JFLの試合に5000人集まったのか?! 中大生が挑戦「ムサリク5000人プロジェクト」

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JFL観客動員の実態

今シーズンのJFLで平均観客動員数が最も多いチームはFC今治で2,799人。次いでヴァンラーレ八戸2,001人、奈良クラブ1,644人と続く。

JFLで今、4桁の観客数を平均して集めることが出来ているチームはこの3つだけで、他の13チームの平均観客動員数は全て3桁。

東京や大阪をホームタウンとしているチームも、龍ヶ崎をホームとしている大学チームも、人口6千人の小さな港町のチームも、こと「集客力」については、それほど大きな差が存在しているとは言い難いし、裏を返せば、地理的条件や人口動態などのアドバンテージが、JFLという世界ではほとんど作用していないと言うことも出来る。

現在のJFL16チームの中で、唯一東京にホームタウンのある東京武蔵野シティFCは、JR三鷹駅からほど近い武蔵野陸上競技場(以下、ムサリク)をホームスタジアムと使用し、2016年にはJリーグ100年構想クラブの認定も受けた「Jクラブ予備軍」でもある。

そんな武蔵野シティの今季平均観客動員数は859人。決して大きいとは言えないムサリクのメインスタンドを満員にすることも出来ない観客数である。

武蔵野市の人口は約15万人。隣接する杉並区(約60万人)、練馬区(約75万人)などと生活圏が重なっていると考えれば、そこをホームタウンとするサッカーチームの試合に集まる観客数が1,000人にも満たない実情が、ひどくアンバランスであるように思えてくる。

しかし、これもJFLの実態であり、平均観客動員数ベスト3のチームは全て、今シーズンの成績次第で来季J3昇格が叶うチームであることからも、JFLで戦うほとんどのチームが自らの価値を「Jリーグを目指す」こと以外に示せていないことが見て取れるし、そもそもJFLというリーグ自体が、その存在価値をサッカーファンにすら訴求出来ていない現実も漫然と存在するように感じられる。

中大生の挑戦「ムサリク5000人プロジェクト」

「存在はしているがその価値を感じてもらえていない」

JFLというリーグの現実を端的に表現すれば、こう言えるかも知れないし、そこを戦場としている東京武蔵野シティFCにしても、同様のことが言えてしまうだろう。

「武蔵野シティのホームゲームに5000人の観客を集める!」題して「ムサリク5000人プロジェクト」

中央大学の学生が、こうした企画にチャレンジするという話を知った時、過去にあった日本サッカーの様々な集客プロモーションとは明らかに違うと感じることが出来たのは、それを企画推進している学生たちが、これまでJFLや武蔵野シティというチームと関わりを持ってきた人たち(既存ファン・関係者)ではないと思えたからだ。

J1を頂点とするピラミッドの中で、JFLがどういう位置にいて、どういう機能を果たし、どういう実情がそこにあるのか、これを的確に説明できる学生がこのプロジェクトに参加している中大生の中にいないように思えたし、武蔵野シティの選手たちが置かれている環境や待遇を正確に認識出来ている学生も少ないように感じられた。

ムサリクに5000人集めるとすれば、一度もそこへ来たことのない4000人強を集める必要があるわけで、だからこそ、その4000人強に近い感覚を持った学生たちの集客プロモーションが、少なからず効果を発揮するかも知れない。

9月2日に同じムサリクで行った、コバルトーレ応援作戦「いぐど!女川のやろっこ!」では関東圏から150人の「臨時女川サポ」を集めることが出来た。今回は学生たちはその30倍近い規模の観客を集めなくてはならないわけで、それが全く簡単ではないことを私もついこの前の応援作戦を通じて体感していたわけだが、それでもそこに関わる学生たちの若さと機動力、絶対的なマンパワーを以てすれば、これまでに見たことのない光景をムサリクで目撃出来るかも知れない。

そんな淡い期待を抱きつつ、私は3週間ぶりにムサリクへ向かった。

「ムサリク5000人プロジェクト」その具体的取組みは?

9月23日に開催されたJFL 東京武蔵野シティFC VS 流経大ドラゴンズ戦を舞台とした「ムサリク5000人プロジェクト」に向けて、中央大学の学生がどのような取組みをしてきたのか、部外者である私がそれを知りえるのは、彼らがSNSを使って発信した情報に限定されてしまうが、2018年5月29日に開設された彼らのtwitterアカウントを遡って、この5,000人集客プロモーションに向けた具体的な施策をまとめてみると以下のようになる。

