デロイトトーマツの「Jリーグマネジメントカップ」

JFL、FC今治のパートナー企業でもあるデロイトトーマツコンサルティング社(以下、DTC)が2014年から取り組んでいる”J-League Management Cup”(Jリーグマネジメントカップ)
『Jリーグ所属クラブチームをビジネス・マネジメントの側面でランキング』化し、Jリーグの「ビジネス・マネージメント」に対する関心を高めていくことで、スポーツビジネス市場の活性化を目指すこの取り組みは、『公表されたJリーグ所属クラブチームの財務情報等を基にマーケティング、経営効率、経営戦略、財務状況の4つの視点からビジネス・マネジメントを数値化』しそれをランキング化することで情報を可視化することに挑戦している。
我々はデータ分析技術の活用と、チームマネジメントの向上という側面に注目しています。なぜなら、データ分析とチームマネジメントという組み合わせは、ビジネスとの親和性が高く、現在発展途上のスポーツビジネスという領域を大きく発展させる有効なツールであると考えられるからです。
クラブチームのマネジメントには、いかにゲームで勝つかという「フィールド・マネジメント(FM)」だけではなく、いかにビジネスとして収益を上げ、また事業拡大をするかという「ビジネス・マネジメント(BM)」という側面があります。
クラブチームにとって、BM とFM は経営の両輪であり、この両輪のバランスをいかに整えるかは非常に重要なテーマです。実は、デロイトUK ではその重要性をいち早く認識し、20 年近く前からクラブチームのBM 面の分析を始めています。英プレミアリーグを中心として、売上高や人件費などの財務数値をもとに欧州各国のクラブチームのBM を評価し、そのランキングを「Football Money League」という冊子にまとめ毎年発表しています。
日本でも、この領域に今まで以上にスポットライトを当てることで、より一層の競技パフォーマンス向上と、スポーツビジネスの活性化に繋がって欲しいという想いで、今回、J リーグの各クラブを対象とした「J リーグ マネジメントカップ」を発行することとなりました。
「J リーグ マネジメントカップ」により、大きなポテンシャルを秘めているスポーツビジネス分野への注目が集まり、様々なプレイヤーがスポーツビジネス市場に参入するきっかけとなってもらいたいと願っています。BM 面の重要性が再認識され、スポーツビジネス市場が活性化することで業界全体の資金量が増加すれば、それはFM 面の強化費の原資ともなります。
欧州での先行事例の真似事ではなく、日本の文化や風土にマッチしたマネジメント手法を見出すことで、スポーツビジネスの成長がスポーツ競技の成長に繋がるという正のスパイラルを産み出す環境を創り出すこと。これこそが重要だと、我々は考えています。
デロイトトーマツ公式サイトより引用
「フィールド・マネジメント」>「ビジネス・マネジメント」だった日本のプロスポーツ
日本のプロスポーツの世界には、DMCが提唱するところの「ビジネス・マネジメント」を敢えて価値創造のコンテンツとしていこうと言う発想自体が決定的に欠けてきたのは事実で、Jリーグこそシーズンごとに全クラブの収支決算数値を公にしてはいるものの、プロ野球についてはその球団ごとの経営数値が不透明であることが度々指摘されている。
ファンも選手たちの推定年俸や契約期間などについては話題にしても、実際にその球団がどのように利益を上げ、それがどのような推移を辿っているのかなどについてまでは、それほど高い関心を持っていないように思う。

Jリーグの場合も、年度別の収支決算が公開はされてはいるが、いわゆる「オリジナル10」と呼ばれる大企業が「責任企業」となっているクラブなどについては、会計上、容易に赤字補填がされてしまっている場合も多いので、その内実まではなかなか把握することが難しいし、プロ野球ではストーブリーグのトップコンテンツともなっている所属選手との契約動向(複数年契約なのか、単年契約なのか、またいわゆる移籍金と呼ばれる「契約解除金」をいくらに設定しているのかなど)が「推定情報」として表に出ることすら珍しい。
そして、こうした状況はそのプロスポーツを愛好するファンやサポーターにとってだけではなく、そこに投資をしようとする資本家や、自らのノウハウを活かしあらたなビジネスチャンスを掴もうとする企業などに対しても、その判断をつきにくいものとさせている側面があることは否めないだろう。
また、DMCがいうところの「フィールド・マネジメント」(Jリーグでいえば選手の情報や戦術分析など)に対してそれほど関心を抱くことのない層に向けても、Jリーグにビジネスの側面から関心を抱かせるキッカケにも繋がっていくように思う。
J1クラブ ランキング1位は浦和レッズだが…
DMCが今回公開した”J-League Management Cup 2017”においては、こんな考察が具体的にされている。
2017シーズンのJ1クラブの中で、ランキング1位となったのはもちろん浦和レッズなのだが「マーケティング分野」「経営効率分野」でのビハインドを「経営戦略分野」と「財務状況分野」で大幅に巻き返すという構造になっている。この結果を具体的な現象として解説すると、Jクラブが共通して持っている課題でもある「新規観戦者割合」「集客率」については改善がされていないものの、その圧倒的な観客動員力によって、スポンサー収入やグッズ販売に成果が現れていることを示している。
J-League Management Cupの数値化項目
マーケティング:平均入場者数、スタジアム集客率、新規観戦者割合、客単価
経営効率:勝点1あたりチーム人件費、勝点1あたり入場料収入
経営戦略:売上高・チーム人件費率、販営費100万円あたり入場料等収入
財務状況:売上高、売上高成長率、自己資本比率

つまり2017シーズンにクラブ史上最高益を更新した浦和レッズであっても、新しいファン・サポーターをスタジアムに迎え入れる為の施策や、シーズン中にスタジアムへ足を運ぶ回数を増やしてもらえるようなプロモーションが功を奏せば、さらに盤石な経営体制を手に入れることが出来るどころか、クラブそのものの価値を著しく向上させていく可能性も秘めていると言えるのだ。
そして、先にも触れたことだが、こうしたクラブの「ビジネス・マネージメント」が可視化されることが、そこに関わって行こうとする人たち(ファン、サポーター、資本家、企業など)の、適切なアシストを引き出すことを今以上に可能にしていくだろう。
こうした取り組みが、現在危惧され出しているJクラブの格差を助長する流れを作り出してしまう危険性もあるかも知れないが、Jリーグ全体のビジネススケールを拡大させていくであろうことは間違いないし、各クラブがこうした新たなJクラブの価値創造に積極的な姿勢で向き合って欲しいと私は思っている。