人が発する情念をモロに吸いとってしまう男
えっとですね。
苦手なんですよ、優勝決定戦とかリーグ戦の最終節とか。
生来の気質で、人が発する情念みたいなものをモロに吸いとってしまう傾向があるのか、目標を達成して涙しているシーンや、夢破れて涙するシーンに居合わせていると、気持ちのコントロールが出来なくなって、そこにどう立っていればいいのか、どう振舞えばいいのか、それが分からなくなってしまう。
もちろんその「喜び」や「哀しみ」が自分に降りかかってきた時であれば大丈夫なんですよ。
でもね、どうも他人がそういう状況にあると、どうしていいのか戸惑ってしまうんだなぁこれが。
全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下地域CL)決勝ラウンド2日目。
この日の市原臨海に降りてきた「歓喜」と「悲哀」
ホントに意外だったんすけど、これらについてはどういうわけか、そこに寄り添っていたいと思う自分がそこにいたという、今回はそういうもの凄くどうでもいい話です。
言ってみれば地域CLは、全国に9つある地域リーグの集大成。
ピカピカの1年生のくせに、自分でも呆れるほど、地域リーグのサッカーを見まくった2018シーズン。
それがあったからこそ、鈴鹿アンリミテッドFC辛島啓珠監督のうれし涙も、J.FC MIYAZAKI「俺たちの」与那城ジョージ監督の哀しみに包まれた顔も直視することが出来たし、直視しなくてはダメだと、心の神様が私の脳みそに指令を出していたのかも知れないんだけれど、いずれにせよ、大会自体はまだ最終日が残っている段階で、出場4チームにおける明暗が早くも現れてきちゃったのである。
鈴鹿 辛島監督「全社で選手たちはそれぞれの経験値を上げた」
しかし、それにしても今大会の鈴鹿アンリミテッドFCは、10月に行われた全社(全国社会人サッカー選手権)で見た時の印象をはるかに超える力強いチームとなって、市原へやってきたなぁと思う。
と言っても、あの時彼らは準々決勝で負けてしまったので、私がちゃんと見ることが出来たのは、その負けゲームであった対おこしやす京都AC戦だけだったんだけど、前年度全社王者の風格も感じられず、特に印象的な選手も記憶には残らず、正直に言って「大会ナンバー1 ガッカリ」に挙げてもいいほどのチームに映っていた。
しかしならが、FC刈谷との「東海ライバル対決」に勝利し、勝点を6にまで伸ばしJFL昇格を決定づけたあとの監督インタビュー会見で、辛島監督の口から出た言葉は
『全社で選手たちはそれぞれの経験値を上げた』
というものだったんです。
辛島監督が話すには、全社からこの地域CLの間に掛けて、様々な選手を起用しチャンスを与えたことで競争が生まれ、それがモロにこの地域CL決勝ラウンドでピークを迎えたということのようなんだけど、確かに、全社で鈴鹿を見た時は、藤沢ネット選手だってそんなに活躍していなかったし、「柏のC・ロナウド」こと、エフライン・リンタロウ選手に至っては交代出場していたことを、撮った写真を確認して気がついたほど。
でもどうですか。
あの2人。ちょっとヤバいほどに存在感あるんですよ。
特にエフライン・リンタロウ選手が、FC刈谷戦で決めた追加点なんて、まさに「CR7」そのものって言うくらいにもの凄いシュートだったし、そのゴールを喜ぶ藤沢ネット選手が人差し指を天に向けてる姿なんて、もはやもう一つのCL、そう、あのヨーロッパでやってる方のCL。あっちの光景そのままだよ!って感じていましたわ。
鈴鹿アンリミテッドと言えば、あの明らかに奇異な「ペイズリー柄のユニフォーム」とか「暫定の社長」とか「クラウドファンディングの勝利給」とか「お嬢様の聖水」とか。
あ、一番最後のだけは「の」を入れると全く違う意味になっちゃうけど、とにかく常にトリッキーな話題を情報発信しているチームだけれども、今大会において彼らがピッチ上で見せている戦いについては、トリックめいた胡散臭さなんて微塵も感じられないし、もの凄くちゃんとしていて、勝つべくして勝っているとしか言いようのない素晴らしいサッカーなんですよ。
辛島監督は勝利の要因を
