J4なのか、アマチュアの頂点なのか、
『J3リーグに対するJ4なのか、それともアマチュアサッカーの頂点にあるリーグなのか』

JFLのことをサッカーに詳しくない人たちに話すとき、皆さんはこのリーグの位置づけをどのように説明されているだろうか。
厳密に言えばJFLがアマチュアサッカーの頂点を決めるリーグであるという説明の仕方が正しいのだろうが、そもそもその「アマチュアサッカー」という言葉の定義自体があやふやだし、たまにこのリーグが話題に上る時といえば、大抵はJリーグ100年構想クラブ(ヴァンラーレ八戸、FC今治、奈良クラブ、東京武蔵野シティFC)のJ3参入の可能性について語られている場面がほとんどで、何年も継続的に定点観測出来ているような熱心なファンであったとしても、JFLというリーグを端的に表す言葉を持っていないように私には思えている。
実際、JFLというカテゴリーは、もはやその下部リーグにあたる9つの地域リーグにすら、その関心の度合いで完全に勝っていると言い切れないし、大学や高校サッカーを相手にしてみれば「Jリーグへの登竜門」といったJFLが持つ数少ない訴求性のある性質さえも、世間的関心を集める要素とはなり得ていないことがはっきりと分かる。
土曜日の午後、西が丘でJFL観戦

先日私は味の素フィールド西が丘で行われたJFL「東京武蔵野シティ VS Honda FC戦」を観戦してきた。
今季JFLを現地で見るのはこれで8回目くらいになるが、西が丘で行われた試合は今回が初めてで、さらに言えばHonda FCの試合を見るのも初めての経験だった。
リーグも終盤を迎え、Honda FCが圧倒的な優勝を今シーズンも遂げるのは決定的で、今シーズンもJ3クラブライセンスが交付されなかった東京武蔵野シティの最終順位が「世間的な注目」を集める要素となり得ない状況にある中、この試合に対して関心を持つ人がどれくらいいるものなのか。
予想通りの「惨状」が面前に広がるのか、そうではないのか。半ば「怖いもの見たさ」にすら似た感情を抱きつつ、西が丘へ到着した私を迎えたのは「予想以上の惨状」であった。
そこそこ締まった好ゲーム
ピッチ上で繰り広げられた試合の方は、決してつまらない内容ではなかった。

スタートからHondaにボールを握られ、自陣でブロックを作り守備偏重な戦術を取っていた武蔵野シティが、速攻から前半に先制点を挙げるも、全く焦った様子を見せないHondaに前半のうちに追いつかれ、後半も展開は変わらず、コーナーキックから力でねじ込むような逆転ゴールを許し1-2というスコアで逆転負けを喫するという試合展開。
ついこの間まで、全社(全国社会人サッカー選手権)で地域リーグチームの激戦を5日間ぶっ続けで見てきたので、ついついそれと比較してしまいがちになってしまい、両軍から伝わってくる「熱」にやや欠けている印象はあったものの、Honda FCについては盤石に試合を進める底力を強く感じた。
全体の感想としては、両者の狙いも非常に分かりやすかったし、そこそこ締まった好ゲームであったと言っていいだろう。
この時期にしては暑く感じられるほどの好天で、試合が進むにつれて浴びせられる西日の強さには辟易とさせられたものの、風もなく穏やかな土曜日の午後であったのは間違いなく、サッカー観戦をするのにはこれ以上ないほどの好条件であったように思うが、この試合が集めた観客数は600人台に留まった。
武蔵野シティのホーム平均観客動員数は1000人を大きく割っているので、この600人台という観客数は取り立てて少ない数字ではないことは分かるのだが、それでもこの観客数を武蔵野陸上競技場で感じるのと、西が丘で感じるのとでは随分印象が違う。
はっきり言って、あまりに寂しい西が丘の姿がそこにはあった。
主催運営側の台所事情

