熱戦 南葛SC VS アローレ八王子
曇天の日曜日、葛飾にいじゅくみらい公園で東京都社会人1部リーグの熱戦が行われていた。
既にリーグ戦4位以内を確定し、クラブ創設以来初めてとなる関東リーグ昇格への挑戦権を得ている南葛SCと、南葛SCと同じく今シーズン東京都1部昇格組で、この試合に勝利出来れば関東リーグ昇格のチャンスを掛けた関東社会人サッカー大会(以下、関社)への出場権獲得の可能性もあるアローレ八王子。
両者にとってこの試合は、そのモチベーションにおいて若干の温度差はあるものの、南葛SCにしても出来るだけ早い段階でリーグ優勝を決めてしまい、関社に向けたチーム作りに移行していきたかったはずで、それを地元葛飾で決めることが出来れば、日頃からチームを応援してくれているファン・サポーターに対しても最高のプレゼントになると思っていたはずだ。
ただ、この日の対戦相手、アローレ八王子はそんな南葛SCの心の隙をつくかのように、その野望がチーム全体から感じられるような、闘争心に満ちた戦いを挑んでくるチームだった。
アローレの闘志
周辺住民への配慮から、鳴り物や大きな声を出しての応援が禁止されているこの試合会場も、アローレのゴール裏部分にあたる金網のフェンスには、サポーターが持ち込んだ沢山の「赤い」横断幕で埋め尽くされていた。それだけに「音」としてはその存在感がほぼ感じられないものの、「光景」としてのインパクトは強く、選手たちもそれを背に戦うことで、一層気持ちの入ったプレーが出来ていたはずだ。
オールドJリーグファンであればお馴染み、元日本代表でかつては「ベルマーレの顔」でもあった野口幸司監督が率いるこのチームのサッカーは非常に完成度も高く、8月の末にJFL東京武蔵野シティから加入したFW角田陸哉選手の存在感もあって、このカテゴリーにあっては十分な迫力もあった。
そして繰り返すようだが、11人の選手たち全員が、この試合に勝利することだけを目指して戦っている。
彼らにしてみれば、南葛SCに規格外のブラジル人選手が3人もいようと、昨年までJ2愛媛FCで10番をつけていた安田晃大選手がベンチに控えていようとも、そんなことに少しも気後れすることもなく、自分たちこそがこの敵地葛飾で歓喜に浸ること、それをひたすらにイメージしていただろう。
そんな彼らの気持ちが乗り移ったかのような、角田陸哉選手の技巧的な先制シュートが決まったことで試合はアローレ八王子の狙い通りに進んでいるかのようにも思えた。
「受けて立った」南葛SC
しかしながら、後半の早い時間帯で2枚のカードを切った南葛SCは、追加点を狙い攻撃の手を緩めないアローレのボールを中盤で上手く奪い取り、それを前線のブラジル人選手による爆発的なスピードを活かした速攻でゴールを続けざまに奪い、試合をあっけなくひっくり返してしまった。
実はこの日の試合と同じような展開を5月に南葛SCがCriacao Shinjukuと対戦した時に私は見ている。
まさに首位攻防戦だったあの試合。Criacaoの非常に洗練されたサッカーを前になかなか思うように戦うことの出来ない南葛SCだったが、後半の早い時間に2枚の交代カードを切り、それまで比較的劣勢だった試合展開を劇的に変え、見事な逆転勝利を遂げたのだ。
とかく存在感の際立つブラジル人選手や、元Jリーガー、はては福西崇史加入など、派手なトピックスに彩られることの多いこのチームが、実際は非常に手堅く勝利を手に入れるタイプのチームであり、あのCriacaoとの首位攻防戦を見たことで、南葛SCの懐の深さ、90分間という限られた時間の中における修正力、そうした強者に必ず備わっている要素を彼らが持っているという事実を認識を余計に強くするのに至ったわけだが、この日のアローレ戦においては、そんな彼らの戦いぶりから、どこか「受けて立つ」姿勢が感じられていたのは、終了間際にアローレ八王子が素晴らしい揺さぶりからファインゴールを決めた瞬間、錯覚ではなかったのだと妙に腑に落ちるところがあった。
関東リーグ挑戦の道は発見の道
結局、試合はそのまま2-2で終了し、今シーズンのアローレ八王子にとっての関東リーグ挑戦への夢は儚く散った。
一方、同時刻に行われていた試合結果をうけて、南葛SCはクラブ創設以来長きに渡って戦い続けてきた東京都リーグの頂点に立つという栄冠を手にした。
選手たちはサポーターお手製の段ボールで出来た優勝カップを笑顔で掲げ、大声で歓喜の声を上げることの出来ないサポーター達も小さな声で一斉に万歳三唱をする。
ただこの栄冠が、次の夢を勝ち取る上でそれほど大きな意味を持っていないことは、そこにいる全ての南葛SC関係者が十分に理解することろでもあっただろう。
闘志をむき出しにして向かってきた相手を「受けて立って」しまったことで、この日は勝利を挙げることが出来なかった南葛SC。
関東リーグへと続くここからの戦いでは、今度は彼らが「闘志をむき出し」にして立ち向かう番であり、長く南葛SCを応援してきたファン・サポーターにとっては、ここから先の戦いがチームがこれまで見せてきたものとは違う、新たな表情や新たな姿を目撃し、チームを再発見する機会になるかも知れない。
そしてきっと、チームが新たな表情や新たな姿を見せた時、そこに惹きよせられる新たなファンもまた誕生するはずだ。