  • ムサリクで開催された東京武蔵野シティのホームゲームにおける運営ボランティア
  • 試合当日の飲食店(スタグル)招致
  • マッチデーキャラクター634(むさし)くんの発表
  • 地元醸造所を使ったオリジナルビールの開発
  • J-COM三鷹・武蔵野に出演し告知
  • 学内外でのチラシ配布
  • Instagram企画「ムサジョ」紹介(東京武蔵野シティを応援している美女の紹介)
  • 公式WEBサイト立上げ(8月18日)
  • クラウドファンディングによる資金集め(目標30万円)※集まった資金は15,000円だった
  • 試合当日のイベント企画(フットダーツ、バブルサッカー、イケメンモデルの握手&トークショー※握手は入場料とは別に有料
  • 東京武蔵野シティ育成出身の中大サッカー部選手へのインタビュー
  • むさしのFMに出演し告知
  • 芝生席に段ボール椅子の用意(私の目算では当日2000台設置されていた)
  • 東京武蔵野シティ所属選手による告知動画の配信

中央大学の一講座である「ビジネスチャレンジ・演習」の一環としてスタートしているプロジェクトにしては、学生の仕事とは思えないほどにスマートで、プロのイベント企画会社が指南しているのではないかと勘ぐってしまいたくなるほどだ。

Jリーグのスタジアムではすっかり定着しているスタグルやスタジアムイベントなど要所もしっかりと押さえ、そつの無い準備を彼らもしてきはずだが、現実は非常に厳しいものとなった。

997人。これがこの日ムサリクに集まった観客の数だった。

平均観客数よりも138人多いが、彼らが目標としていた5,000人には遠く及ばなかった。

実はスタジアムで試合前に行われていたイケメンモデルのトークショーをスタンドの柵に鈴なりになって熱心に見入っている若い女性が大勢いた。彼女たちの人数を数えると約120人。

もしかしたらこの「ムサリク5000人プロジェクト」によって新たにスタジアムへやってきた観客はこのイケメンモデルのファンだけであったのか?

酷な言い方になるかも知れないが、学生たちが放った様々な矢のほとんどが人の心を打ち抜くことはなく、唯一イケメンモデルのファンにだけは当たり前のように刺さった。

私にはそう思えてしまった。

つまり、今回中大生が挑戦した「ムサリク5000人プロジェクト」は、JFLというサッカーリーグ、そして東京武蔵野シティFCというサッカーチームの新たな価値を創出することが出来ていなかった。そう言えるのではないだろか。

「Jリーグ参入を目指している」は武器にならない

「Jリーグ参入を目指している」

東京武蔵野シティFCを表現する際に、このプロジェクトではこの言葉が多用されていた。

勿論、これは事実だし、Jリーグと言うワードを使うことで説明がスムーズになるのも理解出来るところではあるのだが、Jリーグに関心のある人にとっては「Jリーグじゃないんでしょ?」で終わってしまう言葉だし、サッカーに関心の強くない人々にとっては「どうせならJリーグを見たいよね」となってしまう言葉でもある。

「Jリーグ参入を目指している」が武器にならないことは、当の東京武蔵野シティFCも痛感しているところであろう。

この「Jリーグ参入を目指している」が武器として通用するのは、そのチームを自分たちの身内であると思ってくれているファン層に対してのみだと私は思う。(アカの他人が「Jリーガーを目指している」と言っていても、隣に同じくアカの他人のJリーガーがいれば人はそっちへ行ってしまう)

とは言え、果たしてどういったプロモーションが正解であったのか、そもそも正解など存在するのか、私には判断がつかないし、それ故に中大生の今回の挑戦を失敗だったとは言いたくない。

ただ、敢えてひとつだけ言わせてもらえば、彼らが主に「マス」に向けたプロモーションをしてしまったことは、適当ではなかったと私は思う。

5000人もの観客をどうして集めなくてはいけないと思うのか。これについても「マス」を相手にプロモーションするのであれば、余計に重視する必要もあったと思う。

ただ実際には、5,000人の観客を集めるとなれば、それは1人、2人という「ミニマム」を積み上げた結果であるわけで、その1人、2人という観客がどういう人たちであるのか、それを想定した上でのアプローチが必ず必要になってくる。

今回のプロジェクトに参加していた中央大学は、経済学部だけでも4000人の学生数を誇る。果たしてこの日、彼らの仲間である中大生はどれくらいムサリクに来ていたのだろうか。

 

ムサリクの芝生席に並んだ2000もの段ボール椅子。その光景はまさに圧巻だったが、ほとんど人の座っていない状況は非常にシュールでもあった。

土手で花火大会を観賞する時などに使われているというこの段ボール椅子は、Jリーグにも多い芝生席を持つスタジアムでは間違いなく重宝しそうで、もしかしたら今回の「ムサリク5000人プロジェクト」の本丸はココにあったのではないかと思いたくなるほどだが、出来ればそこに大勢の観客が座っている光景を私は見てみたかった。

そしてそう思うのと同時に、私にとってはJFLというリーグの存在価値を見いだすことの重要性を改めて痛感する機会となった。

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