全社 「地域CL出場権利ナシ」チームの戦い

全国社会人サッカー選手権(全社)において、必然的にドラマティックな展開を避けることが出来ない状況にあったのは、何といっても「地域CL出場権利ナシ」チームだと言えるだろう。
いわきFC(東北2部)エスペランサSC(関東2部)のように、そもそもその可能性がレギュレーション上ゼロであることがシーズン中から分かっていたチームは別として、地域リーグで優勝することが出来ず、この全社に地域CL出場の全てをかけてきたチームにとっては、その一戦一戦が決勝戦のような戦いであったと思うし、結果的に出場権を得ることが出来たチームもそうでなかったチームも、相当の疲労とダメージを負っているであろうことも容易に想像出来る。
そんなチームの中でも、まさに明暗を分けた象徴的な存在として、今回は2つのチームに焦点を当ててみたい。
JFL昇格を目指す権利、即ち地域CLへの出場権を見事獲得することに成功したおこしやす京都AC(関西リーグ2位)と、地域CL最終地 市原臨海(ゼットエーオリプリスタジアム)をホームとしながら、そこで戦う権利を得られなかったVONDS市原FC(関東リーグ2位)。
両者は共に昨シーズンの地域CLで決勝ラウンドまで残りながら、あと一歩でJFL昇格という夢を果たせなかったチームでもあり、それだけにそこに関わる人たちが今回の全社へ挑戦する姿には、ドラマティックを超えて悲壮感すら漂っているように見えていた。
強烈なヤマを勝ち抜いたおこしやす京都

今大会のトーナメント表が発表された段階で、おこしやす京都が入った「ヤマ」が強烈なメンツ揃いになったと、全社を長く見ているファンの間ではずっと話題に上ってた。
1回戦の相手がTOKYO UNITED FCで、勝って次に当たるのが前回優勝チーム 鈴鹿アンリミテッドと四国リーグ王者 高知ユナイテッドの勝者、ベスト4入りのかかる準々決勝では前評判の高い栃木ウーヴァがいるヤマの勝者と当たらなくてはいけない。
ここに名前を挙げた全てのチームが優勝を十分に狙える実力を備えたチームであるともされ、おこしやす京都にしても1回戦で敗退してしまう可能性も十分にあったと言えるだろう。
結果的には1回戦でTOKYO UNITED FCに2-1と逆転勝ちし、2回戦では前回王者鈴鹿に2-0で完勝、PK合戦にもつれた準々決勝の栃木ウーヴァ戦においては、相手エースがPKを外すという、まさに「ワールドカップ的」な展開で勝利を勝ち取り、ベスト4進出を決めるとともに、地域CL出場権を得るという最大の目標を果たした。(ベスト4に「権利持ち」松江シティと「そもそも権利ナシ」いわきFCが入ったことで、おこしやす京都の地域CL出場権はベスト4が出揃った段階で決定した)
3連戦に勝負をかけるマネージメント

大会が終わった今にして思うのは、彼らにとっての全社とは、きっとこの準々決勝までの3連戦に勝利することを意味していたように思う。
5連戦という全社の代名詞とも言える過酷なレギュレーションも、それが2つ減って3連戦として考えることが出来れば、マネージメントも相当しやすくなっていたはずだ。
「権利ナシ」チームにとって、全社は「祭り」でも「社会人サッカーのワールドカップ」でもない。
彼らにとって全社は「絶対に落第出来ない追試」のようなもので、75点で合格出来るのであれば「山をかける」ことだってあるだろう。
こう考えると、おこしやす京都が準決勝以降に見せた戦いは、地域CLを予想する上でほとんど参考にはならないのかも知れない。
FC刈谷を相手に「寝起き」のような姿を見せて前半20分までに2点を先行されたことも、3位決定戦で「ガス欠」のように後半崩れてしまったことも、きっと彼らは意に介していないだろうし、地域CLに向けては間違いなく90点が取れる準備をしてくるはずだ。
VONDS市原 早すぎるシーズンの終わり

おこしやす京都が見事地域CL出場権を獲得した一方で、ベスト4は堅いと見られていたVONDS市原は2回戦敗退という憂き目にあってしまった。
これによってVONDS市原の今シーズンは早くも終わってしまったわけだが、JFL昇格という目標が潰えてしまったこと以上に、地域CLへ出場出来ないという現実を突然に突き付けられてしまった状況をどういった感情で消化すれば良いのか、チームもサポーターも戸惑っているようにも見える。
VONDS市原サポーターの方々には関東リーグ開催中から非常に仲良くさせて頂いていることもあって、その心中を察するのが少々辛くもあるのだが、チームが実力の全てをこの全社にぶつけることが出来なかったのと同じように、サポーターの方々も「もっと何か出来たはず」と思われているだろうし、だからと言ってすぐに来シーズンへと気持ちを切り替えることも簡単ではないだろう。
VONDS市原は「拠り所」を見いだせなかった?

一方で、私は今シーズンのVONDS市原がどの選手を中心にしたチームであるのか、それを結局とらえることが出来なかった。
関東リーグの数試合と、今にしてみれば彼らにとって今シーズンのクライマックスとなってしまった天皇杯での戦い数試合を見て感じたことに過ぎないので、聞き流して欲しいくらいなのだが、素晴らしい選手を挙げろと言われれば、そのプレースタイルと顔が何人も思い浮かんでくるものの、それがチームとなるとその姿は途端に流動的なイメージになってしまう。そんなVONDS市原に対する印象は最後まで変わることがなかった。
勿論こうした流動的なチームの姿が、意図して作られた側面もあったのだろう。
しかしながら、阪南大FCとの厳しい戦いを強いられているVONDS市原にあっては、最後の最後まで「拠り所」になれる選手を見いだせていないようにも私には見えていた。
サッカーにおいては、勝因も敗因も結果論に過ぎないし、仮にVONDS市原がこの全社でしっかりと地域CL出場権を獲れていれば、その時は私もこの「流動的なチームの姿」を勝因として書いていた可能性だってある。
そして勝因や敗因がどうであろうと、チームがJFLへの挑戦権を勝ち取れなかったという事実が、来シーズンのVONDS市原にあらゆる面で影響を及ぼすのだろう。
明暗を分けたチームの新たな挑戦がはじまる
「地域CL出場権利ナシ」チームの全社での戦いに悲壮感が漂っているように見えてしまったのは、その結果がもたらせる影響を理解する選手やサポーターの表情から感じ取ったものであったのかも知れない。
ただ、そんな状況であっても、逞しい選手たちは次の戦いに向けてまた挑戦をし続けるのだろうし、そうであるからこそ、彼らは人の心を打ち、常に新しい刺激を我々にもたらせてくれるのだろう。
私も全社では明暗を分けてしまったチームが、今後どんな道を歩んでいくことになるのか、それをしっかりと見ていきたいと思っている。