浦和レッズがイニエスタファンを排除する
【ご観戦のご留意事項】
浦和レッズのホームゲーム(埼玉スタジアム)での観戦については、ホーム自由席、SS指定席、後援会プレミアムシート、レッズシート、SA指定席、SB指定席、バックアッパー指定席は、浦和レッズの応援席のため、ヴィッセル神戸(チーム・選手を含む)の「応援」および「応援グッズの着用、使用」また、「それに類するものの着用、使用」はできませんので、予めご了承のうえ、ご観戦ください。
ヴィッセル神戸(チーム・選手を含む)を応援される方は、ビジター指定席もしくは、ビジター自由席でご観戦ください。
今シーズン初めて浦和レッズのホームゲームでチケットが完売となった。
J1リーグも終盤戦に差し掛かってきたこの時期に、ともに中位を彷徨う浦和と神戸の対戦でありながら、これほど多くの人の足を埼玉スタジアムへと向かわせた要因がイニエスタにあることに異論を唱える方はいないだろう。
ヴィッセル神戸へ加入して以来、行く先々のスタジアムに多くの観衆を集めてきたイニエスタの存在は、Jリーグの各クラブが観客増に頭を悩ましている中で、ある種劇薬にも近いインパクトを与えていると言ってもいい。
そんなイニエスタが満員にした埼玉スタジアムにおいて、浦和レッズがクラブ公式サイト上で案内していたのが、冒頭に掲載した【ご観戦のご留意事項】である。
ここには明記されていないものの、この「ご留意事項」が「イニエスタ対策」であることは明らかで(「ポドルスキ対策」も多少含まれるか)イニエスタのアイデンテティ、世界で最も知名度があり人気のあるサッカーチーム、FCバルセロナのユニフォームを身につけた観客を神戸サポーターエリアに閉じ込めることを目的としていたのだろう。
ともすると排他的になりがちなサポーター心理
私はこの情報を知った時、この「ご留意事項」を発表した浦和レッズ側の姿勢に残念な思いを抱くのとともに、それに対して「当然の対処」とする意見がJリーグファン・サポーターの間で多く見られたことに、何とも世知辛いJリーグの光景を見てしまったような気がしていた。
実際、Jクラブのゴール裏に対戦相手のユニフォームや、それに関係する応援グッズを身につけた観客が「混入」することで、それがトラブル発生の火種になるであろうことくらいは私も分かっている。
と言うのも、私自身が柏レイソルの応援をしに日立台のゴール裏へ通い始めた頃は、あの黄色い群衆の中に少しでも違う色のシャツを着た観客が入ってくることに対して、不快感を抱いていたからだ。
あれは確か浦和レッズ戦だったと記憶しているが、満員のゴール裏の中に蛍光イエローのシャツを着た高校生がいて、彼はコールリーダーから「その色はどうしてもレッズのアウェイユニの色に見えちゃう」という指摘を受け、仕方なしに配布されているビニールの黄色いビブスをその上から着用することになった。
今にして思えば、彼は彼なりに自分の持っている服の中から黄色いものを選んで日立台に来ていたはずだし、そうしたのはひとえに「レイソルを応援する為」であったわけで、それを沢山のサポーターが見ている中で一刀両断にあげつらってしまうのは、やや傲慢であろうと感じることも出来る。ただ当時の私は件のコールリーダーの言い分を全面的に肯定していたし、さらに言えばそれ以降、あの高校生と同じように蛍光イエローのシャツやジャケットを身につけて日立台のサポーターエリアにいる観客のことが非常に気になる(気に障る)ようになっていった。
しかしその後、日立台だけではなく、あらゆるチーム、あらゆるカテゴリーのサッカー現場を見るようになり、日立台も含め、主にJ1のスタジアムでは常識となってしまっている、こうした排他的なモノの考え方に私は違和感を覚えるようになり、過去のJリーグの歴史を見ても、そうしたサポーターの姿勢が行きつく先には互いが傷つけあう結末しか待っていないことを実例として確認出来たことで、ともすると排他的になってしまいがちな自分自身を意識的にセーブしていかなくては、永く日本サッカーを楽しむことは出来ないと思うに至っていった。
チームへの愛がライバルへの敵意を生み…
ヨーロッパではサッカースタジアムが民族対立や宗教対立を扇情する場として悪用されてきた歴史を現在にあっても刻み続けていると言ってもいいだろう。
興奮したサポーターが暴徒となってスタジアムの内外で殺し合いをする事件は後を絶たないし、組織化されているサポーターグループがそのまま民兵となり戦場で暴虐と殺戮を繰り返したケースもある。(アルカン・タイガーという有名なセルビア民族主義者をご存知だろうか)
しかし、こうした血なまぐさいサポーター達も、そのほとんどは純粋に好きなチームを応援するところからスタジアムでの生活が始まっていたはず。
好きな色が愛するチームのカラーとなり、ライバルのチームカラーが使われた服を身につけるのに抵抗を持つようになっていく。
そしていつしか対戦相手への敵意が生まれ、その敵意が次第に憎悪へと変質し、ついには殺すべき相手としての認識を持つようになってしまう。
もちろんこうした展開が極端な例であるのも間違いのないことだが、それでも人が人を傷つけようとする時の思考回路が、案外こうした小さなキッカケの積み重ねによって生まれてくることを理解してくださる方も少なくないのではないだろうか。
小さなムラの掟
天下の浦和レッズゴール裏に、事情が分からず迷い込んだイニエスタファンがいた所で、それがどうしたと言うのか。
同じ試合を応援するために同じ空間に現れた彼が、バルセロナやスペイン代表のユニフォームを着ていたくらいで、そこから排除すべきといった価値観が肯定されるのであれば、将来そこで深刻な事件が起るとまでは言わないが、そんな排他的空間が現在よりも幅広い観客たちを集める空間になっていくイメージを持てる人はいるのだろうか。
Jリーグの歴史などたかだか25年。
Jリーグのコアなファン・サポーターの数も多く見積もって100万人がいいところだ。
そんな新しく小さなムラの掟が、新たなムラ人を迎え入れる時の障壁になっていて良いわけがない。