『私自身は指導者生活の中で、チームもなかなかJFL昇格という目標を果たせない中で、それぞれがこれまでに辛い経験をしてきたかたこそ壁をのり越えられた』
と話していたように、選手たちのユニフォームの胸にピンク色の文字で入っている「お嬢様聖水」までもが、カッコよく見えてくるほどに「やり遂げた男たち」風情で溢れているわけです。
J.FC MIYAZAKIジョージ監督のFutebol(フチボル)
で今度は、試合終了後には泣きじゃくる選手の肩を抱きながらも、W杯メキシコ大会アジア最終予選で韓国に完敗した後に見せていた哀しい姿以上の悲哀に満ちた表情をしていたJ.FC MIYAZAKIの「俺たちの」与那城ジョージ監督がこう言うんです。
『今日は1日目の試合よりも良くなかった 自分たちのサッカーが90分間全く出来なかった』
確かにこの日の相手松江シティFCに対して、J.FC MIYAZAKIは後半の頭から長身DFを前線に回してパワープレーに賭ける判断をしていた。
でもそれは、選手個々のスキル、連動性などで圧倒的優勢に立っていた松江が相手で、しかも後半に入ってすぐに0-2というビハインドを背負っての状況であれば、選択して当然の作戦であったと思うし、実際にそれで松江を1点差にまで追い詰め、終盤はかなり相手を混乱させているようにも見えていたわけ。
でもジョージ監督は0-3で負けた初戦の鈴鹿戦よりも良くなかったと言ったんですよ。
初めはどうしてそう思うのかな?なんて感じてもいたんですが、よく考えてみると、やっぱりジョージ監督はパワープレーなんてしたくなかったんだと。やっぱり佐野裕哉を使えないからと言って、自分が思い描く「Futebol(フチボル)」に、ロングボールをただただ相手ゴール前に蹴り込むスタイルなんて本当はあっちゃならんのだと。そう考えておられたんじゃないかと思ったわけです。
インタビューも中頃を過ぎた頃からジョージ監督の表情も少しずつ柔らかくなってきたので、私も思わずこう質問をしていました。
「この決勝ラウンドに進出してきたチームの中で、監督がいちサッカーマンとして好きなチームはありましたか?」
これに対してジョージ監督は
『ミックスすればいいんですよねぇ ただ鈴鹿のあの2トップ(藤沢ネットとエフライン・リンタロウ)は外せないですねぇ ボール回しが良くなればあの2トップはもっと活きてくるし・・・』
と答えてくださった。
いや、既にJFL昇格の可能性はなくなったとは言え、まだ最終日の試合が残っているのに、こんな質問を出場チームの指揮官にするのは失礼だとも思ったんですよ。
ただ、ジョージ監督が思い描く「Futebol(フチボル)」がどういうものなのか、あの場では本当にそれが聞きたかった。そしてジョージ監督だからこそちゃんと答えてくれると思ってしまったもんでつい。
で、やっぱりその期待を上回る「ミックス」という言葉を返してくれるジョージ監督には本当に愛情しか湧かなくなってくるんですが、冒頭にも書いたように「苦手」だった「情念の渦巻く現場」でも、それが「自分ゴト」になっていれば、平たく言えば「自分が本気で関心を持つこと」さえ出来ていれば、全然力になれないことは分かっていても「寄り添ってみよう」くらいの精神を持つことは出来るんだと。
人間の面倒臭いところ万歳
まさかサッカー場で、しかも地域CL決勝ラウンドという大きな舞台で、自らの気質を克服する方法を見いだすとは。
これもひとえに、サッカー愛に満ちたこの地域リーグというカテゴリーであるからこそ、見つめなおすことが出来たんだと真剣に思っているわけでございます。
まあね、「歓喜」とか「悲哀」とかそういう人間が生み出す情念みたいなのって、なかなか面倒臭いモンじゃないですか。
だから、私だけが特別にそれを「苦手」と感じているわけでもないとは思うんですけどね。
でも、そういう人間の面倒臭いところって、ある意味で一番面白いところでもあるんですよね、きっと。
それを再発見させてくださった、鈴鹿アンリミテッドFC辛島啓珠監督と、J.FC MIYAZAKI与那城ジョージ監督には本当に感謝しないといけませんな。
人間の面倒臭いところ万歳。