートする東京の関東リーグチームや、2月の最終週に「天皇杯への道トーナメント」千葉県サッカー選手権準々決勝が行われる千葉の関東リーグチームにとっては、そうそう「徐々にチーム作り」とも言っていられない時期にも差し掛かっているでしょう。

それを踏まえると、「天皇杯への道トーナメント」も関東リーグが開幕したあとにならないと始まらない栃木の関東リーグチームである栃木シティFCにとって、今やるべきことは小手先のトレーニングではなく、長いシーズンを戦い抜く上で必要なチームのベース作りであると考えることも出来ます。

私は先週の土曜日に、栃木・壬生町で行われた栃木シティのトレーニングマッチ、対アルティスタ浅間戦の取材をしてきましたが、そこでチーム全体が1方向に向かって行く、その道中を目撃出来たような気がしました。

栃木ウーヴァ(現 栃木シティ)の2018年11月

岸野靖之CSO(戦略統括責任者)

2019シーズンを迎えるにあたって、クラブ名もそれまでの「栃木ウーヴァFC」から「栃木シティFC」へと変更したこの関東リーグの強豪クラブは、2017シーズンまで8シーズンに渡ってJFLをその戦いの舞台としてきましたが、その間ずっとJFL下位に低迷していたチームがとうとう2017シーズンに関東リーグ降格の憂き目に合い、日本理化工業所大栗崇史社長がクラブ社長に就任したタイミングから、このカテゴリーでは他の追随を許さぬ圧倒的な資金力でチーム強化が実行され、関東リーグ降格年となった2018シーズンについても「デカモリシ」こと森島康仁選手を筆頭に、実績のある元Jリーガーを次々と獲得し、その勢いのまま関東リーグを制しました。

しかしながら、関東リーグのチャンピオンとして臨んだJFL昇格クラブ決定大会、11月の地域チャンピオンズリーグ(以下地域CL)では、まさかの1次ラウンド敗退。

チョン・ヨンデ監督

私自身、関東リーグであれだけ強さを発揮していた栃木ウーヴァ(当時)が、地域CL1次ラウンドで松江シティFCに対し、後半の立ち上がりで一時0-4というスコアにされてしまった時には、背筋の凍るような、見てはいけないものを見てしまったような、これまでサッカーを見ていて感じたことのない、言い知れぬ恐怖感のようなものを覚えたのですが、結果的にその試合を2-4で落としてしまったチームの選手、スタッフ、そして大栗社長からも、絶対に近寄れない、絶対に話しかけることが出来ない、そんな恐ろしいまでの虚脱感みたいなものを感じたことも覚えています。(結局私には大会運営側がセッティングした会見場で堺陽二監督(当時)にインタビューするのが精一杯でした)

そんな「夢破れる体験」で2018シーズンを締めくくらざるを得なかったチームは、降格2年目となる今シーズンに向けてもその「JFL昇格」に向けた情熱は衰えることなく、昨シーズン同様所属選手全員とプロ契約を結び、ザスパクサツ群馬から加入した松下裕樹選手をはじめ、力のある新戦力を加えるとともに、その指導体制についても岸野靖之CSO(戦略統括責任者)とカターレ富山でタッグを組んだチョン・ヨンデ監督を迎え、あの「2018年11月」を糧にしてさらに強力なチームを作るべく、土曜日の壬生町でも岸野CSOがくべていく薪によってチーム全体がメラメラと静かに燃えている、そんな光景がそこにありました。

リーグはアマチュア、選手はプロ

『我々は地域リーグのチームのなかでは最高に恵まれている、だからこそ「栃木シティにだけは負けない」と向かってくる相手にも勝たなくてはいけない』

岸野CSOはそう話してくれました。

地域リーグで戦う選手たちの多くは、サッカーとは別の仕事で収入を得ながらプレーをしています。

そんな中で栃木シティについては、全ての選手がクラブとプロ契約を結び、日常の全てをサッカーに注ぎ込むことを許されている集団でもあるわけです。

もちろん、そういうクラブ方針があるからこそ、そこでプレーする為には他の地域リーグチームとは別次元の生存競争も生まれてくるでしょう。

リーグは「アマチュア」だけど、チームでプレーしている選手全員が「プロフェッショナル」

これが関東リーグを戦う栃木シティが置かれている状況なのです。

私はこの状況にこそ、栃木シティで戦っている選手たちだけが抱いている難しさがあるように感じ、それをチョン・ヨンデ監督に伺ってみました。

『予期せぬことが起きると言うか、Jリーガー同士(の対戦)であれば噛み合うことも多いんですけど、(対戦相手と)噛み合わないものをどう柔軟に対応していけるか、噛み合わない状況をどうやって噛み合うようにしていけるか、今シーズンはそういう戦いになってくるんじゃないかと思っています』

