専スタか陸スタか

サッカー専用スタジアム(サッカー専スタ)か、陸上競技場(陸スタ)か。
おそらくほとんどのサッカーファンの皆さまは、よりピッチが近く、試合を臨場感たっぷりに満喫出来るサッカー専スタに軍配を挙げられるだろう。
かくいう私も、柏レイソルのホームスタジアム日立台(三協フロンテア柏スタジアム)の恐ろしいまでの距離感が、サッカー観戦にここまで引き込まれるようになった大きな要因のひとつだと認識しているし、日立台以外でも、大宮のNACK5、大阪の吹田、松本のアルウィンといったサッカー専スタで試合を見ることになれば、幾ばくかの高揚感が込みあげてくる場合が多い。
マリノスの試合を見るのであれば、正直にいって日産スタジアム開催よりは三ツ沢開催の方が魅力的に感じるし、少々遠くなっても八戸(ダイハツスタジアム)、盛岡(いわぎんスタジアム)秋田(あきぎんスタジアム)と3日続けて陸上トラックのないサッカー専スタで試合が見られると思うだけで、その足は軽くなるのは、既にこの夏に体験済みだ。
Jリーグのビジネスモデル

現在Jリーグに所属する54のクラブのうち、サッカー専スタ(厳密には球技専用も含む)をホームスタジアムとしているのは25クラブ。残りの29クラブが陸スタをホームスタジアムにしているということになる。
吹田のパナソニックスタジアム、北九州のミクニワールドスタジアム、長野の長野Uスタジアムなど、サッカー専スタの中には最近になって完成したスタジアムもあり、新たにJリーグに使用する競技場が建設されるのであれば、サッカー専スタこそが望ましいといった意見がほとんど一般的にもなってきている。
しかしながら、Jリーグ、もっと言えば日本サッカー協会が「推進」しているJリーグのビジネスモデルにおいては、スタジアム建設を地方の公金を使うことによって達成させるというスキームが漫然と存在している為、使用用途の限定されるサッカー専スタ建設をサッカーファンがいくら望んだところで、なかなかそう上手く話が進むケースばかりではない。
現在Jリーグが使用している陸スタも、国体開催をきっかけに建設されたスタジアムは多く、2002年日韓W杯に合わせて建設されたスタジアム(大分、静岡、宮城など。新潟ビッグスワンは国体に向けて設計されたが、W杯開催が決まったことで、収容人数が増設された)ですら陸スタなのだから、日本においてサッカー専スタを建設するのが、いかに難易度の高い話であるのかが良く分かる。
「サッカー専スタが欲しければ、町のあのサッカー場に小さなスタンドを」

Jリーグが創設されてから四半世紀が経過したとは言え、イングランドのようにサッカーのリーグ戦が常にサッカー専スタで行われる状態になるまでには、あまりに時間が短すぎるのかも知れない。
そして、サッカー専スタをホームスタジアムとしながらも、わずか5000人収容のスタンドを満員に出来ないクラブも少なくない中「サッカー専スタさえ出来れば」という主張も、単なる幻想である可能性の方が高いようにも思えるし、世間一般から見れば全く説得力をもつ主張とは取られないだろう。
そこで私が言いたいのは、サッカー観戦の文化をより深めていく必要があるということだ。
例えば、元Jリーガーや元日本代表選手がプレーするのも珍しくなくなっている地域リーグであっても、ほとんど観戦スペースがないような「グラウンド」でリーグ戦が行われているケースがある。都道府県リーグともなれば、完全に「観戦者」を意識していないような会場で、大事な天王山がネット越しに行われているのも珍しい話ではない。
そこに100人でも200人でも、座って試合を観戦出来るような簡易スタンドが設置されていれば、それだけにサッカー観戦のグレードは格段に上がるし、スタンドを設置するスペースが取れないのであれば、観客が手を掛けられる手すりフェンスをピッチの周りに設置するだけでも「サッカーが観戦されている」光景を作り出すことは可能だ。
恐らくはこうした裾野の部分から、サッカー観戦文化を作っていかないことには、Jリーグが開催できるような規模のサッカー専スタ建設がサッカーに対する投資のターゲットとはなり得ないように私は感じる。
「サッカー専スタが欲しければ、町のあのサッカー場に小さなスタンドを」
「サッカー専スタが欲しければ、ピッチの周りに手すりフェンスを」
100億の建設費が必要なサッカー専スタを求めていくより、この方がずっと実現可能なハードルであるし、もっと言えば、それこそがおらが町のサッカーを育てていくことであるとも思うのだ。