いよいよ全社まであと1か月
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10月に開催される全国社会人サッカー選手権大会(以下、全社)まで1か月をきり、現在各地域リーグを戦う全社出場クラブにとってもいよいよ待ったなしの時期へと差し掛かってきた。
既に地域リーグで優勝を決め、地域チャンピオンズリーグ(以下、地域CL)への出場権を獲得した状態、いわゆる「権利持ち」状態で全社へ臨むクラブもある一方で、リーグで優勝を勝ち取れず、あるいは優勝の可能性が極めて低くなってしまっているクラブにとっては、この全社こそが自分たちの未来を決定づける大会として、5日間の連戦をいかにして勝ち抜くか、そのシュミレーションに余念がないだろう。
また、今年度の全社で採用されている地域CL出場権に関する新たなレギュレーション「各地域サッカー最上位リーグの成績が2位、3位のチーム」から漏れているクラブにとっては、将来的なJFL昇格挑戦への試金石として、この全国から集まる強豪チームとの戦いに持てる力の全てを注ぎ込むはずだ。
社会人サッカーのワールドカップ

バンディオンセ加古川(関西)
全社を称するこんな言葉がある
「社会人サッカーのワールドカップ」
各地域予選を勝ち抜きさえすれば、そのチームが例え地域の最上位リーグに属していなくても出場することが叶い、日頃対戦することのない地域の猛者たちと対戦出来る大会の特性をして、まさに日本代表が世界への挑戦をし続けてきたワールドカップにそれを準えるのは言い得て妙だ。
チームや選手だけでない。彼らを応援するファンやサポーターにとっても、毎年必ず出場出来るとは限らないこの大会が、日本のあらゆる地域サッカーを愛する人たちとの交流を計れる貴重な機会として、その魅力をさらに大きなものとしているのも、まさにワールドカップにおけるサポーター同士の交流と同義の文化がそこにあると言うことも出来る。(出場できないチームのファンや、取り立てて応援するチームのないサッカーファンに対しても、この大会が強く惹きつける魅力を持っているところもワールドカップの在り方そのままだ)
長い歴史の中で変遷を遂げてきた全社

松江シティFC(中国)
そんな「社会人サッカーのワールドカップ」とも称される全社は現在、地域サッカーに属するクラブにとって自らの戦う舞台を全国リーグであるJFLへとつなげる道と位置づけられているが、今年が54回目の開催となる大会の長き歴史の中で、その位置づけも大きく変遷の過程を歩んできた。
1976年(第12回大会)以前までは、現在でいう地域CLに相当する大会は存在せず、全社で決勝進出したチームには当時の国内トップリーグ、JSL(日本サッカーリーグ)下位チームとの入替戦をするチャンスが与えられていた。現在の地域CLにあたる地域リーグ決勝大会が1977年に創設されると、全社は昇格機関としての機能を実質的には果たさなくなったが、2006年(第42回大会)以降は全社の上位チームに地域決勝出場枠が与えられるようになったため、現在に至るまでJFL昇格のチャンスを得られる大会として、その注目度も高くなっていく一方だ。
あのJクラブにも全社出場経験が
そんな長きわたる全社の歴史の中、このある意味で牧歌的とも言えるアマチュアサッカーの祭典に、現在は華やかな舞台を戦うJリーグクラブも多く参加してきた。
今季のJ1クラブの全社出場実績を挙げてみると以下のようになる。
- 北海道コンサドーレ札幌(東芝堀川町サッカー部 1977年(第13回大会)全社優勝)※当時は関東リーグ所属
- ベガルタ仙台(東北電力サッカー部 1991年(第27回大会)全社ベスト8)
- 鹿島アントラーズ(住友金属工業蹴球団 1973年(第9回大会)全社優勝)※当時は関西リーグ所属
- FC東京(東京ガスサッカー部 1986年(第22回大会)全社準優勝)
- 横浜F・マリノス(日産自動車サッカー部 1976年(第12回大会)全社優勝)
- 湘南ベルマーレ(藤和不動産サッカー部 1971年(第7回大会)全社優勝)
- 名古屋グランパス(トヨタ自動車工業サッカー部 1968年(第4回大会)1970年(第6回大会)全社優勝)
- ガンバ大阪(松下電工サッカー部 1983年(第19回大会)全社優勝)
- ヴィッセル神戸(川崎製鉄水島サッカー部 1981年(第17回大会)2回戦敗退)※当時は中国リーグ所属
- サガン鳥栖(PJMフューチャーズ 1991年(第27回大会)1992年(第28回大会)全社優勝)※当時は東海リーグ所属
- V.ファーレン長崎(2006年(第42回大会)全社優勝)
ここに名前の出てこないクラブ、浦和レッズ(三菱重工→三菱自工)、柏レイソル(日立製作所)、セレッソ大阪(ヤンマー)、サンフレッチェ広島(東洋工業→マツダ)などは、1965年に我が国に初めて誕生したサッカー全国リーグ「日本サッカーリーグ(JSL)」の初期メンバーであるため、全社や地域決勝(地域CL)といったアマチュアサッカーの祭典に参加した経験を持っていない。ちなみにJSL創設時の「オリジナル8」は他に古河電工サッカー部(ジェフ千葉)、豊田自動織機(現在東海リーグ2部)、名古屋相互銀行(現在愛知県リーグ3部の名古屋WEST FC)、八幡製鉄(ギラヴァンツ北九州の遠い親戚)。
また、川崎フロンターレ(富士通サッカー部)は1972年にJSLが2部制となったタイミングで地域決勝を経ずに全国リーグへの昇格を果たしている。この時に一緒に全国リーグ昇格を果たしたのが東京ヴェルディ(読売クラブ)。清水エスパルスに関してはJリーグが創設された際に、当時静岡リーグに所属していた清水FCが初年度からのリーグ参加クラブに選抜され現在に至っている為、全社、地域決勝(地域CL)出場経験がない。
全社は「片道切符」?

栃木ウーヴァFC(関東)
こうして全社の歴史を遡ってみると、そこからはまさに日本サッカー勢力図の変遷を感じることが出来る。
長い歴史の中で、全国リーグ昇格に直結していた時期、そうでなかった時期、昇格へのチャンスも掴めるようになった現在に至るまで、大会自体の性質は大きく変化してきたものの、全社で優勝をするような実力のあるチームは、高い確率でその後全国リーグへの昇格を果たしていることもあって、何度も優勝するようなチームがほとんど存在しない。
この25年間の間にJリーグクラブは10から54にまで拡大し、現状としてJ3クラブがJFLに降格する仕組みにはなっていない為、全社や地域CLといった大会が「片道切符」としての顔を見せていることも多い。
おそらく、今年の全社に出場する32クラブの中にも、近い将来Jリーグへ昇格するクラブは必ず現れるだろう。
それがどのクラブなのか、どんなチームでこの過酷な大会を勝ち進んでいくのか。
それを予想しながら、勝った負けたと一喜一憂してみるのも、この大会を楽しむひとつの方法かも知れない。