Jリーグ開幕も近づき、多くのサッカーファンの皆さんもワクワクとドキドキが日々高まってきている時期となってきましたが、このブログでも何度か取り上げてきているように、社会人サッカーの世界では既に「天皇杯への道」とも言うべき、都道府県サッカートーナメントが始まっています。
関東地方については、その多くの都県でJFLやJ3クラブ、そして強豪大学チームとの間で争われる「天皇杯出場権の懸かった大会へ出場」出来る「社会人代表チーム」がそろそろ決定する段階にまで進んで来ています。(少しややこしい言い回しとなってしまっておりますが、詳しくは【各都道府県天皇杯代表チーム決定大会はいつどんな風に行われているか(関東編)】を是非ご覧ください!)
社会人チームにとって、その主戦場はあくまでリーグ戦でありますがその一方で、格上チームと真剣勝負で戦うチャンスが得られる「天皇杯への道トーナメント」に対しては
「いっちょやってやるぜ!」
とでも言いましょうか、チームからも選手からもこうした爽快なチャレンジャー精神が強く感じられます。
そういう意味で、例えば東京都の「天皇杯への道トーナメント」である東京カップ1次戦については、参加チームの中で最も格上である東京都1部リーグ所属チームにとって、序盤で対戦する東京都2部リーグ以下のチームに負けるわけにはいかない。
当然ながらそこで相当のプレッシャーも感じているはずです。
東京サッカートーナメントまで勝ち上がってJFLの東京武蔵野シティFCや関東大学リーグの強豪チームの胸を借りることまでは出来なくとも、東京カップ2次戦までは勝ち残って関東リーグの東京ユナイテッドFCや東京23FCとは絶対に戦いたい。だから東京都3部に負けている場合じゃない!
戦っているカテゴリーの格だけが、そのチームの価値を決めるものであっては面白くないと私も思っていますが、格下チームにとっては自らの価値をアピールするチャンスとして「格上喰い」は即効性もあります。
また、リーグ戦と違ってトーナメント戦は常に「一撃必殺」で、その盛り上がりも「瞬間沸騰」なだけに、私のように追う側の人間にも、タイミングを見誤うことでそれを見逃してしまう緊張感が付きまとうわけですが、この時期は毎週末ごとに行われている「天皇杯への道トーナメント」のどの会場へ行くべきか、本当にその前の晩まで悩みつくす状況が続いています。
選手たちも戦っていますが私も戦っている!?
ただ、そんな風に毎週のように悩みつつ、どの会場へ行ってどの対戦を見ても、必ず何かしら新しい発見や気づきがあるのがサッカーのいいところで、今回私が行ってきた神奈川県の「天皇杯への道トーナメント」である神奈川県社会人サッカー選手権2回戦においても、とても大きな気づきを貰ったのです。
今回は、このブログでも先日取り上げたばかりの品川CC横浜にとっての「天皇杯への道トーナメント」初戦。
神奈川社会人サッカー選手権2回戦、対かながわクラブ戦をリポートしながら、その気づきに触れて行こうと思います。
品川CC横浜「2019シーズン天皇杯への道」
神奈川社会人サッカー選手権2回戦 品川CC横浜 VS かながわクラブ
『新卒で入ってきた選手は、1年目に絶対苦しみます』
品川CC横浜の吉田祐介GMは試合後にこう語った。
神奈川社会人サッカー選手権に2回戦から登場した品川CC横浜。その初戦となる2回戦の相手はかながわクラブ。
昨シーズン神奈川県2部を2位で終え、その勢いのまま入替戦を制し今シーズンからの1部昇格を決めたチームである。
昨シーズン神奈川県1部で優勝し、関東リーグ昇格の懸かった関東社会人サッカー大会にも出場した品川CC横浜にしてみれば、かながわクラブは格下と言えるチーム。
それでも試合後に監督、選手たちが口を揃えて『必ず難しい試合になると思っていた』と話したように、かながわクラブは品川CC横浜の攻撃陣が自陣ペナルティエリア内へ侵入することを簡単には許さなかった。
難しい試合になるとしながらも『勝つのは当然として「勝ち方」にはこだわった』と品川CC横浜、山内監督は話してくれたが、選手たちは、かながわクラブが人数をかけてゴール前に掛けたいくつものカギを丹念に「ピッキング」するかのように、細かいパス交換でそれを打開しようとするも、寸前でそれを完遂出来ず徐々に時計の針は進んで行く。
後半も残り僅か、このままかながわクラブの術中に嵌り、PK合戦突入も止む無しと思われた最終盤、チームをその危機から救ったのは山内監督が3枚目のカードとしてピッチへ送り込んだ新加入選手だった。
ヒーローになった新卒新加入選手
背番号8番、里見直樹選手。
今年の春大学を卒業する若き「新卒新加入選手」。
しかし、彼のサッカー選手としてのキャリアはこのカテゴリーで戦っているのが不自然に思えるほど華々しい。
その育成については高い評価を受けている大宮アルディージャユース出身、その後日本体育大学へ進学し、昨シーズンの関東大学サッカーリーグでは10番を背負ってプレー。
2018シーズンはリーグ戦20試合出場4ゴールと堂々たる成績を残してもいる。
そんな里見選手の放ったワンタッチボレーがゆっくりとした軌道を描いてゴールへ吸い込まれていく。
つい数分前までベンチで味方の戦況を見つめていた新加入選手が、一躍この日のヒーローとなった。
新卒で入ってきた選手は1年目に絶対苦しみます
