「ジャイアントキリング」などと言う陳腐な言葉では・・・

12月23日。
清瀬内山サッカー場で見ることが出来たのは「ジャイアントキリング」を狙うあるチームが挑戦する姿だった。
いや、「格上喰い」を「ジャイアントキリング」と称するのであれば、もはや彼らの挑戦は「ジャイアントキリング」などと言う陳腐な言葉で表現するのは適切では無いかも知れない。
何しろそのチームは「格」に相当するリーグに一切所属していないのだから。
彼らにとって「リーグに所属する」チームとの対戦は常に挑戦であり、自らの存在意義を確認する舞台でもあるのだ。
と、少々哲学めいた導入になってしまいましたが、今回は「リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上」を掲げ、既に10年以上の長きに渡った活動をしてきているirrumattio(イルマッティオ)という社会人サッカーチームの東京カップ「対ZION FOOTBALL CLUB」戦について書いていきます。
「リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上」を掲げるirrumattio

試合の話を書く前にもう少しirrumattioについての情報に触れさせてもらいます。
(詳しくは以前このブログでチームの大坪代表にインタビューさせて頂いた時に書いた記事があるので、是非そちらをご覧ください!→→→【リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上】Irrumattio大坪隆史代表の挑戦(2018年5月23日) )
「リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上」
おそらくこの言葉を読んでもいまいちピンと来ない方がほとんどではないかと思いますが、実際にこのビジョンに共鳴して
「俺もirrumattioでやりたい!」
とチームの門を叩く若きサッカーマンが年々増加しているのです。
「リーグ所属のチームだとその活動に全て参加するだけの時間的余裕がない」
「リーグ所属のチームだとシーズンオフが長く、その期間は真剣にサッカーを出来る環境が無い場合が多い」
このような思いを持ったサッカーマンは皆さんの近くにも沢山いるかも知れませんが、irrumattioの場合はそんなサッカーマンの受け皿として存在するに収まらず、チームビジョン「リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上」を成し遂げてやろうと思える熱いハートを持った若者たちの集う場所となっているように感じます。

これが具体的な形で現れるのが東京カップをはじめ、彼らが年間を通して参戦しているいくつかのトーナメント大会の場であって、「天皇杯東京都代表」へと繋がる大会でもある東京カップへの挑戦は、irrumattioにとって「リーグ所属社会人チームの強豪」と対戦出来る非常に大きなチャンスでもあるわけです。
東京カップですから「東京都1部」や「関東リーグ」のチームとだって対戦出来る可能性がありますし、そこでの真剣勝負に「リーグ無所属」のirrumattioが勝利することが出来れば、それによって「チームの価値向上」をアピール出来る。
irrumattioが創ろうとしている社会人サッカーチームの価値が「強豪に勝利した」という事象がフックとなって世間に広く理解される可能性を生み出す。
irrumattioが掲げている「リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上」というビジョンの中には、サッカーの、そしてサッカーマンの新たな価値を創り出そうする気概を私は強く感じているのです。
【サッカー社会人】対【社会人サッカー】

私はそういう意味で、今回の東京カップ2回戦「ZION FOOTBALL CLUB 対 irrumattio」という対戦カードが何を意味しているのか、それを表すキーワードを思い浮かべることが出来ました。
では行きます。ズバリ!
【サッカー社会人】対【社会人サッカー】
どうでしょう?
「サッカー社会人も社会人サッカーも同じでしょ」って?
いや、違うんだなぁコレが。私の中ではもの凄く違うんだなぁ。
大丈夫です、ちゃんと説明します。
【サッカー社会人】とは、地域リーグやJFLでプレーしているような選手も含め「サッカー」が生活の中心にある社会人を指します。来季から東京都1部に昇格するZION FOOTBALL CLUBも私の印象では完全にコッチにカテゴライズ出来ます。