自らも長くJリーグで選手として活躍し、引退後も数々のJクラブで指導経験を積んできたチョン・ヨンデ監督が、実は朝鮮大学卒業後に当時関東リーグ1部に所属していた青梅FCで1シーズンプレーしていたこと、つまりチョン・ヨンデ‟選手”自身が「地域リーガー」でもあったことを私はご本人が話してくれたことで知りましたが、そうした経験を持っているチョン・ヨンデ監督であるからこそ、全員がプロ選手という栃木シティがそうではないチームと対戦した時に生じる微妙な「嚙合わせの不調」を乗り越える必要性を強く感じているのかも知れません。

栃木シティのプロ選手たち

増田修斗選手

昨シーズン大卒の新人選手でありながら、実力者揃いの栃木ウーヴァにおいてレギュラーを獲得し、CBの一角としてリーグ戦から地域CLまで戦い続けた増田修斗選手には、地域リーグチームに所属していながらプロ選手として恵まれた環境で戦うことが出来ていること、それ実感するのはどんな時なのか伺ってみました。

『一番実感するのは試合の時で、絶対に負けてはいけないと思いますし、本当にいい環境でやらせてもらえているし、お金をもらってやっている以上、練習の時からひとつも気が抜けないです』

日々の身体のケア、食べる物についての気遣いも「プロとしてやらなくてはいけないと思っている」とも話す増田選手の言葉を伺っていると、選手たちに与えられている待遇や恵まれた環境が、あくまでもアスリートとしての日常を保つために与えられているもので、リーグがアマチュアであろうが、対戦相手が大学生や社会人であろうが、選手たちはそこにそれほど頓着をしていないのかも知れないとも思えてきます。

松下裕樹選手

今シーズンの栃木シティ加入選手の中で、Jリーガーとして圧倒的な実績と人気を誇っているのが松下裕樹選手

『トップフォームを100としたら今は60くらい、だけど間違いなくいいトレーニングが出来ている』と話してくれた松下選手。

地域CLなどに見られる連戦による過酷な大会レギュレーションに対しても『一番過酷な大会だと思う』としながら、そこに向けた思いについても話してくれました。

『もちろん大変だとは思いますけど、でも決まっているわけだし、なおかつ勝たなくちゃいけないわけなんで、年齢とか色々ありますけど、やるからにはフルでそこに立てるような、フィジカル的にもメンタル的にもそこを勝ち抜けるだけの選手でいたいと思うし、そこでやれるって言うことで自分の価値をさらに高めたい』

栃木シティの炎

リーグはアマチュア、しかしチーム全員がプロ選手、そしてその中には松下裕樹選手のようにJリーグ481試合出場という実績を持った選手もいる。

「恵まれた環境」でプレーすることを許されているとは言うものの、やはりその注目度に関してだけ言えば、関東リーグや地域CLといった舞台自体が栃木シティで戦うことを決めた選手たちにとって彼らのモチベーションを駆り立てるだけの環境であるとまでは言い切れない気もしてきます。

『他の地域リーグの選手たちよりも名前を持ってたり過去(実績)がとかあると思いますけど、それは基本的には一切関係なくて、今何を出来るかっていうことだと思う。彼らが身体を張って、相手よりもしっかり走って、サッカーに対して厳しくやる、そうしていけばおのずと少しの差は出るのかなと、ただ少しでも甘さや緩さがあれば確実にそれは勝負のところに出てくるので、それが出ないように選手たちを信じながら大きくしていきたい』

岸野CSOはこうも話して下さいましたが、栃木シティがJFLへ昇格する上で戦う相手はもしかしたら自分たち自身であるのかも知れません。

プロ選手としてプレーしていながらも、そのリーグ戦が行われる試合会場に観客が少ないどころか、そもそも観客席すらない場合だってある。

それでも自らを奮い立たせ「お前らにだけは負けない」と目の色を変えて立ち向かってくる相手と戦い続けなくてはならないわけです。

土曜日の壬生町で私が見たものは、そんな自分自身との戦いに挑んでいるチームが、静かに燃えている姿だったようにも思えてきます。

そしてその炎がこれから関東リーグ開幕までの間に、どれくらいの大きさになっていくのか、その炎を地域CLで最高潮にもっていくことが出来るのか。

アマチュアリーグで戦うプロ選手の炎を大きくするのに、チームに薪をくべる人を今シーズンの間にどれくらい増やすことが出来るか。

2019シーズンの栃木シティFCに対して、チームの強さとともに、そこについても注目していきたと私は考えています。




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