しかし、そう思う反面、この試合を主催した武蔵野シティの運営としては、突然そこに5000人もの観客が集まっては困ってしまう台所事情も端々に垣間みれたのも事実だ。
まず、この試合において西が丘の観客入場口は1箇所(Jリーグなどではビジター入場口に使われているゲート)に限定され、本蓮沼駅から歩いてくる時に最も近いゲートは閉鎖されていた(試合終了後の送客時には開門していた)。
また、この試合でHondaサポーターが大量の大弾幕を掲げていたゴール裏エリアとバックスタンドとの行き来が出来ないように扉が施錠され、ピッチを囲む4辺のスタンドが回遊出来ないようになっていた。
さらに、バックスタンドのHondaサポーターゴール裏側には「ビジターチーム応援エリア」という張り紙がされており、バックスタンドの半分くらいはほとんど観客が入ってこない状況になっていた(HondaFCを応援する為に来場する人がバックスタンドの半分を埋めてしまうわけがない)。
この3つの運営施策
●入場口を1箇所に限定
●スタンド回遊不可
●ビジター応援エリア設置
はいずれも、観客の導線を左右する施策であり、なるべく観客が散らばらないように、簡単に言えば「少ないスタッフ(少ない資金)で安全に運営出来る」ことを狙って取った対策であることは明白である。
そして、こうした対策の前提には「観客規模は1000人以下」という想定が間違いなくあったはずで、それだけに5000人の観客が突然来場されては困ってしまうという本音も少なからずあるのだろう。
ただ、これらの実態を以て試合を主催した東京武蔵野シティを批判するのは全く的外れである。
JFLには「顔」がない

彼らはクラブの持てる力をフルに発揮して、事故なく安全な試合運営をすることを目指しているはずだし、特に年に数回しかない西が丘開催のホームゲームともなれば、それをするだけでも相当の体力を消耗しているはずだ。
そして、こんな光景は、仮に彼らがJ3クラブライセンスを交付され、リーグ順位がJ3参入条件を満たす満たさないという場面であったとしても、それほど大きくは変わっていかないのではとも思う。
結局行きつくところは
『J3リーグに対するJ4なのか、それともアマチュアサッカーの頂点にあるリーグなのか』
ここにあるのではないだろうか。
いや、もっと極端な言い方をすれば「J4」でも「アマチュアサッカーの頂点」でもない他の定義であってもいいのだが、どうにもこのリーグを端的に表せる言葉が見つからない。はっきり言ってJFLには「顔」がないのだ。

もちろん、Jリーグを頂点とするピラミッドが未だ完成形ではなく、常に過渡期にあって少しずつ形を変えていく可能性のあるものだとの認識は、多くの方が持っているはずだが、それにしても現在のJFLが将来に向けてどんな姿を目指しているのか、それについてはほとんどイメージすることが出来ない。
Honda FCの「アマチュアの王者」としての地位をただただ確固たるものとしていき、J3参入を目指す100年構想クラブの資金的体力を奪うとともに、次の餌食を見つける格好の舞台としての役割を果たす。
そんなリーグの「見て欲しい」部分はどこにあるのか。
そして、「見て欲しい」部分が明確されていなければ、世間の関心を集めろという方が無理な話だし、実業団クラブでもない限り、JFLに長く所属することを良しとするクラブが生まれても来ない。
このカテゴリーに魅力があれば
この日浜松からやってきた10数人のHonda FCサポーターが、太鼓やトランペットにのせて賑やかに応援する姿を見せていた一方で、武蔵野シティ側のゴール裏からはこんな「声援」が飛んでいた。
「かっ飛ばせ~ かっ飛ばせ~ 〇〇!」
「ホームラン!ホームラン!〇〇!」
「ここまで飛ばせ~ 〇〇!」

プロ野球ではお馴染みの応援スタイルだが、どうしてもこの応援からはシュートが大きく枠を外れスタンドへ飛び込んでいく光景しか目に浮かんでこない。
でも、こんな声援を飛ばしている5人ほどの武蔵野シティサポーターがそれを咎められることも、制されることもない。彼らしかスタジアムで声を出して応援する人たちはいないのだから、それも当然だ。
ただ、率直に言って「ホームラン!」「ここまで飛ばせ~!」と言われている選手たちのことは少し気の毒に思った。
彼らはもっと多くの人たちに応援されるだけのことをしているし、その価値がほとんど世間に伝わっていないことに、やるせなさを感じる。
JFLにどんな存在価値を見いだせるのか、はたまた、JFLに代わるような新たなリーグの創設をイメージするべきなのか、いずれにせよ、天気のいい土曜日の午後であれば、西が丘を満員に出来るくらいの魅力あるリーグがこのカテゴリーにも存在していて欲しいし、そうなれば、日本のサッカー文化がさらに深まっていくのは間違いないように思うが、どうだろうか。