「エスペランサSC 2019シーズン始動」というタイトルがつけられた動画に魅せられて、その舞台となっている横浜・野七里の練習場まで取材しに行こうと思った私。
そこで目にしたものはエスペランサSC(関東リーグ2部)オルテガ監督によって作られ「神から与えられたビジョン」を実現しようとする真摯な姿でした。
1回目のレポートでは、練習場を中心としたエスペランサSCの実態をオルテガ監督をはじめ、グスタボHC、佐藤賢二クラブマネージャー、古川頌久選手の言葉で綴らせて頂きましたが、2回目となる今回は、エスペランサSCの目指すフットボール哲学について、再び4氏の言葉を引用しながらレポートしていきたいと思っています。
エスペランサSC 野七里レポート②
闘えなければ勝利は得られない

『日本に来てショックだったのは、日本の少年たちがサッカーをする時にそれを「こなす」ことは出来ても、パッションが感じられなかったことです。電化製品も車も日本は大変な思いをしながら1番を取ることが出来ているのに、どうしてそれがサッカーで出来ないのか。私は日本に来て以来、それを変えたいという思いを以て挑戦してきました』
オルテガ監督が抱いてきた日本サッカーに対しての印象、それを変えていく為の挑戦。
そんな挑戦の中でオルテガ監督がいつも選手たちに言っている言葉、それが
「闘えなければ勝利は得られない」
という哲学。
『私が知る限り日本にもきっとそういう精神は昔からあったはず、だから私はエスペランサSCでそれを再び呼び起こそうとしているのです』

最近ではそれを評価する人が出てきているものの、以前はエスペランサSCの試合を見た人たちの多くがその激しいパッションに溢れるチームの姿勢に対し「汚い」「危ない」などマイナスの反応を示していたそうだ。
『関東リーグに昇格した頃からは、エスペランサのスタイルを褒めてくれる人も増えてきて、それによってチームを見つめる周囲の目が間違いなく変わってきているのも実感出来ています』
クラブマネージャーの佐藤さんがこう話すと、それを受けてグスタボさん(オルテガ監督の息子でトップチームヘッドコーチ)がこう続ける。
『でも私たちがやっているスタイルは初めからずっと変わっていないんですよ』
必要だから闘う

私が初めてエスペランサSCの試合を見た時、そこに「フットボールの本質」を見たような気がしたのを覚えている。
試合が終わった瞬間に得られる勝利に向かって、あらゆる手を使って試合を有利に運ぼうとする姿。
時にそれは誰もが憧れるような華麗なサッカーと対極であるのかも知れないが、激しく老獪に相手チームと対峙するエスペランサSCの選手たちからは「闘士」と呼ぶに相応しいムードを感じることが出来た。
『アルゼンチンの社会では目の前にいる人より優位に立とうとするのは普通のこと、だからみんな生活の中で常に駆け引きをしています』
10代の初めに父であるオルテガ監督とともに初めて日本の地へ降り立ったグスタポさんはこう語り、あとに続けた。

『日本にいると、色々なところでルールが決まっていて楽な場合もありますけど、その一方で、自分で考え判断することをしなくても生きていけてしまうんじゃないかと思うこともあります。ここではJrユースの子であっても、練習中に荷物を沢山持ってこっちへ歩いてくる人がいれば、それが誰であろうと練習をするのを止めて手伝おうとする。そういう判断と行動は人として当然のことだとクラブも考えています』
前回のレポートの中でオルテガ監督の練習場を作り上げていく上での行動原理に触れ、息子であるグスタボさんの言葉「必要だから作る」「必要だからやる」から「必要だから闘う」という言葉を導き出したが、恐らくエスペランサSCの選手たちが見せる「闘士」としての姿は、まさにこの「必要だから闘う」が体現されているのだと私は感じている。
彼らのプレーは単に「激しい(汚い)」という言葉だけで表現出来るようなものではないし、状況を見てそれに応じた駆け引きをしている姿などを見ていると、その全てをオルテガ監督やグスタボHCの指示だけに頼っているようには見えない。
つまり彼らは、相手より優位に立つ為に、自分の頭で考え、多くの判断をしているように見えてくるのだ。
何故エスペランサSCは闘えるのか

『アルゼンチンの少年たちを取り囲んでいるフットボールの環境は日本とは全く違う。アルゼンチンは貧しい国です。彼らにとってフットボールはサバイバルだし、まともな生活をする為にはフットボールが必要。だから必死になるしかない』
オルテガ監督はこう話してくれたが、そうした環境にない日本社会において、エスペランサSCの選手たちが「闘えている」のはどうしてなのか、その指導のポイントについて聞いてみると、こんな風に答えて下さった。
『同じ場所にいて同じ空気を吸っていれば変わっていきます。言葉にもそういう力はありますし、選手たちのことも私は自分の子どもだと思っている。だから私は毎日ここで選手たちとともにいるのです』
そんなオルテガ監督の「子どもたち」からは始動して間もない時期にあったこの日の練習でも、激しいコンタクトを厭わずに、試合で闘える選手であろうとするばかりに全力でトレーニングメニューにぶつかっている様子が伺えた。
実際にその様子を見たグスタボHCが選手を集め『体作りもしているこの時期に、練習で怪我をするのだけは気をつけなくちゃいけない』と諭していたほどである。
絶対できる

実力のある新しい選手も加入し、昨年のリーグ得点王である古川頌久選手にしてもレギュラー入りに向けた危機感を抱く中、当然ながらそこには「サバイバル」の原理が働いているはずだ。
『エスペランサの特徴は、日本人の思う「巧い」とは違うかも知れませんが、戦う巧さを持っているチームだと思っています。プロに入った時はそこにギャップを感じませんでしたが、フロンターレのユースにいた時はよく「下手」って言われてて、エスペランサではそんなふうに言われたことはなかったので、環境によって思う「巧さ」に違いがあるんだなと感じていました』
エスペランサSCにトップチームが創設されたのは2011年。
それから8年が経過し、オルテガ監督の薫陶を受けた若く実力のある選手たちも続々と誕生してきている。
また、実現可能な夢として2年後のJFL昇格を掲げるオルテガ監督の下には、元ブラジル代表、元コロンビア代表といった華々しいキャリアを持った選手たちも集まりはじめた。
「闘えなければ勝利は得られない」
オルテガ監督の信じる道がさらに多くの人々の共感を得られていった時、この言葉を敢えて使うことをせずとも、日本のあらゆる年代、あらゆるサッカーシーンにおいて「闘士」と呼ぶに相応しい選手たちで溢れている光景がこの先にもしかしたら見られるかも知れない。
エスペランサSCのキャッチフレースにもなっているオルテガ監督の言葉「絶対できる!」を聞いていると、そんな風にすら思えてくるのだ。
後記
2回に渡って「エスペランサSC 野七里レポート」をお送りしてきました。
見聞きしたことの全てをまとめることは到底できないことではありますが、それでも私がどうしても書きたかったことついては、この2回のレポートでまとめられたようにも思います。
そして、知れば知るほどにエスペランサSCというクラブへの関心は深まっていきます。
必ずまたこのクラブについての記事を書くことになるように感じてもいます。
改めて、今回の取材を快くお受け下さったエスペランサSCの皆さまの厚く御礼申し上げます。