高校サッカー選手権決勝が浦和レッズよりも観客を集めてしまうのは何故か

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高校サッカー人気の凄まじさ

今年の高校サッカー選手権決勝では、54,194人という浦和レッズですら集めるのが難しいくらいの観客が集まり、改めて「高校サッカー人気」の凄まじさを感じさせられました。

こうして育成年代のサッカー大会が世間的な注目を集めていることは、世界のサッカーシーンを見渡してみてもかなり特殊なケースであるように思いますが、私自身はそれはそれで日本サッカーだけに確立している貴重な「フットボールカルチャー」として、この大会がこれからも一定の価値を持っていけばいいなぁとは思っております。

ただ、それにしても54,194人は凄い。

いや、凄いというレベルを超えて、ややもすればそこに狂気すら感じさせる数字です。

ただ、実際に高校サッカー選手権決勝の会場へ行かれた経験をお持ちの方であればお分かりかと思いますが、あの試合に集まってくる観客の中には相当数で関東圏の高校サッカー部員、中学サッカー部員が含まれておりまして、彼らは「動員」こそされていないものの、自分たちが目指した舞台、この先目標とする舞台としての高校サッカー決勝戦をその目で確認しようと大挙して集まってきてもいますので、そこはちょっと差し引きした方がいいのかも知れません。

(そうした事情もあってか、埼スタが満員にもかかわらず、レッズ戦や代表戦とは比較出来ないほど駐車場に困りませんし、試合後の交通渋滞も激しくありません)

ユース年代最強を決める大会ではないのに

まあそれにしても、たかだか「日本一強い高校サッカー部」を決める試合ですからね、こんなにも人々の関心を集めるに至っているのはどうしてなのか。

毎年12月に、高校サッカー選手権決勝と同じく埼玉スタジアムで決勝戦を行っている「高円宮杯U-18サッカープレミアリーグファイナル」

昨年の暮れにも、サンフレッチェ広島ユースと鹿島アントラーズユースが「日本一」を懸けて戦いましたが、こちらの観客数は9,818人。

高校サッカー選手権で決勝に進んだ2つのチーム、青森山田も流経大柏も勝ち上がることが出来なかった「真のユース年代日本一」を決めるこの試合の観客数が「日本一強い高校サッカー部」を決める試合の5分の1も人を集めることが出来ていない。

勿論こうした実情がある主要因が、日本テレビがバックについていること、それは間違いのないところであるでしょう。

甲子園で行われている高校野球のように全試合全国生中継こそされていませんが、全国のネット局を駆使して、おそらく1回戦から全試合が各地方で地上波放送されていたはずですし、準決勝~決勝については、キー局である日本テレビが全国に向けて試合の生中継をしています。

Jリーグですらキー局での生中継がされることがなくなっている昨今、日本サッカー界において「高校サッカー」だけがパワーコンテンツとしての地位をしっかりと保っているのです。

Jリーガー育成の王道とは呼べなくなってきているのに

以前、「高校サッカーの仕掛け人」でもある、元東京ヴェルディ社長、坂田信久さん(元日本テレビスポーツ局次長)のお話を聞いた際、氏は「中学や大学と比べて、高校サッカーの指導者の方々が最も情熱的だった」と、「何故高校サッカーの放映権を獲得するに至ったのか」について、こう理由を述べておられました。

そしてそこから帝京の小沼貞夫監督や、浦和南の松本暁司監督といった「スター指導者」が誕生し、日本を代表する優れた選手たちを次々に輩出していった。

この系譜はJクラブが育成組織を持つようになった現在まで脈々と受け継がれ、流経大柏の本田裕一郎監督のように長きに渡って「高校サッカー」を指導の拠点とし続ける名将も大勢おられる。(小沼先生も未だ「現役」ですね)

しかし現在にあっては多くの優れたJリーガーを生み出す育成ルートの王道になっているのは各Jクラブ傘下の育成組織でもあります。

Jリーグが出来たばかりの頃はその育成組織も「名ばかり」であったかも知れませんが、25年という歴史を経たことで、日本を代表する選手の中にも多くのJクラブ育成出身選手が存在する時代になってきました。。

それでも尚「Jリーガー製造装置」としては必ずしも「王道」と呼べなくなってきている高校サッカーの世界が、依然としてこれほどまでの関心を集め、脚光を浴びているのか。

その原因について考えていくと、単純に「メディアへの露出度」だけにそれを求めてしまうのは簡単かも知れませんが、私はその「メディア露出」が最大限力を発揮出来てしまう、社会的素地がそこに備わっているように私は思うのです。

高校日本一を決める大会が関心事になりやすい社会的素地

「高等学校が日本社会全体にとって身近であること」

私はこれこそが、サッカーのみならずあらゆるスポーツにおいて「高校日本一」を決める大会が世間的関心事になりやすい要因であって、日本社会だからこそ備わっている素地であるように感じています。

であれば、高校サッカー選手権とU-18プレミアリーグファイナルとの観客数を比べて何かを論じるのは実は適切とは言えないのかも知れません。

つまり、U-18プレミアリーグファイナルに人気が無いのではなく、高校サッカー選手権が特に世間的関心を集めやすい大会である。と言うことです。

だからもし、日本テレビが高校サッカー選手権から手を引き、U-18プレミアリーグファイナルを頂点としたプレミアリーグ、プリンスリーグ、各都道府県高校リーグにそのバックアップ体制をシフトしたとしても、現在のような極端な盛り上がりをそこで作り出すのは難しいかも知れない。

例えば柏に住んでいる人がいたとして、その人が柏レイソルファンであれば柏レイソルU-18にシンパシーを感じるかも知れませんが、「そうでない人」にとっては「お隣のあの子も通っている」流経大柏や日体大柏をより身近に感じるでしょうし、高校サッカー選手権がこれほどの関心を集められているのは、ひとえに圧倒的多数である「そうでない人」を取り込めているから。

「どっちの方が強い」とか「どっちの方がレベルが高い」とか、そういう次元の話ではなく、自分により「身近」だからこそ「触れようと思う」「応援したくなってしまう」というファン心理。

Jリーグが必死になってこうした世間との接点を作ろうとしているのを横目に、高校サッカー選手権だけがずっと前からそこにリーチ出来てきたのではないか。

結局のところ、高校サッカー選手権の盛況を忸怩(じゅくじ)たる思いで見つめるべきなのは、U-18プレミアリーグファイナルではなく、Jリーグではないのか。

目指すべき姿を欧州を中心としたサッカーシーンだけに求めるのではなく、日本国内の「たかだか」高校日本一を決める大会にこそ、日本だからこそ作り出せるフットボールカルチャーの神髄、Jリーグの将来像が隠れているようにも思うのです。

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