一方の【社会人サッカー】は、「社会人」というベースがあってサッカーをする人。草サッカーなどもココにカテゴライズされますが、irrumattioは勿論コッチです。
で、この【サッカー社会人】と【社会人サッカー】との間に普通は接点がありません。
【サッカー社会人】が競技志向であるとすれば【社会人サッカー】はいわゆるエンジョイ志向、故に両者が安易に交わってしまったら危険です。怪我人が出ます。
つまり【サッカー社会人】と【社会人サッカー】というこの2つのサッカー世界。名前はほとんど一緒ですが全く違う世界なのです。
そして、irrumattioが目指しているのは、実はこの【サッカー社会人】と【社会人サッカー】との間にある空間を埋めていくことなのではないか、そんな風に私には思えてきているのです。
【サッカー社会人】を選ばなかった青年たち

試合後のミシさん(三島圭一郎さん)
と言うのも、この試合にirrumattioの主将として出場をしたミシさんは、関西大学リーグの雄、関西大学サッカー部出身のアラサーサッカーマン。
同点ゴールを決めたナンバさんに至っては、この春まで関西学院大サッカー部に所属していた新卒の若者。
同点ゴールをアシストしたヒロさんはナンバさんと関学サッカー部の同期で、元々は柏レイソルU-15~桐光学園という経歴の持ち主。
【社会人サッカー】だからといって決してエンジョイ志向だとは言い切れない感じのガチなキャリア。
irrumattioのサッカーマンに話を聞こうとすると、こんなガチキャリアを持った人ばかりなのですが、そんな彼らに共通しているのは【サッカー社会人】の道に進む気が少しもなかったと言うこと。
「選手として華々しい経歴を持っているのに勿体ない」

試合後のヒロさん(加藤寛明さん左)とナンバさん(難波圭輔さん右)
私はそんな風には思いません。
ただ、そこまでサッカーに情熱を傾けてきた青年たちが「プロ選手」とか【サッカー社会人】とか、そういう道を選択しなかったことで、サッカーを出来る場所やその選択肢が一気に少なくなってしまう実情。
Jリーガーにならなかったら草サッカー。松江シティFCに入らなかったら草フットサル。
この落差こそが日本のサッカー文化にとってもの凄く大きな損失ではないかと、そういう意味での残念さは感じます。
ミシさんもナンバさんもヒロさんも、irrumattioが存在していなければサッカーはしていなかったのかも知れませんし、仮に草サッカーや草フットサルをしていたとしても【サッカー社会人】ZION FOOTBALL CLUBとの真剣勝負でゴールを奪うことなどあり得なかったはずです。
堂々と戦い散る

そう言えばここまで全く「対 ZION FOOTBALL CLUB」戦のことを書いていませんでした。
結果から書きます。
irrumattioは2-4でZION FOOTBALL CLUBに敗れました。
ZIONは【サッカー社会人】らしく、非常にしたたかで試合運びの巧いチームでした。
おそらく、irrumattioが10回対戦して1回勝てるかどうか、それくらいの自力の差はあったかも知れません。
ただ、そのただ1回の勝利。それが今回の東京カップで巡ってきてもおかしくはなかった。
それくらいにirrumattioのメンバーは堂々たる戦いぶりを見せ続けました。
まあ当然と言えば当然ではあるかも知れません。彼らだって【サッカー社会人】になっていてもおかしくなかった人たちなのです。
でもそんな試合の勝ち負け以上に【サッカー社会人】対【社会人サッカー】が真剣勝負をしたことによって、東京カップ参戦2年目のirrumattioが、両者の間にある空間を埋める瞬間を創ったことに価値があったのだと私は考えます。
端的に短い言葉で

irrumattioに加入してまだ1年が経っていない「ナンバさん」はこう話してくれました。
「このチームがどんなチームなのか他人にどう説明していいか分からないんです」
「リーグ所属が当たり前」とされているサッカーの世界において「リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上」というビジョンが何を目指しているのか、それを瞬時に理解せよと言っても難しいのでしょう。
私も今回の記事を書くのに既に3000文字を費やしています。
それでもまだ私の理解するところのirrumattioをちゃんと説明するのには全く足りないと感じてしまっている始末。
端的に短い言葉でirrumattioというチームの説明がつくようになった時が、彼らの掲げるビジョン「リーグ無所属社会人サッカーチームの価値向上」が果たされた時だと言えるのかも知れません。
今後もirrumattioには注目していきたいと思っています。