『昨年、就職活動をしていたころから吉田GMにはずっとお世話になっていて、先輩もここでやっていましたし、チームも高いレベルでやっていることを知って加入を決めました』
試合後こう話してくれた里見選手。
品川CC横浜が創る「社会人サッカー選手に対する雇用斡旋ビジネスモデル」つまり
【優秀なアスリートである選手たちに、ビジネスマンとしての能力も発揮させるべく、GM自らが企業の採用面接対策まで施し、クラブスポンサーの仲介業者を通して各企業へ売り込む】
があったことで彼のような経歴を持つ選手もその活躍の場をアンダーカテゴリーサッカーに見出すことが出来ているのであろう。
しかしながら、彼自身がこれまでとは全く違う環境でサッカーを選手として続けていくこと、それを全うするのには、現在にあっては想像の難しい壁が待ち受けているのかも知れない。
山内監督は新卒新人選手に対してクラブが取る具体的なアクションについてこう話してくれた。
『クラブが掲げている「仕事もサッカーも本気だからこそ出来る成長がある」を成功体験として積んでいけるように、新卒新人選手には先輩選手を「メンター※」としてつけることになりました』
冒頭、吉田GMの言葉『新卒で入ってきた選手は、1年目に絶対苦しみます』
これは学生時代に強度の高いサッカー環境にいた選手であればあるほど、その苦しみの幅も大きいそうだ。
まさに里見直樹選手のような選手がこの先、過去の自分と現在の自分が置かれている環境のギャップに苦しむ可能性があるからこそ、クラブとしてもそこに最新のケアを施す準備をしているのだ。
『例えば強豪大学の選手たちは試合会場に行くのにも寮からそのままバス移動で、試合会場へ着いても「ここ何処だっけ?」なんて状態も珍しくない。社会人になると試合会場まで行くのにも自分でちゃんと時間を考えなくちゃいけなくなる』
吉田GMはこう具体的に話してくれたが、競技者としてサッカーを続けてきた選手である場合、単にサッカーの練習環境などだけではなく、それに付随するあらゆる要素が言わば「お膳立て」されていることも珍しくなく、社会人サッカー選手になれば、用具の準備、移動、食事、そして勿論そこに「仕事」が大きく加わってくるわけで、当然ながら普通の大学生が社会人になる際もそうであろうが、学生時代に「普通ではない」日常を送ってきた新社会人にとっては、生活の全てに違和感を覚えてしまうであろうことは想像に難しくない。
経験できるのは今
『新社会人って言うのは仕事に対しては辛い1年になると思いますけど、そんな中でサッカーに対する意識を変えずやり続ける、仕事もサッカーも100でやるって言うのが成長に繋がるし、それが経験できるのは今だと思うので、頑張って欲しい』
キャプテンの友澤剛気選手(背番号10)はこう里見選手にエールを送ってくれたが、この言葉の中で私は特に『それが経験できるのは今』という部分にその思いの「深さ」を感じていた。
おそらく友澤キャプテン自身も仕事とサッカーの両方に100の力を発揮すべく努力しているはずで、その大変さが自分ゴトとして理解出来ているからこそ『経験できるのは今』と考えることが出来るのだろう。
ちなみに今シーズンに向けた新卒新人選手の「メンター」は友澤キャプテンの実弟、友澤貴気選手(背番号33)。
地方出張も多い友澤貴気選手は、出張先で自主トレをするのは当然として、地元サッカーチームを自分で探し、スポットで練習参加を申し入れコンディションを整えることもあったそう。
ここまで聞くと品川CC横浜の選手たちが目指す人間像のあまりのストイックさに敬服するばかりだが、程度の差はあるにせよ、このカテゴリーでプレーしている選手たちの中には「そこまでしてサッカーと向き合いたい」と言う強い思いを持つ青年たちが大勢いるのだろう。
加入後に出場した最初の試合で値千金のゴールを決めチームメートやサポーターから祝福された里見直樹選手。
彼にとって社会人1年目となる2019シーズン。
クラブや先輩選手が良き相談相手、良きアドバイザーであったとして、最終的にそこで成長を見せることが出来るかは里見選手本人の力にかかっている。
私は彼に大きな期待をするとともに声援も送っていきたい。
後記
「天皇杯への道トーナメント」に挑む社会人チームが「いっちょやってやるぜ!」とばかりに強者へ立ち向かっていく姿は、実は自らを1人の社会人として、そして1人のサッカー選手として律していく姿の集合体であるのかも知れない。
平塚の馬入ふれあい公園に吹きすさぶ寒風の中、そんな思いが私の頭の中によぎっていきました。
試合が行われている隣のピッチでは、J1湘南ベルマーレが来るべきJリーグ開幕に向け、1時間半ほどのトレーニングをしていました。
社会人サッカーの世界でプレーしている選手たちは、望んでもJリーグでプレーすることが叶わなかった選手であるのかも知れない。
しかし、敢えてこの世界で挑戦する道を選んだ彼らが送っている日常が、誰にでも出来ることでは決してない。
だからこそ、私の気持ちをそこに向けさせるし、もっと沢山の方々が知っていてもいい世界ではないかと思うのです。
※【メンター】
メンターとは、仕事上(または人生)の指導者、助言者の意味。メンター制度とは、企業において、新入社員などの精神的なサポートをするために、専任者をもうける制度のことで、日本におけるOJT制度が元になっている。メンターは、キャリア形成をはじめ生活上のさまざまな悩み相談を受けながら、育成にあたる。