文句なしに面白かったウルグアイ戦

それにしても面白い試合だった。
代表戦の親善試合が満員の埼玉スタジアムで行われたのも結構久しぶりのことだったかも知れないが、キラ星の如くスター選手が顔を揃えたウルグアイ代表に対して、常に先行する試合展開の末に、4-3という壮絶な打ち合いを我が日本代表チームが演じてくれたのだから、集まった57,000人を超える観客も十分にサッカーの面白さを堪能してくれたことだろう。
ここで森保ジャパンの戦術的側面についての話をする気はさらさらないが、ウルグアイ戦を現地観戦して感じた印象は、このチームが中島翔哉によってその魅力を強く放っていること。とにかく彼からはゴールを目指す姿勢が試合を通して常に感じられる。だから「え~!そこで打っちゃうの?!」と言われてもいいようなタイミングで彼がシュートを打ったとしても、スタジアムは落胆するどころか、むしろボルテージを上げていく。
ピッチで一緒に戦っている選手たちも、中島翔哉のアグレッシブな姿勢を見ながら「俺にも出来る!」と自信を持ってウルグアイ代表にぶつかっていけていたはずだ。
と、ここまではピッチ上で行われた試合についての所感であったが、久しぶりに満員の代表戦をスタジアムで観戦出来たことで、他にも非常に大きな気づきが私にはあった。
Jリーグのスタジアムでは感じないストレス
「権田がさ、俺が代表になるくらいじゃって言ったらしいね。だってあいつさオーバートレーニング症候群か何かでシンガポールのチームに行ってだでしょ?そう本田が経営してなかったっけ?」
満員の埼玉高速鉄道に揺られていると、大学生くらいのグループからこんな言葉が聞こえてきた。
惜しい!でも少し間違っている。権田修一がJリーグを離れて一時海外に身を置いていたのは、オーストリアのホルンだ。確かにそこは本田圭祐の持っているクラブだが、本田はシンガポールにはチームを持っていない。彼が最近GMとなったのはカンボジア代表チームだ。

すると今度はその横にいた小学生の少年を2人連れた家族連れが、東川口の駅構内で配られていたエルゴラッソの号外を見ながらこう言っている。
「あれ!?スアレスがメンバーに入ってないよ!な~んだガッカリ」
今さら何を言っているんだ!スアレスが怪我で来日できなくなったことは、10日前くらいに結構ニュースになっていたじゃないか。
こんな言葉が、浦和美園駅からスタジアムまでの道すがらや、スタジアムに入って試合観戦しているあいだ中、私の周りからこれでもかと言う勢いで聞こえてくる。
私の後ろに座っていた社会人1.2年目くらいの若い男性グループは、日本代表が選手紹介されても、ロシアW杯に出場していなかった選手のことをほとんど知らなかったし(青山敏弘や伊東純也のことさえも!)、ウルグアイ代表で交代出場してきた「M・GOMEZ(マキシミリアーノ・ゴメス)」のことをバイエルンやフィオレンティーナで活躍したマリオ・ゴメスと完全に勘違いしていた(ドイツ代表でW杯にも出場していたのに!)
私はこうした「微妙な勘違い」「誤った認識」が堂々と「語られて」いるのを聞くのが、正直に言うと初めはかなりストレスだった。「いや、それ間違ってますよ」と言うことは出来ないストレスと「何でその程度のことも知らないんだ」という呆れにも似たストレス。そして、そんな「ストレスな言葉」を雨あられのように浴びせられながら、こう思ったのだ。
「Jリーグのスタジアムではこんなストレスは感じないのに!」
未来のJのスタジアムの姿なのかも

ここまで読んで頂いてお分かりだと思うが、日本代表戦とJリーグとでは、そこに集まっている観客層が完全にはシンクロしていない。
ゴール裏を中心に贔屓クラブのレプリカユニフォームを着たり、タオマフを首から下げているJクラブのファン・サポーターと見られる人たちの姿も見ることは出来たが、おそらくあの57,000人の観客のうち半分以上の人たちがJリーグ観戦をする習慣はない人であったような気がする(ピッチ上で起きたことへの反応の仕方や感嘆の声などからも明らかなJのスタジアムとの違いを感じた)
件のW杯出場選手しか知らなかった若者のグループに至っては、どうやらオフサイドを解しておらず、大迫勇也がシュートを外すたびに「戦犯」という言葉を連呼していた。
しかしそんな今あるJのスタジアムでは強いられることのほとんどないストレスを感じながらも、徐々に「これこそが未来のJのスタジアムの姿であるのかも知れない」と私は思うようになっていった。
「伊東純也を知らない人」がチケットを買ってくれたからこそ
確かにW杯に出場していない選手を知らなかったり、権田が一時在籍していたチームがシンガポールのクラブであると思っていたり、つまりその程度のサッカーに対する関心の度合いだと、現在のJリーグを楽しむのには少々「敷居が高い」のかも知れない。
何しろ『座席のあるゴール裏のチケットを取って試合を観に行き、周りが全員立っていて全く試合が見られなかった』というツイートをすれば、猛烈な勢いで『ゴール裏とはそういう場所』『チケットを取る前に良く調べておけ』『安いからといってゴール裏チケットを買ったのが悪い』という返答が返ってきてしまう世界がJリーグの世界でもあるのだ。
ただ、今回のウルグアイ戦に関しても、結果的には満員御礼とはなったものの、完売になるまでは結構時間は掛かったと聞いている。言って見れば「伊東純也を知らない人」が大勢チケットを購入してくれたからこそ、埼玉スタジアムは満員になった。

Jリーグの現状を見ても、観客動員力で圧倒的なトップを走り続けている浦和レッズですら、その平均観客数はピークだった頃の75%程度までに落ち込み、シーズンを通して埼玉スタジアムが満員になる試合は数えるほどしかなくなってしまっている。それに続くFC東京や横浜F・マリノスに至っては、味スタや日産スタジアムを満員に出来たことがあっただろうかと思ってしまうほどに、いつもガラガラに空いたスタジアムで試合を行っている。
こうした状況を劇的に変えていこうとしたら、それは代表のウルグアイ戦がそうであったように、Jリーグが限られた1部の熱心なファン・サポーターだけのものであってはいけないし「青山敏弘を知らない人たち」を大量にスタジアムに迎え入れる必要が生まれてくる。
そしてそこには間違いなくストレスが生じるだろうが、「マリオ・ゴメスをウルグアイ代表だと思っていた人たち」にはなるべくそれを感じさせないような温かい心を持つことも重要なのではないか。
「未来のJのスタジアムの姿」をどう受け入れられるか

Jリーグのスタジアムに通い続けていると、そこに存在している常識に対して客観視出来なくなっていく。
『ゴール裏は立って応援する場所』という常識にしてもそうだ。世間からすれば「何のために座席があるの?」となってしまう。(ACLのスタジアム規定が背もたれのある座席数にこだわるのもより多くのファンにとって居心地のいいサッカースタジアムであるべきというポリシーがあるのではないだろうか)
私はウルグアイ戦の行われた埼玉スタジアムで「未来のJのスタジアムの姿」を見たような気がした。
あとはそれを自分自身が、どう消化し、どう受け入れられるか。そこに掛かっているように思う。
ただ、正直なところ、帰りの電車の中で埼スタ観戦後の20代くらいの女性2人連れが、翌日に行われるJ2の延期試合「山口VS町田」についての話をしていているのが聞こえてきて、もの凄くホッとした自分がいたのも事実だ。